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第十二章 まるで終わらぬ年の暮れ

CASE93 ゴルフリート

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「今回は早かったッスね」

 玄関先にやって来たゴルフリートのオッサン。なぜか全身びしょぬれで片手に戦斧と魚をひっつかみ、頭には藻を乗っけていた。
 肩で息をしながら罵詈雑言を俺の家へと浴びせかけてる当たり、ヤバい人と認識しても構わないだろう。

「オッサンはあれ何やってんだよ」
「ほら、パプカさんが支部長さんと一緒に飛ばされたじゃないッスか。無事ってことは分かったんスけど、原因が判明したとたんゴルフリートさんが生ける絵画……シシィさんでしたっけ? に当たり散らすようになりまして」
「なるほど。だからこの家は崩壊寸前になってるってことだな?」

 家の惨状の原因を発見した。
 パプカを溺愛しているオッサン。彼女が居なくなったことで錯乱し、暴走状態に陥ったとしても驚かない。
 むしろ疑問なのが、オリハルコン級の冒険者であるオッサンを相手に、未だ無事なシシィの存在だ。召喚者ミナツから生まれた存在だとしても、それほどまでに強いと言うのは違和感がある。

「ああ、それはアレッスよ。普通に戦わず、ゴルフリートさんが家に入った瞬間にアポートの魔法であちこちに飛ばしてるんス。飛ばすだけなら力の差は関係ないみたいッスね」
「確かに、純戦士系ジョブのゴルフリートさんは魔法の耐性が非常に低いですしね。普段はパプカさんに補助を入れてもらっていますが、単独だと魔法使いは天敵でしょうし」
 
 とルーンの補足が入る。

「まあ何はともあれ、これ以上の家の崩壊は防がねばならん。いや、本気で冗談抜きで倒壊の恐れがあるしな。止めに入るか」

 そもそも原因であるパプカの行方不明事件はすでに解決状態にある。彼女なら今現在、ジュリアスと一緒に熱いシャワーを浴びているところなのだ。
 俺たちはそんな彼女を呼び出すため、一階にあるシャワー室へと足を運んだ。
 すると、ちょうど髪をタオルで拭きながらシャワー室から出てくるジュリアスの姿が目に留まった。暖まり頬を染め、湯気を全身にまとったその姿は普段のポンコツ具合と比較すると魅力的なものに映った。

「シャワーから出たらサトーにディスられたんだが、どういうことだ」
「あれ? ジュリアスさん、パプカさんはまだ中ッスか?」
「いや、パプカなら先に上がったぞ? 「騒音の原因を消してきます」とか言って杖を持って出て行ったんだが」

 なるほど。では彼女の居場所は見当がつく。──と、ジュリアスとのやり取りをしていた時、玄関先から再び怒鳴り声が聞こえてきた。

「うるさいですよ!! ちょっとは近所迷惑を考えたらどうなんですかお父さん!! ゆっくりシャワーも浴びてられませんよ!!」

 そんな大声を上げる近所迷惑の騒音その2を確認するため、俺たちは玄関先へと向かう。
 未だシャワーも浴びれていない俺は、凍えながら真冬の屋外へと到着した。ちなみにジュリアスは湯冷めしたくないとの事でルーンの部屋へ引きこもり、アヤセの進言でルーンは先にシャワーを浴びることになった畜生。

「結局面倒ごとは俺に押し付けられるのか」
「一応この家の家主ですし、責任者は責任を取ってなんぼッスよ」
「くそう、微妙な正論吐きやがって……」

 まあしかし、先に行った通りオッサンとパプカを放置していれば家庭崩壊(物理)が起きかねない。
 現場に到着し、杖でオッサンに殴りかかるパプカを目にして、俺は大きなため息をついた。

「よせ、止めるなパプカ!! あの生ける絵画がパプカを……っ!! 俺にパプカの仇を取らせてくれぇ!!」
「そうですか……わたしの仇なら仕方がありません。思う存分戦って……ってなるかぁ!! いい加減正気に戻ってください!!」
「なんであの人たち漫才してるんスか?」
「知るか」

 とはいえ、こんなボケがいつまでも続くわけもなく、ゴルフリートはパプカの魔法によって爆炎に飲み込まれた。
 流石にやりすぎだろうと言うこの光景。実は日常的に行われている行為であり、さほど心配するようなものではない。基本暴走したオッサンを鎮めるために行われるえげつない行為なのである。

「────ハッ!? こ、この爆発の温度、衝撃……まさか、パプカか!?」

 爆発ソムリエかな?

「うおおおおおおんっ! パプカ! 生きてたのかぁ!!」
「ふぅ……ようやく正気に戻りましたか。まあ心配してくれていたということなので、抱きしめられるのも今回は大目に見ま──うっわ臭っ!! お父さんドブ臭っ!? やめて離して! シャワー浴びたばかりなのにぃ!!」
「感動的な親子の再会……なんスかねぇ?」
「知るか」

 良い歳の男が号泣する姿にかなりドン引きしたが、まあ溺愛する娘が帰って来たのだ。それも仕方の無いことなのだろう。
 だが、泣き止んだかと思えばもう一度パプカを凝視。そしてその背後に居る俺に視線を移すと、何やらぼそりとつぶやいた。

「サトーの家……湯上り……男女…………?」

 顔をうつむいたままブツブツとつぶやいたかと思えば、すぐさま顔を上げて次は俺の両眼を凝視した。

「サトー。お前は事務職だから知らないかもしれないが、実は冒険者が使っている武器ってのは用途ごとに異なっていてな?」
「急になんだよ」
「例えば俺が使っている大戦斧なんかは、オリハルコン製の特注品だ。重量はあるが、だからこそ大抵のモンスターの鱗や皮を両断できる。一方で護衛任務に就くような対人専門の冒険者ってのもいるよな? そういった奴は重量のある武器じゃなくて、切れ味の鋭い軽い武器を好むんだ。で、そいつらがモンスター狩りに行くときは、その武器は持たずに俺のような重量武器に持ち替えるってわけだ」

 オッサンのこれほどまでの長台詞は初めて聞いたかもしれないが、主旨が全然伝わってこない。

「まあアレだ……何が言いたいかって言うと────新しい対人剣買ってくる」
「待て!! それで誰を斬るつもりだぁ!!」

 この話の流れで言うと、確実に俺に向けられた殺意だろう。





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