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本編
41.花の由来
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やっと警戒を解いた婚約者にジュードは内心ホッとしていた。無防備に身体を預けてくるエルフリーデは軽くてほっそりしていて。けれども大きな胸やくびれた細い腰回りに形の良いキュッとしまったお尻は魅惑的な女性そのもので。
お人形のようにパッチリと開かれた大きな瞳に小さく整った鼻、そして可憐な花びらを思わせる唇といい。その可愛らしい作りの顔立ちと綺麗な身体を見ていると、よく12年もの間エルフリーデに手を出さずに耐えられたなと自分で自分を褒めたくなるような心境にあった。
正直なところこんなに男を誘う要素がつまった魅力的な人はなかなかいない。けれどその肝心な部分をエルフリーデが知らないのは、ジュードが男という男をエルフリーデから徹底的に遠ざけていたからで。エルフリーデが知らないのも無理はない。そして男が寄ってこなかったのはジュードのせいだと分かった今でも自分がモテると未だに自覚していないのだから。
期せずしてそうなる方向に仕向けてしまった本人としては自覚してくれとはとても言えない。かといってそう言う意味で迫られて大変だったとあまり文句を言うことも出来ない。それにジュードはそのことを分かって欲しいとは微塵も思っていなかった。そのままのエルフリーデが好きで大切だから。無理に変わる必要なんてないし、変えたいともジュードは思っていない。
「これっもらっていいの?」
「うん、リーの為に取ってきたから。それに今日はリーの誕生日でもあるからね」
「……ありがとう」
そんなことをジュードが考えているとは毛ほども思っていないだろう婚約者は、無邪気に与えられた花を愛でてその香りを嗅いで楽しんでいる。白い宝石のような大輪、幻の花を手に嬉しそうにしている婚約者の腰に巻き付けている手を片方、その小さな頭に回して撫でると。エルフリーデは一瞬ちょっとだけ目をパチパチさせてそれからふわっと華のように微笑んだ。
幼い頃から変わらないその純真な笑みを向けられるといつも心が和んで、その愛おしさにギュッと強く抱き締めたまま、そうしてずっと腕の中から出したくなくなってしまう。
「……リーは僕のことどう思ってる?」
「えっなんなのいきなり?」
「いいから答えて」
「えっとぉ……好き、だけど?」
「それで?」
「えっ? それでって?」
「僕のことどのくらい好きなの?」
「ジュード?」
「答えて」
「えっと、その……そんなどのくらいかなんて言われても分からな……」
「リー、言って」
「……世界で一番好き、誰よりも何よりもジュードが一番好きで大切で大事で、何よりも愛してるの……」
この答えじゃダメかな? とエルフリーデが頬を赤く染めながらジュードを見返してくるから、そのまま唇をさらうように奪ってしまった。息を付くのも忘れるくらい深く唇を重ねて舌を吸われたエルフリーデは、ジュードが欲求する通りに唇を開いて息も絶え絶えに大人しく受け入れている。
「……んっ……ぁっ……ジュー、ド……?」
「地獄の記念日」
「……えっ?」
こんな甘い雰囲気の中で急に何をとんでもなく外れた単語を言い出すんだと、エルフリーデがその角度によって金にも見える茶色の瞳を大きく見開いてジュードを二度見した。
「リーはどうしてだか、『送られたカップルは未来永劫ずっと離れることなく幸せになれるとされている、まさに恋人達の為にあるような恋の花』っていう良い面しか知らないみたいだけど」
「えっ? 他にも何かあるの?」
「まあね……」
エルフリーデはジュードにその花の由来を教えてもらって愕然としていた。
幻の花の別名は地獄の記念日。それというのも祭事の初代優勝者がその花を思い人(恋人)に送ったところ、公共の場でこっぴどく振られてしまったことが元となるからだ。
しかしその初代優勝者と幻の花を贈られた女性はそれまで傍から見てもラブラブのカップルだった。それがどうしてそうなってしまったのかというと。実は幻の花の香には真実の思いを相手に伝えてしまうという副作用が有る。いわゆる自白剤のようなもので。それを嗅いだ初代優勝者の恋人は男性のお金に目が眩んで付き合っていただけという金銭目的での付き合いだったことを告白。真実の思いが金目当てということが発覚し、あえなく破局したと言う悲劇にみまわれた。その為幻の花=地獄の記念日という名前が定着してしまったのが真相だった。
「えっと、でもわたし何ともないわよ? 特に変な感じもしないし……」
「それはリーの思いに嘘偽りがないからだよ」
エルフリーデは先程口にした言葉通りにジュードを愛しているから、花を渡されてもいつもどおりジュードと接する事が出来たのだ。ジュードのことを何よりも誰よりも愛している。それがエルフリーデの真実の思い。
そうしてまぎれもない愛の形を聞くことが出来て、これからもエルフリーデに変わらぬ愛情を注ぐことが出来る安心にジュードは心が満たされていた。
最初は幻の花が欲しいと結婚まであと3ヶ月を切った時期に唐突にエルフリーデが言い出したときはどうするつもりだ? と不思議に思っていたジュードだったが。エルフリーデの様子を見ている限りその本当の意味を知らないでいるようだったし、ただ純粋に欲しいだけのようだった。
