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第十一章 まるでやらせな接待業
CASE85 ルーン・ストーリスト その4
しおりを挟む「本筋に戻ろう。結局のところ、リール村は無事なのか?」
段々周囲の異様な環境に慣れてきた俺は、そもそもそれ自体が本筋なのかと言う疑問はあるものの、とりあえずリール村の現状について再度確認をすることにした。
「ええと……コースケさんとゴルフリートさんがぶつかって半壊した……んでしたっけ?」
「そうですわね。でもそれ自体はそれほど問題ではないと思いますわ。村人たちもそろそろ慣れてきたのか「今回はいつもよりはちょっと被害がでかかったな。がっはっは!」と笑っていましたし」
俺の自宅もそうだが、リール村は事あるごとに半壊の憂き目にあっている。
原因はほぼ特定の人物たちに集約されているので、今更怒っても仕方がないという雰囲気がリール村に蔓延しているのだ。
何せ、半壊させる連中は大抵が【超】の付く金持ちであり、住宅や家財の修繕費用はそいつらが完全に補填している。すなわち、数か月に一度家を新築に建て替える程度の認識になっているのである。
当初こそ大工不足と言う問題もあったが、最近では
「リール村で冒険者やるより、大工やった方がよっぽど儲かるんじゃね?」
と言う冒険者からの転職者が後を絶たず、人員不足もだいぶ解消されているのである。
ちなみにギルドや我が家の修繕は世間体もあり後回しなので、いくら大工が居ようとも復活はかなり遅い状況にあった。
「という訳で、コースケの被害は物理的には問題ないでしょう。むしろ経済的には少し+というくらいですわ」
「ハーレムの皆さんがお金を落としてくれますしね。中央がコースケさんを放っておく理由がわかります……」
「……ん? いや待て。【物理的】って強調したよな? つまり、それ以外の被害は深刻ってことか?」
「流石サトー、鋭いですわね」
いや、と言うか。
コースケが来た際に最も懸念すべき事項が抜けている以上、そこにツッコまざるを得ないのだ。すなわち、
「精神的被害を受けた男冒険者たちがギルドに殺到してさばき切れていませんでしたわ」
「やっぱりか……」
コースケの何が厄介かと問われれば、彼が過ぎ去った後に発生する男たちの怨嗟の声である。
いつもの事ながら、彼は行く先々でハーレムの人員を増やし続けている。もちろん我がリール村でもそれは例外ではなく、まるでイナゴのごとく美少女を連れ去ってしまうのだ。
とはいえ、女性たちがコースケについていくのは完全に自由意思。すなわち他人がとやかく言う問題ではない。
特についていくのは女性冒険者が多く、女子に飢えている男性冒険者からすればたまったものではないのだ。
「ただでさえ男女比率が男性寄りで、安定しない職種だけに出会いも少ないのに……これですからねぇ」
「切実な問題だよなぁ……」
加えて、これはギルドにとっても悩みの種であった。
俺が担当している冒険者ギルドの相談室。コースケが襲来するたびに男性冒険者の長蛇の列が出来上がる。
コースケへの怨嗟の声を延々と一日中聞かされる身にもなってほしい。
「あ、そうか。俺がいないから相談室の担当は……」
「アグニスさんは深夜担当なので必然的に……」
「ええ。アヤセさんが担当されていましたわ」
「「ああ……」」
支部長の俺でさえ悲鳴の上げる業務。ギルドに入社して間もない新人のアヤセがさばききれるわけがない。
たとえ深夜の酒場担当のアグニスがヘルプに入ったとしても、それでどうにかできる作業量ではないだろう。
「まあ、私が村を出立したところまでしか知りませんが、右往左往していたのは事実ですわね。「支部長さん、帰ってきたらマジで覚えてろッス!! ポルターガイストでひき肉にしてやるッスから!!」と言っていましたわ」
「…………ま、まあ。その問題については帰ってから考えることにしよう」
「あ、棚上げにしましたわね」
実際問題、それらの騒動を遠く離れた場所に居る俺にどうしろと言うのだ。すなわちこれは棚上げではない、戦略的優先順位付けである。
「それはともかく、今はやるべきことがあるし、そろそろ店を出ようかルーン」
「あ、そういえばそっちが本筋でしたね」
「あら、どこかに行く用事でも?」
「ルーンを近くにある病院に連れて行くんだよ。今息子さんが行方不明になっていてな」
「まぁ、若いのに苦労していますわね……」
「さ、サトーさん。それ、ディーヴァさんにちゃんと伝わってますか?」
そういえば、俺たちの現状を端的に言い表すのならば【迷子】と言えるだろう。
治安の悪さは勘違いだったみたいだし、表を歩くのはもう怖くないが、いかんせん約束の時間が迫っている。紹介してもらった以上、相手を待たせるのはマナー違反だし、マオーの顔にも泥を塗ることになる。
そう考えるとこんなところでゆっくりしている暇は無かったのだ。
「ちょっとその地図見せてもらえるかしら? …………ふむ、あら? これなら近くですわね。と言うか知り合いの病院ですし、案内しましょうか?」
「お、良いのか?」
「どうせ帰省してやることがなくぶらついていただけですし、サトーとルーンには家に泊まらせてもらっている恩もありますからね」
ほかの連中もこのぐらい恩義を感じてくれればなぁ。
「けど、ずいぶんマイナーな病院をご存じなのですわね?」
「ああ、マオーさんに紹介してもらったんです。専門家に見せてもらえば、身体が治るのが早まるかもって」
「なるほど。それはまあ……ご愁傷さまですわねぇ」
何やら不穏な言葉で締めくくられた気がするが、あまりにもさらりと言われたために、俺たちはその言葉をスルーしたままメイド喫茶を後にした。
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