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第十章 まるで意図せぬ大冒険

CASE74 勇者パーティー(笑)② その1

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「ぜぇぜぇ……死ぬかと思った」

 ティスカからの攻撃を辛くも躱し、なんとか自分たちの拠点である地底湖へと避難した俺達は、全力疾走で干からびた身体を水をがぶ飲みして満たしていた。
 どうやら階層守護者というのは、門から一定以上の距離を離れることが出来ないらしく、後方を見ても追手はいないようだった。

「しかしあれでゴールドランクか。レベルとしては30を超えているのだったか? あれを倒さないといけないというのはその……大変だな」
「言うなジュリアス。現実を見ると気が遠くなって仕方がない……」

 俺を含めたルーン村の一行は、あくまでも脱出が目的。強敵と戦う必要は無く、出口を安全に探せばいいだけど。
 しかし一方のサンとリリアンは違う。彼らの目的は仲間の救出であり、そのためには階層をまたいで移動する必要がある。つまり、階層守護者であるティスカを必ず撃破する必要があるのだ。
 俺たちがこの階層でレベル上げに勤しんでいるのは、脱出口を探す見返りに戦闘に協力しているためだ。相互協力関係とでも言うべきか。

「実際、弱体化しているとは言えオリハルコン冒険者ですからねティスカさんは。あそこに追いつくのに後何年レベル上げしないといけないのか……」
「おいおい、流石に俺たちもそこまで付き合ってやるわけには行かないぞ!?」
「分かってるよサトー。そこまで世話になるつもりはねぇ。ただお前らは、ティスカを倒すことができるレベルになるまで出口を見つけないで居てくれるだけで良い」
「思いっきりお世話になる気じゃないですか!」

 ちなみに、レベルを5つ上げるのに必要な時間は約1年とされている。しかも、レベルが上がれば上がるほどその期間は長くなり、レベルが30に届くためには平均で10年かかるのが普通だ。
 流石にそんな長い期間拘束されているわけにも行かない。俺たちには俺たちの生活というものがあるのだ。

「もっと効率よくレベルを上げる方法とか無いのか? ふたりとも、長年冒険者をやっているんだろう?」
「正直、レベル上げなんてやったのは初めてなんだよなぁ。昔からオーガだろうがドラゴンだろうがワンパンだったし。気がつけばレベルなんてカンストだったよ」

 多分勇者としての特性のひとつなんだろう。レベルによらない強力なスキルを持ち、更に経験値効率も一般人に比べて遥かに良いらしい。

「才能マンですねぇサンは」
「そういうリリアンはどうなんだよ? 魔法の才能があるつっても、勉強はしなきゃなんないんだろ?」
「一読すれば大抵の魔法書グリモアは理解できましたからね。後は実地訓練でひたすらモンスター刈りでした」

 どっちも才能マンだよ畜生め。努力している一般の冒険者さんたちに謝れ。

「やはり地道にレベル上げをやるしか無いのか。しかしそれにしてもジリ貧……」
「あ、その前に少し良いですか?」

 リリアンが挙手して何かを言いたいようだ。

「先日レベルが上った私なんですが、そろそろこの棒きれでは支障をきたしそうなんです」
「ああ、確かにリリアンさんの攻撃力だと、力に耐えきれずに折れてしまうかもしれませんね」

 非戦闘員の俺は例外として、ジュリアスとルーンはきちんとした冒険者装備。しかし、サンとリリアンはレベルダウンと同時期に装備も紛失しているらしく、服装ですらボロ布を纏う始末。
 そのため、リリアンの装備品は現状そこらに落ちていた棒きれだ。サンに至ってはなぜか調理器具であるお玉を片手に戦っている。

「……今更だが、なんでお玉なんだ?」
「いや、とある部屋で見つけたんだが、他に武器になりそうなものがなかったんでな。しかもいざ使ってみると、スキルにプラス補正の効果が付いてるから、工作員サッパーの装備としては悪くないんだよ」

 ま、まあ工作員サッパーは直接戦うジョブじゃないしな。本人が良いというのなら良いのだろう。

「という訳で、ひとまず武器を確保したいわけです。まともな武器を持てばゴブリン程度ならまっぷたつにできると思いますよ?」
「ルーンは剣と魔法両方使えるからな。手近なところだとジュリアスの剣を貰うことだが……」
「嫌だ!! 絶対に嫌だ!! この剣は私のだぞ! 私が少ない報酬を貯めて買った上等品なんだ! 誰にも渡すものかぁ!!」
「「「超必死」」」

 ここまで必死に自分の剣を守ろうとするジュリアスから取り上げることは出来ない。流石に良心が咎めるからな。
 なので、俺達はレベル上げと同時に武器探しを行うことにした。それに辺り、サンからとある意見が出る。

「そういや俺、宝物庫の位置なら分かるぜ。剣なり槍なり、なんらかの武器はそこにあるだろう」
「え、なんでもっと早くに言わなかったんですか?」
「いやな。これには二つ問題点がある。どっちも俺とリリアンだけでは解決できない問題だ」

 珍しく真面目な表情でサンは話を続けた。

「一つはその場所が、この階層の最深部。つまり普通のダンジョンで言うところのゴール地点であるということだ」
「あー……つまりボスモンスターが居るということですね?」

 ダンジョンの最深部。つまり冒険者が目指すべきその場所には、基本的に金銀財宝と一緒に、そのダンジョンの最強のモンスターが出現する。
 階層守護者の取りまとめ役とも言われるそのモンスターは、ほぼ例外なく超強力なモンスターだ。今の俺達では自殺しに行くようなものだろう。

「まあ、正確に言うと一回は倒したんだけどな。その後開けた宝箱のトラップで一気にレベルが下がったから、同じやつを倒すのはリリアンと二人では厳しいところだ」
「あれ? でもその話だと、もうそのボスモンスターは居ないということなんじゃないんですか? サン君が倒したんでしょう?」
「ダンジョンのモンスターというのは、その場所にもよるが、自然ポップすることもあるんだよ。ルーン、ここ数日いっかくウサギを倒して経験値稼ぎと飯集めをしていたが、それで数が減ることはなかっただろう?」

 モンスターの生態というのは実はよく分かっていない。
 自然繁殖が目撃されていたこともあるので、普通の動物と同じ生態系に組み込まれている事は確かなのだが、こういったダンジョン内だと、どう考えても自然に湧いてでた……つまりポップしたとしか思えないような出現が確認されているのである。

「だからボス級のモンスターでも時間が経てば復活する。多分、そろそろ復活しててもおかしくない時間だろうな。この人数なら多少は戦えるだろ」
「で、2つ目はなんだ?」
「そりゃ単純にあれだ。ジュリアス、お前の存在だな」

 指をさされて名を呼ばれたジュリアスは、自分でも自身に指をさしてから言っている意味を理解できず、首を傾げた。

「私が?」
「単純に宝物庫の鍵が開けられないんだよ。あれはシーフのスキルが必須だからな。工作員サッパーは低レベルだと、仕掛けるのは簡単だが解くのも難しいし」
「なるほどなぁ。ジュリアスが鍵開けねぇ…………え、出来んの?」
「出来るわ!! これでも盗賊シーフの端くれだぞ!」

 その割にあまりシーフ技能を使いたがらないくせに。


「では、まずは最深部に行って武器の確保……ということでよろしいですか?」
「「「異議なし」」」


 次の目的地が決定したのであった。
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