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第七章 まるでオタクな獣人街
CASE53 ルトン・ヴォルフ18世②
しおりを挟む「ふわっはっはっは! カリバー氏! 我がコレクションをご覧あれ! 貴方が持つコレクションには到底及ぶまいが、儂が生涯をかけて集めた宝の数々です!」
『なんと! あの高級そうな額縁の裏側に萌えイラストが! ぬわぁ!? あの甲冑の中身は等身大フィギュア!? やるでござるなルトン氏!!』
「----なんだこれ?」
突如として始まったヲタグッズ鑑賞会。会談に乱入したエクスカリバーは、なぜかその存在を知っていたルトンサブマスとともに、屋敷中を駆け回っていた。
会談中の真面目な雰囲気と表情はルトンからはすでに消え去り、歳不相応の子供のような満面の笑みを浮かべ、ルンルンとスキップをしている。
一気に彼への印象が下がった場面である。
「あの、ルトンサブマスってもしかして……」
「はい。オタクたちがひしめくヴォルフの街。そのトップとも言える御方ですので、もちろん彼もオタクです」
「なんか俺、この街嫌いになってきた」
別にそれを全面的に否定するわけではないし、俺だってエクスカリバーから借りたラノベを読むのは好きだ。
しかし、あのような立派な御仁を堕落(?)させるオタク文明。
一体何人の偉人がこの街でオタクと化してしまったのだろうと思うと涙が出てくる。そう言えば、この街は義務教育からオタクとしての英才教育を受けさせるらしい。この街で生まれ育ったなら致し方が無いのかもしれん。
「いや、そもそも。さっきの口ぶりからすると、エクスカリバーとサブマスは以前から知り合いだったってことなんですか? どういう接点ですかそれ?」
一方は国中探しても他に数人と居ないであろう権力者。一方は辺境地のギルドで無駄飯を食らう召喚者。
そもそも出会うことは無いだろうし、出会ったとしても身分的に話しかけることすらかなわないだろう。
そんな二人がどのようなきっかけでここまで仲良くなったのか。単純に興味がある。
「出会うのは初めてなのじゃがな。このカリバー氏が開発した【8ちゃんねる】で度々オタク談義に花を咲かせていたのじゃよ」
「ああ……レポート提出に使ってたあれか。確かにあれなら距離は関係ないか……」
「ルトン様が8ちゃんねるを発見なされたのはつい一月前。そこからは職務もお構いなしに没頭されていまして、ついには「冒険者ギルドのサブマスなどやってられるか!」と言い出し、序列審査会の辞退を決心なされたそうです」
「あ、ちょっ!? しーっ! しーっ!」
ああ、なるほど。もしかしてこの爺さん馬鹿だな!?
仕事より趣味や私生活を優先させるというのは、まあ健全な状態だと言えなくもない。それは俺も大いに肯定させてもらおう。
しかしながら、「ネットにハマったので人生ドロップアウトします」などと言う輩がいれば、それは大馬鹿者であると言っても間違いではないだろう。
「……この件、リンシュサブマスターはご存知で?」
「…………いや。オタク趣味は知っておるだろうが、サブマスを辞める理由は…………はっ!? や、やめろよ!? あやつには話すでないぞサトー! コレクションが焼け野原にされてしまう!」
確かにリンシュならやりかねないが、正直俺が焼け野原にしてしまいたいくらいなのだが。
とは言え、相手は冒険者ギルドのナンバー2。下から数えたほうが早い平役職でしか無い俺は、にこやかに頷くほかなかった。
まあ、これほどの大物の弱みを握れたのだし、使えるかどうかはともかくカードを手に入れたと考えても良いかもしれない。
「リンシュサブマスには適当に言い訳をしておきましょう」
「ふぅ……物分りの良い孫弟子でよかった。まあしかし、リンシュに土産の一つも必要じゃろう。審査会の件以外でなら、一つだけなんでも協力すると言っておいてくれ」
「ん? 今なんでもって……?」
「い、いや……常識の範囲内でな。とは言えリンシュのことじゃ。相手が出来んことを要求はせんと思うが」
いやそうかぁ? 無理難題をふっかけて、それが達成できない時に次の難題を繰り出すくらい、平気でやる女だと思うがなぁ。
ひょっとして、そういう事やられてるのって俺だけか? 理不尽をふっ掛けらてるのって俺だけなのか?
