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第2章

97. 鳴き声

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反対側の入り口に辿り着くとそこにはローザの物らしき鞄が落ちていた。

「(やっぱりローザはここに居たんだ…。でも荷物を置いて何処かに行っちゃうなんて…まさか誘拐!?
あの可愛いローザなら有り得る…!
どうしよう…とりあえずバジルさんに知らせなくっちゃ!)」

僕は急いでローザの鞄を持って元来た道を戻った。

そしてアニスの家まで走って来たが、まだバジルさんは戻って来ておらず、かといって近道も知らないのでバジルさんの元へは行けなかった。

僕はアニスの家の前でウロウロしながら途方に暮れていた。

すると何処か遠くで「クゥ~ン、クゥ~ン」と何かの鳴き声が聞こえてきた。
流石にローザとは思わなかったが、鳴き声を頼りにしていけば何かわかると思い、その鳴き声に近付いて行った。

僕はなんとか森の草木を掻き分け、鳴き声のすぐ近くまで辿り着くと恐る恐る中を覗いてみた。

するとそこには狩猟用の罠に引っかかった巨大な熊がいた。


「(デカッッ!)」


僕は驚きのあまり声が出そうになり、慌てて口を押さえた。

「(どうしよう…あの熊、足に怪我してた…。助けてあげたいけど怖いよぉ。僕が助けた瞬間、襲われたら…でも動物好きとしては助けたい…。)」

この間にも熊は「クゥ~ン、クゥ~ン。」と鳴いている。

僕はその可哀想な姿に助けることに決め、熊の背後からゆっくりとほふく前進で近付いた。

「(よしっ!まだ気付いてない。このまま、このまま~!)」

そして、もう少しで手が届くところまで近付くと僕は水魔法を使って勢いよく水鉄砲のような形で留め具部分を二箇所貫いた。

「(よし!金具は外れた!)」

しかし、足からは未だに血が出ている。

「(うぅ~…光魔法で治癒しなくちゃ…。)」

僕は手をかざし、ゆっくりと治療していく。だが、この治療法ではほのかに皮膚が温かくなってしまうため気付かれてしまう。

「(でも…この方法しかないし…。)」

そう思いながら治療していると案の定、熊がこちらを振り返った。

パッと目が合い「グルルッ…。」と唸られる。

僕はある程度治ったところで目を合わせながら四つん這いになりジリジリと後ろに下がっていった。

しかし熊はフェルのことを睨み付け、今にも襲い掛かろうという体勢となった。

「(やっ…やばい!襲われる…!)」

僕がそう思った瞬間、

「叔父上!!!」

という叫び声と共にアニスが飛び出してきた。

アニスは僕の前に立つと僕を背に庇いながら熊を睨みつける。

「叔父上、落ち着いて下さい。この者は敵ではありません、私の友人です。」

「(えっ…叔父さん?)」

僕がまだ状況を確認していると話はどんどん進んでいく。

「足元を見て下さい。罠にかかったあなたを助けたのはこの者なのですよ。そんな彼が罠をしかけるとお思いですか?」

しかし、アニスの叔父さん?は納得しておらず「グルルッ!」と唸ったままだ。

「いい加減に認めて下さい!我々のことをよく思っていない人間もいれば共存を望んでいる人間もいることを!皆、敵ばかりではないのです!」

アニスはそう叫ぶと再び叔父さんを睨みつけた。

すると叔父さんはこちらをまた睨むと渋々立ち去った。





叔父さんの姿が見えなくなると、アニスが振り返り「大丈夫か?」と心配してくれた。「うん。」と返事をすると手を差し伸べ起こしてくれた。

「悪いが説明は後でする。それよりもローザがいなくなったとバジルから聞いた。フェルの方で何か手掛かりはあったか?」

「ううん…反対側の入り口に行ってみたらローザの鞄が落ちてて…慌ててバジルさんに知らせようとアニスの家まで戻ってきたんだけど、探しに行けなかったからウロウロしてたんだ。そしたら鳴き声が聞こえて…。」

「…それが叔父上か…。

フェル…とりあえず俺の家に来てくれ。」

そう言われ、僕達はアニスの家に向かった。

アニスの家に着くと玄関にバジルさんが立っていた。

「どうしたのですか!?こんなに汚れて…!」

「あっ…。(ほふく前進したから、とは言えないな…。)」

「叔父上とちょっとあってな、後で説明する。」

バジルさんはその言葉に納得したように「畏まりました。」と答えた。

「フェル、先に風呂に入れ。着替えも用意させる。」

僕はアニスの言葉に甘えることにした。






僕はお風呂に入っている間、ローザのこと、アニスの叔父さんのことを考えていた。

「(ローザ…大丈夫かな…?街に奴隷として売られてたり…ううん!そんなことない!ローザなら魔法でどうにか逃げれるはず…!

アニスの叔父さんも何か人間とあるみたいだな…アニスが自己紹介の時に言ってた"偏見がある"とかっていうのと関係あるのかな。

う~…早くアニスに相談しなくっちゃ!)」


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