悪役令嬢の弟

ミイ

文字の大きさ
上 下
50 / 154

50. 怪我

しおりを挟む
皆、その声に立ち止まりシトロが飛び出して来た時には目を丸くした。

更にシトロが飛び出して来たのはちょうど僕とアンジェリカ様が歩いていた場所で、彼の傾いた身体は彼女とぶつかりそうになる。僕は思わず彼女を突き飛ばした。すると、その反動で僕がシトロとまともにぶつかってしまい、2人であっと言う間に山道の斜面に落ちてしまった。

僕はその時、何故かシトロに対して"守らなければ"という気持ちが働き、彼を抱き込む。きっと反射的に攻略対象である彼を庇わなければと思ったのだろう。

2人して斜面を転がる様に落ちていく。

落ちている最中は何も考えれず、背中や肩を打ち付け、ただただ痛みだけを感じていた。

そしてそれが止んだ頃、僕は彼を抱き締めたまま目を開ける。節々が痛くておもわず唸った。その声にシトロも「大丈夫か!?」と声をかけてくる。

僕は唸りながらも「…はい。」と答え、彼を解放する。彼は僕から這い出ると「ここは…?」と呟く。

すると上から「トルー様!シトロ様!大丈夫ですかー!」とセイロンの声が聞こえた。それに僕は大丈夫だ、と声をあげようとしたが、打ち付けた身体は思ったよりも重く咳き込んでしまう。その様子に代わりにシトロが「大丈夫だ!」と叫んでくれた。

セイロンはそれから「マリタイム様が助けを呼びに行ってくれています。少しだけそこで待っていて下さい!」と続ける。

僕はやっと上体を起こしたが状況は思ったよりも厳しい。

「(…左腕が折れてるかも…。そういえば落ちている時、左腕に何か固いものが当たってかなり痛かったような…。)」と他人事のように考える。

シトロはこちらを見ると「お前、怪我は!?」と聞いてくる。

この際、シトロには黙っている方がいいだろう。

僕は「左腕が少し痛いですが、大したことありません。それよりシトロ様は…?」と伺う。

「…俺はなんともない。誰かさんに羽交い締めにされていたからな。」

とツンっとした態度をとる。

「あっ…ああ、そうですね…失礼しました。僕の名前はトルー・バルサムです。シトロ様にお怪我がなくて良かったです。」

「そうか…お前も大したことなくて良かったな。」

「ええ、お気遣いありがとうございます。あの…良ければ助けを待つ間、あそこの木陰に行きませんか?
(流石にこの腕じゃあどうしようもないし休みたい…。)」

「わかった、あっちへ行くとしよう。」

そう返事をした彼はそそくさと移動し、僕もそれに続いて一歩を踏み出した。
しおりを挟む
感想 121

あなたにおすすめの小説

目覚めたそこはBLゲームの中だった。

BL
ーーパッパー!! キキーッ! …ドンッ!! 鳴り響くトラックのクラクションと闇夜を一点だけ照らすヘッドライト‥ 身体が曲線を描いて宙に浮く… 全ての景色がスローモーションで… 全身を襲う痛みと共に訪れた闇は変に心地よくて、目を開けたらそこは――‥ 『ぇ゙ッ・・・ ここ、どこ!?』 異世界だった。 否、 腐女子だった姉ちゃんが愛用していた『ファンタジア王国と精霊の愛し子』とかいう… なんとも最悪なことに乙女ゲームは乙女ゲームでも… BLゲームの世界だった。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

攻略対象者やメインキャラクター達がモブの僕に構うせいでゲーム主人公(ユーザー)達から目の敵にされています。

BL
───…ログインしました。 無機質な音声と共に目を開けると、未知なる世界… 否、何度も見たことがある乙女ゲームの世界にいた。 そもそも何故こうなったのか…。経緯は人工頭脳とそのテクノロジー技術を使った仮想現実アトラクション体感型MMORPGのV Rゲームを開発し、ユーザーに提供していたのだけど、ある日バグが起きる───。それも、ウィルスに侵されバグが起きた人工頭脳により、ゲームのユーザーが現実世界に戻れなくなった。否、人質となってしまい、会社の命運と彼らの解放を掛けてゲームを作りストーリーと設定、筋書きを熟知している僕が中からバグを見つけ対応することになったけど… ゲームさながら主人公を楽しんでもらってるユーザーたちに変に見つかって騒がれるのも面倒だからと、ゲーム案内人を使って、モブの配役に着いたはずが・・・ 『これはなかなか… 面白い方ですね。正直、悪魔が勇者とか神子とか聖女とかを狙うだなんてベタすぎてつまらないと思っていましたが、案外、貴方のほうが楽しめそうですね』 「は…!?いや、待って待って!!僕、モブだからッッそれ、主人公とかヒロインの役目!!」 本来、主人公や聖女、ヒロインを襲撃するはずの上級悪魔が… なぜに、モブの僕に構う!?そこは絡まないでくださいっっ!! 『……また、お一人なんですか?』 なぜ、人間族を毛嫌いしているエルフ族の先代魔王様と会うんですかね…!? 『ハァ、子供が… 無茶をしないでください』 なぜ、隠しキャラのあなたが目の前にいるんですか!!!っていうか、こう見えて既に成人してるんですがッ! 「…ちょっと待って!!なんか、おかしい!主人公たちはあっっち!!!僕、モブなんで…!!」 ただでさえ、コミュ症で人と関わりたくないのに、バグを見つけてサクッと直す否、倒したら終わりだと思ってたのに… 自分でも気づかないうちにメインキャラクターたちに囲われ、ユーザー否、主人公たちからは睨まれ… 「僕、モブなんだけど」 ん゙ん゙ッ!?……あれ?もしかして、バレてる!?待って待って!!!ちょっ、と…待ってッ!?僕、モブ!!主人公あっち!!! ───だけど、これはまだ… ほんの序の口に過ぎなかった。

悪役令嬢の双子の兄

みるきぃ
BL
『魅惑のプリンセス』というタイトルの乙女ゲームに転生した俺。転生したのはいいけど、悪役令嬢の双子の兄だった。

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ
BL
「君は死にました」 「…はい?」 「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」 「…てんぷれ」 「てことで転生させます」 「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」 BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

処理中です...