『ルトン氏、そろそろ鑑賞会に戻りたいでござる。お仕事ばかりでは、人生疲れてしまうでござるよ?』
「おお、そうだなカリバー氏! ささ、あちらのステンドグラスは、実は角度を変えて見てみると魔女っ子リン☆リンの肖像画に……」
「あ、じゃあ私帰りますんで、その不燃ごみは速達でリール村へ送っておいてください」
誠に不本意ながら、こうして俺のヴォルフの街への出張は幕を閉じたのであった。
----いや、と言うかこんなテキトーなオチで良いの!? この出張に意義があったと言い切れないのがすごく辛いんだけど!!
* *
『ほぅ? あの爺さん相手に【なんでも】一つ言うことを聞かせる権利を得たと?』
「まあ強調し過ぎな気もしますが、端的に言えばそういうことです」
ヴォルフの街を出発した俺は、ルトンの計らいで雇ってもらった高速馬車に揺られている。スレイプニルと言う飼いならした魔物が馬車を引き、流石にメテオラほどではないが、異常な速度でリール村へと到着する予定だ。
そんな馬車の内部で、俺はリンシュへの報告を行っていた。
『へぇ、中々やるじゃない。今回は花マルとは言わずとも、二重マルくらいはあげてもいいわよ』
「それはどうも。と言うか、ルトンサブマスと話がついているなら、事前にそう言っておいてくださいよ。無意味に肝が冷えました」
『それじゃ私が面白くないじゃない』
「まあ貴女はそういう人です知ってました。ただ、審査会に関してはあまり協力的ではありませんでしたね。これは貴女的にはよろしかったんですか?」
『敵に回らないだけマシね。爺さんが敵に回った場合、政治家とか商業ギルド関連も敵に回すことになるから厄介なのよ』
「なるほど。ああ、そう言えば。前に言ってたような血なまぐさい序列審査会って、もしかして誇張してました? 東部のヒューズサブマスターは常識的な方だと聞いていますし、ルトンサブマスターは貴女の師匠に当たる方なのでしょう? 物騒な話にはなり得ないと思うのですが……」
確か以前、序列審査会は人死にが珍しくないと脅されたことがある。でも、今回に限ってはそのような過激な人間が居るとは思えないのだ。リンシュを除いて、だが。
『甘いわね。私はともかく、ヒューズとルトンはそれぞれ別のギルドにも影響力を持っているのよ? 彼らの意思なんて関係なく、それらの方面の人間が暴走する可能性は低くないのよ』
「じゃあ、ルトンサブマスターが辞退するとは言え、そちら方面にも警戒は必要だと?」
『いえ? 流石に辞退までしたなら担ぐ意味がなくなっちゃうから、爺さんに関してはもう良いでしょ。後は東部のヒューズを残すのみね』
やはり、そちら関連も俺が駆り出されるんだろうなぁ。
ヒューズサブマスが常識な人であることは、東部の支部である俺の耳にも入ってきている。しかし、言ったとおり俺は東部に属する職員だ。西部のルトンサブマスとは影響力が段違い。
…………下手なことやって首切られないだろうな。本当に些細なことで解雇通知書が送られてきそうで怖い。……いやまあ、リンシュが無茶ぶりをしなければいいだけの話なんだが、それも無理なんだろうなぁ。
『あ、そうだ。アンタの成果のご褒美に、良い情報を教えてあげる』
「えっ……貴女がご褒美なんて珍しい。天変地異の前触れですか?」
『アンタ、敬語を使ってれば何言っても良いと思ってない? まあ別にいいけど。ちなみにこの情報、真面目に聞かなきゃアンタんとこの支部が壊滅するような重要なものなのだけれど、聞きたくない?』
「大変申し訳ありませんでした。聞かせてくださいお願いします」
俺の言葉に満足したのか、リンシュはふふんと鼻を鳴らしてから口を開く。
『リール村にキサラギ・コースケが接近中よ。気をつけなさい』
「--------それは本当にヤバイ!?」
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