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第十章 まるで意図せぬ大冒険
CASE76 パプカ・マクダウェル その2
しおりを挟む階層を隔てる階段を守る門。略して階層門と言う広間は、その他の洞窟内部とは違って人工的な建築が施されている。
ジュリアスのロマンの無さな台詞を思い返せば、どうやってこういった資材を持ち込んだのかと思う場所なのだが、俺達はその場所へと向かっていた。
前回来たときよりもレベルが少し上がり、武器も整えた俺達だが、それでも全然実力が足りていない。
話を聞くと、ティスカのレベルは30に届かない程度。ゴールドランクの冒険者相当の実力を持つ、一流の忍者である。
パプカが復活し、多少ながら戦力の補完ができたものの、前衛であるサンとリリアンは未だ低レベル。忍者が搦手で襲いかかってきたならば、最大戦力のパプカはあっという間に陥落してしまうことだろう。その時は背負っている俺も道連れだ。
そんな俺達が再び階層門までやって来たのには理由がある。
言葉を話すことができるようになったパプカによる【秘策】。「楽しみはあとに取っておいたほうが楽しいでち」とのことで詳細はまだ伏せられているが、このままではジリ貧な俺達は、彼女の策をアテにしてこの場へとやって来たのである。
「おいパプカ、本当に大丈夫なんだろうな?」
「信じるでちサトー。赤子の手をひねるがごとく解決してみせるでちから」
この場合赤子が手をひねると言うべきか?意味が変わってる気もするが。
『いざとなったら拙者もいるでござる。姫とともに階層守護者など斬り伏せてみせるでござるよ』
「私が戦わないとだめか?」
「仕方がないだろ。現状ウザいのはともかく、エクスカリバーとパプカがこっちのまともな戦力なんだよ。その駄剣を使えるのはお前だけだし……ウザいけどな」
『今ウザいって2回言ったでござるなサン氏』
大変正直でよろしい。
「でも、その秘策というのは事前の打ち合わせをしなくて良いんですか? 連携が必要なら、少しでも作戦を教えてもらったほうが……」
「大丈夫でちリリアン。この作戦、わたち一人が居れば万事オーケーでちから。というか、他のみんなは足手まといだから後ろに下がっててほしいでち」
「くそう、事実だから否定できないのが悔しいぜ」
事実として、パプカのレベルは俺たちを大きく引き離している。体は赤ん坊になっているものの、その他の要素。レベルやスキル、魔法などは極端に下がっていないらしいのだ。
相性こそ悪いが、ティスカよりもパプカのレベルは高い。ならば彼女が俺たちを足手まといだと言っても間違いではないのである。口は悪いと思うが。
「あ、見えてきましたよ皆さん、階層門です」
ルーンが指差す先に、階層門の広間が見えてきた。
前回来たときよりも若干暗く思えるその場所は、大理石の床と柱に彩られた豪華絢爛な装飾の門。
そしてそんな広間の門の前で、ビーチチェアに座ったサングラス姿のティスカが酒を飲んでくつろいでいた。
「「「めっちゃくつろいでる……」」」
「おお、サン殿達ではござらんか。中々早いお戻りでござるが、戦力が整ったということで…………?」
サングラスを少し傾け、こちらを見るティスカの動きが止まった。
その視線は分かりやすくジュリアスの方を……と言うより、その手に持つエクスカリバーへと注がれているようだ。
「『ソウルフレンド!!』」
「…………はい?」
ティスカとエクスカリバーが同時に叫び、その内容の訳のわからなさに全員の時間が一時停止した。
俺はその一時停止を解除するべく、俺は勢いよく手を上げて発言する。
「ソウルフレンドって何?」
『ティスカ氏と聞いてはござったが、まさかソウルフレンドのこととは思わなかったでござる。お久しぶりでござるティスカ氏~』
「お久しぶりでござるカリバー氏。いやはや2年ぶりぐらいでござるか? その節はお世話になったでござるなぁ」
ござる言葉が二人でややこしい有様と化している。パプカを見習ってアレンジを加えるなりをしてほしいものだ。
「忍者というアイデンティティを的確に表す口調……まさかこれほど単純なござる言葉がしっくり来るとは盲点だったでござる」
