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第八章 まるで暴挙なラブコメディ
CASE63 コースケハーレム
しおりを挟む女の子に囲まれるという経験をしたことがない。
召喚者としてここに居るにもかかわらず、浮ついた話の一つも出やしない俺にとって、美少女たちに囲まれるという状況は嬉しいものなのかもしれない。
もちろん、俺を囲む美少女たちが敵意を剥き出しにして、個性的な武器の切っ先を俺に向けていなければの話であるが。
「み、見ての通り私は丸腰です! 敵対の意思はありません!」
そう言って両手を上げて降参のポーズ。
今にも扉をぶち破らんとする騒ぎが収まっただけで、彼女たちの敵意は全く衰えていなかったらしい。
色とりどりで個性豊かな派手派手な衣装に身を包んだコースケハーレム。見ているだけで目がチカチカしてくるような数十人単位の集団。これでもハーレムのほんの一部であるというのだから驚きである。
「まず初めに言いたいことがあります! 私が危害を加えられた場合、ギルド内に控える冒険者たちによる反撃が行われる手はずとなっています! 中にはオリハルコン冒険者も含まれているので、変な気は起こさないように願いたい!」
と言っても、そんな作戦を指示した事実はない。口から出まかせというやつだ。
しかしオリハルコン冒険者が味方にいるというのは、同じ冒険者たちならば抑止力となり得る。出まかせでも言っておいて損は無いだろう。
俺の言葉は実際に多少の効果を生んでいた。オリハルコン冒険者の名が出たことにより、美少女たちは少しばかり尻込みをし始める。
ガチャン!!
ドヤ顔でおっさんたちの存在をひけらかしている最中、俺の後方から扉が閉まるような音がした。
──と言うかギルドの扉が閉まっていた。
「今です! お父さん、急いで扉を封鎖してください!!」
「任せろ! 俺の密かな趣味は日曜大工だ!!」
ガンガンガンガンッ!!
扉を叩く音が、なぜかギルドの内側から聞こえてきた。明らかに板と釘とトンカチで扉を封鎖している音である。
「ちょっ──!? もしもーし!! まだ一人外に居ますよー!? と言うかお前ら! 堂々と俺のこと見捨ててんじゃねぇ!!」
「サトーですか? ええ、良い人でしたよ。あの人のことを忘れることはないでしょう」
「すでに故人扱い!?」
頼みの綱としていた奴らに見捨てられてしまった。抑止力としての後ろ盾が失われてしまったことにより、俺の背筋には寒気と共に大量の冷や汗が流れ出る。
「────オーケー。話せば分かる」
「捕縛!!」
哀れ俺は美少女たちに押さえつけられたのであった。
* *
「そもそも皆さんの要求は何なんですか? こちらに譲歩できることであれば言ってください。私の身の安全以外なら何でも差し出します」
美少女たちに囲まれつつ、がんじがらめに体を拘束されている俺は、交渉という名の命乞いをしていた。
まずは彼女たちの要求を聞こう。そのうえで、俺以外を差し出して事が収まるなら何を犠牲にしたっていい。
「コースケ様を妾のものとへ返してくださるかしら?」
「ああ、確か貴女はこの国の王女様でしたね。こんな所に居ては王族の皆さまが大変心配なさるでしょうに。ああ、それはともかく。コースケさんならすぐにでもお返ししますとも。煮るなり焼くなり好きにしてください」
「そんなアッサリと引き渡すとは怪しいやつ! 拙者は騙されんぞ! なにか裏があるに違いない!」
「事態をややこしくするような考えはありません。貴女は東部の自治都市のご令嬢ですよね? 侍姿で冒険者をするのはお転婆が過ぎますよ? 貴族なんですから、冒険者なんてしなくても良いでしょうに」
「とは言えコースケを連れ去った張本人デース。貴方を信用するのはちょっと難儀デースネ」
「カタコト言葉はキャラ付けですか? ハイエルフとは言え、言葉は我々と一緒でしょう────と言うか濃い面子だなオイ! 各方面の王族貴族何でもありか!? コースケの野郎節操がなさすぎる!!」
ツッコミを我慢していたが流石に限界が来た。いくらなんでも見渡す限り各方面の重要人物の関係者となれば、嫉妬とか関係なしに違和感を覚えるのは当然だろう。
実はこれもコースケが特別視される原因の一つである。美少女を何百人と侍らすだけでもインパクト抜群だが、その内容にも問題があるのだ。
