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第十一章 まるでやらせな接待業

CASE90 アックス・ル・モンド ③

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『いつも言ってんだろ! 作物とか畜産とか俺関係ねぇーって! 野菜市場で呼び出すなよ!!』

 脳内に直接響く男の声。その声は俺でもわかるほど神性に満ちており、直感的にそれが神様の声であると理解した。
 しかしその内容はそれを否定。
 アックス曰くの【豊穣の神様】が、自分はそのような神ではないと断言していた。

「え、アックス。なんか神様否定してるみたいだけど……別人なんじゃないか?」
「いや、この方で間違いないよ。いつもお呼びした時はこのやり取りから入るんだ」
『否定してるんだから言葉通り受け取れこの野郎!!』

 言葉の節々から感じ取れる神性とは裏腹に、その言動は極めて人間臭かった。どうにも親しみが持てる同年齢の男性と言った印象である。
 
「しかし、実際に土壌への効果をもたらしていただいておりますし、やはり我々からすると豊穣の神としか……それに、かの有名な宗教学者【ピュラス・マクナハル】も貴方様の事をそう評しておられます」
『くっそ、あのちび助! 余計なことしやがって!!』

 ピュラス・マクナハルと言うのはアックスの言う通り、非常に有名な宗教学者である。
 歴史教科書の最初の方に出てくるような古い人物で、言っては何だが豊穣の神様よりも遥かに有名。よって俺もその名前を知っていた。
 そしてそんな有名人と、どうやら神様は知り合いのようである。

「あのー、横から失礼します。じゃあ、今話している神様は何を司る神様なんでしょう?」
『お? なんかまともな感覚を持つ奴がいるな? ったく、俺を信仰するやつの大半が頑なに【農業の神様】【畜産の神様】って言うんだよなぁ。よし、まともな質問をしてくれたそこのお兄さんに説明してやろう。聞いて驚け! 俺はな──』


『神様ぁーー!! お茶が入りましたぁーー!!』


 神様の発言キャンセル。
 脳内に侵入してきたのは二人目の声。今度は女性のようだった。

『さあさあお疲れでしょう? 色々準備をしましたよぉ。お風呂でします・・・? ご飯でします・・・? それともこ・こ・で・・・・・?』
『いや、普通に茶を飲ませろ! 持ってきたんだろ!? しかも実質一択なんだよこの色魔!!』
『元色魔なんですから仕方がないじゃないですかぁ。えっへっへ、何ならお茶でしても・・・良いですよぉ?』
『元色魔でも現天使だろうが! 自重しろ!!』

 どうやら割り込んできた下ネタ前回の女性の声は天使のもののようだった。どんな天使だよ。

「あのう……神様?」
『ああいやちょっと待ってろお前ら! 一旦保留に────いいか、今仕事中だからそういうのは後にしろ! これ以上信者を減らすわけには……え? 今夜? いや天界に夜なんて無いし────』

「なぁアックス」
「なんだい、サトー君」
「目の前でイチャイチャされるのって殺意が湧くよなぁ」
「サトー君、目が血走ってるよ……」

 保留と言いつつ神様と天使の声が駄々漏れている。そんな音声を聞かされる身にもなって見ろ。やはり殺意しか湧かない。
 そしてしばらく待たされていると、どうやら話がついたのか神様が受話器(?)の前に戻ってきた。

『いやぁ悪い。うちの色魔が迷惑かけて……えーっと、何の話だっけ?』
「リア充爆発しねぇかなって話です」
『あーそうそう。リア充爆は……ん?』
「ちょっとサトー君! いえ、違います! 神様が何を司っているかと言う質問でした!」

 アックスが慌てて俺の口をふさぐ。
 まあ確かに、感情に任せて罵声を浴びせるにしても、相手は神様だ。さすがにそれは不味いであろう。

『そうだったな──良いかよく聞け! 俺の力は大地に幸福の葉を実らせ、潤す聖水に吉兆を表し、宿す子を二つに増やす!! そんな俺が司るのは────』

『神様ぁーー!! やっぱり私我慢できませぇーん!! うへへへ……往生せぇやぁーー!!』
『ぎゃーっ!? やめろ! 天界に来たからって俺が新人なのは変わりねぇんだぞ!! 死ぬぅーー!!』

 ブツリ。ツー、ツー、ツー。

 脳内になぜか電話を切った時の普通音が流れた。

「なんだったんだ……」
「なんだったんだろうね……」

 意味不明である。
 
「ほ、補足するとだね、さっきの豊穣の神様は農地に四葉のクローバーを咲かせて土壌を肥やし、茶柱が時々立つ茶葉を実らせて、100個に一個の割合で黄身が二つ入ってる卵を産む鶏を生産してくれるんだよ」
「仰々しく言ってた割にショボ!?」
「いやいや! でも生産者からすると凄くありがたいことなんだよ? 生産量は増えるし、特産品として高く売れるから大助かりさ」
「…………完全に農業関係者の台詞だよなぁ」
「それは言わないで」



 
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