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第十一章 まるでやらせな接待業
CASE80 マオー様 その①
しおりを挟む「スズキ、茶ぁ」
「はいただいま!!」
スズキが属する会社とやらの最高権力者。なぜか社長と呼ばれている眼の前の女性は、スズキ曰く魔王様。すなわち会社はおろか、魔の国における最大最強の親玉である。
そんな魔王様が何故か俺達の前にいる。執務室の中に設けられたソファーに座り、テーブルを挟んで魔王が座る。
場違いすぎる状況に、一般人である俺はもちろん。現冒険者やその経験があるリール村一行も、顔を引きつって気絶寸前の状態であった。
できれば他のやつに交渉事を任せ、気絶という名の安息の地へと離脱を図りたいところであるが、残念なことにこのパーティーでは交渉をするのは俺の仕事となるだろう。
下手に刺激を与えて、人間界が滅ぼされる結果となれば責任など取れるレベルの失態ではない。
「うぇ……苦い」
「ああ? 今なんて言うた?」
スズキが運んできたお茶をすすり、その苦さに顔をしかめるパプカの言葉。
空気を読むことを知らない図太い精神力の持ち主が味方に一人いたようだ。この場合全然頼もしくなく、なんて余計な言動をしてくれたのだという思い出いっぱいだ。
「お前ぇ! せっかく淹れてくださったお茶になって評価を下してんだぁ! 出されたものは好き嫌いせずちゃんと飲み込め!」
「だって本当に苦いですよこのお茶。間違いなく安物を使っていますね」
もうだめだ、おしまいだ。この失礼にも程がある言動を取り付くうことなど出来ないだろう。
来世ではもっとマシな仲間に恵まれますように。
「スズキぃ!! この阿呆! 子供に苦い茶を出す奴がおるか!! 子供にはホットココアや! 茶菓子も付けんかい!!」
「すみません!!」
「「「えぇ……」」」
どうやら子供には優しい魔王様のようだった。
喋り方はかなり怖いが、問答無用で殺されるということはなさそうだ。話が通じるのならば交渉の余地もあるだろう。
「あの、良いですか?」
「なんや?」
「その……私達の処遇はこれからどうなるんでしょうか? 打首獄門とかでなく、できれば苦痛のない死に方が良いんですが」
「サトーさん、なぜ処刑が前提の交渉を……」
どうせ死ぬのならば楽に死にたい。そう願うことは間違いだろうか。
そんな俺の問いに、魔王様は茶を一気にあおってから息を吐いた。
「なんでウチがそんな事せなアカンねん。普通に犯罪行為やろうが」
「え、でも魔王様なんですよね? 法律とかその……超越した存在なのでは?」
「スズキぃ!!」
さっきからスズキ君が不憫でならない。パワハラとはこういうものの事を言うのだろうか?
スズキは同じように全力の返事をして体をこわばらせた。
「道すがらなんの説明をしとったんやワレェ! 根本的なところも言うてへんのかい!」
「すみません! あ、いやでもコイツら何にも知らないみたいで、魔王様の事を説明するには時間と距離が……」
「シャラップ!!」
「はいっ!!」
「あー……でもそうやな。何をするにしても、まずは説明からやな。スズキ、この嬢ちゃん方を医務室にご案内しろ。諸々の話はこのサトーとするから」
「了解しました!!」
どうやら話はついたようだ。苦節数日間。誰からも何も説明をしてもらえなかった身の上の俺たちに、ようやくまともな情報が降りてくるらしい。
とはいえ、なぜ魔王様は俺の名前を知っているのだろうか? いや、ここに来るまでに他の奴らから聞いたのかもしれないが、俺がこのパーティーの代表だと判断したのはなぜだろう。
「あれ? 魔王様、でもこの女達は怪我を負っている様子がありませんが?」
「ここでは社長と呼べといつも言うとるやろうが。それはともかく、その幼女と美少女さんは呪いがかかっとるからな。解呪出来るかどうかは分からんけど、見てもらったほうがええやろ」
「じゃあこの赤髪の女は?」
「一応、頭を見てもらっておいてくれ」
「どういう意味だ!?」
抗議の声を上げるジュリアスだったが、ルーンとスズキに抑えられ、引きずられる形でこの部屋を後にした。
え、まじで? まじでこのおっかない魔王様と二人きりで話さないといけないのか? なんの罰ゲームだよ。
「どっから話したらええもんかな。サトー、あんたは何から知りたい?」
「はいごめんなさい魔王様」
「なんで謝る? あー、そうやなぁ。じゃあまずはそれからやな」
【それ】とは?
「ウチの呼び方や。魔王様やない、マオー様や。ちゅーか【様】もいらん、マオーさんと呼べ」
「え、そんな気さくに?」
「気さくと言うか、そもそもウチは魔王やない。マオーやからな」
どんな違いがあるのだろうか。
「根本的なところからの説明になるけどな、ここ魔の国は共和制。民主主義国家やぞ。魔王ってつまり王様のことやろ? 君主制や無いんやからおるわけ無いやろ」
「? でも貴女は魔王……さん? なんですよね?」
「違う言うとるやろ。マオーさんや」
あ、なんだか理解できなくてムカつく。
「ウチの名前は【マオー・ルオツキン】。イントネーションがちゃうねん。フルネームじゃ無い時は最後を下げればええ」
「魔王じゃなくて……マオー?」
「称号としての魔王言うのは、3000年前くらいに廃止されとるからな。スズキのやつもなかなか分かってくれへんのやけど」
「あれ? でも今でも魔王軍四天王っていますよね?」
「ああ、そう言えば知り合いやったな。確かにメテオラとディーヴァはウチの部下や。四天王っていうのはウチがやってる会社の一部門においての役職名やな」
つまり、実際に魔王軍というものは存在せず、メテオラとディーヴァも軍人というわけではないらしい。
「メテオラ……さんは前に【我が軍】とか言ってたはずなんですが」
「うちの会社は傭兵業もやっとるからな。メテオラはそこの将軍も兼ねとるからそう言うたんやろ」
「なるほど……」
人類史上、この情報に行き着いた人間はどれだけ居るのだろうか。一地方のギルド支部長が知って良い情報ではないと思うのだが。
これ、国に帰って漏らしたりしたら、情報封鎖が云々と言って換金されるんじゃないだろうか。うん、これは墓場まで持っていくことにしよう。
「あ、そう言えば【一部門】とおっしゃってましたが、会社を経営されてるんですよね? スズキも言ってましたけど、結局なんの会社なんですか?」
「傭兵業の他に金貸しもやっとるで。他にも色々やっとるけど、スズキが言うたんは【ダンジョン経営】の部門のことやな」
「ダンジョン……経営?」
「サトーはギルドの事務職員なんやろ? ダンジョンアタックの時の手順は知っとるか?」
ダンジョンアタックというものは、実は結構厳格な体系を持っている。レベルに合わない冒険者を入れるのは自殺行為だし、きちんとした装備がなければ簡単に行方不明になってしまうからだ。
手順としては、まずはギルドでダンジョンアタックの申請をして受理を受ける。次に現地に赴いて、そのダンジョンを管理している民間団体に入場料を払い、中に入……る…………【入場料】?
「ウチの会社の主力部門であるダンジョン経営。またの名を────【接待ダンジョン】!!」
わけのわからないことを言い出した。
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