手出しさせてやろうじゃないの! ~公爵令嬢の幼なじみは王子様~

薄影メガネ

文字の大きさ
上 下
40 / 58
本編

38.明かされる魔の手

しおりを挟む
 少し早い誓いの口づけを交わし終わった後、天使の顔に悪魔が表れた──

「さてと、それでじゃあ僕も聞くけど。リーは彼奴あいつに何を言われたの? もう教えてくれるよね? というか答えてくれるまで僕はリーをこのまま離すつもりないんだけどね」

 ジュードはそう言ってニッコリと笑っているが冗談ではなく本気だ。それも腰に回された手には相当な力が込められていて、痛くはないけれど逃げ出すことも出来ない。先程までの甘い雰囲気は何処へ行ったのやら。エルフリーデはまたもジュードに追い詰められていた。

「あのぉ~、えっと、そのぉ……ジュード、そのことまだ覚えてたの?」 
「覚えてたのって……そんなこと忘れようがないんだけど」

 そのこととは、以前王城でジュードが女の人と会って話をしている現場に偶然居合わせたエルフリーデの従兄弟が、去り際にこっそりエルフリーデに耳打ちしていったそのことだ。

「で、でもっ! そんなたいしたことじゃないし……」
「さっき怪我の話をしてたときもリーはそう言ってたけど、リーのたいしたことないはどうやらあまり当てにならないみたいだね?」
「なっ!? なによぅっ! 何でそんな意地悪なこというのよ!」
「意地悪? そうかな? 僕はリーに意地悪されてる気分なんだけど」
「えっ?」
「答えをらされて、どうでもいいって思ってる奴に嫉妬しなきゃいけない僕の身にもなってくれって言えばリーには伝わるのかな?」
「あの、わたしそんな焦らしてなんか……」
 
 今、従兄弟のことをどうでもいい奴って言った? とエルフリーデは何やら物騒な物言いになってきているジュードを警戒して声を落としてそわそわと落ち着かなく視線を漂わせた。けれどやっぱりちょっとだけ気になって、チラッとジュードの様子を盗み見ようとして失敗した。青緑のんだ海を思わせる瞳とバッチリ目線が合ってしまった。
 エルフリーデと目線が合うとジュードはふっと微笑みを浮かべた。透明感のある綺麗過ぎる容貌に、まるで慈愛の天使そのものの甘い微笑みをたたえている。が、そのジュードの瞳の奥に暗い影がうごめいたような気がして。一瞬、場の空気が凍り付く。そして再び魔王のような底知れぬ黒い迫力をジュードから感じ始めてエルフリーデは寒気を覚えた。

「あ、あの……ジュード?」

 怖がり始めたエルフリーデの様子に、ジュードがやれやれと表情を緩めた。

「冗談だよ。ごめん……といっても半ばは本気なんだけどね」
「……ジュード嫉妬してるの?」
「うん」
「そんなに知りたいの?」
「うん、まぁ無理にとは言わないけど。僕はリーに関わることなら何でも知りたいよ?」

 ジュードは知りたいと言いつつもそれ以上追求するのを諦めていた。エルフリーデをあまり怖がらせたくないとジュードは思っているようで。困ったと、眉尻を下げて弱々しく笑っている。エルフリーデに怖いと思わせてしまうくらいなら仕方が無い。そう思って追求を断念しているのが分かって、そのエルフリーデを思うジュードの優しさにエルフリーデの心は折れた。

「……ぃ……き……って言われたの」
「えっ? リーごめん、よく聞こえなかったんだけど……」

 もう一度言ってくれる? とエルフリーデを見つめるジュードの優しい瞳の色に魅せられて。エルフリーデはジュードの耳元に口を寄せると従兄弟に言われた言葉をそのまま反芻はんすうした。



『……彼奴あいつ、エルフリーデの事しか見えてないみたいだから気を付けろよ?』



「って言われたの……」
「…………」
「あのぉ? ジュード? どうしてだまって──」
「は、はははははははは!」
「……じゅっ、ジュードぉ……?」
「くくっ、確かにそうだね。彼奴あいつもよく分かってるじゃないかっ!」

