悪役令嬢の弟

ミイ

文字の大きさ
上 下
18 / 154

18. クッキー

しおりを挟む
早速ブルーマリーを誘って厨房へ向かう。

料理長やその他料理人は僕とブルーマリーの登場にいくらか驚いていたが、直ぐに手を動かし始める。

「トルー様、ブルーマリー様、如何なさいましたか?」

料理長のフランさんが声を掛けてくる。

「フランさん、お仕事中すみません。少し厨房の隅とどなたかお手隙の方を1人、貸して頂けませんか?」

「えっ…あっ…はい。私で良ければお手伝い致しますが、何を…?」

「今からチョコクッキーを作りたいと思いまして。僕も姉様も初心者な者ですから、お手伝いして頂こうと思って…大丈夫ですか?」

「ええ、そんなに材料は使いませんし…。」

とフランさんは快く了承してくれたが、その顔は「何故、急に…?」と物語っていた。

とりあえず事情説明は後回しにして先に作り始める。クッキーを焼いている間に説明はしたら良いだろう。

「まずは材料を計量し、ボールに入れ混ぜ合わせます。あとは形成して焼くだけです。とても簡単なので初心者でも出来ると思います。」

フランさんのその声を聞き、僕は「姉様、さぁやりますよ!」と促した。

姉様はフリフリのドレスの袖を捲りあげ、ヘラをグルグルと掻き混ぜながら生地を作っていく。

「ふぅ~。」と言いながら生地が完成した為、そこからは僕も手伝って型を取る。

基本は丸型で何個かだけハートを作る。

「姉様、これが上手く焼けたらルート様にお渡ししましょうね。」

「ええ…ルート様、喜んでくれるといいけど…。」

僕はその光景を見ながら「(ブルーマリーって悪役令嬢だけど、ヒロインがルート様と仲良くならなかったらそんなに言うほどキツイ性格でもないのか…?いや、でもこれ乙女ゲームだしな…なんだかんだ事件は起きるんだろ…。)」と溜息を吐いた。





僕はクッキーが焼き上がったら声を掛けるということにして姉様には部屋に戻ってもらう。

姉様の姿が見えなくなるとフランさんに「トルー様?ブルーマリー様はどうされたんですか?」と心配される。

「急にゴメンね、フランさん。最近、姉様がルート様とあまり上手くいってなくてね…。だから姉様手作りのプレゼントをあげたら少しは修復されるかな、って。これを機にまたデートとかしてくれたらいいんだけど…。」

「…そうでしたか、それを聞いて納得しました。とても良いことですね。きっとルート様も喜んでくれるでしょう。」

「フランさんもそう思う?良かったぁ…。」

と僕はホッとする。

「あっ、そうだ!手伝ってくれたお礼をしなきゃだね?大事な材料も使っちゃったし…何かある?フランさん?」

「えぇ…そんないいですよ、私は材料を揃えただけですし…。」とフランさんは手をぶんぶんと振って拒否する。

その時、チンッ!とオーブンの音が鳴り、クッキーが出来上がった。

僕は冗談で「じゃあクッキーをアーンしてあげようか?」と笑うとフランさんはカァァと顔を赤くする。

「(40代の髭面のおじさんの赤面って可愛いな。)」とマジマジと見ていると「じゃあ、それでお願いします…。」と恥ずかしそうに言われた。

「えっ!?そんなことでいいの?」

「えっ…ええ…トルー様が良ければ…。」

「ん…分かった。じゃあ夕食後、僕の部屋に来てくれる?僕も本当は今すぐクッキー食べたいんだ。でも今からクッキー食べちゃうと折角の夕食を残してしまいそうだし…夕食後なら心置きなく食べれるよ!」

すると、フランさんは「トルー様の部屋にですか!?」と驚き、またもや赤面する。

僕は「お互いにアーンしようね!」と笑いながら告げると姉様を呼びに戻ることにする。



「(フランさん、可愛かったなぁ!あんなに赤面するなんて。てか、こんな地味顔の僕でゴメンよ、きっともっと美人に言われたいだろうに。まぁアーンに関しては冗談だから置いといて、食後は美味しいクッキーと紅茶を堪能しますか!)」と意気揚々とブルーマリーの部屋に向かった。




