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第八章 まるで暴挙なラブコメディ

CASE55 キサラギ・コースケ

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 冒険者ギルドは、その他の大規模ギルドと比べても、国から非常に強い権力が渡されている。
 そのうちの一つが【簡易裁判権】だ。もちろん、通常の裁判ほどの厳格なものではない。現地の責任者の裁量による罰則を降すという、非常に簡単のものである。
 冒険者ギルドに所属する人間にのみ適用されるこの裁判。罰則も非常に軽く、最大でも数日の謹慎処分。大抵はボランティア活動や罰金で済まされることが多い。
 とはいえ、当然ながら被害が冒険者ギルドの外まで及んだ場合は、国に属する警察組織に連行されて正規の裁判を受けることになる。
 少しばかりややこしい制度であるが、これは冒険者ギルドという、一種の武力集団を管轄するためには必要な措置であると、俺は考えている。
 なぜならば、そもそも冒険者というのは半分チンピラだからである。特に低ランク冒険者は素行が悪くて当たり前。喧嘩上等のヤンキー集団なのだ。
 冒険者同士の喧嘩に関して、いちいち国が出張ってくるのは効率が悪いと言えるだろう。
 
「まあそう言った事情はともかく、この村のいざこざの発生率は異常。しかもほぼ特定の人たちがその大半を占めているのが更に異常」
「おっと、サトーがこちらを凝視している気がするのですが、きっと気の所為でしょうね。わたしには思い当たる節が一つもありません」
「私はちょっとあるから…………居心地が悪い」

 簡易裁判所と化したギルド内。その傍聴席にて、俺の視線などどこ吹く風かと余裕な幼女と、多少の良心の呵責を持っている赤毛美女が並んでいた。
 言うまでもないが、二人共この簡易裁判の常連さんである。

「嬢ちゃんは肝っ玉が小せえな! こんなもん気にする必要はねぇよ! 男なら堂々と胸を張れ!!」
「いや、私は女なのだが」
「胸を張れって言うのはセクハラですよお父さん」
「と言うか、リール村で一番ここを利用している人が言えるセリフではないでしょう」
「しまった味方が居ねぇ」

 ゴルフリートのおっさんは頭をガシガシ掻きむしって顔を背けた。彼こそがこの村のいざこざワーストワンな人物である。

「話は逸れましたが、キサラギ・コースケさん。並びにミヤザキ・ハルカさん。そしてティアル・ヴォルフ・ルートヴィッヒ……ではなく、ゴトーさん。それと……あれ? 貴女がこの村に来るのは初めてでしたね? 確か……」
「ネロリアス……ネロって呼んで」

 ネロリアス・マクナン。少しこもったような喋り方をして、魔法使いで幼女。いくらかの設定がパプカと被っている少女である。
 前の街では何度か見たことのある彼女は、ハルカやティアルと同じくコースケハーレムの一員。なんちゃって幼女なパプカと違い、年齢はリアル幼女な12歳。
 もうこの時点で案件だと思うのだがそこは召喚者。警察組織も裁判所も関わり合いになりたくないのか、関係は黙認されている状態であった。

 と、そんなコースケに加えて美少女軍団計4名。彼らが今回の裁判の対象である。
 罪状は俺の家でラブコメ展開を繰り広げたこと…………と言う物ではない。流石にね。個人的にはこれだけで極刑にしてもいいと思うが、そこは常識的に考えよう。
 簡単にまとめると、俺の家を壊したことによる器物損壊と不法侵入である。相変わらず半壊状態が続く我が自宅。いつになったら玄関が直ってくれるのだろうか。
 
「ではコースケさん。反論をどうぞ」
「家を壊したのは悪かったけど、アレは不可抗力だって。いやそもそも! なんでサトーの家にあんな化け物がいるんだよ! 俺一応ミスリルランク並みの実力はあるはずなんだぞ!?」

 俺は叫び声を上げて反論するコースケから視線を移す。
 裁判の形式などお構いなしに、ギルド内に設けられた酒場のカウンターで酒を嗜む黒き美女。一応今回の裁判の重要参考人であるディーヴァである。

「ああ、あの方はまお…………んんっ! んーっ! えーっと、アイドルですし。そりゃ召喚者だろうが勇者だろうがぶっ飛ばして当然ですよ」
「俺の知ってるアイドルと違う!!」
「何を言ってるんですか。世の中には魔王軍四天王と死闘を繰り広げたゴリラメイドだって居るんですよ? アイドルがどれだけ強くても驚くことは無いじゃないですか」
「ごめんサトー。お前が言ってる意味が一言も理解できない」

