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第十一章 まるでやらせな接待業

CASE85 ルーン・ストーリスト その3

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「そもそもなんでこんな所にサトーとルーンが居るんですの!?」
「やっぱり皆さん、驚かれますよね……」
「正直そろそろ聞き飽きた。ボキャブラリーって大事だと思うんだ」
「なんかいきなりディスられましたわ」

 訪れる先々でなぜか知り合いにエンカウントする俺たちは、そのたびになんでここに居るのかと説明を求められるのだ。
 「かくかくしかじか」で省略できない以上、自分でも理解できていない身の上を1から10まで時間をかけてディーヴァに説明しなければならない。
 自宅で休日を満喫しようとしていた際に、玄関扉を吹き飛ばされたのを皮切りに、修羅のような形相を浮かべる絵の女性に転移させられ、転移した先は最終決戦場の魔王ダンジョン。
 悪ふざけのようなトラップに引っ掛かり、同じく悪ふざけのようなトラップに引っ掛かった勇者パーティーと合流。お互い戦力にならない状態でレベル上げ。
 最終的に赤ん坊の手を借りて階層を突破。それと同時に勇者パーティーとは別の場所へと再転位。
 恐らくこの世の頂点に君臨する一人である魔王と邂逅し、意外と気さくなお方であったため全面的にお世話になっている。
 図書街でこの世で最も有名な小説家と出会い、顔なじみの四天王と出会い、コースケハーレムの一員と出会い、身の危険を感じ、ホテルに帰り、寝て、翌日ルーンとこの場所に居るのである。


「意味が解りませんわ」


 奇遇だな。きちんと説明したのに俺にも理解はできていない。

「というか最後の方かなり雑でしたわよ。箇条書きみたいでしたわ」

 もうちょっと語彙を増やすことにしよう。

「いやいや、それはともかく……もう何週間か前になりますが、サトーたちが消えてリール村はてんやわんやだったんですのよ? 特にオリハルコンのおじ様とギルドのアヤセさんが取り乱しまくっていましたわ」
「あー……目に浮かぶようですね」
「聞きたくないが…………その結果どんな被害が出たんだ?」
「被害が出ているのは確定ですのね……」

 あの二人が取り乱したのだから、被害が出ないわけがない。
 俺が帰ってから修復可能な被害であることを願うばかりだ。

「どこから話せばよいものやら…………まず最初に──コースケがリール村に訪れたのですけど」
「「あっ終わった」」

 考えうる最悪の状況のはるか上を行っているようだった。
 間違いなくアヤセで処理できる状況ではない。俺がいたとしても、壊滅的打撃は免れないだろうから、最悪リール村が近隣の村々と共に滅亡してるんじゃあるまいか。

「あ、でもパプカの行方不明に動転したおじ様が、「てめぇパプカまで手籠めにしたのかぁ!!」とか叫びながら応戦したので、村半壊で済みましたわ」
「セーーーーーフッ!! ギリギリセーフッ!! よくやったオッサン!!」
「サトーさんよく聞いてください! 半分被害受けちゃってますよ!!」

 何を言うかルーンよ。周辺地域丸ごと全滅に比べたら、村の半分くらいの被害などなんてことは無いさ。

「貴方もずいぶん達観してますわねぇ……」
「年齢の割に落ち着いているとよく言われる」
「別に褒めていませんわよ?」


 俺たちは落ち着いて話を聞くために、近くの怪しい酒場の暖簾をくぐる。『怪しい』と銘打ったのだから、外見からして本当に怪しい店である。
 明らかに治安の悪そうな区域にあり、軒先も外れかけた看板などを見ると確実に堅気ではない。
 店に入って見ても、やはり意外性のかけらもなく「いらっしゃいご主人。ケッケッケ……」という、ウエイトレスっぽい女性から歓待を受けた。

「な、なあ……別の店にしないか? というかこの治安の悪い区域から早く脱出したい」
「? 別に治安は悪くないですわよ? むしろこの国でも有数の安全区ですわ」
「いや嘘じゃん!! 見ろよ! 調理場でニヤニヤしながら包丁を研いでる姿を!!」
「料理人が器具の手入れをしているだけですわ」
「頬についた血をぬぐってるし!」
「ケチャップが跳ねてしまったんですわね」
「あ、あと……えーっと……ほら! 出口でこっちを見ながらひそひそ言ってる通行人! あわよくば拉致しようとしているに違いない!」
「そんな馬鹿な……あなたたち! 何か用でもございまして?」

 勇猛果敢に声をかけるディーヴァ。声にビクリと肩を震わせた通行人たちは、おずおずと店内に入ってきた。
 そしてなぜか恐縮気味にこう答えた。

「いやぁ、地図を見ながら迷ってるみたいだったんで、道を教えてあげようと気をうかがってたんスけど、要らぬ世話でしたね。目的地のメイド喫茶にたどり着けて良かったっス」
「ほらみろ! やっぱり拉致云ぬん…………道案内?」
「はい。自分らシャイなもんで、なかなか声をかけられなかったんス。紛らわしくて申し訳ないス」

 め……めっちゃ良い人たちだ!

「サトーさん! しかもこの店メイド喫茶っておっしゃりましたよ!?」
「あっ!? そういえば確かに!」

 俺は視線をウエイトレスへと向けた。明らかにメイドではないその姿に、訝し気に首を傾ける。

「ケッケッケ……ご主人、こちらの店は初めてで? 何を隠そう、かのゴトー財閥のメイド喫茶チェーン店『ピュアリスメイドール』魔の国支店なのです。ちなみに現在、アウトローの装いキャンペーン実施中です」
「ちなみにこの辺り一帯、メイド喫茶の激戦区で同じキャンペーン中らしいですわ。治安が悪いと思われたのもそれが原因ですわね」
「────これだからオタクは!! 凝り性にもほどがあるだろうが!!」

 





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