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第九章 まるで陽気な忘年会

CASE68 サトー その2

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「よーしお前ら覚悟は良いな? 今日は一日、と言うか暫くの間。きちんとタダ働きに勤しんでもらうからな」
「「「うぃーっす」」」

 忘年会延長線。
 混乱のポーションを飲み、その場では楽しい時間を過ごした俺達ギルド職員は、ギルド半壊という結果を生み出して今日に至る。
 しかしこのギルドはよく壊れる。俺の家と壊れる頻度はどっちが上だろうか? と、そんな悲しい比較をするのはやめておこう。
 ともかく、一夜明けて翌日。冬季に入り、ギルドとしての仕事も冒険者としての仕事もない時期に、暇人共が集まって何をしていたかと言うと、総出でギルドの改修工事を行うためである。
 恐らく過去最大規模でぶっ壊したギルド。改修のための費用は馬鹿にならず、もちろんギルドの金庫にそんな額があるはずもない。設計と総指揮をリュカンに任せ、その他の仕事は罰則という名目のもと忘年会の参加者たちを狩りだしたという次第だ。

「さあキリキリ働け野郎ども! ……とは言え、もとを正せば俺がポーションを酒だと勘違いしたのが発端だ。俺もきちんと責任は取る。一緒に汗を流して頑張ろう!」
「そう言うしおらしい台詞は地面に突っ伏さずに言うものだぞサトー。開始30分で体力尽きてどうする」

 そんなジュリアスのツッコミを地面とキスしながら聞く俺は、彼女の言うとおりに体力が尽き、心臓の鼓動で胸が張り裂けそうな有様だった。

「ふっふっふ、これだからデスクワークのもやし野郎は。たまにはわたし達と一緒に冒険にでも出かけた方が良いんじゃないですか?」
「そう言うドヤ顔は木材の下敷きになってない時にするものだぞパプカ。流石に力がなさ過ぎる」

 同じくジュリアスのツッコミを受けるパプカが、俺と同様に地面に突っ伏していた。背中には木材。背負ってるわけではなく、押し潰されているというのが正しい表現だろう。
 誰も助けないのは、その木材が片手で持てるほど軽いものだからだ。潰されるという表現を正しく履行するためには数十個単位で背中に乗せる必要がある。
 ちなみに、ギルド職員でも無いパプカがなぜ働いているのかと言うと、酒場の常連である彼女が途中で合流し、勝手に俺の酒(ポーションだが)を飲んだことが原因だ。
 ギルドの被害における割合のうち、7割がエクスカリバーとアヤセ、残る3割がパプカの仕業である。何やってんだよあいつ。

「そもそも力仕事はわたし向きじゃありません。いっそこういうのはどうです? 現場監督として皆さんに声援を送るんです。ええ、わたしの声援はバフ効果があるとお父さんがよく言ってますからね」
「それはお前の親父だけだ。と言うか監督と言うならせめて指示出しをしろよ。なんだ声援って」
「と言うかサトー、そのツッコミはせめて立ち上がってから言わないと説得力がないぞ」

 仕方がない。すでに虫の息だがもう少し頑張ることにしよう。
 まったく、楽しい忘年会のはずがなんで重労働になるんだ? 理由はわかる。今回に限っては俺が悪い。
 なのでもうちょっと真面目に仕事しよう。

「木材の運び込みは大体終わったけど、次は何をやればいいんだっけ?」
「とりあえず釘を打っていけば良いんじゃないか? 指示書通りにやれば細かいところはリュカンがやってくれるそうだ」
「なるほど! ではいよいよわたしの出番ですね!? 毎週日曜大工が趣味のお父さんの後ろ姿を眺めていたわたしの実力を見せてあげましょう!!」

 眺めてないで手伝ってやれよ。

「ふふん。力仕事は出来ませんが、手先は器用なんです。サトーとジュリアスは下がってわたしの勇姿を目に焼け付けてください」
「釘打ち一つにえらい自信だな。まあやりたいと言うならやって見せてもらおうか」

 パプカに釘とトンカチを手渡して、言われた通りに俺とジュリアスは下がった。距離にして百メートル。木の陰に隠れて準備を終えた。

「…………なんでそこまで下がるんです?」
「これアレだろ? トンカチがスっぽ抜けて俺の頭に直撃って流れだろ? その手は食わないからな! 俺をなめんじゃねぇぞ!!」
「失礼すぎるでしょ! どんだけわたしを不器用だと思ってるんですか! ジュリアスじゃあるまいし!!」
「どういう意味だ!!」

 気を取り直して釘打ち作業。確かに杞憂だったかもな。ポーションづくりで手先が器用なパプカのことだ。ジュリアスじゃあるまいし失敗はしないだろう。

「お前たちあとで覚えてろよ」
「まあまあ。ほらサトー、ジュリアス。下がってとは言いましたが、別の場所の釘打ちをお願いします。さっさと終わらせて帰りましょうよ」
「それもそうだな。ほれ、ジュリアスも顔を真っ赤にしてないで働け」
「私が悪いのか……?」

 いつまでもボケとツッコミを繰り返していては終わるものも終わらない。
 パプカの言う通り、早く今日の作業分を終わらせて帰ることにしよう。
 
「そう言えばサトー、昨晩の話なんだが」
「昨晩の黒歴史がどうした?」
「いや、正直記憶が曖昧なんだが、サトーの昔話をしていた……で間違いないのか?」
「ああ、確かそんな話をしてたはずだ。殆ど思い出せねぇけど、なんか内容がごちゃごちゃになってた気がするよ。ジュリアスとパプカっぽい奴らが出てきてたしな。お前らと会ったのは前の街で王都じゃないのに、おかしな話だ」
「そ、そうか。覚えてないなら良いんだ。気にしないでくれ」

 そう言うジュリアスは、なぜか照れながら髪飾りをいじっていた。

「はぁん!? 今ラブコメ的な雰囲気を感知しました!! 許しませんよサトー、ジュリアス! わたしを差し置いて良い雰囲気になってんじゃないですよ!!」
「お前が何言ってるのかさっぱりわからん」

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