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本編
35.作戦その3!自力での愛獲得手段
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可愛く小首を傾げる婚約者にジュードは苦虫を噛み潰したような心情でお断りを入れた。心にも無い言葉でエルフリーデを拒否するのはこれで何度目になるのか。冗談でも抱くなどと言うのではなかったとジュードは深く心の中で溜息を付く。
抱かれてもいいと素直にジュードを受け入れて、ジュードを欲しがるエルフリーデが可愛くて愛しくて仕方が無い。
「リーがそう言ってくれるようになったのは嬉しいけど、でも前にも言った通り僕は結婚するまでリーには手を出さない。けじめだからね」
「……やっぱりジュードって頭固い」
「リーはどうしてそうなの? 女性から迫る何てなかなか度胸がいることだと思うんだけど。それともそんなこと関係なくなるくらい、そんなに僕がのことが好き?」
ジュードは意地悪のつもりで言ったのにエルフリーデはそれに気付かない。
「好きよ……好きだもの。わたしがジュードを好きで何が悪いのよっ! 好きだから迫ることのどこが悪いの? ジュードに触ってほしいって思うことのどこが悪いのよっ! 今だってジュードに触ってほしくてジュードに触りたくてでもジュード怪我してるから必死で抑えてるのに! う~! もうっ! どうしてこんなことばっかり言わせるのよぉっジュードのばかぁっ!!」
そう言ってエルフリーデはうにゅっと目に涙を溜めながらほとほと泣き始めてしまった。ジュードがエルフリーデの細腰に手を回して自身の方へ抱き寄せると、子猫のように小さく丸まってジュードの胸板に頬を擦り寄せ、う~と泣きながらすがりつくように身を寄せてくる。
「……リーわざとやってるわけじゃないよね?」
「えっ? ひっく、なに、が? ひっく」
好きな人から好きだと、それも触って欲しいとか面と向かって言われて体当たりされることの、その威力のすごさを。こんな怪我してる状態でなければ本当にエルフリーデに思い知らせてやりたいと心の中に住む陰、魔王の部分が顔を出しそうになるのをジュードは持ち前の鋼の精神力で抑え込む。
抑えているのはこっちの方だ。と、ジュードは天使の笑顔を顔に張り付かせエルフリーデの頭を優しく撫でながらも、心底そう思わずにはいられなかった。
◇◇◇◇
強い抱擁と力強いキスにジュードもやっぱり男の人なんだなぁ、とぼんやり考えながら温かい唇の感触に心地よさを感じてうっとりと目を閉じてそれから……
せっかく、意を決して受け入れたのに。エルフリーデはそれをあっさりジュードに断られてしまった。何がそんなにいけないの? けじめってそんなに大事? と、エルフリーデは負傷のジュードを置いて屋敷の自室に戻った後も悶々と頭を悩ませ続けていた。
「ねぇマリア、そんなにけじめって大事なの? 確かにジュード怪我してたし、だからあの時は無理なのも仕方ないかなって……でもああまで言っても手を出さないってことは、わたしってやっぱり魅力ないのかしら?」
「お嬢様……」
もう結婚するまであと数週間しかない。ジュードに手出しさせる為の打開策も思いつかず。そうしてひたすら落ち込んでズーンとソファーの上に突っ伏しているエルフリーデを慰めるべく、マリアはある妙案を叩きだした。
「お嬢様、もうこうなったら最終手段ですわ!」
「最終手段?」
「数週間後に開催される祭事の優勝賞品、”幻の花”を手に入れてジュード様にプレゼントするんですわ!」
「……えっとぉ、ちょっと待って? あの、わたしはそれをどうやって手に入れればいいのかしら……?」
「もちろんお嬢様が祭事に参加して優勝することが前提ですわ。それにバレては元も子もありませんからお嬢様は男装して参加なさってくださいな。そして優勝したあかつきには、”幻の花”をジュード様にお渡しするときに愛の告白をお伝えした後で再度手出しして頂くようお願いするんです!」
「えっとぉマリア、さん? わたしが祭事に出るの? というか出ていいの? それってジュードにかなりキツくダメだって言われてるんだけど……」
「はい、お嬢様。恋する乙女に遠慮も手加減も一切無用ですわ!」
「…………」
いや、きっとそれは駄目な気がする。というかジュードにバレたら後が怖い。というのをエルフリーデは最近学んだばかりだった。と、一瞬自制したものの。剣には少し覚えがある(自称)ので、祭事に参加したいというエルフリーデのやんちゃな部分がちょこっとだけ顔を出す。
