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第九章 まるで陽気な忘年会

CASE66 エクスカリバー

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『おや同僚の方々。お先にやっていたでござるか。では拙者も合流させていただこうかな……あ、これお土産でござる』

 聖剣(自称)エクスカリバー。
 この世界の女神様によって無機物である派手な剣へと転生、召喚された元日本人。
 オタクであり、人をからかうのが生きがいなのではと思うほどのウザい性格を持ち、召喚者の特典としてなんでもアリのスキル創造能力を持つ俺の部下である。
 夏の終わりからしばらく、ヴォルフの街というオタクたちのメッカへと出張しており、終わった後は有給を消化して遊び呆けていたのだが、この度ようやく自らの仕事場へと帰還したようだ。
 手渡されたのは一升瓶。おそらく中身は酒であろう。

「予定よりもずいぶんと遅かったな? メテオラに乗って帰れば一瞬のはずだろ?」
『いやぁ、実は【魔女っ子リン☆リンの馬車ツアー】に乗って来たので時間がかかったのでござる。メテオラ氏がどうしてもと』
「うむ。あれは良かった……」
「幅広く展開してるなぁ、魔女っ子リンリン」
『違うでござるサトー氏。魔女っ子リン☆リンでござる』
「…………リンリン」
「「『リン☆リン!!』」」

 オタクトリオのちば知った形相での訴えであった。一体どうやって発音しているのだろう。

「そう言えばサトーよ。ここに来るまでにそなたの根城を軽く見てきたのだが、破損箇所が増えていなかったか?」
「ああ……ちょっと前にコースケが来襲してな」

 ことのあらましを軽く説明した。

『あぁ~…………なるほど! コースケ氏のあのテンションはそれが原因でござったか』
「ん? お前らコースケと会った事ってあったっけ?」

 コースケがこの村を出るまでは、村のオタクたちは帰還していない。そもそもさっき帰ってきたのだから、出会えるはずはないだろう。

『馬車ツアーで帰っても本来なら昨日のうちに到着予定だったのでござるが、とある事情で遅れてしまったのでござる。その事情が…………コースケ氏でござる』
「…………聞きたくないが、なんでそうなった?」
『途中の村でコースケ氏のパーティーとすれ違ったのでござるが、コースケ氏がこう叫んでいたのでござる。「今こそサトーの教えを実践に移す時! ハーレム王に俺はなる!!」と』
「そんな教えはしていない!!」

 俺の言ったことを全然理解してないじゃねぇかあの野郎!

「その結果発生した余波はすごかった。天は裂け、大地が割れ、数多の稲妻が降り注いだのだ。メテオラ氏が居なければ今頃どうなっていたことか……」
「…………そ、それはリュカンの比喩表現だよな? 中二的なアレだよな?」
「残念ながら一言一句現実だ。さすがの俺様も、あれには少しばかり冷や汗をかいてしまった」

 魔王軍四天王の一角に冷や汗をかかせたなんて、人類史上初ではなかろうか。

「…………俺は何も聞いていない。どこかしらでコースケによる被害があったところで、俺の知るところではない。俺は悪くない」
『誰も何も言ってないでござる』

 この話は忘れることにしよう。


「あ、ところでリュカンとメテオラ。悪いけど、今日はギルド職員の忘年会なんだ。飲み会についてはその……」
「心配するなサトー。先も言ったが、俺様とリュカンはこれから戦利品の鑑賞会だ。すぐに出ていく」
「ヴォルフの街では買い物優先であったからな。これより我は禁断の快楽へと身を委ねることとなる」

 そういう二人をまたいでギルドの外を見てみると、彼らが言うところの【戦利品】が見て取れた。
 書籍やらフィギュアやらがギッチギチに詰め込まれた馬車が、扉の前で待機していたのである。どうやら随分と散財してきたらしい。

「…………お前ら、冬の貯金については大丈夫なのか?」
「さーて! メテオラ氏! 早速お楽しみといこうではないか!」
「ああ! 冬の間の食費については後で話し合おう!」

 さてはこいつら計画性がないな? 俺の言葉は聞こえないと言わんばかりの不自然なテンションで、彼らはこの場を後にした。

「よし! アイツラのことは放っておこう! 飲み直しだぁ!!」
「「「「おー!」」」」
「あー…………ところでエクスカリバー? お前なんかさっきから浮いてね?」

 彼が場違い的な意味で浮いているのはいつものことだが、今はその話ではない。
 詳しく言うと、物理的に宙に浮いているのである。

『ふっふっふ! 気がついたでござるかサトー氏! これぞ我が無限大の中二設定インフィニティストーミングによる新たなスキル! その名も……』
「あ、酒が切れた。 店員さーん! ビール追加でお願いしまーす!」
『聞いたなら最後まで興味を持ってほしいでござるサトー氏!!』

 とりあえずエクスカリバーが自由な移動手段を手に入れたらしい。今までは人の手に取ってもらわなければ移動できなかったので、流石に不便だと感じたのだろう。
 それはそれとして、少し脇道にそれた忘年会が再開された。各々隣り合う同僚と楽しげな会話をしながら酒を呷る姿は、普段の苦労など吹っ飛ぶ様相だ。この雰囲気を楽しまなければ損というものだろう。

「あ、その前に聖剣さん。自己紹介をしたいんスけど、良いッスか?」
『おお? 幽霊とはまた個性的でござるが、もしかして拙者の後輩でござるか?』

 人外のエクスカリバーが、かろうじて人形を保っているアヤセに対して【個性的】と表現するのはいかがなものだろうか。
 アヤセは社交的な笑顔を浮かべる。…………なんだろう? 少し頬が引きつっているのは気の所為だろうか?

「自分、リール村冒険者ギルドの新人事務職、ハンドルネーム【ななみん】と申します」
『これはご丁寧に。拙者、ハンドルネーム【エクスカリバー】と…………ん?』

 ハンドルネーム? 確か、ネット上で活動するときの名前の事だよな? と言うかななみんって、アヤセの事か?

 
 バチッ!!


 火花が散った。
 ライバル同士の視線が交わったときに放たれる漫画的表現…………ではなく、エクスカリバーとアヤセの間で放たれた物理的な火花。
 そして次の瞬間、ギルドの中央において小規模な爆発が発生した。


 ドーーン!!


「な、なななっ……なんだぁ!?」
「い、今のアヤセさんのポルターガイストですか!?」
「どういう事だサトー!? 説明しろ!!」
「俺が知るか! 一体何が起きた!?」

 爆発は軽い爆風を巻き起こし、俺達は床へと転がった。
 とっさにルーンが防風の魔法を発動させたため料理類は無事だが、守られなかった椅子やテーブルがひっくり返っている。
 そして目にしたエクスカリバーとアヤセ。互いに距離をとって向かい合うその姿は、敵対的と言っても差し支えなかった。

「『ここで逢ったが百年目ぇ!! いつぞやの恨みを晴らさせてもらうッス(でござる)!!』」

 何やらわからないが、忘年会が開催されて間もなく。決闘が始まったようである。

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