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24. 1人目のお客様

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それから僕はナックスさんの鬼の様な指導の元、なんとかそれらしく形になった。ナックスさん曰く、これくらい出来れば後は僕の技量次第だそうだ。




そしていよいよ明日、初めてのお客様を迎えることとなった。僕は再びナックスさんに呼ばれ控え室に腰を下ろす。

「いいですか、ヨウさん。明日は1番目にキーワ・メイローズ様をお呼びします。時刻は午後5時から。当店の仕組みを覚えていますか?」

「はい、お客様には前金で1晩分の料金を払ってもらい、次の日の朝9時までに退出。退出時間は制限時間内ならいつでも退出可能。ただし、一度退出すると特別な理由がない限り再び入ることは出来ない。またお客様に1晩分も料金を払ってもらう理由は娼夫の負担をなるべく減らす為である。これで合ってますか?」

「おおよそ、合っています。当店は娼夫が一度に何度もお客様を相手にすると身体への負担が大きくなるのでお客様は1日1人。少ない分、お客様にはそれなりの料金を支払ってもらう仕組みです。時間内にお客様が何度も身体を要求することがあれば無理しない程度に受け入れて下さい。しかし、どうしてもダメな場合は引き出しにあるベルを鳴らして下さい。その音が鳴ると合鍵で私達が助けに向かいます。」

「わかりました…。キーワ・メイローズ様をお相手するに当たって、気をつけなければならないことはありますか?」

「…なるべく怒らせないよう言葉選びしながら話して下さい、そしてキーワ様の前では他の男性の話はしないこと。あの方は嫉妬深いという噂です。」

「そうなんですね…気を付けます。
(大丈夫かなぁ…僕知らぬ間に思ったことを口に出す癖があるんだけど。)」

それによってロータスとリナロエが被害に遭っていることをヨースケは気付いていない。






次の日の夕刻、受付にキーワ・メイローズ様が現れたと知らせを受けた。僕は部屋で待機なので、その知らせを受け扉の前にスタンバイする。

暫く待っているとコンッコンッコンッと3度、扉がノックされた。

「お客様がお見えになりました、戸を開けて下さい。」

その呼びかけに「はい。」と応えると緊張しながらもドアノブを回す。

戸を開け、キーワ様の胴体辺りを見るとすぐに顔を伏せ、中へ促す。

「ようこそ、お越し下さいました。どうぞ中へお入りください。」

こういう娼館は初めて来た相手に対して、すぐに目を合わせてはいけないらしい。相手が顔を上げるのを了承して初めて目を合わすことができる。

僕が近くにあった椅子を引くとキーワ様は黙ってその椅子に腰掛け、長い脚を組んだ。扉はゆっくりと閉められ、僕は鍵を掛ける。

僕はキーワ様の組まれた脚を見ながら両手をおへそ辺りで纏めると「本日は当店にお越し下さり、誠にありがとうございます。私はヨウと申します、宜しければ私のことをヨウとお呼び下さい。メイローズ様、顔を上げても宜しいでしょうか?」と伺った。

すると「ああ。」と返事があったので顔を上げる。そこで初めて目が合った。キーワ様の目は赤かったが濃い赤の為、黒っぽくも見える。

僕はそれを見ながら「黒目って久しぶりに見たかも…。」と考え、すぐに目を逸らす。

「(あんまりジロジロと見たら失礼だよね…?)」

キーワ様は僕がすぐに目を逸らしたのが気に食わなかったのか「私が怖いか?」と聞いてきた。

思わず「そんなことはございません!」と答える。

「では何故、目を逸らす?」

キーワ様の目は疑わし気だ。

「メイローズ様がとても魅力的だからです…。」

この言葉に偽りはなかった。僕の好みである立派な体格に意志の強そうな目。髪の色は赤黒く、背中あたりまで無造作に長く伸びていた。

「魅力的か…。私は其方の好みであるということか。」

「はい…左様でございます。」

「なら、もっとこちらへ近付いて来い。いくらでも見せてあげよう。」

僕が大人しく近付いて行くと腰を抱かれる。キーワ様は椅子に腰掛けているので必然的に僕の方が頭1つ分強ほど高い位置に顔がある。キーワ様は軽く笑みを浮かべると僕の顔を下から覗き込んできた。

「ヨウ…其方はその様な顔をしていたのだな。私は先日、其方のとても甘美な匂いに惹かれたのだ。私はこの熱を持て余したまま店主に帰され、この匂いの主はどんな者だろうと想いを馳せたものだ。」

キーワ様はそう言って僕の頰を撫でる。

「…メイローズ様…こんな僕でガッカリ致しませんか?」

「何故…?」

「僕は…40を迎えたのに、とても子供っぽく見える容姿をしております。メイローズ様ともあろう方なら僕の様な者ではなく、もっとお綺麗な方がお似合いではないでしょうか…?」

そう自分で言ったにも関わらず落ち込んでしまう。キーワ様は僕のその発言に少し眉を寄せると「その様に自分を卑下するんじゃない。私は其方の匂いに惹かれたのだ、容姿など二の次だ、ヨウも気にするな。」

と言って優しく頰を撫でてくれる。僕はその答えを聞いてホッとしたように微笑んだ。
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