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第七章 まるでオタクな獣人街

CASE48 サトー⑥ その3

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正直な話、ボンズが結婚すると聞いて最初に湧き上がった感情は【悔しい】であった。
もちろん、今は祝いの感情を強く持っているし、これほどめでたいことは無いと思っている。
しかし、こちとら何もかも卒業できていない状態。にもかかわらず、友人が一足飛びに結婚してしまったならば、多少呪いの言葉を含んでも罰は当たらないだろう。
――――いや、当たるかも知れないな。心のうちに秘めておこう。

「良いかおまえら。最初に言っておくことがある」
『なんでござろう、サトー氏』
「どうせくだらぬことだろう」
「今回は仕事でも何でも無く、加えて俺が主役の催しじゃない。俺の大事な友だちの、一世一代の大イベントだ。すなわち、今までみたいなノリで参加しないで欲しい」
『任せるでござるサトー氏! 我ら、自慢ではござらんが余興のレパートリーは豊富でござる!』
「うむ。火を吐き、雷を落とし、大地を揺るがして竜巻を起こして見せるぞ」
「それをやめろっつってんだよ!! 天災関係を網羅してんじゃねぇ!!」

実際メテオラとエクスカリバーが組んだら、マジで天災を起こせるのではないかと戦々恐々なのだ。
被害者が俺だけならともかく――――それも本当に嫌だが、とにかく友人にまで被害を及ぼさせる訳にはいかない。
ボンズの心の安寧は俺が守ってみせる!!

「ずいぶん盛り上がってるようだけど、そろそろ出発して良いの?」
「あ、うん。なんか変なテンションになってた。とにかく、二人共おとなしくしてろよ」
『わかってるでござるサトー氏。某動物の名を関する芸人的なフリなのでござろう?』
「全然分かってねぇじゃねぇか!!」


*    *




「――にしても、エクスカリバーはともかく、メテオラのその格好…………いつの間に礼服なんて着込んだんだ? レンタル?」

結婚式会場の外。俺の後ろを着いてきているのは、ミントとエクスカリバーを背負ったメテオラだった。
つい先程まで、普段着である着物を来ていたメテオラは、振り返ってみてみると、いつの間にか和風の礼服に着替えていたのだ。
ホテルから直行で式場に来たのに、一体どの瞬間に早着替えをしたのだろう。

「む? 俺様の服は鱗を魔力で変化させたものだからな。形態は思うがままだ」
「うろ……こ?」
「ああ! 鎧の鱗を売って礼服の資金にしたんだな!? 分かった分かった!!」

この男の発言はところどころ爆弾発言だから侮れない。
ミントが納得してくれたから良いものの、できるだけ発言させないようにしよう。

「じゃあ、二人はしばらく外でブラブラしててくれ。式が終わったら迎えに来るから」
「ゴメンね二人共。多分一時間くらいで終わると思うから」

予定では結婚式の後に、自由参加の披露宴があるらしいが、結婚式ってそんなに早く終わるものなのか。
待ってる途中で飽きて帰ってくれないかな。

「あ、披露宴から参加の方々は、あちらのロビーでお待ち下さい。お食事やお飲み物もございますので」

と言うのは施設のスタッフのお姉さん。おのれ、余計なことを。

『わーい! 拙者ホットケーキが食べたいでござるー!』
「俺様はタバコが吸いたい。意外に喫煙所が少ないのだこの街は……」

エクスカリバーって飯食えるんだろうか? だとすれば口は何処なのだろう。



結婚式場の内部にある、教会の長椅子に、俺とミントは腰を下ろしている。
壇上の向こう側には、この世界で信仰されている女神様の像が飾られており、少し厳粛な雰囲気が醸し出されている。
特に信仰心のない俺にとっては、場違いなんじゃないかとさえ思えるほどだ。
俺とミントが座っている席は一般の友人が座る枠らしく、庶民的な人達が多い。
しかし、周りを見渡してみれば、貴族や西部のギルドの重役が勢揃いで、ちょっと居心地の悪い空間であった。

「そう言えば、ボンズの結婚相手って誰なんだ? やっぱり同じ貴族様なのか?」
「えっと、確かフローリアス・トゥリトリアって人。中央の貴族だったはずだけど、私もよく知らないのよね」

この世界の貴族というのは、大きく分けて三種類ある。
一つは、ボンズの家であるマクシリアン家のように、代々その地を治める領主のような貴族。これは血が途絶えるか、家が破産するまで続く由緒ある貴族だ。
二つは、経済力を身に着けた平民が貴族になるパターン。これは一代限りの者が多いが、中には長い歴史を持つ貴族よりも影響力のある者も居るらしい。
三つは、国から騎士の称号を与えられた、完全に一代限りの貴族。土地や固定資産を持っていないので、ほとんど名ばかりの称号だ。
位の差はあれど、基本的には貴族は貴族としか結婚しない。
もちろん、日本人が召喚されまくっているこの世界。法律も先進国並みの制度がちらほらある世界観だ。
結婚に関しても、明確に【貴族同士しか結婚できない】という文章が刻まれているわけではない。
しかし、やはり慣習としてそのような考え方を持つ貴族は非常に多いらしいのだ。

「中央の貴族だったら、サブマスの伝手で大体覚えてるけど、トゥリトリアなんて家覚えて無いなぁ」
「うーん、もしかすると最近任命された騎士様なのかもね。それなら、私達が知らなくても納得だもの」

バンッ!!

教会の入り口にある扉が開く音である。
高さ四メートル。格子状の鉄が分厚い木製の板に貼り付けられた立派な扉。
とてもじゃないが、一息に開くことの出来るような重量ではない。
が、そんな扉が一気に全開し、勢い余り過ぎて片方の扉が半壊した。
そして扉の向こうからは、恐らくこの結婚式の主役の片割れであろう女性が現れた。

「ちょ、ちょっと新婦さん! 段取りと違いますよ! 新婦さんは新郎さんの後から……」
「良いではないか! この早る気持ちを抑えるつもりなど毛頭ない! 私は早く結婚がしたいのだ!!」
「あ、駄目だこの人話聞かない……スタッフ集合! 新婦さんを抑え込め!!」
「ぬわぁ!? 何をするか! 騎士である私を抑えようなど、身の程を知……あ、駄目だこの人数は流石に……」

金色のくせっ毛をベールで押さえ込み、少し筋肉質だがバランスの良いスタイルの上からウェディングドレスを着込む。
そして数十人のスタッフさんによって、なんとか外へと引きずられていく長身の女性が登場と同時に退場した。

「…………大当たりだったな、ミント」
「…………そうね」

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