悪役令嬢の弟

ミイ

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32. 戸惑い

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帰宅早々、僕はその花束をイモーテルに渡し、花瓶に生けてもらうように頼む。

イモーテルは「畏まりました。」と受け取ると用意し始めた。

しかし、生け終わると「トルー様…これはどなたから頂いたのですか。」と不安そうな顔で聞いてくる。

「えっ?今日、学校の先輩に家に招待されたから、その帰りにもらっただけだよ…?」

僕がそう返事するとイモーテルは「左様でございますか…。」と哀しそうな顔をする。

「(えっ…何?なんで哀しそうな顔してるの?チューリップ貰ってきたらダメだった!?)
あの…イモーテル…これ貰ってきたらダメだった…?」

と今度は僕が不安になる。

するとイモーテルは慌てて「いえ!そうではありません!」と告げてきた。

「でも…哀しそうな顔してたよね…?」と僕が詰めると「あの…トルー様…私は。」と言いかけたもののそれ以上、何も言わず黙ってしまう。

僕は暫くイモーテルの言葉を待ったが、イモーテルは視線を巡らせるだけで言葉を発しない。

僕は「…わかった…言えないようなことを無理に聞くことはしないよ。何か分からないけど僕がイモーテルを傷付けたみたいだから謝るね、ごめんなさい。イモーテルはもう下がっていいよ。少し疲れたから休みたい。」と告げる。

「あっ…トル「イモーテル、お願い。」

と僕はイモーテルに初めて内緒事をされてショックを受け、その時のイモーテルの表情を見ることは出来なかった。





その日の晩、僕は先程の出来事を引きずってか夕食では口数が少なかったらしい。父様や母様に心配された。

そして夕食を終え、部屋に戻る際、サンバックに呼び止められる。

「トルー、この後時間があったらお前の部屋に行ってもいいか?」

「えっ…うん、いいよ?」

僕は突然どうしたんだろう、と思いながらもサンバックを招き入れる。

「どうぞ。」とソファーへ促し、紅茶を用意した。

「兄様…どうしたの?」

「…それはこっちのセリフだな。トルーこそ、どうした?」

サンバックにはお見通しのようだ。

「んっ…うん…大したことはないんだけど、自分でも思ってたよりショックだったというか…。」

「うん…。」

とサンバックは最後まで静かに話を聞いてくれた。

オール様に誘われて家に遊びに行き、チューリップ畑を見たこと、歴史の話などをして楽しかったこと、帰りにチューリップをもらったこと。

「ねぇ、兄様。この話で何処か怒るところってある?イモーテルにはココまで話をしてないけど、花束を生けてって頼んでから様子が変なんだ。」

「…いや、話だけ聞いたら特に何もないが…花束というのはアレか?」

とサンバックはベッドサイドに生けてあるチューリップに目線をやる。

「うん、そうだよ。」

「…成る程な…。」

とサンバックは納得したように溜息を吐く。

「えぇ!?兄様、分かったの!?
(えっ!凄い!なんで?)」

僕のその様子にサンバックは苦笑いになると「ああ、むしろ少しイモーテルが不憫に思えてきた。」と告げる。

「…まぁイモーテルの気持ちも分かるが、こればっかりは俺もアドバイスは出来ないな。」

とサンバックは立ち上がると僕の頭を撫で部屋を出て行こうとする。

「あっ!兄様待って!まだ理由を聞いてない!」

「トルー、明日には教えてやるから今日はイモーテルの為に悩んでやれ。ではな。」

とサンバックは言い残して部屋を出て行く。

1人残された僕は「(えっ…?)」と思いながらサンバックの出て行った扉を見つめた。
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