35 / 66
第二部
16 真の狙い
しおりを挟む
ラーティとウルスラは表向き全く顔を合わせたことのない相手、と言うことになっている。
けれどラーティは今までに幾度も、ラスクールを訪問するロザリンドに付いてきたウルスラに会っている。
ウルスラと初めて顔を合わせたのは今から十年前。
ラーティが十歳で、ウルスラが八歳のとき。彼女と同じ年齢のドリスとフェリスが最年少で魔法学校に通い始めた頃だった。
ルーカスが双子の保護者代わりとなって、彼らの様子を見に行くことを許可したその不在時に、ラーティはウルスラと会っていた。だからルーカスはラーティがウルスラと面識があることを知らない。知っているのはオルガノとロザリンド、そしてごく少数の側近に限られる。
そもそもが正式な面会ではなく、ウルスラの相手をするようオルガノに言われて、最初ラーティは仕方なしにお相手をしていただけだったのだが……
ウルスラの故国、エストラザの民は大半が魔女で、彼女は幼い頃から女ばかりの閉鎖的な世界で育った。男に対する好奇心は人一倍強く、それも母親のロザリンドより旧友の英雄達について聞かされてきた彼女は、会ったときには既に男の英雄への信奉熱に浮かされていた。
中でも特にルーカスが気に入りで、年の差など関係なくお嫁さんにしてほしいと会う度口にする熱の入れようだ。
だから口数の少ないラーティがルーカスを好いていることは、話をするなかですぐに見破られてしまった。
それから手紙のやり取りなどもするようになったが、内容のほとんどはルーカスに関することだ。ラーティもウルスラも互いに対し、恋愛感情を抱いただとか、そう言った内容に触れたことは一度もない。
確かにウルスラは見目もよく、魔女なのに天真爛漫で、人懐こい魅力的な性格をしている。
普通の魔女と明らかに違う、閉鎖的ではない異質の価値観と純粋な心。
魔女でありながら、誰よりも心優しく慈悲深いと謳われた母親ロザリンドにウルスラはよく似ていると、オルガノが称賛する程だ。
母親譲りの聡明さに加え、高い知力と魔力を持つ。まぎれもなく、ウルスラはロザリンドの意志を受け継ぐ王女だった。そのため彼女がラーティの花嫁筆頭候補になってしまったのだが、互いにそんな気は欠片もない。
当人同士からすると、とんだ笑い話だ。
ルーカスもガロンも、ウルスラが婚約者候補ということで色々とあらぬ心配をしていたようだが……彼女は下手をすると、ルーカスを娶ったラーティに「ラーティ様の奥方様の妻になることは可能なのでしょうか?」などと、聞いてくるような相手なのだ。
ラーティがウルスラとの繋がりをルーカスにひた隠していることを、昔一度はっきりと彼女に言われたことがある。
「ラーティ様は本当に、ルーカス様がお好きなのですね」と微笑まれたが、明らかな嫉妬の含意を感じたのを、ラーティは背筋に伝った汗の冷たさと共に覚えている。
しかし同時にウルスラは、互いの関係は暗黙のものだと、よく理解していた。彼女はラーティより二つ年下だが、妙に悟い部分がある。
そのウルスラが直に使者を送ってきた。それもルーカスを抜きに会いたいなどと、ただ事ではない。
ウルスラの怪我の具合が気になっていたことも重なり、ラーティはやむなく彼女からの提案を受けることにしたのだ。
「──インコちゃんのお名前はなんとおっしゃるのかしら?」
ベッドに上半身を起こしたウルスラが気を利かせて話し掛けている相手は、室内への入室を許されてからもずっとヒビの入った窓の前で「硝子代を弁償しなくては……」と落ち込んでいるインコ(ガロン)だ。
「ガロンすまない。騙すつもりはなかった」
インコのガロンはピクリとしたが、こちらを向かない。まだ心を動かされないようだ。
寂しい背中を向けたまま声だけ明るくピヨピヨと、「インコちゃん、お名前、マドンナ」と片言で素直に返事したのは、おそらくガロンではなくインコの魔獣の方だろう。
「まあ! ではマドンナちゃんは雌なのですね?」と臆することなく使役獣に話し掛けるウルスラの質問に、よく訊かれることなのか、これもインコが答えている。
「インコちゃん、雄」と即答され、ウルスラは純黒の瞳をパチクリさせている。
