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第3章

141. 一触触発

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兄様と部下の話がひと段落ついたようなので話し掛けた。

「ねぇ兄様、僕と一緒に捕まったジャケットを羽織った身体の大きい人は無事?」

「ああ…隣で喚いている男か…、さっきからフェルと会わせろと煩いんだ…フェルとはどんな関係なの…?」

と少し鋭くなった目つきでこちらを見てくる。

「(兄様、ちょっと怒ってる…!)
あっ…あの屋敷に潜入するのに僕だけじゃ心許ないと思って護衛の人を頼んだんだ!だからあの人にはお世話になったし、報酬も払わないといけないんだ。」

と僕は努めて明るく言った。

「…そうか、護衛を雇ったんだ。じゃあ私からもお礼を言わなくちゃいけないね。」

と今度はニコッと笑う。

僕が「(セッ…セーフ!)」と安堵していると「じゃあ私と一緒に隣の部屋へ行こうか。」と誘われた。僕は立ち上がり兄様に着いて行く。



「だから!俺とあいつはあの屋敷に入って不正を見つけようとしただけなんだって!信じてくれよ~!それにフェンネルに会わせてくれ!事情はあいつが一番よくわかってる!」

「ベイローレルさん!」

僕は慌ててベイローレルさんに駆け寄った。ベイローレルさんは僕の姿を見つけるとガタッと立ち上がり「フェンネル!無事だったか!?」と抱き締めてくる。

「(マズイ!!!)」と思った時には既に遅く、僕の後ろに立っている兄様の魔力がグンッと上がった。僕は焦りながら、やんわりとベイローレルさんを引き剥がすと距離を取りながら話を始めた。

「ベイローレルさん、僕は見ての通り無事です、なんともありません。ベイローレルさんは大丈夫でしたか?」

「ああ、特に何されたってことはねぇけどいくら言っても信じてくれねぇんだ。だからずっとフェンネルに会わせてくれって言い続けてたんだが…。」

「…そうだったんですね、遅くなってすみません。実はベイローレルさんには内緒にしてたことがあって…。」

「エェ!?まだあるのか…!」とまたしても驚いている。きっと2属性持ち以外にまだあるのか、ということだろう。

「はい…、僕には兄がいて騎士団に所属しているんです。この人が兄です。」と兄様の方へ視線を促した。兄様は一歩前へ出ると「この度は弟がお世話になりました、そしてこの様な形で捕らえたことをお許し下さい。」と頭を下げている。

「あっ…いや…頭を上げてくれ!フェンネルが無事なら良かった。」とベイローレルさんは慌てている。その光景に僕が安心していると兄様がこんなことを言い出した。

「弟から聞きました、貴方は弟に護衛を頼まれたそうですね。それにしてはとても親しげに見えるのですが、本当にそれだけなんですか?」

と兄様はニコニコしながら聞いている。でも、よく見ると目が笑っていない。

「(エェ!?兄様、なんてこと聞いてんの!?お願いだからベイローレルさん!それだけって言って!)」と僕は心の中で必死にお願いした。

しかし…

「"今のところ"は護衛と依頼主だが、それ以上になる可能性もないとは言い切れないな。もちろん、フェンネルの気持ち次第だが、なぁフェンネル?」

ベイローレルさんは得意げにこちらを見てきたが僕はそれどころじゃない。先程治っていた兄様の魔力が再びグンッと上がる。

僕はこれ以上、兄様を怒らせてはいけないと思い「いえ…僕とベイローレルさんはこれ以上の進展はないです…。」とハッキリと断ったが「えー…キスした仲なのに?」と返ってきた。

「(ぎゃーーー!!!やめてー!)」

その一言で部屋の温度が一気に下がる。

「へぇ~…キスまで…?」

「あっ…いや兄様!特に深い意味はないから!それに唇にはしてないよ?」と兄様にジェスチャーを使って必死に説明をする。それでも兄様の機嫌は治らない。僕はどうしようかと迷った末、兄様の首に手を回し唇の横にチュッとキスをした。そして兄様にだけ聞こえる様に「好きなのは兄様だけだよ。」と呟く。

僕達のその様子にベイローレルさんは

「おい!お前ら兄弟で何してる!仲良いからってくっつき過ぎだぞ!」

と引き離してきた。

「兄さんは弟離れしたらどうだ。そうじゃないとフェンネルが自由になれないぞ!」

と言ってくる。

ベイローレルさんの言葉に兄様は「自由…?」と答える。

「ああ、どういう状況かわからないがお互いに依存しすぎると共倒れするぞ。悪いことは言わない、早い内に離れろ。」

と言う。

兄様は少し黙ると「アハハッ!」と急に笑い出し、

「余計なお世話だね。部外者は黙ってろ。」

と魔力を放出しながらベイローレルさんに対して攻撃体勢をとる。

「…おい、そんだけ魔力を出すってことは俺は喧嘩売られてるってことだな?」

とベイローレルさんはニヤリと笑う。

「さぁ?お好きな様に。」

2人の睨み合いに挟まれた僕は身動きが取れず、固まるしかなかった。

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