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第1章

29. 姉様!

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僕は動揺しながらも、

「そういうことってどういうこと!?ダメダメ!兄弟でそんなことしたら!好きな人とキスはするものだよ!」

も後退りながら言う。

「フェル、逃げないでよー。軽くチュッとするだけだからー。」

とジワジワ追いかけてくる。

「それがダメなのー!ディル兄様も僕じゃなくて好きな人とキスしてよー!
(是非その姿を見せて下さいー!)」

そこまで言ったがディル兄様に捕まった。たかがベッドの上で逃げれる範囲なんて限られている。僕は自然と兄様を見上げた。するとそれまでおどけていた兄様の顔が真剣になった。

僕がドキッとして固まると、

「私が今からキスする人が好きな人だよ。」

と言って顔を近づけてきた。

「(わー!僕のファーストキスー!)」

と思い、ギュッと目を瞑るとバンッ!と部屋のドアが開いた。

「フェルー!セイボリー様が挨拶に来る日が決まったわよー!」

とロザリーナ姉様が豪快に入ってきた。

僕とディル兄様は後10cmくらいでキスしてしまう距離で固まる。

「あら?ディルも来てたの?」

幸い姉様から僕達の位置はディル兄様で僕が隠れている状態だったのでキスされそうになっていたとは気付いていない。

「(助かったー。)」と僕が安心していると「チッ!」と舌打ちをするディル兄様。

不機嫌な顔を隠そうとはせず「何?姉様?」と文句を言う。

「なんでディルが怒ってるのよ。私はフェルに用があるの。フェル、セイボリー様が挨拶に来る日が決まったの。急なんだけど2日後の正午ごろよ。一緒にランチを食べましょう、ってことになったわ。その日は父様、母様、私、フェルで食事をするからね。覚えておいて。」

「うん!姉様ありがとう!」

僕は意図的ではないにしろ、結果的に助けてくれた姉様に満面の笑みでお礼を言った。

「どういたしまして!」と姉様は意気揚々と部屋を出て行く。兄様をチラッと見るとブスッとした顔をして「気が削がれた。」と言い出ていった。





「(うわー!危なかったー!僕のファーストキス奪われるところだった!いや、それほど大切にしてるわけじゃないけど、あんな形で奪われるのは嫌だよ。はぁー…ディル兄様、手が早いんだから…。)」

と僕はグッタリしてそのまま寝入った。






それから2日、何事もなく日々を過ごした。ディル兄様にまた部屋に入ってこられるかとビクビクしたが、それもなくセイボリー公爵様との挨拶の日を迎える。

「フェル、緊張してるの?」とクスクス笑っているロザリーナ姉様。

「大丈夫よ。セイボリー公爵様はとてもお優しくて素敵な方だから。」と母様にも言われた。

僕は緊張をほぐす為、

「ちょっと僕、裏庭に行って休んでくる!ちゃんと約束の時間には戻ってくるから!」

と言い席を立った。

裏庭に来た僕は母様が育てているハーブ園の近くのベンチに座る。

「(はぁ…何で僕こんなに緊張してるんだろ…。姉様の婚約者なのに。なんか嫌な予感がするんだよなぁ…。)」

そう考えていると、後ろから「オイッ!」と声を掛けられた。振り返ると知らない男の子。

「(僕と比べれば年上だろうけど10~12歳くらいかな?誰だろ…?)」

と僕が不思議に思っていると「お前、ここの家のやつか?」と聞かれた。

「そうですけど…。」と答えると「じゃあここにロザリーナ・ローランドっていう女がいるだろ。」と言う。

「(ロザリーナ姉様のこと?)
はい、います。」

「俺、そいつの婚約者の弟でカラマス・セイボリーって言うんだ。なぁ、お前から見てそいつはどんな奴なんだ?俺の大事な兄様に相応しいと思うか?」

と聞かれる。

「(えっ…セイボリー様の弟なんだ…てか今"大事な"って言った!?それは兄弟としてですか!?それとも…!うわーヤキモチですか!?ありがとーございまーす!)
姉様はとても優しくて明るい人ですよ。セイボリー様にお会いしたことはありませんが、きっとお似合いの2人になると思います。」

と僕は自信を持って答えた。

「(だって姉様、いい人だもん!)」

するとカラマス様は「うーん…。」と悩み始める。

「どうかされましたか?」

「…俺と兄様は歳が離れてるんだ。だから兄様は俺に甘い…と思う。俺もそれじゃダメだとわかっているんだが、甘やかされることに慣れてしまって…このまま兄様が婚約して俺が1番じゃなくなるのが正直嫌だ…。なぁ、俺はどうしたらいいと思う…?」

と不安そうに聞かれる。

「(おぉ~!年の差兄弟あるある!お兄ちゃんが取られちゃう!ってやつね!)
そうですね…今まではセイボリー様にとってカラマス様が1番だったと思います。でも、婚約は決定してしまっているのでカラマス様のにとっての1番を別で探されたらどうですか?」

「俺の1番か…例えば、どんなやつがいいんだ?」

「えっ…それはカラマス様が好きになった人では…?」

僕は質問の意味がわからず、そう答えた。

「俺、今まで誰も好きになったことがない…。」とポツリと言う。

「そっ…そうなんですね。では、これから探しても遅くはないですよ、一緒に頑張りましょう!」

「…ありがとう…一緒に、ってお前は好きな人はいないのか?」

「えぇ、探し中です。」と答えておく。

「あの…もうそろそろセイボリー様にご挨拶する時間なんですが、よかったらご一緒に部屋に行きませんか?」

「あっ!そうだった…。挨拶するのが嫌で逃げてきたんだった。あぁ、悪いが一緒に行かせてもらう。」

それから部屋に着くまでの道程でカラマス様に「なぁ、お前なんでそんな男みたいな格好してるんだ?」と言われ固まった。
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