落ち込むインコ(ガロン)を慰めるウルスラは、昔と変わらず気さくで親しみやすい、良い性格をしているようだ。
「ウルスラ様、この子は雄ですが、可愛いが過ぎるので僕が使役する魔獣の中でもアイドル扱いされているのです」
ようやく哀愁漂う背中越しに、ガロンが出てきた。次いで、それとは正反対に「インコちゃんアイドル!」と、意気揚々と振り返ったインコ。
なるほど、人格が二つあるようなこの反応。ガロンはこのインコを制御し切れていない。先程の妨害音といい、振り回されているようだ。
「大方、ルーカスに頼まれたのだろう? 硝子代はこちらで出すから安心しろ」
ラーティが言うと、途端インコの顔に輝きが戻った。頬の赤羽が更に色濃くなったように見える。
インコがラーティに向かって飛んできた。ラーティの腕に留まり、ルンルンと首を上下に動かしながら歌い始める。
先程までの行動から察するに、やはりガロンの気持ちがマドンナに逐一影響して、反映されているようだ。
魔王討伐の道中でもガロンが魔獣を操る姿は見てきたが、彼が魔獣を制御仕切れていない、こんな現象を見るのは初めてだ。インコとガロンの意識が混同している。
マドンナは感受性の高すぎる魔獣だから、必要に迫られない限り意識を共有しないようにしていると、以前ガロンが言っていた意味が分かった。これは危険だ。彼の内面が全て駄々漏れている。
「ふふふ、マドンナちゃんも中のガロン様も主思いなのですね」
「いったい何のことでしょうか」
ラーティの腕に留まりながら、今度はガロンが真面目なインコの顔をして答えている。
何となくガロンのときになると、インコの表情に渋味が出るような気がするのは、気のせいだろうか。
「わざと見つかったのでしょう? 戦術魔獣使いの中でもガロン様は特別だと、大陸の末端にあるエストラザにまでお噂は届いておりますのよ」
「…………」
にっこりと意味深な台詞を吐くウルスラを、渋めのインコ(ガロン)が見据える。
ここまで聞かせられては、何故ガロンが扱いにくいインコをあえて使用したのか、気付かないわけがなかった。
ガロンにまで心配させてしまったか……
ガロンはマドンナにあえて自身の気持ちを代弁させたのだ。ルーカスの不安を教えるために、部屋を覗き見させることで。
ただ一つ想定外だったのは、マドンナがガロンにあまりにも忠実すぎたことだろう。
おそらくガロンは覗き見より先のことはやらないつもりだったはずだ。ラーティと目が合ったときに、ルーカスが今回のウルスラとの面会を気にしていることを伝える目的は、既に達成していたのだから。
正室だの側室だのと、ラーティとウルスラには全くその気もなかった部分で、ルーカスを傷付けてしまった。
相手がウルスラだから平気だと注意を怠っていたことへの忠告を仲間から受けて、ラーティは昨晩のルーカスを思い出し、自身の不甲斐なさに嘆息する。その横で「わざと見つかったとは……申し訳ございませんが何のことだか分かりかねます」と、オカメンコイン──命名、マドンナ(雄)の中にいるガロンが素っ惚けたところで、話が途切れた。
ここでようやく、前座が一段落ついたようだ。
*
何故ウルスラはルーカスにも気付かれる方法でラーティを呼んだのか、聞かなければならない。
少し打ち解けた雰囲気のなかにある張り詰めた話題に、ラーティは触れた。
「では落ち着いたところでそろそろ本題に入らせてもらうが……いいか?」
ウルスラがルーカスをあえて外したということは、おそらくルーカスに聞かれては不味い情報……フォルケに関する話を伝えるためだろう。ルーカスとフォルケとの関わりは、ウルスラも母親から聞いて知っていることだ。
口火を切ると、ベッドに上半身を起こしているウルスラがラーティに改めて向き直る。
「エストラザがイーグリッドに襲撃されたのは数ヵ月前のこと、国のことは……迷いは既に絶ちました。ですので、わたくしは大丈夫です」
氷付けにされた民。山頂の神殿に立て籠もり、周囲一体を炎の檻で囲い民を守るため戦っている母親の安否が気にならないわけがないのだ。
