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第二部

28 真夜中過ぎの訪問者

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 角度を変えるたび、柔らかく開かれた愛妻の唇から銀糸が伝い、甘い吐息が耳朶じだをくすぐる。

 花のようにふんわりと赤く色づき、潤ったルーカスの唇に幾度となく触れ、互いの唾液を飲み込むほど深く重ね合わせる。

 抱き上げている愛妻の体は、ラーティより目線が少し高い位置にあり。湯船に引き戻されたその太腿は、そこに立つラーティの腰を挟み、膝下まで浸かっている。

 ようやく唇を離す頃には、ラーティの陰茎は最大まで膨らみ。たぎりきった雄が、強引に中へ入りたいと今にも暴れ出しそうなのを懸命に抑えているところで、潤んだ瞳で見下ろされた。

「──っ!」

 あおられているような感覚に、興奮に戦慄わななく体を極限まで制する。

 ラーティがさいなまれているなど、少しも気付いていない妻を抱き上げた手の先で、開かれた太腿の内側にそっと触れた。

 ぬめった陰部の中心にある蕾は、受け入れる準備がほとんどできている。けれど念入りに、少しずつ無骨ぶこつな指を埋め込む。

 羞恥に鳴く妻の背中を摩り、あやしながら、半ばまで埋まったところで優しく動かす。

 クチュックチュッと音を立てて、ラーティに反応して濡れていることを自覚させるように、揉みほぐしていく。すると、ルーカスは気恥ずかしそうにモジモジと身動みじろぎ、それからラーティの首筋に腕を巻き、強く抱きついてくる。

 普段毅然きぜんとした態度を崩さない、気高いルーカスらしくない可愛らしい反応に、体が熱くなる。柔らかい頬にキスをして、「愛している」と何度もささやき、暫く指先で妻の体を可愛がることを止めないでいたら──細身の体がビクリと反り上がった。

「あぁっ!」

 たおやかに快感に達した愛妻の麗しい姿に見惚れる一方で、しかしラーティの陰茎は少しの刺激にもこらえられないほど疼いていた。

 ……くっ、こちらもそろそろ限界か。

 イッたばかりの妻の蕾から、指をズルッと引き抜く。

 自身の首筋にしがみつくルーカスの尻を両手で優しくつかみ、いよいよ脈動する肉棒の上に引き下ろす。

「ぁっ……ぁっ……」

 傷付けないよう細心の注意を払いながら、蕾を限界まで開き、ズプズプと中に挿入する。

 一つに熱く溶け合っていく心地よさに、ルーカスの細腰が反射でビクビクとなまめかしくうねるのを押さえ、ラーティは最奥まで到達する。

 湯船よりも熱い肉棒に、陰部をぴったりと隙間なく繋がれたルーカスが、一人耐えるようにラーティから目をらした。

「ルーカス……?」

 体を震わせ、行為に涙ぐみながら、声を圧し殺し「待って」とルーカスが恥じらい懇願するのを聞いて、ラーティはゴクリと息を飲む。彼は中をミッチリと満たされた衝撃に、息も絶え絶えにしながら、それでもラーティのために必死に準備を整えているのだから。

 定期的にラーティを必要とするルーカスの子宮は、出産が近付くにつれて、渇望が収まり。ここ数ヶ月、夫婦の営みは軽く体を触れ合う程度だった。

 おそらく出産に向けて、体が順応していたのだろう。そして産後も収まっていた子宮の疼く感覚がルーカスに戻るのを、ラーティは待ち望んだ。が──それを向けられた相手は自分ではなかった。

