次期魔王の教育係に任命された

ミイ

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第3章

65. 大人

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それから数日…僕の耳にも聞こえるくらい心拍の音が聴こえてきた。

もう…そろそろかな…?

僕はゆっくりと生命の樹木に近付くとそっと手を添える。

「モリオン…元気に生まれてきてね。」

幹を撫でながらそう僕が零した瞬間、僕の声に反応する様に樹木がカッと光り、室内全体を照らす。その眩しさに思わず目を閉じ、光りが収まるのを待っていると突然腕を引かれた。

「わっ!」

びっくりして声を上げると誰かの広い胸板に頰が当たる。恐る恐る顔を上げると若干、性徴前の面影を残したモリオンの姿があった。

「…モリオン?」

僕の呼びかけに彼はうっすらと微笑むと「うん、そうだよ。」と告げる。

あれ…?なんだろう…大人になったせいか雰囲気が…。

僕はモリオンの急成長に戸惑いながらも機嫌良さげに僕を抱き締める彼を止めることは出来なかった。







「あの…どうなっているのですか?」

ネフライトは一瞬驚きを見せた後、僕とモリオンを交互に見ながら訝しげな表情をする。何故なら僕は今、モリオンの胡座をかいている足元に座らされ背後から抱きかかえられている状態の体勢だからだ。

彼は先程からネフライトに見せつけるかのように僕の首筋に頰を擦り付けたり、つむじにキスをしたりしてくる。以前のモリオンでは考えられないような態度に溜息をつきながら注意をし続ける。

漸く落ち着いた頃にはモリオンは子供を抱き上げるように僕を抱えると「さぁ行こう。」と歩き出す。早急な動きに反応できずにいるとあっという間にモリオンの部屋に辿り着いた。

えっ…モリオンってこんなことする子だったっけ…?

よく分からないままベッドに下ろされ隣に腰掛ける彼を見つめるとモリオンが口を開く。

「ショウ…俺から離れていかないで、ずっと側にいて…。」

やっとまともに会話できたと思えば、この言葉だ。

この数年間、僕が余所余所しい態度を取っていたせいか彼は僕を繋ぎ止めることに必死だ。

「モリオン…僕は…。」

このまま理由を言ってしまおうか。いや、でもそんな事をしたら彼はショックを受けるだろう。どんなに言葉を重ねても彼にとっては僕が人間界に行きたいが為にモリオンを育てたように感じるはず。そんな勘違いをされるくらいならこのままモリオンには理由は告げない方がいいのかもしれない。

僕は困ったように彼の名を告げると首を横に振る。

するとモリオンに肩を掴まれ「なんで⁉︎」と叫ばれた。その表情は怒りと哀しみが入り混じっている。

なんと言えば正解なんだろう…何にも思い浮かばない。今は素直にモリオンの性徴を喜んであげたいのに掛ける言葉も見つからない。

そうやって動揺している内に彼は掴んでいた手を下ろすと「もういい…。」と言って部屋を出て行ってしまった。
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