これまでそのことから話を逸らしていたのは、重い話をする前に場の緊張を解すためでもあった。けれどウルスラはとっくに覚悟を決めていた。
「……そうか」
友人の覚悟を聞き、一呼吸置いてラーティは口を開こうとした──が、ラーティの腕に留まっているインコ(ガロン)が首を傾げた方が早かった。
「ルーカス抜きに会いたかったのは、お二人の関係性を知られないためだと思いますが、もしや今回お二人で会うことを提案したのはラーティ様の方だったりしますか?」
それは、ガロンにとって本当に何気ない質問だったのだろう。
当人は確信に触れたとも知らずにいるが、勘のいいことだ。ラーティは期せずして訪れた不意打ちのような展開に、やや反応が遅れた。
「いや、それは姫からの提案だ」
「わたくしが提案を? あの、わたくしは何もご連絡などしておりませんが……」
「連絡をしていない?」
何だ? 何かがおかしい。
嫌な予感に、ラーティはルーカスのいる屋敷の方向へと、無意識に視線を動かしていた。
「お話し中、申し訳ございません。ラーティ様、差し出がましいようですが、ウルスラ様はラーティ様が訪問されるつい数刻前に目覚めたばかりにございます」
それまで後方で口を閉ざし、控えていたメイドの一人が、おそるおそると発言する。
「目覚めたばかり……姫、貴女はイーグリッドの国王ファルカスの捕虜となっていたところをオフィーリアス卿に助けられたのだろう?」
「……ラーティ様、貴方はいったい何をおっしゃっているのですか?」
ウルスラが緊張した面持ちで問う。心なしか、声も震えているように聞こえた。
「戦いの最中に意識を失ったわたくしをここへ連れてきたのは生き残った臣下ではないのですか……? それに──オフィーリアス卿とはいったい誰ですか?」
話終えると同時にウルスラの首筋に浮き出てきた、氷の色をした紋章が不気味に輝く。彼女は目覚めたのではない。これはきっと目覚めさせられたのだ。
ウルスラを餌に、その目覚めと引き換えにラーティを城へと呼び寄せた理由など一つしかない。
真の狙いは──
「ガロンッ! ルーカスを守れッ!!」
けれどラーティは今までに幾度も、ラスクールを訪問するロザリンドに付いてきたウルスラに会っている。
ウルスラと初めて顔を合わせたのは今から十年前。
ラーティが十歳で、ウルスラが八歳のとき。彼女と同じ年齢のドリスとフェリスが最年少で魔法学校に通い始めた頃だった。
ルーカスが双子の保護者代わりとなって、彼らの様子を見に行くことを許可したその不在時に、ラーティはウルスラと会っていた。だからルーカスはラーティがウルスラと面識があることを知らない。知っているのはオルガノとロザリンド、そしてごく少数の側近に限られる。
そもそもが正式な面会ではなく、ウルスラの相手をするようオルガノに言われて、最初ラーティは仕方なしにお相手をしていただけだったのだが……
ウルスラの故国、エストラザの民は大半が魔女で、彼女は幼い頃から女ばかりの閉鎖的な世界で育った。男に対する好奇心は人一倍強く、それも母親のロザリンドより旧友の英雄達について聞かされてきた彼女は、会ったときには既に男の英雄への信奉熱に浮かされていた。
中でも特にルーカスが気に入りで、年の差など関係なくお嫁さんにしてほしいと会う度口にする熱の入れようだ。
だから口数の少ないラーティがルーカスを好いていることは、話をするなかですぐに見破られてしまった。
それから手紙のやり取りなどもするようになったが、内容のほとんどはルーカスに関することだ。ラーティもウルスラも互いに対し、恋愛感情を抱いただとか、そう言った内容に触れたことは一度もない。
確かにウルスラは見目もよく、魔女なのに天真爛漫で、人懐こい魅力的な性格をしている。
普通の魔女と明らかに違う、閉鎖的ではない異質の価値観と純粋な心。
魔女でありながら、誰よりも心優しく慈悲深いと謳われた母親ロザリンドにウルスラはよく似ていると、オルガノが称賛する程だ。
母親譲りの聡明さに加え、高い知力と魔力を持つ。まぎれもなく、ウルスラはロザリンドの意志を受け継ぐ王女だった。そのため彼女がラーティの花嫁筆頭候補になってしまったのだが、互いにそんな気は欠片もない。