その後は厨房で冷ましたクッキーをラッピングし、いくつかの袋に分けた。

ブルーマリーは勿論、ルート様の分。

僕は形の悪い物と残りを貰い、袋詰めしていく。

「(サンバックの分、イモーテルの分、オール様の分…あとは父様、母様の分と。よし!あとの形の悪いのはフランさんと食べよーと。)」

そして、夕食を食べ終え入浴を済ました頃、部屋の扉がノックされる。

「はーい。」と返事をして扉を開けるとワゴンを押して来たフランさんが立っていた。

「えっ?どうしたんですか?この準備…?」

「あの…クッキーを食べるということだったので紅茶の準備をして来ました。」

「わぁ!ありがとうございます!僕、ちょうど飲みたかったんです!さぁさぁ、中へどうぞ!」

とフランさんを中に招き入れる。

フランさんは所在無さげに入り口付近に立ち尽くしていた。

「フランさん、リラックスして下さい。僕達しかいないんですよ?」

「あぁ…はい…。」とフランさんは余計にカチコチした動きでソファーへ座る。

僕は早速、紅茶の準備に取り掛かったが、いつもイモーテルが準備してしまう為、イマイチやり方が分からない…。

「あのぉ…フランさん…申し訳ないのですが、紅茶の淹れ方、教えてもらえませんか?」

しおりを挟む
感想 121

あなたにおすすめの小説

目覚めたそこはBLゲームの中だった。

BL
ーーパッパー!! キキーッ! …ドンッ!! 鳴り響くトラックのクラクションと闇夜を一点だけ照らすヘッドライト‥ 身体が曲線を描いて宙に浮く… 全ての景色がスローモーションで… 全身を襲う痛みと共に訪れた闇は変に心地よくて、目を開けたらそこは――‥ 『ぇ゙ッ・・・ ここ、どこ!?』 異世界だった。 否、 腐女子だった姉ちゃんが愛用していた『ファンタジア王国と精霊の愛し子』とかいう… なんとも最悪なことに乙女ゲームは乙女ゲームでも… BLゲームの世界だった。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

攻略対象者やメインキャラクター達がモブの僕に構うせいでゲーム主人公(ユーザー)達から目の敵にされています。

BL
───…ログインしました。 無機質な音声と共に目を開けると、未知なる世界… 否、何度も見たことがある乙女ゲームの世界にいた。 そもそも何故こうなったのか…。経緯は人工頭脳とそのテクノロジー技術を使った仮想現実アトラクション体感型MMORPGのV Rゲームを開発し、ユーザーに提供していたのだけど、ある日バグが起きる───。それも、ウィルスに侵されバグが起きた人工頭脳により、ゲームのユーザーが現実世界に戻れなくなった。否、人質となってしまい、会社の命運と彼らの解放を掛けてゲームを作りストーリーと設定、筋書きを熟知している僕が中からバグを見つけ対応することになったけど… ゲームさながら主人公を楽しんでもらってるユーザーたちに変に見つかって騒がれるのも面倒だからと、ゲーム案内人を使って、モブの配役に着いたはずが・・・ 『これはなかなか… 面白い方ですね。正直、悪魔が勇者とか神子とか聖女とかを狙うだなんてベタすぎてつまらないと思っていましたが、案外、貴方のほうが楽しめそうですね』 「は…!?いや、待って待って!!僕、モブだからッッそれ、主人公とかヒロインの役目!!」 本来、主人公や聖女、ヒロインを襲撃するはずの上級悪魔が… なぜに、モブの僕に構う!?そこは絡まないでくださいっっ!! 『……また、お一人なんですか?』 なぜ、人間族を毛嫌いしているエルフ族の先代魔王様と会うんですかね…!? 『ハァ、子供が… 無茶をしないでください』 なぜ、隠しキャラのあなたが目の前にいるんですか!!!っていうか、こう見えて既に成人してるんですがッ! 「…ちょっと待って!!なんか、おかしい!主人公たちはあっっち!!!僕、モブなんで…!!」 ただでさえ、コミュ症で人と関わりたくないのに、バグを見つけてサクッと直す否、倒したら終わりだと思ってたのに… 自分でも気づかないうちにメインキャラクターたちに囲われ、ユーザー否、主人公たちからは睨まれ… 「僕、モブなんだけど」 ん゙ん゙ッ!?……あれ?もしかして、バレてる!?待って待って!!!ちょっ、と…待ってッ!?僕、モブ!!主人公あっち!!! ───だけど、これはまだ… ほんの序の口に過ぎなかった。

悪役令嬢の双子の兄

みるきぃ
BL
『魅惑のプリンセス』というタイトルの乙女ゲームに転生した俺。転生したのはいいけど、悪役令嬢の双子の兄だった。

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ
BL
「君は死にました」 「…はい?」 「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」 「…てんぷれ」 「てことで転生させます」 「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」 BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

処理中です...