君の手は、人生をつなぐ羅針盤

薄影メガネ

文字の大きさ
上 下
26 / 33
本編

25 茂みの向こう

しおりを挟む
 それから二時間ほどが経過して、
 最近流行はやりのキャラクターもののおめんを頭に半ばつけるくらいに楽しんだあと。
 出し物の景品やら、お祭りで定番の食べ物が入った幾つかのビニール袋をベンチのはしにまとめて置くと、とりあえず空いているスペースに俺たちは腰かけた。

 時刻は二十時を回った頃。ベンチから少し離れた向こう側──もうそろそろ終盤に差し掛かった祭りの中心から聞こえてくる太鼓の音がローカルな屋台やたいの間に響いて、祭事さいじはちょっとした盛り上がりを見せている。
 さっきまでその人込ひとごみのなかを掻き分けながら全力で遊んで、歩き回ったら少し汗をかいた。極度の低体温症の麗子さんは、こんなときでも涼しい顔だが、

 食べ歩きする以外に後で食べようと買っておいた、透明な袋でラッピングされた林檎飴りんごあめと焼きそばの入った袋からガサガサと炭酸系の飲み物を取り出す。
 持ち歩いて少しぬるくなった缶ジュースのふたを開ける。プシュッと白い泡が吹き出す音と、一瞬甘くて酸っぱいような爽やかな炭酸の匂いが鼻をつく。
 二缶開けて、一つは隣に座る麗子さんに手渡した。

 それからしばらく疲れを癒すように二人して沈黙につかりながら、夜の音に耳をませる。祭りから少し離れたベンチでは、虫の音が聞こえてきた。
 浴衣ゆかたの合わせ部分をつかみ、風が通るくらいの隙間を開けて、どこかでもらったうちわで顔をパタパタあおぎながら、そうして夜空に花火が打ち上がるのを待っていると……

「ヌイグルミ……」
「うん?」

 隣で一緒に沈黙を守っていた麗子さんが、思い出したようにつぶやく。

「可愛いけどヌイグルミってけっこう重い」
「じゃあ俺持つよ」

 ごめん。重いかなとは思ってたんだけど……
 自分の体の半分くらいはある巨大なクマのヌイグルミを、麗子さんが半ば埋もれるようにしてかかえている必死な姿が可愛くて、ちょっと傍観ぼうかんしてしまった。

「……はじめ君、射的しゃてきなんであんなに上手いのよ? 昔何かよくないことでもやってたの?」
「え、よくないことって何? どういうこと?」

 彼女からヌイグルミを受け取ると、途端とたん質問攻めが始まった。
 ちなみにその巨大なヌイグルミは射的に誘われた成果だ。

「はじめ君は小さい頃どんなことしてたの? どんな子供だった?」
「どんな子供って……何? どうしたの? 急にそんなこと聞いて……」
「ビービー弾とかやってたでしょ? 射的尋常じんじょうになく上手かったもの」
「ははっあー、そうだねまあ少しはやったかな。普通の子供がやるようなことは一通りやってたけど」

 何を疑われているのかと思ったら、そういうことか。

「あんたがヤンチャしてたのは言われなくても何となく分かるわよ。そうじゃなくて私が知りたいのはもっとこう具体的な……」
「ふーん、麗子さんはそんなに俺のこと知りたいの?」

 わざとニヤニヤ笑って見せる。からかえばいつもみたいに恥ずかしがって引くかと思ったら、麗子さんはキッパリ真顔で言い切った。

「知りたい」
「……そっか、分かった」

 知りたがってくれることは嬉しいけど、そんな綺麗な格好のときに真剣な顔して無防備に近付かれるとホント困るんだ。色々と。
 だから少し距離を取らせてもらう。その困る要因の一つを理由にして。

「じゃあさ、麗子さんの子供の頃のことも教えてよ。そしたら俺も話す。──あと、麗子さんさ、もしかしてアイツら・・・・のこと最初から知ってた?」
「っ!」

 俺たちが座っているベンチの丁度後ろ、しげみの方を指差してるか分からない程度に示す。茂みの向こうからはこっちが何をしているのか、体に隠れて見えないけど、麗子さんにはその方向に何があるか分かっているはずだ。

「し、知らない……」
「ふーん、そっか」

 話題をそらすのには成功したし、特に関心のない振りをしながら、気付かれないようホッと息をつく。
 今日は薬のお陰で、親父の「起きなかったら急がなくていい」って台詞せりふに麗子さんが頷くのを、背中で聞きながらの見送りは無かった。
 毎回外出するタイミングですかさず言う辺り、ホント親父って過保護だよなぁー。とか、いつも思ってたけど、修正する。加えて麗子さんも実は相当に、俺に過保護だった。

 ベンチに座る俺たちの後方──あの茂みの向こうには、さっきから三太と鉄平がいる。ちなみにいつから付いてきていたのかは……まあ考えなくても分かる。喫茶店出たときからだろうなーって。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

熱い風の果てへ

朝陽ゆりね
ライト文芸
沙良は母が遺した絵を求めてエジプトにやってきた。 カルナック神殿で一服中に池に落ちてしまう。 必死で泳いで這い上がるが、なんだか周囲の様子がおかしい。 そこで出会った青年は自らの名をラムセスと名乗る。 まさか―― そのまさかは的中する。 ここは第18王朝末期の古代エジプトだった。 ※本作はすでに販売終了した作品を改稿したものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