当人同士からすると、とんだ笑い話だ。
ルーカスもガロンも、ウルスラが婚約者候補ということで色々とあらぬ心配をしていたようだが……彼女は下手をすると、ルーカスを娶ったラーティに「ラーティ様の奥方様の妻になることは可能なのでしょうか?」などと、聞いてくるような相手なのだ。
ラーティがウルスラとの繋がりをルーカスにひた隠していることを、昔一度はっきりと彼女に言われたことがある。
「ラーティ様は本当に、ルーカス様がお好きなのですね」と微笑まれたが、明らかな嫉妬の含意を感じたのを、ラーティは背筋に伝った汗の冷たさと共に覚えている。
しかし同時にウルスラは、互いの関係は暗黙のものだと、よく理解していた。彼女はラーティより二つ年下だが、妙に悟い部分がある。
そのウルスラが直に使者を送ってきた。それもルーカスを抜きに会いたいなどと、ただ事ではない。
ウルスラの怪我の具合が気になっていたことも重なり、ラーティはやむなく彼女からの提案を受けることにしたのだ。
「──インコちゃんのお名前はなんとおっしゃるのかしら?」
ベッドに上半身を起こしたウルスラが気を利かせて話し掛けている相手は、室内への入室を許されてからもずっとヒビの入った窓の前で「硝子代を弁償しなくては……」と落ち込んでいるインコ(ガロン)だ。
「ガロンすまない。騙すつもりはなかった」
インコのガロンはピクリとしたが、こちらを向かない。まだ心を動かされないようだ。
寂しい背中を向けたまま声だけ明るくピヨピヨと、「インコちゃん、お名前、マドンナ」と片言で素直に返事したのは、おそらくガロンではなくインコの魔獣の方だろう。
「まあ! ではマドンナちゃんは雌なのですね?」と臆することなく使役獣に話し掛けるウルスラの質問に、よく訊かれることなのか、これもインコが答えている。
「インコちゃん、雄」と即答され、ウルスラは純黒の瞳をパチクリさせている。
落ち込むインコ(ガロン)を慰めるウルスラは、昔と変わらず気さくで親しみやすい、良い性格をしているようだ。
「ウルスラ様、この子は雄ですが、可愛いが過ぎるので僕が使役する魔獣の中でもアイドル扱いされているのです」
ようやく哀愁漂う背中越しに、ガロンが出てきた。次いで、それとは正反対に「インコちゃんアイドル!」と、意気揚々と振り返ったインコ。
なるほど、人格が二つあるようなこの反応。ガロンはこのインコを制御し切れていない。先程の妨害音といい、振り回されているようだ。
「大方、ルーカスに頼まれたのだろう? 硝子代はこちらで出すから安心しろ」
ラーティが言うと、途端インコの顔に輝きが戻った。頬の赤羽が更に色濃くなったように見える。
インコがラーティに向かって飛んできた。ラーティの腕に留まり、ルンルンと首を上下に動かしながら歌い始める。
先程までの行動から察するに、やはりガロンの気持ちがマドンナに逐一影響して、反映されているようだ。
魔王討伐の道中でもガロンが魔獣を操る姿は見てきたが、彼が魔獣を制御仕切れていない、こんな現象を見るのは初めてだ。インコとガロンの意識が混同している。
マドンナは感受性の高すぎる魔獣だから、必要に迫られない限り意識を共有しないようにしていると、以前ガロンが言っていた意味が分かった。これは危険だ。彼の内面が全て駄々漏れている。
「ふふふ、マドンナちゃんも中のガロン様も主思いなのですね」
「いったい何のことでしょうか」
ラーティの腕に留まりながら、今度はガロンが真面目なインコの顔をして答えている。
何となくガロンのときになると、インコの表情に渋味が出るような気がするのは、気のせいだろうか。
「わざと見つかったのでしょう? 戦術魔獣使いの中でもガロン様は特別だと、大陸の末端にあるエストラザにまでお噂は届いておりますのよ」
「…………」
にっこりと意味深な台詞を吐くウルスラを、渋めのインコ(ガロン)が見据える。
ここまで聞かせられては、何故ガロンが扱いにくいインコをあえて使用したのか、気付かないわけがなかった。
ガロンにまで心配させてしまったか……
ガロンはマドンナにあえて自身の気持ちを代弁させたのだ。ルーカスの不安を教えるために、部屋を覗き見させることで。