 ラーティは喉の乾きを癒やすように、ルーカスの体に触れたい衝動を抑え、苦悶くもんの色を浮かべる。

 ──っ、体が……これではまるで、お預けを食らった犬だな。

 軽く息を止め、自身を落ち着かせるように、ゆるやかに吐き出す。

 静止して、少し待ってからルーカスを下からのぞき込む。目を細め「もう平気か?」と見つめる。彼は頰に含羞がんしゅうの色を浮かべ、コクリと頷いた。

 蕾は久しぶりの性交にも怯えた様子はない。従順に大人しく、ラーティを受け入れている。ただ、大切な妻として扱われることに、彼はどうしても戸惑ってしまうようだが……

「ルーカス、子を腹に宿したお前に触れられない間。私がどう耐えていたか、お前は知りたいか?」

「ラーティ様? ──っ!」

 掴んだ尻を緩やかに上下させると、互いの陰部を固定するように、ラーティの背中にからまったルーカスの両足にグッと力が入った。

「ふあっ、はぁっ、はぁっ、ラーティ、さまっ」

 愛液がしたたりずぶ濡れた、健気けなげな妻の蜜壺を、ラーティは打ち込んだ硬い頸木くびきでじっくりと突き上げる。ぱちゅっぱちゅっと、陰部の結合する水音が湯殿に絶え間なく響く。温水を揺らし、ラーティは妻を愛し続ける。

「知っているか、ルーカス。男のこれは、前に射精したものを掻き出すように形ができているのだそうだ」

 太く硬い、雄の印で突き上げられる激しさに、肩で息をするルーカスがこちらを見下ろす。しがみつき、全身にじんわりと汗をかきながら、恍惚こうこつに熱く潤んだ瞳でどういうことかと聞いてくる。

 ラーティは一旦いったん動きを止め、おもむろに口を開く。

「別の男が中に出した精液を掻き出し、己のモノではらませるための形だそうだ。他の男へ移り気を出した妻の陰部を、夫は定期的に突き、別の精子とは受精させないようにする。そして他にも、自分の妻であると自覚させるために、夫は妻のここを突くのだそうだ」

「ラーティ様……」

 それから少しして、行為の最中さなかであることを忘れたかのごとく、黙って話を聞いていたルーカスが、大人の様相ようそうで「なるほど」と返す。「それは初めて聞く事柄ですね」と生真面目に言って、彼はラーティの頬に触れた。両手で包み、大事な大事な宝物のようにラーティのひたいに口付け、コツンと額を合わせてくる。

「ルーカス……?」

「私は、最近よく思うことがあるのです」

 戦いに目覚めた戦士を思わせる、俄然がぜん凜々しい顔付きをした、黒い瞳の美しさに気圧けおされる。ルーカスは抱かれながら、いったいどのような答えを用意したというのか。

「私は貴方の子供なら何人でも欲しいのですが、」

 ルーカスは妖艶ようえんを交えた見透かすような目で、クスリと笑った。

「ラーティ様は子供が欲しくないのですか?」

「っ!」

 落ち着き払った物腰で述べたルーカスに、ラーティは目をみはる。確かに、可愛い子供達を見て、大勢いるのも悪くないとは思ったが。完全にしてやられた。

 淡々と、それも保護者の顔して言われてしまったがラーティも男だ。

「──決まっている。お前との子供なら元より何人でも欲しい」

 雄の顔をして返す。しかしルーカスは「それは良かった」と、にこやかに対応するのみ。本人は自覚していないが、非常に冴えた男だ。それも極上の。

「……お前は相変わらず、すこぶるいい男だな」

 静かに目蓋を閉じ、抱き合う体の奥底から湧いてくる支配欲に、ラーティは苦笑する。「本当にお前はそれでいいのか?」と再三視線を向けるも、温柔敦厚おんじゅうとんこうなルーカスの表情を崩すことはできない。

 ラーティはたぎる陰茎を、潤沢な苗床からズルッと引き抜いた。衝撃に甘い声を出したルーカスを丁寧に抱え直すと、湯船の縁に置いてあった近くの沐浴もくよく布を取り、更に移動する。

 湯船の深さは出口に近付くに従って、浅くなるよう設計されている。

 ラーティは自身の腰の位置が、湯船の縁より高いところまでいくと、快感にやわいだルーカスの尻から上を床に横たえた。

 湯殿の床はツルツルと滑りやすい、乳白色の天然石でできている。踏ん張りのきかない場所では、掴まりどころがないとルーカスは早々に悟ったようだ。両腕を脇に置いた。膝を折り、投げ出した両足は、先程と同じように半ば湯船に浸かっている。