「う~ん、男装で祭事に参加、ね……」
「それにお嬢様、思い人にそうまでされて心を動かされない殿方など存在しませんわ。いくら身持ちの堅いジュード様でもけじめにかこつけて抱かないなどと言ってはいられないでしょうし。それ以上抗うことなど到底出来るわけがありませんわ」
「なるほど……でも、やっぱりそれってかなり無理があるんじゃないかしら? だって祭事って結婚式の前日だし、もう数週間しかないし……それに優勝するのは多分無理だと思うの……」
というか、もうそこまできたら結婚後も結婚前もほとんど変わりないような気がする。とはいえ、当初決意した通りやっぱり結婚前にというところがエルフリーデにとっては至極重要なことで。逆に言うと、ここまで来たらもう意地が邪魔をして引くに引けない。というか引きづらい。変にこだわってしまう悩ましい部分でもあった。
「ええ、ですからその祭事に向けてお嬢様は明日からでも剣の稽古をなさって下さいな。わたくしはその間に毒薬、しびれ薬、眠り薬などの劇薬を用意いたします。祭事が始まりましたらわたくしがそれをお嬢様の対戦相手に仕込みますのでお嬢様は遠慮なく勝ち進んで下さいな」
「え、えんりょなく……? あのね、マリア? 劇薬はちょっと不味いと思うのよ。それにそんなことしたらすぐにばれちゃうんじゃない?」
「大丈夫ですわお嬢様。お嬢様もご存知の通りわたくし薬師の娘ですから一般的でない薬の調合も得意なんです。それにこういうことにも慣れておりますので」
「はいっ?」
慣れているってどういうことだ? そう思って不思議な顔をマリアに向けると、マリアは衝撃の事実を教えてくれた。
「今の旦那様もわたくしが用意した劇薬で落としましたのよ? いざという時に意中の方を落とせるようと、両親から花嫁修業代わりに毒の仕込み方から格闘技まで幅広く教わりましたの」
「え、えぇぇぇ────────ッ!?」
花嫁修業!? 毒の仕込みと格闘技が!? マリアの両親っていったいどんな親なのよ……というかマリア、それはやっぱり何か違うと思うのよ~。とは思っていてもエルフリーデにはやっぱり何も言えなかった。
「ですからわたくしお嬢様の警護も担当しておりますのよ? その位でないとおてんばなお嬢様のお相手を務められる者などいませんもの」
「…………」
……た、確かに。と、エルフリーデは自分のこれまでの行動を振り返って、それから否定できないことに一人ズーンと落ち込みながらも。結局、エルフリーデは翌日から剣の稽古を受けることにした。何故ならもう後がないからだ。
抱かれてもいいと素直にジュードを受け入れて、ジュードを欲しがるエルフリーデが可愛くて愛しくて仕方が無い。
「リーがそう言ってくれるようになったのは嬉しいけど、でも前にも言った通り僕は結婚するまでリーには手を出さない。けじめだからね」
「……やっぱりジュードって頭固い」
「リーはどうしてそうなの? 女性から迫る何てなかなか度胸がいることだと思うんだけど。それともそんなこと関係なくなるくらい、そんなに僕がのことが好き?」
ジュードは意地悪のつもりで言ったのにエルフリーデはそれに気付かない。
「好きよ……好きだもの。わたしがジュードを好きで何が悪いのよっ! 好きだから迫ることのどこが悪いの? ジュードに触ってほしいって思うことのどこが悪いのよっ! 今だってジュードに触ってほしくてジュードに触りたくてでもジュード怪我してるから必死で抑えてるのに! う~! もうっ! どうしてこんなことばっかり言わせるのよぉっジュードのばかぁっ!!」
そう言ってエルフリーデはうにゅっと目に涙を溜めながらほとほと泣き始めてしまった。ジュードがエルフリーデの細腰に手を回して自身の方へ抱き寄せると、子猫のように小さく丸まってジュードの胸板に頬を擦り寄せ、う~と泣きながらすがりつくように身を寄せてくる。
「……リーわざとやってるわけじゃないよね?」
「えっ? ひっく、なに、が? ひっく」
好きな人から好きだと、それも触って欲しいとか面と向かって言われて体当たりされることの、その威力のすごさを。こんな怪我してる状態でなければ本当にエルフリーデに思い知らせてやりたいと心の中に住む陰、魔王の部分が顔を出しそうになるのをジュードは持ち前の鋼の精神力で抑え込む。
抑えているのはこっちの方だ。と、ジュードは天使の笑顔を顔に張り付かせエルフリーデの頭を優しく撫でながらも、心底そう思わずにはいられなかった。
◇◇◇◇
強い抱擁と力強いキスにジュードもやっぱり男の人なんだなぁ、とぼんやり考えながら温かい唇の感触に心地よさを感じてうっとりと目を閉じてそれから……