ただ一つ想定外だったのは、マドンナがガロンにあまりにも忠実すぎたことだろう。
おそらくガロンは覗き見より先のことはやらないつもりだったはずだ。ラーティと目が合ったときに、ルーカスが今回のウルスラとの面会を気にしていることを伝える目的は、既に達成していたのだから。
正室だの側室だのと、ラーティとウルスラには全くその気もなかった部分で、ルーカスを傷付けてしまった。
相手がウルスラだから平気だと注意を怠っていたことへの忠告を仲間から受けて、ラーティは昨晩のルーカスを思い出し、自身の不甲斐なさに嘆息する。その横で「わざと見つかったとは……申し訳ございませんが何のことだか分かりかねます」と、オカメンコイン──命名、マドンナ(雄)の中にいるガロンが素っ惚けたところで、話が途切れた。
ここでようやく、前座が一段落ついたようだ。
*
何故ウルスラはルーカスにも気付かれる方法でラーティを呼んだのか、聞かなければならない。
少し打ち解けた雰囲気のなかにある張り詰めた話題に、ラーティは触れた。
「では落ち着いたところでそろそろ本題に入らせてもらうが……いいか?」
ウルスラがルーカスをあえて外したということは、おそらくルーカスに聞かれては不味い情報……フォルケに関する話を伝えるためだろう。ルーカスとフォルケとの関わりは、ウルスラも母親から聞いて知っていることだ。
口火を切ると、ベッドに上半身を起こしているウルスラがラーティに改めて向き直る。
「エストラザがイーグリッドに襲撃されたのは数ヵ月前のこと、国のことは……迷いは既に絶ちました。ですので、わたくしは大丈夫です」
氷付けにされた民。山頂の神殿に立て籠もり、周囲一体を炎の檻で囲い民を守るため戦っている母親の安否が気にならないわけがないのだ。
これまでそのことから話を逸らしていたのは、重い話をする前に場の緊張を解すためでもあった。けれどウルスラはとっくに覚悟を決めていた。
「……そうか」
友人の覚悟を聞き、一呼吸置いてラーティは口を開こうとした──が、ラーティの腕に留まっているインコ(ガロン)が首を傾げた方が早かった。
「ルーカス抜きに会いたかったのは、お二人の関係性を知られないためだと思いますが、もしや今回お二人で会うことを提案したのはラーティ様の方だったりしますか?」
それは、ガロンにとって本当に何気ない質問だったのだろう。
当人は確信に触れたとも知らずにいるが、勘のいいことだ。ラーティは期せずして訪れた不意打ちのような展開に、やや反応が遅れた。
「いや、それは姫からの提案だ」
「わたくしが提案を? あの、わたくしは何もご連絡などしておりませんが……」
「連絡をしていない?」
何だ? 何かがおかしい。
嫌な予感に、ラーティはルーカスのいる屋敷の方向へと、無意識に視線を動かしていた。
「お話し中、申し訳ございません。ラーティ様、差し出がましいようですが、ウルスラ様はラーティ様が訪問されるつい数刻前に目覚めたばかりにございます」
それまで後方で口を閉ざし、控えていたメイドの一人が、おそるおそると発言する。
「目覚めたばかり……姫、貴女はイーグリッドの国王ファルカスの捕虜となっていたところをオフィーリアス卿に助けられたのだろう?」
「……ラーティ様、貴方はいったい何をおっしゃっているのですか?」
ウルスラが緊張した面持ちで問う。心なしか、声も震えているように聞こえた。
「戦いの最中に意識を失ったわたくしをここへ連れてきたのは生き残った臣下ではないのですか……? それに──オフィーリアス卿とはいったい誰ですか?」
話終えると同時にウルスラの首筋に浮き出てきた、氷の色をした紋章が不気味に輝く。彼女は目覚めたのではない。これはきっと目覚めさせられたのだ。
ウルスラを餌に、その目覚めと引き換えにラーティを城へと呼び寄せた理由など一つしかない。
真の狙いは──
「ガロンッ! ルーカスを守れッ!!」
32
お気に入りに追加
7,327
あなたにおすすめの小説
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。