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第十章 まるで意図せぬ大冒険
CASE70 ダンジョン その4
しおりを挟む「だああああああああっ!?」
「わああああああああっ!?」
「きゃあああああああっ!?」
「きゃっきゃっきゃっ」
こんにちわサトーです。現在落下しています。
端折りすぎ? いやいや、実際そうとしか言えないのだから仕方がない。
眼の前の穴に気がつかず落下したジュリアスに駆け寄れば、足元が崩れて巻き添えを食らう。誰が悪いと言うつもりはないが、運が悪いとは言わせてほしい。
不幸中の幸いというのか、途中で壁が滑り台のようになだらかになり、いきなり地面に激突してペチャンコ。のような最悪の結果にはならない状況にあった。まあ滑った先が更に高さのある穴だったら結局ペチャンコなんだが。
「ケツ痛いケツ痛い!! 削れるぅ!!」
「大丈夫ですかサトーさん! ヒール! ヒール!」
すべり台のようなと形容したが、実際は岩がむき出しの無塗装地面。丈夫な冒険者装備のジュリアスやルーンと違い、防御力ゼロな事務職員の制服である俺のケツには、あまりに負担が大きすぎた。
必死にルーンが回復魔法を唱えてくれているものの、レベルダウンで初期魔法しか使えず。連続で唱えてようやく出血が抑えられるという程度であった。
「くそう! このままではサトーのおしりが持たない! サトー! ルーン! まずは私の手を掴んでくれ!」
状況打破の策を思いついたのか、ジュリアスが必死に俺たちへと腕を伸ばす。足でブレーキをかけつつ、距離を詰めてきた。
「分かった! ルーン! 俺と手を繋いでくれ! いやこれは上司によるセクハラとかパワハラとかそういうのではなくかと言って下心からくる物ではなくてジュリアスが言うから仕方なくと言うかなんと言うか」
「わ、分かりましたから! 気にしませんから早く手を!」
それはそれで男としてショックなんだが、それはひとまず置いておこう。
ルーンの手を握り、次いでジュリアスの手を取った。ふ、二人共すごく柔らかい手のひらだなぁ……なんかちょっとドキドキしてしまう。
離さないようにしっかりと手を握ったジュリアスは満足げな表情を浮かべ、
「よしっ!!」
と叫んだ。
……
…………
………………何が?
「おまっ、なにか考えがあるわけじゃないのかよ!!」
「考えならある! こうやって連結してれば、私が何かをやらかしても分散できるだろう!?」
「巻き添え前提の考えじゃないですか!」
こいつ、普段から自分が色々やらかしてることについての自覚があるじゃねぇか!
こんなポンコツの巻き添えを食ってたまるかと、必死に腕を振りほどこうとするも、そこはステータスの差によって全く振りほどけ無い。むしろ、指が俺の手に食い込むほど必死に食らいついてきやがる。
「はーなーせー! なにかやらかすならお前一人でやれ! いつもと違って今日は非番なんだよ! お前の面倒なんて見ていられるか!!」
「何を言うかサトー! だとすればなんで制服を着込んでいるんだ? 休日出勤のつもりだったんだろ? だったら私を助けてくれても良いはずだ!」
「どんな論理展開だよそれ!!」
滑り落ちながら醜い争いが勃発。人間とは窮地に陥った場合、その場の状況など顧みず争ってしまう生き物のようだ。
しかしやがて、そんな事をやっている場合じゃない状況がやってきた。
「! サトーさん、ジュリアスさん! 光が見えます!」
どうやら穴の終着点。すなわち落下地点が見えてきた。
滑り落ちた穴の中よりもやや明るいその場所は、同時に滑り台が終わる場所であり、場合によっては俺達の最期の空間となるだろう。
「「「あ」」」
俺達は広い空間へと投げ出された。
体の角度的に地面が見えない。俺の上には落下するジュリアスとルーン。そしてルーンが抱えるパプカの姿があった。
人が死ぬとき、時間がゆっくり流れると聞いたことがある。やけに冷静になり、これまでの人生を振り返るという、いわゆる走馬灯と言うやつだろう。
さて、そのような情報を思い返し、実際に時間がゆっくり流れているということは、俺はもしかしたらここで死ぬのかもしれない。
短い人生だったが、せめて最後に格好いい所を見せて終わりたいと思う。
ジュリアスたちをかばい、地面との間のクッションとなって彼女たちを助ける。なんともヒーローのような終わり方ではないか。
普通の召喚者達ならば、頭から血を流して「痛てぇ!」で済むのだろうが、残念俺は例外事項。間違いなく内臓破裂に脳挫傷を食らって死んでしまうことだろう。
運良く生き残ったとしても、今度は回復役が居ない。パプカは赤ん坊になってるし、ルーンも初期魔法しか使えなくなっているので、即死のほうがまだマシだ。
頑張れ俺。有終の美を飾り、なるべく苦しみの少ない最期を遂げるのだ。
迫るジュリアス。迫るルーンとパプカ。さあ俺の胸の中に飛び込んで…………ん?
胸の中に飛び込む……と言うか、ジュリアスの豊満な胸が俺の顔面へと接近中。
こ、これはまさか…………ラッキースケベと言うやつなのではないか!? 召喚者お約束のアレだ! まさか人生の最期にお目にかかろうとは思わなかったぜ!
思えば苦節十年近く。召喚者だと言うのにハーレム結成ならず。それどころかお約束のラッキースケベの一つも起こりはしない。胸を揉んだり尻に顔を突っ込んだり裸を見てしまったり。不可抗力で下着を見てしまうぐらいは普通の人生でも有り得る話なのに、それすら起きなかった我が人生。
それが最後の最後で挽回の時がやってきた。
さあこいジュリアス! お前の胸の中で俺は果ててみせる!!
────と、終わればよかったのだがそうも行かない。
「このままではサトーを下敷きにしてしまう! それだけは避けなくては! またポンコツと言われてしまうのは嫌だ!!」
みたいにジュリアスが考えたかは妄想のうち。しかし事実として、彼女は胸が俺の顔面へと接触する寸前、体を捻って避けようとした。
結果、肘鉄が俺の鼻先へとコンニチワ。空中で盛大な鼻血を撒き散らすこととなった。
「えっ、ちょっ……なにっ!?」
「うわわわわっ!?」
バッチャーーンッ!!
ほとばしる水しぶきと水の音。そしてそれに混ざる俺の鼻血。
どうやら落下先は水たまりのようだった。落下の衝撃は緩和され、背中がむち打ちのような状態になったものの命に別状は無いようだ。
鼻を押さえながら周囲を見渡すと、広い空間に広い水たまり。おそらく地底湖のようなものだろう。立ち上がれば足の膝上ぐらいに水が来る浅い場所であった。
「だ、大丈夫かルーン! パプカ!」
「な、なんとか……」
「へっぶし!」
少し寒そうだが、二人に怪我はなさそうだ。で、問題のもう一人だが……
「サトー、私には心配の声はかけてくれないのか?」
「むしろお前が俺の心配をしろ。鼻血が止まらん」
「…………ごめんなさい」
いや、これは下心を抱いた俺に対する天罰なんだろう。女神様よ、そんな些細な願いでさえ考えちゃいけないのかい?
「…………って、あれ? なんかさっき聞き覚えのない声がしなかったか?」
「そう言えば……なんか子供のような声がしましたよね」
「あー…………と言うか、アレじゃないか?」
ジュリアスが指さした先には、地底湖に浮かぶ二つの影。目を回しながら漂う、男の子と女の子の姿があった。
「「「…………誰?」」」
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