何度も言っている気がするが、とにかく各方面の重要人物の関係者を引き抜きまくっている。大手商社の重役とか、貴族の一人娘とか、ハイエルフの族長の娘とか、果ては国の王族の娘とか。
コースケがこの世界に召喚されてからと言うものの、数々の重要イベントを引き起こしては凄まじい権力ハーレムを作り上げているのである。
彼が一言物申すだけで、少なくとも王国内で実現不可能な事は無いだろう。ハーレムの誰かが解決してくれることは間違いない。
「あんたらもうちょっと自分の立場を考えろ! どんだけの数の人達に迷惑をかけてるのか分かってんのか!?」
「うるさいですわ! 人の恋愛に口を挟まないでくださる!?」
「自由恋愛についてはどうでもいい! でもこの国は一夫一婦制だ! アンタ王族だろ! 法制度を守らないでハーレムに参加してどーするんだよ!」
「ええい、四の五の言わず早くコースケを出せ! 拙者自ら突入しても良いのだぞ!?」
「だから好きに連行しろつってんだろうが!! 別にこの村じゃなんのイベントも起きてないんだよ! 陰謀も何もないんだから、話をややこしくするな!」
「そんな事を言って、コースケを独占するつもりデショウ? はっ!? さてはギルド内で男同士の秘密の密会を…………それはそれでアリデスネ!!」
「変な妄想はやめろ! 俺に男色の気はねぇ!」
息継ぎをする間もなくツッコミを繰り返し、流石にそろそろ体力の限界が来た。数十人の怒れる美少女たちを相手に、ここまで精神が削られるのは不本意である。
という訳で、一度大きく深呼吸をして冷静になることにした。思えば、ずいぶんと話が脇に逸れている気がする。
ことの問題点はどこだと考えて、やはりコースケが中心にいることを思い出す。
「ふー…………皆さん。話はわかりました。抽象的に言ってもややこしくなるだけでしょうから、具体的な交渉をしましょう」
「「「と言うと?」」」
「コースケさんを引き渡す事に合わせ、一人に付き一つ。コースケさんへの望みを私が叶えて差し上げます。とは言っても、コースケさんに貴女がたの望みを伝えることぐらいしか出来ませんが……」
「「「乗った!!」」」
わーい。欲望に忠実な奴らで良かったー。
そんなわけで、我先にと望みを俺にぶちまける美少女達。流石に収集がつかないので、一列に並ばせて意見を聞くことにした。
ポーチからメモ帳とペンを取り出して、彼女たちへ聞き取り調査を開始する。
「クエストに一緒に出る頻度を週一回以上にして欲しいですぅ!」
「ふむふむ」
「一日に一回は同じ食事を取りたいな! できれば「あーん」とかやってやりたいぞ!」
「なるほどなるほど」
「毎日いっしょのお風呂に入りたいッス! 前にやった洗いっこが楽しかったッスから!」
「前にやっ──!? ま、まあ了解しました」
「両親に挨拶をしてほしいであります! 今後の二人の関係を考えれば、やっておいて損はないと思うのでありまして!」
「婚約報告……っと」
「コースケとの子供が欲しい!!」
「…………」
ベキッ!!
しまった。思わずペンをへし折ってしまった。
だがしかし、一応全員分ののろけ話────もとい、聞き取り調査は終了したので問題ない。後はこれを元にコースケに言うことを聞かせるように交渉すればいい。
これで万事解決。みんな無傷でハッピーエンドを迎えられるに違いない。
メモ帳をパタンと仕舞い、ギルドの扉をノックする。
パプカに扉を開けるように指示を出し、数分後にようやく扉は開かれた。
「お、おう? サトー、大丈夫なんですか? め、目が血走ってますよ?」
「と言うか血涙が出てるぞ。どんな辛い出来事が外で起きたんだ」
俺はパプカとオッサンの言葉を無視して歩みを進める。
「支部長さん、すごく悲しそうッス。どんな業を背負ってきたんスか」
「悲しみというか怒り……? よくわからないが、感情が複雑過ぎて読み取れないぞ。なんか表情が劇画チックになってる」
適当なことを言うアヤセとジュリアスをスルーした。
「さ、サトー? 外はどうなってた? みんな、やっぱり怒ってたか? ──と言うか、なんで俺を睨みつけているんだ?」
コースケの前にたどり着くと、俺は思い切り息を吸い込んで、大声大会の決勝戦と言わんばかりの声量を吐き出した。
「お前の血は何色だぁあああああああっ!!」
自分の中の嫉妬心を言葉と拳に乗せてコースケに叩きつけた。
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