『あの時のティスカ氏は深く考えすぎていたのでござるよ。拙者は少し背中を押しただけでござる』
「はぁっ!? ってことは、ティスカが急に口調を変えたのってこいつが原因だったってことか!?」
「アレは本当に急でしたからねぇ。パーティーメンバー全員何事かと思いましたよ」
こんなところにもエクスカリバーの影響が……というか、ヴォルフの街のルトンサブマスと言い、結構顔が広いよなぁこいつ。
「あの……ところでなんでそんなくつろいでいるんでしょうか? ティスカさん、お仕事中なのでは?」
ルーンが至極まっとうなツッコミを行った。そういえば、俺達は階層門を突破するためにここに来たんだった。
エクスカリバーの回想話に尺を割く余裕などないのである。
「なぜなら本日は休日をいただいているからでござる。前にも言ったとおり、このお仕事は週休3日でござるゆえ」
「相変わらず羨ましい…………じゃなくて、ってことは今この門を守ってるのは──」
「レベル70のエンシェントゲートキーパーゴーレムでござる。というか、さっきからみんなを見下ろしてるのがソレでござるよ」
『見下ろしている』と言う表現に、俺達は一律に天井を見上げた。
身の丈20メートル超。
先日見たドラゴンよりは小さいのだろうが、それでも人間と比べると巨大すぎて違いが分からない巨体が、まさしく俺たちを見下ろしていた。
銀色の装甲。2つの赤い瞳。でかく長い戦斧を杖に、手狭そうに俺たちを凝視するゴーレムがそこにいた。
「「「「────」」」」
言葉を失った我が仲間達。そりゃそうだろう。ドラゴンから逃げられたかと思えば次はこれだ。間違いなくドラゴンのほうが強いが、それでも俺たちを相手にすれば脅威レベルは大して変わらない。
白目をむいて気絶した俺以外の仲間は先程と同様直立不動で立ち尽くし、またもや問題を俺一人へと押し付けてくれやがった。
「俺、ここから生きて帰ったら結婚するんだ」
「なんのフラグでちか。それにサトーにそんな相手は居ないはずでち」
ほっとけよ。
それはともかく、パプカはゴーレムの迫力に圧倒されることなく、気絶もしていない様子だった。肝の座った幼女である。
「な、なあティスカ。このゴーレム、なんで俺たちに襲いかかってこないんだ? 階層守護者代理なんだろ?」
「門を突破する目的で近づけば起動するようでござる。あと一歩踏み込めばぺちゃんこになるので気をつけて」
「怖っ!?」
よろめいて一歩を踏み出さないように気をつけつつ、俺は泣きそうになりながらパプカへと訴えかけた。
「パプカ! もう帰ろう!! お前の秘策というのが何かは知らないが、相手がティスカじゃないんだから出直そう!! 俺はまだ死にたくないんだよ!!」
「大の大人がみっともないでち。まずは鼻をかんで涙を拭いたらどうでちか?」
「なんでそんな冷静なんだよ! 俺がぺちゃんこになるってことは、お前も道連れってことなんだぞ!?」
「まあまあ落ち着くでち。これもわたちの作戦のうちなので問題ないでちよ。とりあえず話が進まないので、もう一歩進み出てほしいでち」
「いや進み出るってそんなことしたら……痛たたたっ!? 耳引っ張るな────あ」
言葉を話せるのに相変わらずの肉体言語。
耳を思い切り引っ張った拍子に、俺の体は重心が崩れて前進。見事最期の一歩を踏み出してしまった。
キュピーンッ!!
なんて、おもしろSEが響き渡り、同時にゴーレムの両目がギラリと光り輝いた。
地響きとともに動き出したゴーレムの視線は明らかに俺とパプカへと照準を定めており、長柄の戦斧は使い勝手が悪いのか、武器は使わず腕を大きく振りかぶって殴るための準備を整えていた。
「あーっ! 死ぬ! 今度こそ死ぬっ!! ダメェ! せめて家のエロ本を処分してからにしてぇ!!」
「結構余裕あるでちねサトー。本の件は帰ってから詳しく聞かせてほしいでち」
そんなこと言ってる場合じゃねぇ!! 本気でだめだ! もう終わった! 人生の幕が閉じる!!
ゴーレムの腕が振り下ろされて、俺の目の前は真っ暗になった。
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