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本編

25 茂みの向こう

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 それから二時間ほどが経過して、
 最近流行はやりのキャラクターもののおめんを頭に半ばつけるくらいに楽しんだあと。
 出し物の景品やら、お祭りで定番の食べ物が入った幾つかのビニール袋をベンチのはしにまとめて置くと、とりあえず空いているスペースに俺たちは腰かけた。

 時刻は二十時を回った頃。ベンチから少し離れた向こう側──もうそろそろ終盤に差し掛かった祭りの中心から聞こえてくる太鼓の音がローカルな屋台やたいの間に響いて、祭事さいじはちょっとした盛り上がりを見せている。
 さっきまでその人込ひとごみのなかを掻き分けながら全力で遊んで、歩き回ったら少し汗をかいた。極度の低体温症の麗子さんは、こんなときでも涼しい顔だが、

 食べ歩きする以外に後で食べようと買っておいた、透明な袋でラッピングされた林檎飴りんごあめと焼きそばの入った袋からガサガサと炭酸系の飲み物を取り出す。
 持ち歩いて少しぬるくなった缶ジュースのふたを開ける。プシュッと白い泡が吹き出す音と、一瞬甘くて酸っぱいような爽やかな炭酸の匂いが鼻をつく。
 二缶開けて、一つは隣に座る麗子さんに手渡した。

 それからしばらく疲れを癒すように二人して沈黙につかりながら、夜の音に耳をませる。祭りから少し離れたベンチでは、虫の音が聞こえてきた。
 浴衣ゆかたの合わせ部分をつかみ、風が通るくらいの隙間を開けて、どこかでもらったうちわで顔をパタパタあおぎながら、そうして夜空に花火が打ち上がるのを待っていると……

「ヌイグルミ……」
「うん?」

 隣で一緒に沈黙を守っていた麗子さんが、思い出したようにつぶやく。

「可愛いけどヌイグルミってけっこう重い」
「じゃあ俺持つよ」

 ごめん。重いかなとは思ってたんだけど……
 自分の体の半分くらいはある巨大なクマのヌイグルミを、麗子さんが半ば埋もれるようにしてかかえている必死な姿が可愛くて、ちょっと傍観ぼうかんしてしまった。

「……はじめ君、射的しゃてきなんであんなに上手いのよ? 昔何かよくないことでもやってたの?」
「え、よくないことって何? どういうこと?」

 彼女からヌイグルミを受け取ると、途端とたん質問攻めが始まった。
 ちなみにその巨大なヌイグルミは射的に誘われた成果だ。

「はじめ君は小さい頃どんなことしてたの? どんな子供だった?」
「どんな子供って……何? どうしたの? 急にそんなこと聞いて……」
「ビービー弾とかやってたでしょ? 射的尋常じんじょうになく上手かったもの」
「ははっあー、そうだねまあ少しはやったかな。普通の子供がやるようなことは一通りやってたけど」

 何を疑われているのかと思ったら、そういうことか。

「あんたがヤンチャしてたのは言われなくても何となく分かるわよ。そうじゃなくて私が知りたいのはもっとこう具体的な……」
「ふーん、麗子さんはそんなに俺のこと知りたいの?」

 わざとニヤニヤ笑って見せる。からかえばいつもみたいに恥ずかしがって引くかと思ったら、麗子さんはキッパリ真顔で言い切った。

「知りたい」
「……そっか、分かった」

 知りたがってくれることは嬉しいけど、そんな綺麗な格好のときに真剣な顔して無防備に近付かれるとホント困るんだ。色々と。
 だから少し距離を取らせてもらう。その困る要因の一つを理由にして。

「じゃあさ、麗子さんの子供の頃のことも教えてよ。そしたら俺も話す。──あと、麗子さんさ、もしかしてアイツら・・・・のこと最初から知ってた?」
「っ!」

 俺たちが座っているベンチの丁度後ろ、しげみの方を指差してるか分からない程度に示す。茂みの向こうからはこっちが何をしているのか、体に隠れて見えないけど、麗子さんにはその方向に何があるか分かっているはずだ。

「し、知らない……」
「ふーん、そっか」

 話題をそらすのには成功したし、特に関心のない振りをしながら、気付かれないようホッと息をつく。
 今日は薬のお陰で、親父の「起きなかったら急がなくていい」って台詞せりふに麗子さんが頷くのを、背中で聞きながらの見送りは無かった。
 毎回外出するタイミングですかさず言う辺り、ホント親父って過保護だよなぁー。とか、いつも思ってたけど、修正する。加えて麗子さんも実は相当に、俺に過保護だった。

 ベンチに座る俺たちの後方──あの茂みの向こうには、さっきから三太と鉄平がいる。ちなみにいつから付いてきていたのかは……まあ考えなくても分かる。喫茶店出たときからだろうなーって。
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