 ジュードらしからぬ豪快な笑い声と、楽しそうに目に涙を浮かべながら笑っている表情にエルフリーデは目を丸くした。

「まったく、リーにあんなトラウマ植え付けた奴はたいがい叩きのめしたつもりだったんだけど、彼奴あいつまだリーに近寄ってくるなんてちょっと足りなかったかな?」
「あ、あの……?」
「やっぱりもっと痛め付けておけばよかったか」
「……はっ? ジュード今なんて?」
「ああ、ごめん。リー、なんでもないよ」
「そ、そう? ……あっあのね、そのことなんだけど……」
「ん? 何? どうしたの?」
「えっとね、そのぉわたし、……てっきりわたしって男の子に嫌われやすいんだってずっとそう思ってたのよ? 昔からジュード以外の他の男の子はみんなわたしに近づこうとしないし、それにああいうこともあったから……でもあの人がその、……それは違うって教えてくれたの。それとジュードがわたしのことずっと守ってくれてたってことも」

 嫌われていると、幼い頃からずっとそう思っていたのに。まさか男の子達がエルフリーデに近づかなかったのは(近づけなかったのは)、陰でジュードがずっと守っていてくれていたからだ何てこと知らなかった。従兄弟にその話を聞くまでは。

「そんなことまで彼奴あいつはリーに話したのか……」
「う、うん」
「だけどリー、それはリーの思い違いだよ」
「思い違い?」
「リーは昔からすごく可愛くて皆に好かれていたからね。誰にもリーを取られないように僕が隠したんだ。僕だけのものにしたくて、優しい檻の中にリーを囲って僕はずっとそうしてリーに嘘を付いてた。僕は優しいって嘘をね」
「嘘?」
「リーを欲しいって思ってる他の奴らと寸分すんぶん変わらず同じことを僕も考えてるのに。それを隠してリーに僕は安全だって思わせて逃がさないようにしてた。だからそういうこともキス以上はリーに何も教えないできたのに、それがまさかこんな結果になるとはね」

 何もかもあらいざらいを吐き出して。そう言って苦笑しているジュードの表情は、そのつむぐ言葉に反して爽やかで、とてもスッキリした顔でエルフリーデに向き合っていた。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~

藤原ライラ
ファンタジー
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――  子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。  彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。 「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」  四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。  そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。  文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!? じれじれ両片思いです。 ※他サイトでも掲載しています。 イラスト:ひろ様(https://xfolio.jp/portfolio/hiro_foxtail)

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】西の辺境伯令嬢は、東の辺境伯へと嫁ぐ

まりぃべる
ファンタジー
リューリ=オークランスは十七歳になる西の辺境伯の娘。小さな体つきで見た目は大層可憐であるが、幼い頃より剣を振り回し馬を乗り回していたお転婆令嬢だ。 社交場にはほとんど参加しないリューリだが一目見た者は儚い見た目に騙され、見ていない者も噂で聞く少女の見た目に婚約したいと願う者も数多くいるが、少女はしかし十七歳になっても婚約者はいなかった。 そんなリューリが、ある事から東の辺境伯に嫁ぎ、幸せになるそんなお話。 ☆まりぃべるの世界観です。現実世界でも同じような名前、地名、単語などがありますが関係ありません。 ☆現実世界とは似ていますが、異なる世界です。現実ではそんな事起こる?って事も、この世界では現象として起こる場面があります。ファンタジーです。それをご承知の上、楽しんでいただけると幸いです。 ☆投稿は毎日する予定です。 ☆間違えまして、感想の中にネタバレがあります…感想から読む方はお気をつけ下さい。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【完結】median -メディアン-

たいけみお
恋愛
複雑な理由で遠回りせざるを得なかった二人の純愛ストーリー。 全く異なる宿命に生れ落ちた二人の、15歳からの記録です。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

処理中です...