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第十一章 まるでやらせな接待業
CASE83 パプカ・マグダウェル その3
しおりを挟む「えー、では定例の年末会合を始めたいと思います。とはいえ人間界で連携してますし、各自の近況を報告するぐらいで良いでしょう」
魔の国における首都。その一角にたたずむ普通の民家。木造づくりの西洋風建築物に、自称極秘機関【召喚被害防止委員会】はあった。
極秘なのだから他の人間にばれないようにカモフラージュしているのかと思いきや、どうやら普通にネロの実家であるようだった。
「ネロちゃーん? お菓子とジュース持っていくけど、お友達は炭酸大丈夫かしらー?」
「お、お母さん! お菓子もジュースもいらないってば! いいからしばらく部屋に来ないでよ!」
「あら、ご挨拶しなくていいのー?」
「いいってば!!」
ネロの母親からの声。娘が友達を連れてきたときに浮かれる母親の像を映していた。
恥ずかしそうに顔を赤くするネロは、凄腕冒険者とか魔族とか、そんな大それた人物にはまるで見えなかった。と言うかまんま子供である。
極秘機関と言うよりは子供たちのサークルと言った方が正しいかもしれない。
場にはネロの他に3人。黒色の髪の毛と瞳、紫色の肌を持つ青年。糸目が二つと額に大きな瞳を持つ女性。メテオラのような二本の角を持つガタイの良い男性だ。
「ごほんっ! と、ともかく会合を始めますからねっ!」
「わかったわかった。ネロの母ちゃんにはあとで挨拶するにして、とりあえず会合に入ろうぜ。でもその前に一つだけ────そこの二人は誰だ?」
青年の質問が飛んだ。彼の言う二人と言うのは明白で、すなわち俺とパプカの事を指しているのだろう。
「この二人は見学者です。私たちの活動に興味があるそうなので、その見学に来てもらいました」
「では会員候補なのですか? 人手不足もひどかったですし、良いことだと思います」
「俺も構わんぜ。だがその……嬢ちゃんの方はともかくとして、もう一人の────そのマスクはなんだ?」
どうやら会員たちは俺とパプカが見学することに関しては好意的な様子だ。少なくともいきなり頭からガブリといかれる心配はないだろう。
だが、男性が眉をしかめてこちらを見ている。何か不審な点でもあっただろうか。
「たぶんサトーのことだと思いまちよ」
「なんだと? 俺のどこに怪しい点があると言うんだ。完璧な変装だろうが」
「買い物袋を頭からかぶってる人間が言って良いセリフではないと思うでち」
召喚被害防止委員会は、その性質上召喚者と関わることが多い。すなわちその被害に会う者も多いらしく、中には召喚者に良い感情を抱いていない人たちもいるらしい。
俺も一応召喚者だ。ほかの奴らのように被害はまき散らしていないが、分類としては当てはまるだろう。
もし、この場でネロ以外に召喚者であることがばれたのならば、厄介な事態に巻き込まれてしまう可能性もあるのだ。
俺が買い物袋をかぶるという完璧な変装をしているのも、正体をばらさないための物なのである。
「まあいいでち。とりあえず自己紹介をしておきましょう。わたちはパプカ。よろしくでち」
「私の名はママルカルドルフセルリシアンナノカミタロウ18世です」
「ママ……え、なんて?」
「ママルカルドルフセルリシアンナノカミタロウ18世です」
懐かしの我が偽名。正直ジュリアスに名乗った時以来使っていなかった適当すぎる名前だが、噛まずに言えたあたりちゃんと覚えていたようだ。
「まあ私の名前は略してママルカとでもお呼びください」
「お、おう…………一応こっちも名乗っておくか。俺はディル。ディル・ルッケンドールだ」
「私はワルジュ・アスカンと申します」
「俺様はルテオラ・ダブカスだ。よろしくな」
どうやら第一印象は悪くないようだ。やはりこの完璧な変装が効いたようだな。
「けど、あれだな。どっかで聞いたことのある名前の気がするんだよなぁ」
「ママルカさんの事ですか、ディル?」
「いや、そっちじゃなくてその子の方だよ。パプカって言ったか? あの凄腕冒険者と同じ名前だろ?」
「ああ、確かに。オリハルコン冒険者の娘様でしたね?」
パプカ・マグダウェル。プラチナランクの凄腕冒険者でそれだけでも知名度は高いのだが、それ以上に名高いのが親の存在だ。
ゴルフリート・マグダウェルとヒュリアン・マグダウェル。二人ともオリハルコンランクの冒険者と言う、人類の頂点に位置する実力者。それが両親なのだから、必然的に彼女の知名度も上がるというものだ。
自己紹介の時にマグダウェルの名を明かさなかったのもこのためだ。身元がばれた場合、彼女が活動しているリール村と言う場所から俺の素性まで知られてしまう可能性があるためである。
「でも俺様が知る限り、パプカ・マグダウェルは20歳の成人だぞ? 嬢ちゃん子供じゃねぇか」
「だよなぁ……やっぱ俺の勘違いだわ、すまん。ネロじゃあるまいし、こんな子がかの有名な冒険者なわけないよなぁ」
ディルの誉め言葉に、相貌を崩してにやつくパプカ。彼女の地位に対する相応の評価のはずなのだが、日ごろのパプカの様子を知る人間としては違和感しかない。
「ふふん。確かに私は超絶美少女な凄腕完璧冒険者と同じ名前でち」
「誰もそこまで言ってないけど」
「でちが、わたちは残念なことに同名であるだけの絶世の美少女でち。有名人の名前と言うのも困りものでちね」
ディルの誉め言葉にパプカはまんざらでもない表情を浮かべた。
「そうだぜディル。パプカ嬢と言えば、ヒュリアンに負けず劣らずのナイスバディらしいからなこんなちんちくりんがそんなわけねぇだろ」
「私も噂程度ですが、幼少期からモデル並みの高身長を持っていたと聞いております。彼女の足の長さではモデルは不可能でしょう」
「そういや俺も、男をとっかえひっかえの妖艶な美女って聞いたな。よく考えりゃカスリもしてねぇな」
「…………」
おいよしてやれよ本人を目の前に。
この場でパプカの正体をばらしたとしても、全く信じてもらえなさそうである。噂話がめちゃくちゃ尾ひれをつけて広がっているようだ。
想像のパプカ像が美化されすぎていているが、本人は涙目で震えてここにいた。
「ま、まあまあ。とりあえず雑談はこれぐらいにして、さっそく本題に入りましょう」
パプカの正体を知っているネロが助け舟を出してくれた。
という訳でここからが本題。人間界における、召喚者被害の実情と対策の話に移ることとなった。
彼らから召喚者についての情報を得られることができれば、今後不意の遭遇によって俺が受ける被害も抑えることができるかもしれない。
もしくは、周りにすでにいる召喚者たちから俺が受ける被害について、何らかの対処法を学ぶことができる可能性もあるのだ。
そんなわけで、集まった人たちが順番に担当している召喚者についての説明を始める。一番手はワルジュである。
「それでは私から。私の担当は西部に突如として現れ、現在も出没しては煙のように消える──召喚者【エクスカリバー】についてです」
…………しょっぱなから身内による犯行であった。
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