上 下
215 / 215
番外編【ディル編】

12. 王妃生活9

しおりを挟む
「あれ…?お父様、お母様。どうしてここに?」

彼は私達を見つめながら未だに状況が分からないらしい。それはそうだ、彼はまだ齢5歳になったばかり…大人でもいきなり違う場所に現れたら驚いて身を固めるだろう。

「マスト、安心して。私が頼んで魔術師様にマストを呼んでもらったんだ。今から私の母国ローゼバーグへ行くよ。」

彼を抱きしめながら告げると彼は驚きながらも「今から…⁉︎凄い!初めての家族旅行だね!」と声を上げた。

しかし…

「でも…ッ!」と急に彼の表情が曇る。

「どうしたんだ?旅行に行くのは嫌?」

さっきまでの嬉しそうな顔は何処へ。

「ううん、旅行に行くのは嬉しい!けど、お母様のお腹には赤ちゃんがいるでしょう?…お母様、大丈夫?」

私を労ってくれるその言葉に先程までの自分の行動が恨めしい。

私はなんてことを…。あの軽率な行動でもしかしたらこの子を失っていたかもしれないのに…!

私はギュッと息子を抱き締めると「大丈夫、心配してくれてありがとう。」とお礼を告げた。





「さぁ、そろそろ向かいましょうか?」

魔術師の彼女の言葉にハッとすると彼女に近づく。

「今から魔法陣を描くから、そこに入って。帰りはその魔法陣の上に3人が乗った時点で発動するようにしておくから。準備はいい?」

「「ありがとう、アークレット様」」

彼女は無言で頷くと杖を一振りした。








眩しい光に包まれ私達が目を開けると聞こえてきたのは赤ん坊の泣き声だった。おや?と思い目を凝らすと目の前には懐かしい顔ぶれが驚いた表情でこちらを見つめていた。

「ディル兄様!!!」

ああ…愛しいフェルの声だ。

声の方を向くと私の記憶に残る弟よりだいぶ大きくなった彼に抱き締められていた。

「ディル兄様!会いたかった!僕です、フェルです!」

彼は必死に弟だとアピールしてくるが、そんなこと言われなくても分かっている。

私は彼をギュッと抱き締め返すと「ただいまフェル、大きくなったね。」と額にキスを贈った。ヘヘッと照れ臭そうに笑うフェルを見ながら周りを見渡す。

「ディル様、お久しぶりでございます。」

相変わらずの行動の速さでいち早く彼女が挨拶に来た。

「エリー、久しぶりだね。長い間、フェルのお世話ありがとう。」

「いいえ、私はこの身が保つ限りこれからもフェンネル様を支えていくつもりです。」

そう力強く告げる彼女の心構えはあれから変わってないらしい。

「これからもフェルのこと宜しくね。」

にこやかに彼女と挨拶を終えると2人の赤ん坊を両腕に抱くサックルが近づいて来た。

「お久しぶりです、ディル王妃。」

相変わらず彼は獣人なだけあって大きい。私は見上げながら目線の先にある彼の優しい瞳と腕に抱かれる赤ん坊に目を落とした。

「この子達は君とフェルの子供かい?」

「はい、長女のベルと長男のネオンです。ベルは人型、ネオンは獣型です。フェル曰くネオンは光魔法が使えるかもしれないと…。」

さすがフェルの子供達だ…高い魔力を持って生まれたんだね。

「そっか…貴重な存在だね。これからも大事に育ててあげて。」

さらっと2人の頭を撫でてやり、加護を受けれるように祈る。

「はい、ありがとうございます。どうぞ、こちらにお掛け下さい。」

そう言われ3人でソファーに腰掛ける。お互いに自己紹介を改めてし、近況を報告し合った。

「それにしてもディル兄様がいきなり現れてビックリしたよ、でもどうやって…?」

「ああ、それは…。」

実は2人目を妊娠し長期移動が出来ない為、魔術師に転移を頼んでこちらまで来たことを告げる。するとフェルは自分の事のように手を叩いて喜んだ。

「わぁ!それはおめでたいね!でも、そんな中わざわざ来てくれてありがとう。僕も4人も産んだから出産の大変さは知ってるよ、兄様身体を大切にね?」

「ああ、ありがとう。フェルも4人も子育て大変じゃない?」

「うん、まぁでもエリーにも手伝ってもらってるし、旦那様が多いからそれにも助かってる。」

フェルは照れ臭そうにはにかむとサックルの方をチラッと見た。

「タジェット兄様の息子のタンジェリンは次男のホップの面倒をよくみてくれるし、サックルさんはこうやって双子のお世話をしてくれる。
…実は僕、双子を産んでから少し調子が悪かったんだ。だからサックルさんも過保護になっちゃって…。」

「…ッ!今は?」

「今はすっかり良くなったよ、元々産後の肥立ちが悪かったのも子供達に魔力を取られ過ぎちゃっただけだし。」

フェルは何事も無かったかのように告げるが、そんなこと滅多にない。

魔力が高過ぎるフェルでさえ、そんなことになったのならこの子供達の魔力は一体どれくらいなんだろう…。

将来が良い意味で怖く感じた。






その後、タンジェリンやホップ、タジェット兄様、カラマスも登場し久しぶりの再会を果たした。

魔法陣に乗り、3人で帰宅した私達は久しぶりの休息に安堵する。

「…楽しかったな、ディル、マスト。」

「うん、久しぶりに皆に会えて嬉しかった…。」

「皆さんに会うの初めてだったので緊張しました。あの人達が僕の従兄弟になるのですね、獣人も初めて見ました!」

マストは初めて見る獣人に興奮気味だ。私はそれを微笑ましく見ながらファーに凭れる。

「…ありがとう、私のワガママを聞いてくれて。」

「いいや、私にとってもいい機会だった。君の希望を聞くだけで叶えてあげられなかったから魔術師様にも感謝している。」

フッと困ったように笑う彼の言葉を聞いた時、途端にお腹に痛みが走った。

「いっ…痛たた…。」

「ディル⁉︎」
「お母様⁉︎」

思わずお腹を押さえて膝をつく。

「うぅ…陣痛かも…。」

「「えぇっ⁉︎」」

慌てふためく彼らを見ながら私の小さな笑いが溢れた。
しおりを挟む
感想 96

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(96件)

haku0220
2021.06.21 haku0220

や らク

解除
田中
2020.07.17 田中

11.入学式
で、縦書きにしたら5ページの所の最初に

「()」の最後?の部分「(〜よし!頑張るぞ!」

みたいになってましたよ〜!
分かりにくくて、すみません💦

解除
あお
2020.01.07 あお
ネタバレ含む
ミイ
2020.05.04 ミイ

あお様
コメントありがとうございます!(^^)
本編が終わって番外編をUPしてたのですが、なかなか筆が進まずかなりの時間が経ってしまいました…!
ですが、こうやってコメントいただけると励みになります!
また更新することがあれば、宜しくお願いします!

解除

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?

青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。 そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。 そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

迷子の僕の異世界生活

クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。 通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。 その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。 冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。 神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。 2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。