上 下
134 / 230
第十章 まるで意図せぬ大冒険

CASE74 勇者パーティー(笑)② その1

しおりを挟む




「ぜぇぜぇ……死ぬかと思った」

 ティスカからの攻撃を辛くも躱し、なんとか自分たちの拠点である地底湖へと避難した俺達は、全力疾走で干からびた身体を水をがぶ飲みして満たしていた。
 どうやら階層守護者というのは、門から一定以上の距離を離れることが出来ないらしく、後方を見ても追手はいないようだった。

「しかしあれでゴールドランクか。レベルとしては30を超えているのだったか? あれを倒さないといけないというのはその……大変だな」
「言うなジュリアス。現実を見ると気が遠くなって仕方がない……」

 俺を含めたルーン村の一行は、あくまでも脱出が目的。強敵と戦う必要は無く、出口を安全に探せばいいだけど。
 しかし一方のサンとリリアンは違う。彼らの目的は仲間の救出であり、そのためには階層をまたいで移動する必要がある。つまり、階層守護者であるティスカを必ず撃破する必要があるのだ。
 俺たちがこの階層でレベル上げに勤しんでいるのは、脱出口を探す見返りに戦闘に協力しているためだ。相互協力関係とでも言うべきか。

「実際、弱体化しているとは言えオリハルコン冒険者ですからねティスカさんは。あそこに追いつくのに後何年レベル上げしないといけないのか……」
「おいおい、流石に俺たちもそこまで付き合ってやるわけには行かないぞ!?」
「分かってるよサトー。そこまで世話になるつもりはねぇ。ただお前らは、ティスカを倒すことができるレベルになるまで出口を見つけないで居てくれるだけで良い」
「思いっきりお世話になる気じゃないですか!」

 ちなみに、レベルを5つ上げるのに必要な時間は約1年とされている。しかも、レベルが上がれば上がるほどその期間は長くなり、レベルが30に届くためには平均で10年かかるのが普通だ。
 流石にそんな長い期間拘束されているわけにも行かない。俺たちには俺たちの生活というものがあるのだ。

「もっと効率よくレベルを上げる方法とか無いのか? ふたりとも、長年冒険者をやっているんだろう?」
「正直、レベル上げなんてやったのは初めてなんだよなぁ。昔からオーガだろうがドラゴンだろうがワンパンだったし。気がつけばレベルなんてカンストだったよ」

 多分勇者としての特性のひとつなんだろう。レベルによらない強力なスキルを持ち、更に経験値効率も一般人に比べて遥かに良いらしい。

「才能マンですねぇサンは」
「そういうリリアンはどうなんだよ? 魔法の才能があるつっても、勉強はしなきゃなんないんだろ?」
「一読すれば大抵の魔法書グリモアは理解できましたからね。後は実地訓練でひたすらモンスター刈りでした」

 どっちも才能マンだよ畜生め。努力している一般の冒険者さんたちに謝れ。

「やはり地道にレベル上げをやるしか無いのか。しかしそれにしてもジリ貧……」
「あ、その前に少し良いですか?」

 リリアンが挙手して何かを言いたいようだ。

「先日レベルが上った私なんですが、そろそろこの棒きれでは支障をきたしそうなんです」
「ああ、確かにリリアンさんの攻撃力だと、力に耐えきれずに折れてしまうかもしれませんね」

 非戦闘員の俺は例外として、ジュリアスとルーンはきちんとした冒険者装備。しかし、サンとリリアンはレベルダウンと同時期に装備も紛失しているらしく、服装ですらボロ布を纏う始末。
 そのため、リリアンの装備品は現状そこらに落ちていた棒きれだ。サンに至ってはなぜか調理器具であるお玉を片手に戦っている。

「……今更だが、なんでお玉なんだ?」
「いや、とある部屋で見つけたんだが、他に武器になりそうなものがなかったんでな。しかもいざ使ってみると、スキルにプラス補正の効果が付いてるから、工作員サッパーの装備としては悪くないんだよ」

 ま、まあ工作員サッパーは直接戦うジョブじゃないしな。本人が良いというのなら良いのだろう。

「という訳で、ひとまず武器を確保したいわけです。まともな武器を持てばゴブリン程度ならまっぷたつにできると思いますよ?」
「ルーンは剣と魔法両方使えるからな。手近なところだとジュリアスの剣を貰うことだが……」
「嫌だ!! 絶対に嫌だ!! この剣は私のだぞ! 私が少ない報酬を貯めて買った上等品なんだ! 誰にも渡すものかぁ!!」
「「「超必死」」」

