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第十一章 まるでやらせな接待業

CASE82 ミューズ・リンドブルム その1

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 世界樹のプラント【リンドブルム】。おそらく魔王軍四天王の中で最も知名度のある魔族である。
 その理由は、人間界における歴史教科書の最初のページに記載されているからだ。
 その記述は『この世で最も長命な知的生命体』となっており、具体的な年数は不明だが少なくとも1万年前から生きているというのが学会の有力な考察らしい。
 そんな有名人オブザ有名人が目の前にいる。魔王軍四天王が二人目の前にいるだけで異常事態だが、ミューズ・リンドブルムに至っては歴史上の人物。スケール感が半端じゃない。
 と言うか魔王軍四天王のうち三人が知り合いになってしまったんだが、これは一体どういうことだ。どこのラノベ主人公だよ。そのうち四人目も現れてコンプリートしてしまうのではあるまいか。
 俺の顎が外れてしまいそうなほどの驚き。呆然とする俺をよそに、ミューズとメテオラは話を続けていた。

「なんだお花畑、本当に何も説明していなかったのか?」
「別にわざわざ言うことじゃないでしょ。あとその呼び方やめろ、ぶっ飛ばすわよ」
「あー、サトー? 心配する必要はないぞ。このお花畑、我々の中では最弱だからな。俺様にかかればワンパンだ、ワンパン」
「いい加減にしないと植物の苗床にしてやるわよ駄龍。そもそも最弱って、私戦闘職じゃないんだから強いとか弱いとか無いわよ────えーっと、サトーくん。別に襲ったりしないから落ち着いて。ほら、四天王って言っても人間側からの呼び方の一つってだけだし」

 なだめるように俺に言うミューズ。確かに、四天王という呼び名は人間側の他称であり、メテオラやディーヴァが自称したことはない。
 マオーが説明した通り、彼らは会社の幹部であるだけで人間に敵対しているわけではないのである。
 
「そうだな……いや、そうですね。ミューズの……あ、ミューズ様の人柄はさっきの会話で分かっていますし、余りかしこまりすぎるのも考えすぎでございますものね」
「口調がどんどんかしこまってきてるじゃない。さっきまでの態度でいいからね、サトーくん!」
「こんなやつにかしこまる必要はないぞ、サトー。それに確か、お花畑とサトーは同郷だったはずだ。親しみも湧くのではないか?」

 同郷。すなわち出身地が同じであるという意味。
 一応戸籍にはリンシュの家が登録されている俺。そして魔族であるミューズは魔の国に戸籍があるだろう。なので、この場合の同郷という意味を考えると、異世界での話ではないだろう。

「────えっ!? ミューズって召喚者なの!?」
「まあね。年齢も年齢だし、多分この世界に召喚された一番最初の召喚者だと思うよ」
「つまりウルトラババアだ」
「ぶっ殺すわよ」

 マジで歴史上の人物であるらしい。
 召喚者というのは歴史上の偉人としてたくさん出てくるところを見ると、召喚される年代というのはバラバラであるらしい。召喚時に女神様に頼んでみたり、半強制的に召喚される年代を決められることもあるとか。
 女神様と出会うことがなかった俺からするとよくわからない要素だが、どうやら神様に時間の感覚はないようだ。

「じゃあ一万年以上生きてるってのは本当なのか?」
「正確にはわからないけどね。最初の千年以降は年数を数えるのやめちゃったし。でも社長とかよりもずっと歳上なのは間違いないし、万年超えっていうのは間違いないよ」
「マオー社長ってそんなに歳いってるのか?」
「うむ。ババアであるディーヴァよりも年上だったはずだから確か────オギャアアッ!?」

 突如走る稲光。
 晴れた天気など関係なく、雷がメテオラへと落下した。

「あぁ……社長のプライバシーを言おうとするから」
「今の雷マオー社長のやつかよ!? リンシュ並に地獄耳だな!?」

 消し炭になったメテオラを心配することもなく、ミューズは話を続ける。まあメテオラだしな、あの程度では死ぬことはないだろう。

「駄龍の言うことを認めるのは癪だけど、たしかにサトーくんとは親しみが持てる気がするのよね。どっちもあの駄女神の被害者だからかな?」
「駄女神って……随分な言いようだな」

 俺に女神様の記憶はないが、召喚者に聞くと大抵は女神様への敬意が見て取れる。やはり神様だけあって、敬われるだけの存在感があるのだろう。
 だがなぜかミューズは否定的のようだ。駄女神と断言しているところを見ると、女神様に何らかの恨みを持っているらしい。

「いや、俺実は女神様の記憶がなくって……と言うか女神特典を持ってないから、多分会ってすら無いんだけど」
「そうなの? まああの駄女神に会わなくて正解かもね。碌なもんじゃないわよ」
「……何かあったの?」
「ふふ……それは俺様が説明してやろう。毎度この話を思い返すと草が生えるわ」

 あ、メテオラ生きてた。

「カリバー氏の件を知っているサトーなら分かっているだろうが、召喚者というのは人間でこの世界に生まれ落ちるとは限らない。このお花畑の場合は────初手雑草・・だったらしい」
「────雑草?」

 本当に草が生えてるじゃねぇか。

「ふざっけんじゃないわよあの駄女神!! 動けもしないし喋れもしない! 能力も雑草のそれしか無くてどうしろっての!! なーにが「私ってば縛りプレイが好きなのよねぇ」だ!! 他人を縛るならそれはただの緊縛だぁ!!」
「お、落ち着けミューズ! なんか辺りの木の根っこが暴れてるぞ! 街が壊れる!!」
「はぁはぁ……本当、最初の数百年は地獄だったわ。うさぎに齧られるわ、うさぎにおしっこひっかけられるわ……」

 怒りの対象は女神なのかうさぎなのか。

「今の子達は良いよね。自分の希望がたいてい叶えてもらえるんでしょ? 私のときは完全に強制だったわよ」
「いや、俺に言われても……」

 だがどうやら、女神様というのは俺が思っていたよりも変なお人らしい。そこはかとなくリール村のポンコツ連中と同じ香りがするのは気の所為ではないだろう。
 大きすぎるため息をするミューズに、女神様に会えたとしても良いことばかりではないのだなぁと、俺は察した。


「そんなことはどうでも良い!!」


 召喚者の人生を「どうでも良い」と断言した叫びが周辺にこだました。
 やけに静かであると思ったジュリアスが、フリーズから復帰したようである。

「四天王? 召喚者? 雑草? そんな些末なことを話し合っている場合か馬鹿サトー!!」
「四天王が些末な問題なわけ無いだろうが──つーか今馬鹿って言った?」
「ミューズが! いや、ミューズ殿が!! 【ミナス・ハルバンの大冒険】の作者なんだぞ!? これ以上の大事件があってたまるかぁ!!」

 ジュリアスはもっと小説以外の事柄に対して目を向けたほうが良いと思う。

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