悪役令嬢の弟

ミイ

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その後、結局ヒロインは授業が終わるまで教室に戻って来なかった。

僕はいそいそと教科書を鞄に仕舞い、帰宅の準備をする。

すると僕は担任に呼ばれ、隣というだけで今日配られたプリントとヒロインの鞄を保健室に持って行ってくれ、と頼まれた。

僕は正直「(面倒臭いな…。)」とも思ったが、ヒロインの様子も気になるところだったので引き受けることにする。

保健室の前に着くとドアに"不在"という看板がしてあった。

「(ヒロインが中に居るはずだけど…まぁ鍵がしてあったら職員室にでも行くか…。)」と思い、ドアに手をかける。

僕が開けようとしたその瞬間、中から「なんでよ!?」とヒロインの声がする。

「(どうしたんだろう?)」と思い耳を傾けると更に「ゲーム通りにいかないじゃない!?」と叫んでいた。

その瞬間、僕は理解した、ヒロインも転生者なのだと。

しかし、ヒロインの発言からコレはあまり良くないパターンの転生者なのではないか…?と瞬時に思う。

僕の中で良くない転生者と言えば、攻略対象に片っ端からアプローチして逆ハーレムを作ろうとする人とか、この人がダメならこの人、じゃあ次という風にコロコロ変えたりするのもあまり好ましくないと思っている。

「(まぁそれが乙女ゲームの醍醐味っていうのも知ってるけどねー…。)」

僕は不安になりながら更に耳を傾けた。

すると「保健医も隠れ攻略キャラなのにー!」と悔しがっている声も聞こえる。

僕は暫くヒロインの様子を見、頃合いを見つけてワザとドアをノックする。

「バイオレット様、失礼致します。」

と音を立てて中に入る。ヒロインは寝たふりをしていた。

僕はあからさまな独り言で「どうしよう…先生にプリントと鞄を渡すように頼まれてたんだけど…眠ってるなぁ…。」と話し、ヒロインを見つめる。

するとヒロインの瞼がゆっくりと開き「まぁバルサム様、如何なさいましたか?」と、さも、今起きました、かのような態度を取る。

僕は内心、笑いを堪えながら「あの、先生から頼まれてプリントと鞄を持ってきました。体調は如何ですか?」と窺った。

ヒロインは「もう大丈夫です、ゆっくり休ませてもらいましたので。」と微笑みながら応える。

「そうですか、ではこちらに荷物を置いておきますね。保健の先生にも僕から連絡しておきますのでご安心ください。」

と伝え、僕は保健室を後にした。





僕は保健室のドアを閉めると「(これはヤバイかも…。)」と頭を抱える。

僕は始めから没落ルート回避の為、ヒロインとブルーマリーを仲良くさせようとしていた。しかし、ヒロインが同じ転生者でなおかつ、あまりよろしくない転生者だとブルーマリーの婚約者であるルート様も狙おうとするだろう。

そうなると僕の没落ルートが確定してしまう…。

「(ただあのヒロインの口ぶり…まだ上手くゲームをやり込んでないのかも…。いや、逆にやり込んでるから保健医ルートを知っているのか…?)」

とゲームに詳しくない僕は不安を抱えたまま帰宅した。






家に帰ると久しぶりにルート様が来ているという。

前回来てから数ヶ月ぶりの来訪だ。

僕は久しぶりの再会に挨拶だけでも、と思いサンバックの部屋をノックする。

「兄様、トルーです。ルート様がお見えになったと伺ったのですが挨拶だけでも宜しいですか?」

暫くドアの前で待っていると返事もないのに突如ドアが開き大きな身体に抱き締められた。

「(うおっ!)」

僕は内心驚いて声を漏らしたが、実際は抱き締められている状態に身を固まらせていた。

「はぁ~…トルーだ…癒される…。」と肩口を頭でグリグリされる。

こんなことをするのは1人しかいない。

「…ルート様?」

「うん!久しぶりだね、トルー!最近、忙しくて、あまり会えなかったね?」といつもと変わらない笑顔で告げてくる。

それに僕も「お久しぶりです。体調は如何ですか?」と返す。

ルート様は相変わらず僕を弟のように可愛がってくれ、たまに会った時は甘いもの好きの僕の為に色んなお菓子を持ってきてくれる。

「体調は…あんまり良くないかな?寝不足…。今日は寝るのを返上してトルーに会いに来たよ?」

「…そうなのですか…?わざわざありがとうございます。お部屋をご用意致しましょうか?」

と僕はルート様の発言に「またまたぁ…。」と言葉を返す。

本来はルート様のその発言にもっと喜んだりするはずだが、ルート様は昔からこういう冗談を言う人なのだ。だから、いちいち反応してたら切りがない。僕は何年もからかわれたせいでこのようなルート様の発言には自然とスルーするようになった。

僕は未だにルート様に腰を抱かれている状態だが、あえて突っ込まずに話を続ける。
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