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第八章 まるで暴挙なラブコメディ

CASE54 ???

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 リール村には魔物が住み着いている。
 そんな情報を得た俺は、急ぎリール村へと赴いて調査を始めた。相変わらずのなにもない農村地域だが、冒険者ギルドができてからはかなり活気に満ちているように思う。
 何処に言っても冒険者が必ず目に付くし、彼ら用の施設も増え始めている。とは言え、最近はあまり景気も良くないらしく、道を歩けば冒険者たちの舌打ちがいちいち聞こえてくるようだ。
 まあ、そろそろ秋も終わり冬の季節。魔物が活動しないこの季節は、同時に冒険者の活動も滞るのも仕方がないのかもしれない。

 話を戻そう。

 最近、色々な地域を回って知見を広めている俺だが、この間訪れた先で得た情報が物騒なものだった。それこそ、リール村壊滅の危機と言ってしまっても良いほどの悪い情報。
 普通、村や街の中に魔物が入ることは無い。人間が自分たちにとって危険な生き物であることが分かっているし、わざわざ人間を獲物として危険を犯す必要もあるまい。
 だけどどんなことにも例外はつきものだ。高位の魔物、すなわちリッチーやサキュバスなど。人形で知性のある魔物は、その活動範囲に人間の街も含まれている。
 生気を吸い取ったり、負の感情が糧となったり。むしろ人間が居るほうが居心地が良いと考える魔物も居るのだ。
 さて、そんな魔物たちがリール村へと住み着いているのなら一大事。規模の小さい村であれば、全滅だってありうることだ。
 一応この村には、最上級冒険者であるゴルフリート・マクダウェルと言うおっさんが居るものの、彼のジョブはバーサーカー。搦手で攻めてくる人形の魔物に対しては、実は相性がすごく悪い。
 …………まあ、そんな強力な冒険者が太刀打ち出来ないような相手であれば、俺がどうすることもできない可能性も高いが、とにかく調査くらいはしておいて損は無いだろう。

 調査を進めて数日。早くも村から人気が無くなり始めた。
 冒険者たちはうつろな目で道に横たわり、相変わらず舌打ちが俺の耳に大量に届く。早くなんとかしないと、手遅れになってしまうかもしれない。
 俺は顔なじみの女性冒険者たちと行動をともにすることにした。彼女たちは……まあクセは強いけど、実力は確かな連中だ。少なくとも戦力にはなってくれるだろう。
 
 数日をかけてようやくたどり着いた家がある。
 この村にしてはかなり立派な建物であるが、良く見るといたる所がガタガタで、特にドア付近が継ぎ接ぎのように補修されているらしくボロボロだ。
 ある種の幽霊屋敷というのだろうか? この村でこんな建物があるとは知らなかった。
 だが、どうやらビンゴのようだ。建物の外からでも分かる。俺が持つ魔剣が反応しているとか、魔法使いの女冒険者が警戒しているとか。そういったことは関係なしに、全身の毛が逆立つような感覚。
 間違いなく、この屋敷には何かが居る。まさかこんな平和な村の中で、こんな圧力を感じるハメになるとは思っても居なかった。

 これは調査などと言っていられない。
 俺はチームを二つに分けた。一つは魔法使いと俺の突入班。もう一つは外で待機し、いざという時のバックアップだ。
 魔法使いを選んだ理由は、俺が除霊系の魔法が使えないからだ。一応、魔剣を使えば魔物など十把一絡げ。どうということも無いだろうが、この剣はできるだけ使いたくない。呪いが強く、今後俺の身にどのような災難が降りかかるか分かったものでは無いのだ。

 意を決し、扉の鍵を壊して突入した。できるだけ奇襲をかけたいので、息を殺して家の中を進む。
 生活感のある室内。どうやら何かが住んでいるのは間違いないようだ。このような幽霊屋敷に住み着くのだから、少なくとも気質の輩では無いだろう。
 同行する魔法使いが言うには、嫌な気配は二つ。二階から強力な魔力が一つと、一階の奥からそれなりの魔力が一つだそうだ。相変わらず、私生活は滅茶苦茶だが冒険者の実力派ピカイチなこの少女である。
 まずは退路を確保するために、一階の魔力から対処することにしよう。先に二階に上がって、挟み撃ちにされてはたまらない。
 室内の奥へと忍び足で進む。

 ザアァ…………

 何やら途中、水が落ちるような音が聞こえてきた。これは……シャワーか? やはり、朽ちる前はずいぶんと豪華な屋敷だったらしい。浴室が備え付けられている家など、貴族や豪商くらいでしか見ないものだ。
 もしかしたら、水道が壊れているのかもしれない。古い家だし、そういう事もあるだろう。
 しかし、そのような考えはすぐさま否定された。俺たち通路を進んでいると、シャワーの音が途切れたのだ。明らかに浴室に誰かが居て、俺達の気配を察知してシャワーを止めたのだ。

「あれ? サトーさんお帰りです…………か?」
「「えっ?」」

 恐らく脱衣所であろう部屋の扉を開いたのは、クリーム色の髪の毛を水で滴らせ、暖かなお湯と空気で頬を染めた美少女。
 胸のあたりにバスタオルを当てて隠しているつもりだろうが、肌の多くが露出してる官能的な光景に、凍りついて停止したいくらかの時間を経た直後、俺の体は非常に正直な反応を見せた。

「うわぁっ!? ち、違う! これはその不可抗力で……そう! 偶然なんだ! いや、と言うか覗くつもりは全然っ!」
「君、うろたえすぎ…………むっ、魔力の塊! ちょっとそこどいて……うわっ!?」

 恐らく嫌な気配の一つ。通路の奥側に魔力を感知したのか、相方は杖を向けて迎撃体制に入った…………のは良いのだが、そこはタイミングが悪かった。
 うろたえた俺の肘が杖に当たり、彼女が放った強力な魔法は明後日の方向へと放たれてしまう。

「ああっ!? 天井が!?」
「ちょっ、今の凄い音なんスか!? 強襲イベントッスか!?」
「なっ!? あいつエルダーリッチーか…………うわわ!?」
「あふん」

 あまりに強力な魔物を目の前に俺は動転してしまった。慌てて後退したものだから、相方にぶつかって転んでしまう。
 その拍子、俺は鼻先に温かいものを感じた。顔面全体を包む、柔らかい感触。

「…………えっち」

 気がつくと、俺は顔面を相方のスカートの中へと突っ込んでいた。柔らかい感触はつまり、彼女のおし…………

 ドッカン!!

