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第十一章 まるでやらせな接待業
CASE90 アックス・ル・モンド ②
しおりを挟むこの世界には【女神様】と呼ばれる神様が崇拝されているが、一神教という訳ではなく様々な神様も存在しているらしい。
有名どころで言うなら三大神。【健康の神】、【美の神】、【武の女神】などである。
座学にてある程度の神学も学んだ俺でも知っている神々だが、【豊穣の神】と言うのはその名称しか知らないマイナー神だ。
なにせ、農家の方々以外に崇拝する信者が居らず、異世界に召喚されて以降街中で生活していた俺にはことさらなじみがないからである。
神の声が聞けるプリーストたちが収める教会で、その声が聞こえなくなってしまったのは原因不明。
だが、代わりに聞こえるようになったのが、マイナー神である【豊穣の神】と言うのは首をかしげる所である。先に挙げた三大神ではダメだったのであろうか。
「で、興味がてら視察に赴いてみれば…………なにここ?」
「何って……神殿だよ。見ての通り」
「いや……俺には小さい神棚しか見えていないんだが……」
案内された先は野菜市場の事務所。そしてその片隅にひっそりとたたずむ、高い位置に祀られた神棚であった。
これを神殿と言ってしまうのは、かなりの抵抗感を感じてしまう見てくれである。
「なにせ、豊穣の神からの神託を受けれるようになったのは最近でね。元から合ったコレを神殿扱いするしかなかったんだよ。設計図や建築士は教会から持ってこれたんだけど、ちゃんとしたものを立てれるのは数年後だろうね」
「ああ、うん……神様がそれでいいなら良いんだけど……でも、この神棚でも神殿効果はあるってことだよな? 俺の蘇生も成功したみたいだし」
「効果は間違いないよ。蘇生魔法はもちろん、神聖属性の魔法の効果も上がるし、神託も……時々だけど聞こえるんだ」
「こんな事務所で厳かもクソもないな」
事務仕事をする場所で神聖がどうのと言われてもなぁ。
俺のがっかりした表情を察したのか、アックスはバツが悪そうに苦笑いを浮かべて話を戻した。
「と、とにかく神託を聞いてみよう! さっきも言ったけど、神殿効果は間違いないから!」
「ん? でも俺はプリーストじゃないし、教会関係者でもないから神託は聞こえないんじゃ?」
「いや、豊穣の神様は基本誰にでも神託を与えるみたいなんだよ。今朝がたはこの野菜市場の社長さんに降りてきたらしい」
「教会の意味って……」
「やめて」
一言が重かった。
ひとまずアックスの言う通り、神棚の前で二礼二拍手一礼。完全に日本の神様への参り方であるが、その後はアックスの言葉が続いた。
「偉大なる豊穣の神よ、我が声に応えたまえ」
「この台詞を野菜市場の社長さんが言ったのか」
………………ん?
しばらく待ってみたものの、神託が降りてくる気配は全くなかった。
まあ教会にはお土産物を買いに行くか、研修のためにしか訪れたことのない俺だ。神託と言うものがどういうものかは分からないが、少なくともアックスの紅潮した顔を見れば、これが失敗であることは分かる。
「……アックス?」
「いや、大丈夫。一回目はいつもこうなんだ。さっきも言った通り、時々しか神託はもらえないんだよ──偉大なる豊穣の神よ!! 我が声に応えたまえ!!」
「…………」
二度目の懇願、応えてもらえず。
「────農業の神様ぁ!! 出てきてくださーい!!」
「もうヤケクソじゃん」
野菜市場の事務所で神様を叫ぶ。
傍から見なくても字面だけでシュールすぎる光景だ。そしてそんなアックスのもとに、応える声がひとつあった。
『いやだから農業の神じゃねーって!!』
大音量のツッコミが、脳内へ直接響いたのであった。
神様、超フランクである。
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