せっかく、意を決して受け入れたのに。エルフリーデはそれをあっさりジュードに断られてしまった。何がそんなにいけないの? けじめってそんなに大事? と、エルフリーデは負傷のジュードを置いて屋敷の自室に戻った後も悶々と頭を悩ませ続けていた。
「ねぇマリア、そんなにけじめって大事なの? 確かにジュード怪我してたし、だからあの時は無理なのも仕方ないかなって……でもああまで言っても手を出さないってことは、わたしってやっぱり魅力ないのかしら?」
「お嬢様……」
もう結婚するまであと数週間しかない。ジュードに手出しさせる為の打開策も思いつかず。そうしてひたすら落ち込んでズーンとソファーの上に突っ伏しているエルフリーデを慰めるべく、マリアはある妙案を叩きだした。
「お嬢様、もうこうなったら最終手段ですわ!」
「最終手段?」
「数週間後に開催される祭事の優勝賞品、”幻の花”を手に入れてジュード様にプレゼントするんですわ!」
「……えっとぉ、ちょっと待って? あの、わたしはそれをどうやって手に入れればいいのかしら……?」
「もちろんお嬢様が祭事に参加して優勝することが前提ですわ。それにバレては元も子もありませんからお嬢様は男装して参加なさってくださいな。そして優勝したあかつきには、”幻の花”をジュード様にお渡しするときに愛の告白をお伝えした後で再度手出しして頂くようお願いするんです!」
「えっとぉマリア、さん? わたしが祭事に出るの? というか出ていいの? それってジュードにかなりキツくダメだって言われてるんだけど……」
「はい、お嬢様。恋する乙女に遠慮も手加減も一切無用ですわ!」
「…………」
いや、きっとそれは駄目な気がする。というかジュードにバレたら後が怖い。というのをエルフリーデは最近学んだばかりだった。と、一瞬自制したものの。剣には少し覚えがある(自称)ので、祭事に参加したいというエルフリーデのやんちゃな部分がちょこっとだけ顔を出す。
「う~ん、男装で祭事に参加、ね……」
「それにお嬢様、思い人にそうまでされて心を動かされない殿方など存在しませんわ。いくら身持ちの堅いジュード様でもけじめにかこつけて抱かないなどと言ってはいられないでしょうし。それ以上抗うことなど到底出来るわけがありませんわ」
「なるほど……でも、やっぱりそれってかなり無理があるんじゃないかしら? だって祭事って結婚式の前日だし、もう数週間しかないし……それに優勝するのは多分無理だと思うの……」
というか、もうそこまできたら結婚後も結婚前もほとんど変わりないような気がする。とはいえ、当初決意した通りやっぱり結婚前にというところがエルフリーデにとっては至極重要なことで。逆に言うと、ここまで来たらもう意地が邪魔をして引くに引けない。というか引きづらい。変にこだわってしまう悩ましい部分でもあった。
「ええ、ですからその祭事に向けてお嬢様は明日からでも剣の稽古をなさって下さいな。わたくしはその間に毒薬、しびれ薬、眠り薬などの劇薬を用意いたします。祭事が始まりましたらわたくしがそれをお嬢様の対戦相手に仕込みますのでお嬢様は遠慮なく勝ち進んで下さいな」
「え、えんりょなく……? あのね、マリア? 劇薬はちょっと不味いと思うのよ。それにそんなことしたらすぐにばれちゃうんじゃない?」
「大丈夫ですわお嬢様。お嬢様もご存知の通りわたくし薬師の娘ですから一般的でない薬の調合も得意なんです。それにこういうことにも慣れておりますので」
「はいっ?」
慣れているってどういうことだ? そう思って不思議な顔をマリアに向けると、マリアは衝撃の事実を教えてくれた。
「今の旦那様もわたくしが用意した劇薬で落としましたのよ? いざという時に意中の方を落とせるようと、両親から花嫁修業代わりに毒の仕込み方から格闘技まで幅広く教わりましたの」
「え、えぇぇぇ────────ッ!?」
花嫁修業!? 毒の仕込みと格闘技が!? マリアの両親っていったいどんな親なのよ……というかマリア、それはやっぱり何か違うと思うのよ~。とは思っていてもエルフリーデにはやっぱり何も言えなかった。
「ですからわたくしお嬢様の警護も担当しておりますのよ? その位でないとおてんばなお嬢様のお相手を務められる者などいませんもの」
「…………」
……た、確かに。と、エルフリーデは自分のこれまでの行動を振り返って、それから否定できないことに一人ズーンと落ち込みながらも。結局、エルフリーデは翌日から剣の稽古を受けることにした。何故ならもう後がないからだ。
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