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第1章

36. 怒り

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こちらを見たと思った瞬間、チュッと口にキスされる。

僕が驚いて固まっていると、

「フェルのキスは貰ったぜ!もう他の誰にも許すなよ!」

とイタズラが成功したような笑顔を浮かべた。

「…何となくは分かってたんだ。わざわざこちらに来るって言われた時から。フェルのことだから、きっと断ろうとしてるのに俺が行くのは嫌なんだろう、って。だから、ちょっと意地悪した、ゴメン。でもフェルのこと、好きになったのは本当。だから、もう少し大きくなったら正式に婚約を申し込みに行くよ。それまで待ってて。」

「(カラマス君、ゴメンね…。)
うん…わかった。」

と僕は返事をし、この話は円満に解決!






…と思いきや、部屋の扉がバンッ!と激しく音を立てて開いた。

「貴様!まだ性懲りも無く、滞在しおって!早く出ていかんか!」

なんとそこにはプレス様が立っていた。

皆、驚き固まったがその登場にいち早く我に返ったのがカラマス君だった。

「お爺様!フェルになんて事言うんですか!」

そう叫んで僕を庇ってくれた。

「カラマス、お前は騙されておる!こやつはお前を惚れさせて、王族に取り入るつもりなのだ!こやつだけでなくロザリーナだって怪しいのだぞ!」

その言葉を聞いて僕は思わず、

「姉様のことを悪く言うのはやめて下さい!僕のことはいくら罵っても構いませんが姉様のことを言われるのは許せません!」

「許せないだと…?何もできない子供風情が何を言うか。言葉だけは達者じゃな。」

僕は拳をギュッと握りしめ、この怒りを魔力に込めた。決して攻撃をしたいわけじゃない。ただ、この怒りをどうすればいいか分からなかった為、グッと我慢すると自然に魔力が上昇したのだ。

「ほぉ…子供にしては魔力が高いな。さすがローランド家というわけか。そんなに魔力を上げてどうするつもりだ?私を攻撃するつもりか?やはり、得体の知れないヤツは自分の立場が悪くなるとすぐ攻撃しようとする…。正体を現したな。」

そうプレス様は言うと手の平に火の魔法で作った"ファイヤーボール"を作る。

「さぁ攻撃してみなさい。返り討ちにしてくれるがな。」

「父様、やめて下さい!」
「お爺様、やめて下さい!」

リーフ様とカラマス君がプレス様を止める。

「(本当は攻撃したいよ!したいけど!そんなことしたら自分の立場が悪くなるだけだ…。逃げるみたいで凄く嫌だけど、リーフ様やカラマス君を巻き込みたくない!)」

僕はジッと耐え、魔力を抑えた。

その瞬間「攻撃してこないならこちらから行くぞ。」とファイヤーボールを僕目掛けて投げてくる。

僕は魔力を抑えた直後だったので殆ど丸腰だったが、咄嗟に光魔法の防御壁を作って防いだ。普段は水魔法ばかり使って光魔法は練習時にしか使わないものだったが、マシュー先生のおかげで咄嗟に行動に移すことができた。

「何っ!?光魔法だと!?貴様、水魔法しか使えないのではないのか!?」

プレス様だけではなく、リーフ様やカラマス君も驚いている。

僕がどう答えようか迷っていると、

「そのご質問には私がお答え致します。」

そちらを見るとエリーがプレス様の方をジッと見つめていた。

「プレス様、魔力を抑えて頂けませんか?その様な状態ではお話出来ません。」

と、いつもの調子でエリーは答える。










それから、お互い一定の距離はあるものの、エリーが間に入り説明を始めた。

「簡潔にお話致します。フェンネル様は水魔法だけでなく光魔法も使う2つの能力を持った方です。よってお立場上、そのことは内密にしておりました。2つの能力の持ち主は貴重であるがゆえ、狙われやすいのはご存知ですね。ですから、あまり屋敷外には出ず過ごされておりました。なので、プレス様があまりフェンネル様のことを存じ上げないのはその為だと思います。…納得して頂けましたか?」

エリーはプレス様を見据えながら淡々と発言している。

「(なんだろう…凄く丁寧に説明しているはずなのにエリーから威圧感半端ないんだけど…。あのプレス様でさえ若干大人しくなってるし…。)」

暫く黙っていたプレス様だったが、納得したように呟いた。

「…やはり2つの能力が…。そうだったのか…フェンネル、すまない…。君を疑って散々、侮辱した発言をしたことを撤回する。」

プレス様はさっきのことが嘘の様に静かに謝ってきた。

「アミリスもカラマスも私にとっては大事な孫なんじゃ。その2人が一気に婚約すると聞いて寂しくなって………本当に相応しい相手か確認したかった。ロザリーナは昔から婚約の話が出ておったからどんな子か知っておったが、君のことは殆ど分からない状態だった。それに追い打ちをかける様に君が王族に取り入ろうとしているという噂を聞いて…大人気なくすまない…。」

「(えっ!?何それ!?そんな噂に左右されてたの!?いや…でも宰相様だからその辺過敏に反応しちゃうのかな…?それにしても、この人どんだけだよ。僕、殺されそうだったんだけど…!)」

僕は珍しく怒っていた。いつもはそこまで怒らないが、きっと姉様を疑われたのがショックだったんだと思う。

僕はプレス様に一礼し、

「プレス様、長い時間、滞在して申し訳ありませんでした。婚約の話しは白紙となりましたのでご安心下さい。僕はもう帰ります。失礼しました。」

僕はそう告げるとプレス様の横を通り抜け扉へと急いだ。
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