 あれぇ? 一応実体験に基づく発言なのだが、なんでこいつは理解できないのだろう。見識が狭いんだなきっと、うん。

「と言うかディーヴァさん、結局私の家に住むことになったんですか?」
「あら? そういえばサトーには言っていなかったかしら? ルーンにはもう承諾を取り付けていましてよ。長居をするつもりはありませんけど」
「まあルーンが良いのなら…………とはいえ、今回の件はお手柄です。よくぞハーレム野郎をぶっ飛ばして----じゃなかった。不法侵入者を捕まえてくれました」
「アイドルの嗜みですわ」

 さて本題に戻ろう。
 いくつかの書類に目を通し、ギルド職員であるルーンとアグニスの承諾。そして最終的に俺の判子を押して、彼らへの罰則を申し渡す。

「罰則は以下の通り。暴行未遂による罰金と、家を半壊させた修理代を払うこと。それと、各々リール村でのボランティア活動と、反省文の提出とします」
「ぐぬぬ……まあ、被害を出したのは事実だし、甘んじて受け入れよう。みんなもそれで良いか?」
「納得は行かないけど、仕方ないわね」
「別に……良い」
「ウチも構わないニャ。そういえばご主人様と一緒に居て、初めて罰則を食らった気がするニャア」

 多分、主人公体質の召喚者はだいたいそんな感じなのだろう。大抵の犯罪行為はあれこれ理由をつけて無罪放免とされることが常態化しているのだ。
 例えばひどく悪いやつが居て、それを撃退するために召喚者が過剰にボコボコに伸してしまったとする。正当性があっても過剰防衛で訴えられるのが普通だが、召喚者の場合は、

「主人公さんありがとう! これで安心して生活できます!」とか「こいつはこうなって当然だ。今後一生牢屋の中で過ごすことだろう」とか言って許される。

 いやいや! お前らの目の前にいる召喚者も大概のことやってるぞ!? 正当性があっても暴行は暴行だからな!? 許すなよ警察組織!!
 召喚者が珍しくないこの世界。すなわち召喚者にとって都合の良い展開が散見される世界。
 それらのご都合主義展開は異世界人たちにとってほとんど洗脳に近いものであり、過剰に主人公を持ち上げるのは序の口。簡単に惚れるわ説得されるわ、犯罪行為を見逃すわでやりたい放題。
 もちろん、大半の召喚者に悪気が無いのは分かるが、恐らく異世界でも数少ないまともな感性を持っている俺からすれば、悪気がないぶん質が悪いと見えてしまう。
 実際の所、今回の裁判についても、この場にいる大半の人間が「えっ? 別に大したことやってないじゃん?」みたいな事を言っている。まあ、大半が頭のネジが飛んでる奴らっていうのも有るのだろうが、こいつらにも召喚者の体質が影響を及ぼしているのだろう。
 パプカやジュリアスがコースケに惚れてついて行くとなったら、流石の俺もショックでしばらく寝込んでしまいそうだ。別に彼女たちの恋愛事情に口を出す気はないが、身近な女性たちがお持ち帰りされるって、結構精神的にクルんだよ。

「ごほんっ! では、事前に取り決めをしておいたとおり、コースケさん達はそれぞれ、ギルドが用意した人員の監視下に入っていただきます。まずはゴルフリートさん、コースケさんをお願いします」
「はいよ。とりあえず村周りの雑魚魔物の駆除でもやっておくわ」

 甚だ心配であるが、この村では実力的に、コースケを制御できる唯一の人物なので任せるしかあるまい。

「次にパプカさん。貴女はネロさんをお願いします。魔法使い同士ですし、気が合うでしょ?」
「わたしは錬金術師ですよサトー。まあ良いでしょう、最近ポーションづくりにハマっているので、彼女にはそれを手伝ってもらうことにします」

 とりあえず魔法使いで固めておいたが、見た目めっちゃキャラ被ってんなぁ。

「ハルカさんは…………ジュリアス。お前に頼む。お前一応、ギルドの職員なんだから、被害は最小限に留めるんだぞ?」
「なんで被害が出ること前提なんだ!? 村の掃除をするだけだから被害の出しようが無いだろう!」

 はいはい、フラグですねわかります。

「ルーンはティアルさんを頼む。えーっと、家の修理の前準備だっけ?」
「はい。獣人の方は力がとても強いそうですから、木材を運ぶのを手伝って貰う予定です」

 唯一の常識人枠。監督役もルーンなので、ここは全く心配しなくてもいいだろう。
 
 と、各自に仕事を振り分けたは良いものの、順次俺も見回っておかないとどうなるかわかったものじゃない。
 ただでさえ、彼らが村に滞在していることによって、この村の冒険者たちの仕事は激減しているのだ。相変わらず、居るだけでトラブルを呼び込む【歩くマッチポンプ】。
 早々に罰則をクリアしてもらい、とっととこの村から出ていってほしいものである。

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