 ここまで必死に自分の剣を守ろうとするジュリアスから取り上げることは出来ない。流石に良心が咎めるからな。
 なので、俺達はレベル上げと同時に武器探しを行うことにした。それに辺り、サンからとある意見が出る。

「そういや俺、宝物庫の位置なら分かるぜ。剣なり槍なり、なんらかの武器はそこにあるだろう」
「え、なんでもっと早くに言わなかったんですか?」
「いやな。これには二つ問題点がある。どっちも俺とリリアンだけでは解決できない問題だ」

 珍しく真面目な表情でサンは話を続けた。

「一つはその場所が、この階層の最深部。つまり普通のダンジョンで言うところのゴール地点であるということだ」
「あー……つまりボスモンスターが居るということですね?」

 ダンジョンの最深部。つまり冒険者が目指すべきその場所には、基本的に金銀財宝と一緒に、そのダンジョンの最強のモンスターが出現する。
 階層守護者の取りまとめ役とも言われるそのモンスターは、ほぼ例外なく超強力なモンスターだ。今の俺達では自殺しに行くようなものだろう。

「まあ、正確に言うと一回は倒したんだけどな。その後開けた宝箱のトラップで一気にレベルが下がったから、同じやつを倒すのはリリアンと二人では厳しいところだ」
「あれ? でもその話だと、もうそのボスモンスターは居ないということなんじゃないんですか? サン君が倒したんでしょう?」
「ダンジョンのモンスターというのは、その場所にもよるが、自然ポップすることもあるんだよ。ルーン、ここ数日いっかくウサギを倒して経験値稼ぎと飯集めをしていたが、それで数が減ることはなかっただろう?」

 モンスターの生態というのは実はよく分かっていない。
 自然繁殖が目撃されていたこともあるので、普通の動物と同じ生態系に組み込まれている事は確かなのだが、こういったダンジョン内だと、どう考えても自然に湧いてでた……つまりポップしたとしか思えないような出現が確認されているのである。

「だからボス級のモンスターでも時間が経てば復活する。多分、そろそろ復活しててもおかしくない時間だろうな。この人数なら多少は戦えるだろ」
「で、2つ目はなんだ?」
「そりゃ単純にあれだ。ジュリアス、お前の存在だな」

 指をさされて名を呼ばれたジュリアスは、自分でも自身に指をさしてから言っている意味を理解できず、首を傾げた。

「私が?」
「単純に宝物庫の鍵が開けられないんだよ。あれはシーフのスキルが必須だからな。工作員サッパーは低レベルだと、仕掛けるのは簡単だが解くのも難しいし」
「なるほどなぁ。ジュリアスが鍵開けねぇ…………え、出来んの?」
「出来るわ!! これでも盗賊シーフの端くれだぞ!」

 その割にあまりシーフ技能を使いたがらないくせに。


「では、まずは最深部に行って武器の確保……ということでよろしいですか?」
「「「異議なし」」」


 次の目的地が決定したのであった。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

死んだのに異世界に転生しました!

drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。 この物語は異世界テンプレ要素が多いです。 主人公最強&チートですね 主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください! 初めて書くので 読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。 それでもいいという方はどうぞ! (本編は完結しました)

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

幼馴染パーティーから追放された冒険者~所持していたユニークスキルは限界突破でした~レベル1から始まる成り上がりストーリー

すもも太郎
ファンタジー
 この世界は個人ごとにレベルの上限が決まっていて、それが本人の資質として死ぬまで変えられません。(伝説の勇者でレベル65)  主人公テイジンは能力を封印されて生まれた。それはレベルキャップ1という特大のハンデだったが、それ故に幼馴染パーティーとの冒険によって莫大な経験値を積み上げる事が出来ていた。(ギャップボーナス最大化状態)  しかし、レベルは1から一切上がらないまま、免許の更新期限が過ぎてギルドを首になり絶望する。  命を投げ出す決意で訪れた死と再生の洞窟でテイジンの封印が解け、ユニークスキル”限界突破”を手にする。その後、自分の力を知らず知らずに発揮していき、周囲を驚かせながらも一人旅をつづけようとするが‥‥ ※1話1500文字くらいで書いております

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

処理中です...