 ラーティは畳んで厚みの増した二人分の沐浴もくよく布を、ルーカスの尻の下に敷くと、彼の膝を割り体を滑り込ませた。

 尻から下が湯船に浸かった格好で、妻の開かれた場所に立ち。薄紅色にとろけた彼の体を上から下まで見下ろす。

 湯船から出たばかりの下肢からは、湯気が立ち上がり。ラーティを待つルーカスの、とろんと夢見心地な表情にゴクリと喉が鳴る。

 吸い付くような肌に触れて、更に足を大きく広げる。

 ゾクゾクと背筋が粟立あわだつ感覚に後押しされ、ブルンと際立つ自身を、ラーティは潤沢の開かれた苗床に宛がう。ぬちゅりとぬめったそこと、すでに同化したような心地良い刺激に顔をしかめ、耐える。

 沐浴もくよく布で高さをつけて、受け入れやすいよう調整されているそこに、ラーティはズッと自らを進み入れた。

「ぁっ、ん……」

 ルーカスの口から艷やかな声が漏れる。抵抗はなく、熱っぽく潤んだ黒曜石の瞳に一途に見つめられて、ラーティの中の理性が崩されていく。

 まるで煽られているような感覚に、再び背筋がゾクゾクと粟立あわだち、ルーカスの細腰に回している手に力が入った。

 愛液と精液でグジュグジュに濡れた太腿の内側へ、ゆっくり深々と挿入する。快感に尻込みし、反射的に逃げようとする妻の腰をラーティは両手でガッチリ掴み、自らの腰を押し進めた。

「ふあっ……ぁっ……」

 抽送に身動みじろぐ妻の弱々しく鳴く声を聞きながら、男根を最奥まで到達させる。あまりの深さに、繋がっている部分がキュッと縮こまった。

「くっ!」

 よく締まる。無自覚に求めてくるルーカスに応えて、ラーティは抽送を続けた。

 妻の苗床へ腰を押し進め子種を植え付けるたび、湯船に半ば投げ出したルーカスの足が、快感にビクビクと小刻みに震え水面を揺らす。ラーティの腰の動きで起こった水面の起伏運動と重なって、チャポンチャポンと揺れが激しくなっていく。

「あぁっ! んっ、んっ……やっ、ぃやぁっ……」

 雄々しく突き上げる。これまでにも増して力強く律動する夫の男根を、受け入れ慣れたそこは、するりと呑み込む。

 妻の自覚があるルーカスは「急にどうして……?」とは言わない。代わりに半ば茫然と涙ぐむ。欲情する夫になされるがまま抱かれ、しかしそれでも彼は高潔こうけつさを失わない。

 イクたびなまめかしく弓なりに反れる、汗ばんだ妻の体が、キラキラと光を反射して輝きと美しさを増していく。

 ラーティは「お前は本当に美しいな……」とすっかり魅了されながら、じっくりと子種を注ぎ込み、ひたすら腰を打ち付ける。

「ひあっ、あっ、激しっ……んぁっ、ぁっ、ぁっ……いやぁっ、まって、まっ……ラーティさまっ……!」

 性交の激しさに、艶めかしく動く妻の腰をでる。息も絶え絶えに、強い快感に「嫌々」と懇願するルーカスの心も体も、夫を欲しがっているのをラーティは見極めていた。

 ルーカスの中をラーティ自身で満たし、動きを止めず腰を前後に揺らす。蕾を最大まで押し広げ、互いの陰部を隙間のないくらいぴったりと繋ぐ。

 妻の可愛い蕾を開かせたそこを、常に己の肉棒でミッチリふさぎながら、射精を繰り返す。

「美しい心根を持つお前が、私に汚され鳴きながら抱かれる姿は……酷くそそられる」

 少しでも離れれば糸を引くほどに、濡れそぼった股間から、精液と愛液の混ざり合ったものが幾筋も流れ落ちていく。卑猥ひわいそのものの局部に、美しく乱れる妻の姿を眺めながら、ラーティは行為にのめり込んでいく。自身の雄の欲望が、まさかこれほどまでに際限ないとはと、呆れるほどに。