そして何よりも愛しい人が欲しいと言っているのだから手に入れない理由はジュードの中には何処にもなかった。祭事など面倒事に参加するのを敬遠しているジュードがそんなことを思って、始めは不参加の予定だったのを急遽変更して重い腰を上げたことをエルフリーデは知らない。
お人形のようにパッチリと開かれた大きな瞳に小さく整った鼻、そして可憐な花びらを思わせる唇といい。その可愛らしい作りの顔立ちと綺麗な身体を見ていると、よく12年もの間エルフリーデに手を出さずに耐えられたなと自分で自分を褒めたくなるような心境にあった。
正直なところこんなに男を誘う要素がつまった魅力的な人はなかなかいない。けれどその肝心な部分をエルフリーデが知らないのは、ジュードが男という男をエルフリーデから徹底的に遠ざけていたからで。エルフリーデが知らないのも無理はない。そして男が寄ってこなかったのはジュードのせいだと分かった今でも自分がモテると未だに自覚していないのだから。
期せずしてそうなる方向に仕向けてしまった本人としては自覚してくれとはとても言えない。かといってそう言う意味で迫られて大変だったとあまり文句を言うことも出来ない。それにジュードはそのことを分かって欲しいとは微塵も思っていなかった。そのままのエルフリーデが好きで大切だから。無理に変わる必要なんてないし、変えたいともジュードは思っていない。
「これっもらっていいの?」
「うん、リーの為に取ってきたから。それに今日はリーの誕生日でもあるからね」
「……ありがとう」
そんなことをジュードが考えているとは毛ほども思っていないだろう婚約者は、無邪気に与えられた花を愛でてその香りを嗅いで楽しんでいる。白い宝石のような大輪、幻の花を手に嬉しそうにしている婚約者の腰に巻き付けている手を片方、その小さな頭に回して撫でると。エルフリーデは一瞬ちょっとだけ目をパチパチさせてそれからふわっと華のように微笑んだ。
幼い頃から変わらないその純真な笑みを向けられるといつも心が和んで、その愛おしさにギュッと強く抱き締めたまま、そうしてずっと腕の中から出したくなくなってしまう。
「……リーは僕のことどう思ってる?」
「えっなんなのいきなり?」
「いいから答えて」
「えっとぉ……好き、だけど?」
「それで?」
「えっ? それでって?」
「僕のことどのくらい好きなの?」
「ジュード?」
「答えて」
「えっと、その……そんなどのくらいかなんて言われても分からな……」
「リー、言って」
「……世界で一番好き、誰よりも何よりもジュードが一番好きで大切で大事で、何よりも愛してるの……」
この答えじゃダメかな? とエルフリーデが頬を赤く染めながらジュードを見返してくるから、そのまま唇をさらうように奪ってしまった。息を付くのも忘れるくらい深く唇を重ねて舌を吸われたエルフリーデは、ジュードが欲求する通りに唇を開いて息も絶え絶えに大人しく受け入れている。
「……んっ……ぁっ……ジュー、ド……?」
「地獄の記念日」
「……えっ?」
こんな甘い雰囲気の中で急に何をとんでもなく外れた単語を言い出すんだと、エルフリーデがその角度によって金にも見える茶色の瞳を大きく見開いてジュードを二度見した。
「リーはどうしてだか、『送られたカップルは未来永劫ずっと離れることなく幸せになれるとされている、まさに恋人達の為にあるような恋の花』っていう良い面しか知らないみたいだけど」
「えっ? 他にも何かあるの?」
「まあね……」
エルフリーデはジュードにその花の由来を教えてもらって愕然としていた。
幻の花の別名は地獄の記念日。それというのも祭事の初代優勝者がその花を思い人(恋人)に送ったところ、公共の場でこっぴどく振られてしまったことが元となるからだ。
しかしその初代優勝者と幻の花を贈られた女性はそれまで傍から見てもラブラブのカップルだった。それがどうしてそうなってしまったのかというと。実は幻の花の香には真実の思いを相手に伝えてしまうという副作用が有る。いわゆる自白剤のようなもので。それを嗅いだ初代優勝者の恋人は男性のお金に目が眩んで付き合っていただけという金銭目的での付き合いだったことを告白。真実の思いが金目当てということが発覚し、あえなく破局したと言う悲劇にみまわれた。その為幻の花=地獄の記念日という名前が定着してしまったのが真相だった。
「えっと、でもわたし何ともないわよ? 特に変な感じもしないし……」
「それはリーの思いに嘘偽りがないからだよ」
エルフリーデは先程口にした言葉通りにジュードを愛しているから、花を渡されてもいつもどおりジュードと接する事が出来たのだ。ジュードのことを何よりも誰よりも愛している。それがエルフリーデの真実の思い。
そうしてまぎれもない愛の形を聞くことが出来て、これからもエルフリーデに変わらぬ愛情を注ぐことが出来る安心にジュードは心が満たされていた。
最初は幻の花が欲しいと結婚まであと3ヶ月を切った時期に唐突にエルフリーデが言い出したときはどうするつもりだ? と不思議に思っていたジュードだったが。エルフリーデの様子を見ている限りその本当の意味を知らないでいるようだったし、ただ純粋に欲しいだけのようだった。
そして何よりも愛しい人が欲しいと言っているのだから手に入れない理由はジュードの中には何処にもなかった。祭事など面倒事に参加するのを敬遠しているジュードがそんなことを思って、始めは不参加の予定だったのを急遽変更して重い腰を上げたことをエルフリーデは知らない。
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