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第十一章 まるでやらせな接待業

CASE84 召喚被害防止委員会 その5

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「実は今話した件以外でも、複数の召喚者から同じ名前を聞いてるんだ。平凡な名前だし、一件ならともかく……なぁ?」
「サトー……サトー…………あ、思い出した。確か俺もその名をよく聞くぜ。召喚者だけじゃなくて、コースケハーレムの女性たちの中でやたらと話題になってる名前のはずだ」
「お二人とも奇遇ですね。サトーと言う名には私も心当たりがございます。私の担当である駄剣がたびたびその名を出していました」

 そんなにサトーサトーと連呼しないでほしい。
 今俺の目の前で、数時間前まで知り合いでもなかった連中が俺の名前を呼ぶ。
 もちろん偽名を使っている中、返事をするわけもない。
 俺はただひたすらに、全身の冷や汗をぬぐう作業に熱中していた。

「俺は召喚者たちの中で通じる、異世界の暗号かなにかと思ってたんだが……」
「ディルさんが言うには召喚者以外もその言葉を使っているようですし、やはり人物名なのでは?」
「なんにせよ、皆が言うサトーってやつは共通の存在であると見るべきだな。問題はこれがどういった意味合いを持つかということだろ」
「今や召喚者は我々が把握できていない規模となりつつあります。人間たちも監視を続けているようですが、その監視を逃れている人物だとすれば……危険ですね」
「だな。監視の外にいるってことは、監視から逃げられる能力を持ってるってことだ。変な思想を持っていて、国家転覆みたいなことをされたらかなわんからな」

 何やら彼らの内でサトーと言う言葉の認識が統一されようとしているらしい。
 
「さ、サトー……」
「サトーさん……」
「止めろお前ら俺を見るな。そして俺の名前はママルカルドルフセルリシアンナノカミタロウ18世」

 よし噛まずに言えた。
 二人とも、事の重大さに気が付いているのなら安易に人の名前を呼ばないでほしい。

「ええい面倒くさいでちね。ならママルカ、大丈夫なんでちか? あの人たち、なんか物騒なこと言ってまちが」

 汗でずぶ濡れになったハンカチを絞りながら視線をパプカから戻すと、ディルたちの会話はかなりエスカレートしていた。

「サトーが人物名だとするなら、召喚者をまとめる立場かもしれねぇな。それ以外の人間も知る名前ってことは、もしかすると洗脳系のスキルを持っているのかもしれん」
「となれば、捕獲する際に十分に気をつけなければなりませんね。洗脳系のスキルだと、実力によらず洗脳される可能性もありますので」
「その時は最悪、捕獲は諦める必要も出てくるかもな」

 いつの間にかサトーを捕獲すると言う話になっていた。
 
「ああ! 部外者が言うのもなんだが、捕獲なんて諦めた方が良いよ! リスクを背負うなんて馬鹿げてるからさ!」
「そうだな……一人でもサトーに寝返られたらやばいからな。やっぱり捕獲は諦めて抹殺の方向で……」
「いーや! 絶対に捕獲の方が良い! 人の命は危険なんてもので切り捨てて良いものじゃない!!」
「どっちなんだよ」

 危ねー! 危うく俺の殺害を教唆するところだった!
 というか殺害すら視野に入れてるって、どんな危険人物だと思われてんだ俺は。

「そもそも、確たる証拠もないのにそのサトーってやつを危険視するのもどうかと思うぞ。もしかしたら巻き込まれているだけの可哀そうな奴かもしれないだろ?」
「それに関しては俺たちだって確証も無しに事を起こすつもりはねぇよ。ちゃんと証拠はある」
「え、あるの?」

 全く身に覚えがないんだが、俺は何かやらかしたのだろうか?
 話の展開を見るに、きっと色々な話に尾ひれがついただけだろうと思いたいが、それを元にして暗殺部隊が送り込まれてはたまったものじゃない。
 話を聞いて、きちんと訂正して考えを改めさせなければ……

「ここ最近、コースケが異常に女の子に声をかけまくってるんだ」
「それはいつもの事では?」
「まあそうなんだけどな。でもそのペースがかなり早くなってるんだよ。確か、リール村……? とか言う辺境地に行った後からだな。「サトーの言う通り、ハーレム王に俺はなる!」とか言ってた」

 あの馬鹿野郎! 俺の名前を出すんじゃねぇ!!

「私も、エクスカリバーから似たような言葉を聞きました。ことあるごとに『拙者の事を分かってくれるのはソウルブラザーサトー氏だけでござる!』と叫んでいました」

 だから俺はソウルブラザーじゃねぇし、お前の事なんてわかりたくもねぇよ!!

「ん? そういえば、メテオラの話にも出てきてたような……人間界で世話になってるやつがいて…………そいつの名前がサトーだった気が」
「…………」

 よくない。よくないぞ……これは本当に良くない。

「おいおい、その話が本当なら、メテオラはすでにサトーのてに落ちてるってことにならないか?」
「まずいですよ。彼ほどの実力者が操られているとなると、相当な被害を覚悟しなければなりません。我々委員会の総出で出向く必要がありますよ」
「そうなると、やっぱり捕獲は無理だな。戦いは避けられそうにない。街がいくつも吹き飛ぶことになりそうだ」
「残念だが、初手でしとめるしかないだろうな。見つけ次第俺たちの全火力をぶち込む方向で行こう」
「…………」

 もはやこれは話し合いではない。
 最初から結論が決まっているように、とんとん拍子で俺の首に縄がかけられていく。
 皆さん? そんな大それたことをしなくても、俺はパンチ一発で昇天できますよ?
 しかも説得しようにも、彼らの言うことは間違ってはいない。俺が今出た召喚者たちの名前に関与していることは本当だし、彼らが俺の言うことを曲解していることもその通りだ。
 反論するためにはまず俺の名前を出す必要があるだろうが、その場合は瞬間ネロの自宅が焼け野原になってしまう。
 すなわち、ここで俺が取るべき行動とは────

「──よし、会合も白熱してきたようだし、俺たちはそろそろ帰るとするよ。今日は本当に参考になったよ、また今度改めて連絡させてもらうかもしれないからよろしくな」
「そ、そうでちね。思えば長い時間お邪魔してましたち、帰りましょうそうしましょう」
「あ、では出口までご案内しますよ。さあ、一刻も早く私の家から出て行ってください」

 俺は考えるのをやめ、ネロの家から脱出した。
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