上 下
152 / 215
第3章

151. 出発

しおりを挟む
姉様の屋敷に戻って来るとベイローレルさんが出迎えてくれた。

「どうだ?アイツとはゆっくり話が出来たのか?」

僕はベイローレルさんの問いに上手く答えれず「…まぁそうですね。」と誤魔化した。

「(カラマス君、今頃、凄く悩んでるだろうな…でも、僕も10歳までに結論を出さないといけないしカラマス君も婚約が迫ってる、この機会にハッキリさせないと。)」

そう自分に言い聞かせた。

お昼頃になると僕達は次の街に行く前にギルドに寄ることにし、屋敷を出発した。カラマス君の返事が聞けてないのは心残りだが、すぐに結論が出るものでもない。自分の都合よりカラマス君の都合に合わせるべきだろう。姉様にも「また報告待ってるわ~!」と元気よく送り出された。

「フェル、まずはギルドに行って依頼完了のサインを見せるんだ。多分それだけじゃランクは上がらないだろうが地道に頑張れよ。」

「はい、わかりました。とりあえず出してきます。」

ギルドに到着した僕達は受付に依頼完了の書類を提出した。それは難なく受領され僕のランクに登録された。

「ローランド様、お疲れ様です。次のランクへ上がるにはあと9ポイント必要です。また依頼をこなしポイントを貯めてください。難しい依頼程ポイントは高いですが危険度も高いです。その辺を踏まえてお考え下さい。」

「はい、ありがとうございます。また宜しくお願いします。」

僕はそう受付にお礼を言うとギルドを後にした。
ギルドの入り口で待ってもらっていたベイローレルさんに声を掛ける。

「終わりました!1ポイント貯まったみたいです。また地道に頑張りますね!」

「ああ、先は長いが頑張れば確実にランクは上がる。頑張れよ。」

と頭を撫でてくれた。





それから僕達は本来の目的である次の街へ向かって歩き出した。2時間ほど歩き、小休憩を取る。ベイローレルさんが「次の街まではあと3時間ってとこだな。前の街が海に近かった分、次は山を登るぞ。フェル、大丈夫か?」と心配してきた。正直「大丈夫です!」と言える程、自信はないがやれるだけやってみようと思い「できるだけ頑張ります。」と答えた。






それから1時間後、僕はベイローレルさんにおんぶされている。やはり僕の体力じゃ山登りは過酷だったようだ。完璧な登山道具は必要ないにしろ、きちんと舗装されているわけではない道をひたすら歩くのは僕には無謀すぎた。最初はなんとかベイローレルさんに手を繋いでもらいながら歩けていたが、進んで行くにつれて難易度が上がっていく。明らかに登れないだろうという絶壁が立ちはだかった時、僕は諦めた。

僕が「(これは無理だー…。)」とその絶壁を見上げていると

「フェル、回り道をすれば向こうに行けなくもないが回り道をすれば夜はここで過ごすことになる。いくら魔獣の少ない土地とはいえゼロじゃない、なんとかこの壁を登るぞ。」

と言われ、僕は情けなくも「むっ…無理です。」と答えた。

僕のその泣きそうな様子にベイローレルさんは「ブフッ!」と笑い出すと

「お前は登らなくてもいいんだよ。俺がおんぶして登るか俺だけ登って後はロープで引っ張るってことも出来るしな。」

と言ってくれた。

話し合いの結果、僕をおんぶした方がいい、という結論となったのでベイローレルさんは楽々と僕をおんぶしたまま壁を登って行った。勿論、登った後下ろして欲しいと頼んだが断られ、今の状態に落ち着いたというわけだ。

ベイローレルさんの歩幅で歩く分、進むスピードは格段に早い。今まで僕のペースに合わせてくれていたことがわかり、申し訳ない気持ちになった。

「ベイローレルさん、すみません…。今まで歩きづらかったですよね…?」

「えっ?ああ、スピードのことか?いや、そりゃフェルの体格を考えればあれぐらい普通だろ?それに俺は護衛として雇われてるんだから別にそんなこと気にしないさ。」

と楽しそうに答える。

「(ベイローレルさん…最初の印象からは考えられないくらい男前になったな…。僕もこんな懐の広い大人になりたい。)」と感心しつつお礼を言った。

それから暫く歩くと街が見えてきた。ベイローレルさんも「やっとだな。」と嬉しそうだ。

しかし、街の入り口が近付いてくるにつれて人々が屯(たむろ)したり、積荷を運ぶ馬車などが立往生している。何事かと近付くと今までの街でなかった身分証の提示を義務付けられているらしい。ここにいる人達はその身分証がない為に中に入れない人々だった。

ベイローレルさんは近くにいた商人のような人に事情を聞いている。

「なぁ、これは一体どういうことだ?」

「いや、俺もよく分からねぇ。噂では今、この街に王族の誰かが泊まっているらしいんだ。だからその人の安全の為に身分証を見せないといけないんだと。全く困ったもんだよ、こっちは注文の品を届けに来てるのにそれも渡せねぇ…!」

と愚痴を言っていた。
しおりを挟む
感想 96

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?

青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。 そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。 そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

迷子の僕の異世界生活

クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。 通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。 その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。 冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。 神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。 2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

処理中です...