マキノのカフェ開業奮闘記 ~Café Le Repos~

Repos
ライト文芸
カフェ開業を夢見たマキノが、田舎の古民家を改装して開業する物語。 おいしいご飯がたくさん出てきます。 いろんな人に出会って、気づきがあったり、迷ったり、泣いたり。 助けられたり、恋をしたり。 愛とやさしさののあふれるお話です。 なろうにも投降中

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【本編完結】繚乱ロンド

由宇ノ木
ライト文芸
番外編は時系列順ではありません。 更新日 2/12 『受け継ぐ者』 更新日 2/4 『秘密を持って生まれた子 3』(全3話) 02/01『秘密を持って生まれた子 2』 01/23『秘密を持って生まれた子 1』 01/18『美之の黒歴史 5』(全5話) 12/30『とわずがたり~思い出を辿れば~2,3』 12/25『とわずがたり~思い出を辿れば~1 』 本編は完結。番外編を不定期で更新。 11/11~11/19『夫の疑問、妻の確信1~3』  10/12 『いつもあなたの幸せを。』 9/14  『伝統行事』 8/24  『ひとりがたり~人生を振り返る~』 お盆期間限定番外編 8月11日~8月16日まで 『日常のひとこま』は公開終了しました。 7/31 『恋心』・・・本編の171、180、188話にチラッと出てきた京司朗の自室に礼夏が現れたときの話です。 6/18 『ある時代の出来事』 -本編大まかなあらすじ- *青木みふゆは23歳。両親も妹も失ってしまったみふゆは一人暮らしで、花屋の堀内花壇の支店と本店に勤めている。花の仕事は好きで楽しいが、本店勤務時は事務を任されている二つ年上の林香苗に妬まれ嫌がらせを受けている。嫌がらせは徐々に増え、辟易しているみふゆは転職も思案中。 林香苗は堀内花壇社長の愛人でありながら、店のお得意様の、裏社会組織も持つといわれる惣領家の当主・惣領貴之がみふゆを気に入ってかわいがっているのを妬んでいるのだ。 そして、惣領貴之の懐刀とされる若頭・仙道京司朗も海外から帰国。みふゆが貴之に取り入ろうとしているのではないかと、京司朗から疑いをかけられる。 みふゆは自分の微妙な立場に悩みつつも、惣領貴之との親交を深め養女となるが、ある日予知をきっかけに高熱を出し年齢を退行させてゆくことになる。みふゆの心は子供に戻っていってしまう。 令和5年11/11更新内容(最終回) *199. (2) *200. ロンド~踊る命~ -17- (1)~(6) *エピローグ ロンド~廻る命~ 本編最終回です。200話の一部を199.(2)にしたため、199.(2)から最終話シリーズになりました。  ※この物語はフィクションです。実在する団体・企業・人物とはなんら関係ありません。架空の町が舞台です。 現在の関連作品 『邪眼の娘』更新 令和7年1/25 『月光に咲く花』(ショートショート) 以上2作品はみふゆの母親・水無瀬礼夏(青木礼夏)の物語。 『恋人はメリーさん』(主人公は京司朗の後輩・東雲結) 『繚乱ロンド』の元になった2作品 『花物語』に入っている『カサブランカ・ダディ(全五話)』『花冠はタンポポで(ショートショート)』

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

心の落とし物

緋色刹那
ライト文芸
・完結済み(2024/10/12)。また書きたくなったら、番外編として投稿するかも ・第4回、第5回ライト文芸大賞にて奨励賞をいただきました!!✌︎('ω'✌︎ )✌︎('ω'✌︎ ) 〈本作の楽しみ方〉  本作は読む喫茶店です。順に読んでもいいし、興味を持ったタイトルや季節から読んでもオッケーです。  知らない人、知らない設定が出てきて不安になるかもしれませんが、喫茶店の常連さんのようなものなので、雰囲気を楽しんでください(一応説明↓)。 〈あらすじ〉  〈心の落とし物〉はありませんか?  どこかに失くした物、ずっと探している人、過去の後悔、忘れていた夢。  あなたは忘れているつもりでも、心があなたの代わりに探し続けているかもしれません……。  喫茶店LAMP(ランプ)の店長、添野由良(そえのゆら)は、人の未練が具現化した幻〈心の落とし物(こころのおとしもの)〉と、それを探す生き霊〈探し人(さがしびと)〉に気づきやすい体質。  ある夏の日、由良は店の前を何度も通る男性に目を止め、声をかける。男性は数年前に移転した古本屋を探していて……。  懐かしくも切ない、過去の未練に魅せられる。 〈主人公と作中用語〉 ・添野由良(そえのゆら)  洋燈町にある喫茶店LAMP(ランプ)の店長。〈心の落とし物〉や〈探し人〉に気づきやすい体質。 ・〈心の落とし物(こころのおとしもの)〉  人の未練が具現化した幻。あるいは、未練そのもの。 ・〈探し人(さがしびと)〉  〈心の落とし物〉を探す生き霊で、落とし主。当人に代わって、〈心の落とし物〉を探している。 ・〈未練溜まり(みれんだまり)〉  忘れられた〈心の落とし物〉が行き着く場所。 ・〈分け御霊(わけみたま)〉  生者の後悔や未練が物に宿り、具現化した者。込められた念が強ければ強いほど、人のように自由意志を持つ。いわゆる付喪神に近い。

処理中です...