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第九章 まるで陽気な忘年会

番外編 サトー その4

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「「「「「カップル死すべし慈悲はない!!」」」」」

 などと、個人的には同意せざるを得ない文句を叫んでいる集団が広場の真ん中に居た。
 とんがり覆面のに目元に穴を開け、地面すれすれの白マントとローブに身を包んだその姿は、なんとも見覚えのあるパクリ感満載の見た目であった。
 一体どんな活動をしているのだろうと遠目で見ていると、ひとしきり叫んだ後一人の白服がとある方向へと指を指した。

「隊長! あっちにアイスを食べさせ合いっこしながら歩いてくるカップルを発見!」
「よし、突貫!」

 彼らはターゲットに指定したカップルへと駆け寄った。暴力沙汰になりそうなら衛兵さんを呼びに行かなければならないが、広場を歩く人々もこの団体の状況を見守っている様子だ。心配しなくても誰かが通報してくれることだろう。
 それはそれとして、バカップルがムカつくことは事実。動向を観察し、心の中で「ざまあみろ!!」と叫ぶくらいならバチは当たらないと思いたい。
 そうこうしているうちに集団とバカップルの距離が縮まった。もう少しで接触する距離。そして彼らはすれ違った。

「ちっ!」
「ちっ!!」
「チッ!」
「チッ!」
「ちっ!」

 ────すれ違いざまに舌打ちをしただけだった。

「うわぁ、陰湿ぅ」

 直接的に危害を加えるのは流石にまずいのだと理解しているのか、手を出すことはせずに舌打ちだけ。あまりに陰湿で地味な攻撃である。
 しかし効果はあったようで、バカップルは少し申し訳無さそうな表情を浮かべてお互いの距離をとった。

「変な人達ね。サトーくん、あまり近寄らないようにしましょう」
「そうですね。じゃあとりあえず端の方のベンチにでも……」

「隊長! 休日の昼下がりに公園デートに勤しむカップルを発見! ベンチに座ろうとしています!」
「よし、特攻!」

 早速だが見つかってしまった。
 遠目に見えていた白服集団は、駆け足でこちらへと向かってくる。その速度は極めて遅く、到達までに3分ほどを要する程だった。
 そして到着した彼らは肩で息をして死にそうな様子であった。

「ぜぇぜぇ……げぇっほ! げほっ!」
「体力なさすぎだろ、なんなんだあんたら」
「わ、我々は全世界の罪あるカップルに天誅を下すべく活動する……はぁはぁ……【異性交友撲滅会】…………だ!」
「とりあえずもう少し休んでから叫んだらどうかしら」

 息も絶え絶えな状態で叫んだものだから、彼らの隊長だと思しき人物は「だ」と言い切った直後に地面に突っ伏し動かなくなった。

「おのれよくも隊長を!!」
「いやなんもしてねぇよ」
「これだからカップルは! カップル死すべし慈悲はない!」
「ねぇそれって貴方達の標語なの?」

 大声で同じ標語を叫ぶ白服集団。客観的に見ると十人以上いる過激団体から恫喝を受けている様子だろうが、中身が馬鹿馬鹿し過ぎてちょっと笑ってしまう。
 言いたいことは分かる。俺だって幸せそうなカップルを見れば爆発してほしいと思う健全な男の一人だ。
 しかし【異性交友撲滅会】だと? その名称を名乗るということは、彼らは一生独身で居るつもりなのだろうか。それとも同性とならオッケー的な話なのか?
 いやいや、じゃあ根本的にカップルを蔑む理由は何処だ? 羨ましいからバッシングしているんだろう、違うのか?
 あれ? と言うかこの状況だと俺とリアさんはカップルだと認識されているのか? 他方からはそう見えるのだろうか。何という人生の絶頂期。カップル万歳!

「あ、ちなみにサトーくんとはカップルでは無いからね。予め」

 バッサリであった。

「そういう事を言う奴らがいつの間にかくっついたりするんだよ!! 「えー、私彼氏なんて居ませんよー」なんて言う女の言葉には騙されないからな!」
「あ、まずい! チャールズの発作が出たぞ! 抑えろ!!」
「ば、馬鹿! 本名を言うんじゃない! なんのための覆面だ!!」

 ぐだぐだである。
 内ゲバを始めた撲滅会の連中は、ひとしきり取っ組み合いの喧嘩をしたあとで冷静になり、息を整えてから再度俺達へと向かってきた。

「カップル死すべし慈悲はない!!」
「わかった。そっからやり直すんだな?」
「とは言え我々は暴力的な野蛮人ではない! と言うか隊長が倒れた今、正直これ以降何をやって良いのかがさっぱりわからない!」

 ぶっちゃけるなぁ。と言うかただの泣き言じゃねぇか。

「だがカップルを目の前にして何もしないわけにはいかない! よって天誅はこの方にお願いすることにした! 先生! お願いします!!」

 ──
 ────
 ──────ん?

 撲滅会の一人が中央広場に向かって【先生】とやらを呼んだ。が、誰からの返事も来なかった。
 この状況は撲滅会の奴らにも予想外だったらしく、オロオロとうろたえる様子が伺える。

「先生! 先生!? あれ!? あの人何処に行った!?」
「い、いや。さっきまであそこのベンチで昼寝をしてたはずなんだが……」
「そう言えばトイレに行くとか言って席を外してたような……」
「ええい! お前たちはこのカップルを見張っていろ! 俺が呼びに行ってくる!」

 業を煮やした男が「先生はいずこ!」とか言いながら探しに行った。
 なんなんだこの状況。もう帰ってもいいかな? 一応リアさんを案内しないという役目を担っているので、あまりここで時間を費やすのは良くないだろう。
 とは言え撲滅会のメンバーは十人を超える人数。そこらの召喚者なら鼻で笑いながら過剰すぎる正当防衛でぶっ飛ばしているところだが、俺の場合ぶっ飛ばされるのは自分なので大人しくしていよう。
 
 妙な間が空いた後、先程先生とやらを探しに行った男が戻ってきた。
 どうやら誰かを引っ張ってきた様だが、肝心の人影が全然見えない。どうやら男の背に完全に隠れてしまっているらしく、随分と小柄な先生であることが伺えた。

「これでお前らもお仕舞いだカップルめ! せいぜい先生にしごかれるが良い!」
「清々しいほど他人任せねこの人達」

 ようやく姿を表した先生。とは言っても他の連中と同じく白服姿。子供並みに小さな背丈が特徴的なので見分けがつくが、その姿から威圧感は一切感じ取れず。むしろ子供のコスプレみたいで微笑ましい光景であった。
 しかも覆面の鼻から下を露出させており、大きなホットドッグを口いっぱいに頬張っている様子は…………やっぱり子供じゃないか。

「もぐもぐ、ふみまへん。ひはふにおいひいみへがへきはと……」
「ちゃんと飲み込んでから話してください」
「ごっくん。いやしかし、王都の食事は年々レベルが上っていきますね。けどこの白服は駄目ですね。ケチャップがシミになっちゃいました。脱いで良いですか?」
「駄目ですよ!」

 ホットドッグを飲み込んで覆面をおろすと、口元にベッタリとケチャップがへばりついてしまっていた。

「さてと……休日の昼下がりに中央広場でイチャイチャするなんて不届きな!! わたしが裁きをくれてやります! さあ首を出してください!!」
「それはおかしい! 休日の昼下がりの広場でイチャつかないで、いつイチャつけと言うんだ!!」
「でも私とサトーくんはイチャついて無いからね? そもそもカップルじゃないし」 

 真顔で突っ込まれるのは傷つくからやめてほしい。

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