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第1章

57. 父様との会話

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父様の部屋に向かった僕は扉をノックし、部屋の中に入る。すると、父様が机に向かって何か書類に記入していた。

「父様…。」と声を掛けながら近付くと書類から顔を上げ、不思議そうな顔をする。

「どうしたんだい、フェル?」

最初は何の用事が分かっていない父様であったが僕がタジェット兄様の名前を出すと「ああ…。」と渋い顔をした。

「僕、最近兄様に全然会ってないんだけどお仕事が忙しいの?」

「そうだな…仕事が忙しいというのは聞いてはいるが…。」

と父様にしては珍しく歯切れの悪い返答をする。

「クラスの子に聞いたんだ。タジェット兄様が凄いやつれてるって…それって僕のせい…?」

僕はミモザ様に言われたことを思い出し、少し落ち込んでしまう。

すると父様は僕の様子に

「いや、それは違う。アイツが自分で自分の身をしんどくしているだけだ。だからフェルは気にしなくていい。」

とすぐに訂正し、頭を撫でてくれた。

「(でも…ミモザ様は僕のせいだって言うし…結局、理由は教えて貰えなかったけど何か理由があるはずだ。それに僕がいるから兄様を諦めた、って…?なんでだろう…こんな言い方されたら兄様が僕のことを好きかもしれないって勘違いしちゃうじゃないか…!いや、年の離れた弟の世話があるから今は恋愛してられない、とも考えられるな…。)」

僕はミモザ様に言われたことが引っかかり、父様が真実を知っているなら教えて欲しいと思った。

「でも…今日、僕のせいでタジェット兄様がやつれてるって言われたんだ。…だから僕のせいだよね…?」

父様はいつも少し言えば僕が納得するのに今回は引き下がらないので渋々という感じで口を開く。

「誰がそんな酷いことを…。いや、先に言っておこう。実は…フェルが前、騎士団の宿舎に入った時があっただろう?その時のことを今でもタジェットは気にしているらしく、タジェットにとって弟を殴ってしまった、ということよりフェルを殴ってしまったということを気にしているようだ。それだけフェルのことを大切に思っているからだよ。それに…魔獣の討伐のことも自分が早く対処出来てればフェルが現場に来ずとも、ましてや怪我をせずに済んだと後悔していたな…。」

「えっ!?殴られたことは僕が勝手に入ったのが悪かったのに?」

「ああ、それでもだ。タジェットにとってそれだけフェルが大切だってことだ。…だからフェル、タジェットのことは少し放っておいてあげてくれないか。何か考えがあって大切なフェルにも会わずに動いてるんだろう。私もどういう理由かは分からないがアイツが意味もなく動くことはない。それにタジェットのことは決してお前のせいではないからそれだけは覚えておいてくれ。」

父様はそう僕に言い聞かせるように言ってきた。

僕はその父様の様子になんとなくだが、真実を知っていながらも教えては貰えないのだと悟る。

「(父様まで期待させるようなこと言わないで…。いくらそう言われたって兄様には"忌々しい"って言われたんだ…。それだけ僕の姿を見るのが嫌なんでしょう…?だから僕のこと避けるんだ…。)」

僕は考えれば考えるほど、ネガティヴなことしか思わなくなっていった。






僕は部屋に戻ると父様に忠告を受けたにも関わらず、どうしても事の真相を知る為、改めて騎士団の宿舎に潜入することを決めた。

「(兄様に避けられているのなら、せめて顔だけでも見たい。騎士団での兄様の様子を見たらすぐに帰ろう。これが僕の自己満足だってことはわかってる。兄様がやつれてるのは僕のせいだと言われてモヤモヤするから本当かどうか確かめたいだけなんだ…。だから、様子を見て納得出来たら帰ろう…。)」

僕はそう決めると、潜入する日にちと経路について考え始めた。

「(前の抜け道はまだ使えるのかな…流石に僕が捕まったところは閉鎖されてるよね…。そしたらもう1つ見つけたところを使って宿舎に潜入だ!日にちはどうしよう…1番近くて4日後だけど…。この日はタジェット兄様も休みなのかな…?前までは家に帰ってくるのが当たり前だったし、1ヶ月の予定も教えてくれてたから最近の予定がわかんないよ。とりあえず4日後、兄様が家に帰って来なかったらその日を決行日にしよう!)」

僕はそう決めると、ベッドに横になり眠気が来るまで目を閉じることにした。すると久しぶりの学校で思いの外、疲れていたのかすぐに眠ることが出来た。






次の日、僕は授業を受けながらミモザ様に会いに行こうか迷っていた。昨日のセリフの理由を教えて欲しいからである。その理由を聞けたら、タジェット兄様を見る時の心構えが違うと思う。僕のせいだと言われ、なんとなくモヤモヤしたままで兄様を見るのと理由を知って納得した上で見るのとでは大違いだ。僕は色々と考えた結果、ダメ元でミモザ様を訪ねることにした。

お昼休み、僕は3年生のクラスがある階に行き、ミモザ様を探す。

前回、この階に来た時に声をかけてくれた3-Bの委員長、セージ・バークさん。もし僕が困ってもきっとこの人が助けてくれるだろう、と期待しながら目的の教室を覗いた。
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