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第十章 まるで意図せぬ大冒険
CASE70 ダンジョン その1
しおりを挟むダンジョンと言う物がある。
ファンタジー世界にはつきもので、冒険者や探検家が歩みを進める一攫千金な夢の洞窟。
一般的な洞窟と何が異なるかと言うと、基本的には罠が仕掛けてあったり、通常よりもモンスターの生息数が多いことが挙げられる。更には【階層】というものがあり、門番と言う強力なモンスターが待ち構えていることが多い。
簡単にまとめると、侵入者を排除しようとする罠やモンスターが存在する洞窟のことを【ダンジョン】と呼ぶのである。
しかしもっと簡単に見分ける方法がある。ズバリ、洞窟内なのに明るいのだ。
普通の洞窟は奥に進むと外の光が入り込まず、暗闇が広がるだけであるが、ダンジョンの場合はほどほどに明るい。
特殊な光る苔があるとか、空気中に特殊な魔力が漂っているとか。いろいろな要素が重なって光源が確保されているという。
まあでも、こんな知識は俺自身がダンジョンアタックに出かけない限りは必要のない物だ。初心者冒険者に説明をするとき以外思い出すこともないだろう。
みたいに考えていたのは数分前。
今現在の俺は、意味不明な現状と過去に培ったダンジョンの知識を思い出すために、必死に脳みそを回転させている真っ最中だ。
「────なんでダンジョンに居るんだよ俺!!」
そんな俺の叫び声は、やたらと明るい洞窟内。つまりダンジョンの空間へと響いて消えた。
* *
「よし、ひとまず落ち着いて状況を整理しよう」
このまま混乱し続けるのも意味がないので、とりあえずは状況整理をしてみようと思う。
まず、俺は先程まで自宅に居たはずだ。懐中時計を見てみると、針は大して動いていない。つまり、誰かが俺を気絶させてここに連れてきたという可能性は無いだろう。少なくとも、村の近くに洞窟タイプのダンジョンは存在しない。
ではどうやってここに来たのだろう? テレポートと言う魔法は存在するが、ヒュリアンさん並の上級魔法使いか、高ランクの魔物でなければ使えない。どちらもリール村の中には居ない存在である。
「あ、と言うかあいつらどこ行った!?」
と思い出したのは、俺と一緒に自宅に居た三人の存在だ。
ルーンとジュリアス。そしてパプカは見た所周りには居ない。同じようにダンジョンに飛ばされたなら探さないといけないだろう。
「おーい! ルーン! その他!! 無事だったら返事しろー!!」
「【その他】ってなんだ! ちゃんと名前で呼べぇーーーー!!」
聞こえてきたのはジュリアスの声。どうやら俺と同じく、このダンジョンの中に飛ばされてきていたらしい。
声が下方向へ目を凝らしてみると、遠くの薄暗闇からジュリアスの走っている姿が見て取れた。
ドドドドドドドドドッ!!
ジュリアスの出現と同時に地鳴りの音がする。微かに地面が揺れるようなその音は、ジュリアスがこちらへ近づくにつれて大きくなり、やがてその正体が判明した。
「【その他】と言ったことは許す! だからサトー、助けて!!」
「あああああっ!? ゴブリン引き連れて来てんじゃねぇーーーー!!」
ピギャアアアアアァッ!!!
と言う人間では発声しない叫び声とともに駆けよるゴブリンの群れ。明らかにジュリアスを追いかけてきているそれは、俺を目視で確認するやいなや、ターゲットに俺を追加したように剣先を俺へと向けて突撃してきた。
初心者冒険者にはありがたい雑魚モンスター。一体だけならばブロンズランクの冒険者がソロで倒せるほどの弱さの象徴であるが、その数が十体以上になった場合は一気に驚異度が上がってしまう。
塵も積もれば山となる。雑魚モンスターでも、数が集まった場合はシルバーランクからゴールドランク下位でなければ倒せないほどの存在になるのだ。
そんなゴブリンが見えるだけで50体以上。シルバーランクの冒険者でも最底辺、ブロンズのクエストでさえ失敗するポンコツ冒険者ジュリアスと、そもそも冒険者ですら無い俺が束になった所でどうすることも出来ない状況であった。
と言うわけで俺は逃げます。
「なんでこの訳のわからない状況で悪要素を増やせるんだよ!!」
「しょ、しょうがないだろ! 気がついた時にはすでにゴブリンの巣の近くにいたんだ! ま、まあ寝てる彼らの傍で盛大なくしゃみをしたのは失態だったと思うが……」
「お前いつも思うけど本職の冒険者だよな?」
「そんな目で見るな! 本当に泣いてしまうぞ!」
「あ、と言うかもう体力の限界が……」
「早いな!? まだ走り始めて十秒も経ってないぞ!?」
俺の体力では十秒走れれば御の字レベルなのである。
「こ、こうなったら最後の手段だ! ジュリアス、体力の限界の俺を……」
「ば、馬鹿なことを言うな! こんな所で諦めるんじゃないサトー!」
「俺を助けるために囮になって果ててくれ。その隙きに俺は這って逃げる」
「おいさっきまでの私の感動を返せ」
そんな冗談を吐ききった所で限界が来た。
もはや小走りにも前に進めなくなった俺は、ジュリアスに引きずられながら、間もなくやってくるゴブリンと言う名の死を待っていた。
ああ、俺はこんな所で死ぬのか。心残りと言えば、寝室に隠してあるオッサンから借りたエロ本くらいのものか。死後リンシュに見つかったら鼻で笑われてしまうに違いない。
「もうちょっとマシな心残りはないのか!?」
もうジュリアスのツッコミに反論する体力もない。こうなってしまうと、せめて苦痛のない最期を遂げたいというのが望みである。
「────ん? あ! サトー、パプカが居たぞ! ルーンもだ! 後少しだぞ頑張れ!!」
「ああ、走馬灯か。最期にルーンの顔が見れるとは良い思いが出来た。パプカの顔で台無しだが」
「本当に失礼な人ですねサトーは! 爆裂魔法、連射!!」
複数の火線が洞窟内を駆け抜けて、俺とジュリアスの後方、すなわちゴブリンの群れへと到達。
目の眩むような強烈な光が広がった直後、複数の大爆発が起きた。
ドゴオオオォンッ!!
「ひゃあああっ!?」
「どわああっ!?」
その大爆発は強烈な爆風を巻き起こし、余波によって俺とジュリアスは空中へと吹き飛ばされた。
実は身体能力はかなりある冒険者ジュリアスの華麗なる着地。俺の頭部からの落下。
「ぐえっ!!」
ゴキリ! と言う鳴ってはいけない音が俺の首から鳴った。
「ふっ、またつまらぬモンスターを消し飛ばしてしまいました。無事ですかサトー?」
「いや、今ので死んだぞ」
「し、しっかりしてくださいサトーさーーん!
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