 大きな音とともに、怒涛の展開は続く。
 屋敷の入口である扉が木っ端微塵に吹き飛んで、外から残る仲間が突入してきたのだ。
 幼馴染の女剣士と、僧兵モンクと呼ばれるジョブに就く獣人メイドが、各々武器を構えて俺たちへと駆け寄った。

「ちょっと大丈夫!? ってああっ!? なによもおっ! 敵地でいちゃついてんじゃないわよアンタ!!」
「これがいちゃついてるように見えるかぁ!! 転んでぶつかっただけだ!!」
「ボクはいちゃついてても……良い」
「離れなさい! 離れなさいよ!!」
「だからそんな場合じゃ……っとぉ!?」

 床に滴る水に足を滑らせた。よろめく体を保とうと踏ん張るも、続いて魔法使いのマントに足を取られ、今度は突入してきた二人に向かって転倒してしまった。

 ボイン

「痛たたた……ん? ボイン?」
「ちょっ……へ、変なとこ触らないでよぉ」
「こんな状況でも、ご主人様は相変わらずですニャア」

 頬を染める剣士と、あっけらかんと笑うメイド。
 俺はそんな二人の胸を鷲掴みにして、抱きつくように床へと倒れていた。

「あの……ルーンさん? なんスかこの状況?」
「い、いえ……私にもさっぱり」

 ん? ルーン? 今このエルダーリッチー、脱衣所から出てきた美少女をルーンだと言ったか?
 その名前には聞き覚えがある。東部地域の別の街で、冒険者ギルドの職員をやっている女の子の名前だ。何度か話したことがあるが、彼女はこんな辺境地で働いては居ないはずだ。

「アンタね!? この村に潜む魔物っていうのは!! 覚悟しなさ…………あれ? アヤセさん?」
「あ、本当だニャ。こんばんわ、アヤセさん。こんな幽霊屋敷で何をしてるんですニャ?」
「いや、自分幽霊なんで…………ってあれぇ!? ハルカさんにティアルさんじゃないッスか! なんでこんな夜遅くに……」



「うるさーい!!」



 二階から響く、本日で最もうるさい叫び声。足音とともに一階へと降りてきたその人物は、どうやら女性のようだった。
 しかし、撒き散らす強大な魔力は尋常ではない。姿は一見鳥系の獣人にも見えるが、その羽根は禍々しい漆黒で彩られている。
 声の大きさだけでなく、その魔力によって凍りついたその場にて、唯一動けたのは俺だけ。使いたくはなかったが、魔剣の力を使って全身を強制的に動かしたのだ。

「お前が親玉だな!? 喰らえ必殺! ブリザード……」
「うるさいつってんでしょうが!!」
「ぶげぇっ!?」

 誰にも見破られたことのない必殺技。女神様からのチート能力と、魔剣の力を全開にして放った一撃は、山を丸ごと吹き飛ばす威力を持つ。
 だが、その一撃は突如として現れた敵に当たることはなく、逆に相手の正拳突きを顔面に食らってしまった。
 吹き飛ぶ俺の体。慌てる仲間たちの表情。
 そして俺のことを首を傾げながら見るこの屋敷の住人たちの顔を最後に、俺の意識は闇の中へと沈んでいった。







*    *



「で、家主の居ない間に、俺の家に不法侵入してラブコメってたのはお前らか」

 人生の中で、これほどの怒りを覚えたのは初めてだろう。
 さて、主人公体質な男。キサラギ・コースケから視点は戻り、人生という物語の主人公であるこの俺。すなわちサトーの提供でお送りいたします。

 場所はリール村の冒険者ギルド。あまり使われていない地下室の、冒険者を捉えておくための牢屋の中。鉄格子を隔てて、意気消沈する一行を睨みつけている。
 コースケハーレム。
 すなわち、キサラギ・コースケを筆頭とし、美少女で構成されているハーレム冒険者パーティである彼らを拘束し、只今尋問中である。

「いや! アレは不可抗力なんだって!!」
「シャラップ!! 不可抗力とは不法侵入と器物破損とラブコメ展開の言い訳に使う言葉ではない!!」
「ら、ラブコメって……俺、こいつらとはそんな関係じゃ……」
「シャラップ!!」

 俺の怒りは頂点に達している。
 不法侵入? 器物破損? そんなものはどうでもいい。その程度のこと、我が村のポンコツ連中相手に日常茶飯事。もはや慣れつつある細事なのである。
 そんなことよりアレだ。ラブコメが許せん。
 俺の安息の地である我が家の中で、スカートの中や胸の中に飛び込んで、それなのに殴られも叱責もされずにのうのうとする。そのような召喚者特有の展開が許せん。
 今度という今度は堪忍袋の尾が切れた。
 よって、これから俺は正当なる鉄槌をこの男に下そうと思う。全うで当然な…………裁判を執り行います。
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