「……まったく、加減をしてほしいのはこちらの方だ」

 ボソリと言い、湯殿のなめらかな床に横たわる妻を、ラーティは時間を掛け念入りに愛し続けた。

 これはもう、ルーカスがくれた唇の熱を移す程度の、絆を深め合う意味合いだけでは済まさない。

 涙ぐみ鳴き続けている妻の蜜壺へ射精を繰り返し、子種を植え付ける。紋章による体のダメージを忘れさせるほど、ルーカスとのセックスにラーティは溺れた。





 日中のいとなみを終えると、ルーカス達は子供達のいる寝室へ戻った。

 問題は残されている。仮初かりそめであることは分かっていたが、やっと訪れた平穏な時間を、ルーカスは大切な家族と過ごした。

 そして子供達もすっかり寝静まった真夜中過ぎ──

 ルーカスを訪ねてきた者がいると使用人に呼ばれ、寝ている子供達を置いて、客間へ向かう。

 灯籠とうろうの灯りが夜風を受けてチラつき、辺りは夜の静寂せいじゃくに涼やかな虫の声がしっとりと響いている。薄暗い中庭の横の広い廊下を足早に歩きながら、ルーカスは宴の後の余韻にいるような心地にいた。

 体は呪いにむしばまれているが、不思議とその感覚は薄い。今この瞬間も生者必滅しょうじゃひつめつの呪いによって、フォルケへ注がれている自身の命はあとどれくらいつのだろうかと、他人事のようにぼんやり思えるくらいに。

 人生の大半を過ぎ、戦いに身をとうじて生きてきた老兵にとって、家族という贅沢品は一生無縁の存在だ。最期は孤独の中でちるのを、ひたすら待つのみ。

 誰の目から見ても、明らかな老い先だった。

 追放されこころざし半ばだが、大切な主の成長を支え、守り抜くことができた。後は老いて死ぬだけが残された人生ならば、ここで終えても悔いは無い。

 そうして一年前、火山の火口に向かった。それが……

「……まるで夢のようだな」

 客間の前までくると、ルーカスは扉に手を伸ばす。──が、

「なん、だ……?」

 取っ手をつかすんでのところで、宙で止まった手の先が震えている。

 呪いによるものか、それとも迷いが生じたか。

 訪問者が今の問題に何かしらの答えを持っていることを、ルーカスは知っていた。

「そうか。私は……ラーティ様と、子供達と、そしてみんなとこれからも共に生きていたいのか」

 扉を開けた先には、望まぬ答えが待っているかもしれない。

 茫然と口にした言葉に、実感よりも先に、じんわりと涙が滲んだ。元来、生への執着に希薄なルーカスは、自身の変化に驚く。そう願えるほどの幸せを、彼らがくれた。

 不安からではなく、「ありがとう」と強い感謝に体が震えた。

 今ある幸福が、つかの間の幻でないことを祈るように、ルーカスは一度目を閉じる。

 体の隅々に、日中ラーティに愛された感触が残っている。離れていても夫に抱き締められているようなぬくもりを頼りに、ルーカスは取っ手を掴む。

 ……前に進むことを怖れるな。今はまだ、長い人生の途中のはずだ。

「だからこそ、私はここで立ち止まっている訳にはいかない」

 先を見据え、ぎる悪夢を振り払う。

 震えは止まり、取っ手を握る手に力を入れる。ルーカスは重厚な扉を開いた。

 そこには、フォルケの嘆願たんがんにより氷の精霊による紋章の支配を解かれた、何十年ぶりかの懐かしい姿があった。

「ルーク……」

 感極まり掠れる声。耳に心地良い、聞き慣れた呼び名それは、今となっては滅多に聞かない。古き友のみが知る、ルーカスの愛称だった。

 彼女は座っていた椅子から立ち上がり、感慨に目を細め、口元で手の平を合わせる。

 目を潤ませ、ルーカスをルークと呼ぶ女は、魔女の性質そのものの純黒じゅんこくを髪と瞳に宿していた。

 豪奢な客間にゆったりと佇む女性らしい凹凸おうとつのある、豊満な体付き。隙がなく、妖艶な美しい姿形は、一見すると成人したばかりに見えるが、実年齢はルーカスと同じく四十を越えている。

 彼女は先の英雄が内の一人、そして前回勇者パーティーの仲間。エストラザの黒の女王にして魔女と、幾つもの敬称をあわせ持つ希有けうなる存在。

「ロザリンド・エス・ハーカー。久しいな、我が友よ」
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