手出しさせてやろうじゃないの! ~公爵令嬢の幼なじみは王子様~

薄影メガネ

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本編

24.長いキス

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 ジュードはエルフリーデと出会ってからずっと、エルフリーデの傍にいて観察し、見守って、その純粋な心を守り続けた。そんなに慎重に事を進めてきたというのに。今回エルフリーデにしでかした自分の失態に、そのいつになく余裕を無くして軽率すぎる行いをした自身にあきれながら、どうすればエルフリーデが自分を受け入れてくれるのかをジュードは考えていた。
 そして先程した強引なキスで放心状態になってしまったエルフリーデが、ジュードを拒絶しないかどうか知りたかった。それを確かめなければとてもこのままエルフリーデを家に帰すことなんて出来ない。不安で胸が押し潰されそうなくらいジュードは追い詰められていた。

「ねえ、リー……1ついいかな?」
「なあに? わたしに出来ることならいって? 難しいことでもちゃんと協力するから」

 黙っている間も苦悶くもんの表情を浮かべているジュードに気が気でないエルフリーデは一も二もなく答えた。

「もう一度、リーにキスしてもいい? リーに触ってもいい?」
「ジュード……?」

 突然ジュードに触れる許可を求められて何を言い出したのかとエルフリーデはビックリして大きな茶色の瞳を二、三度まばたいた。どうしたんだろう? としきりにジュードを不思議そうな顔で見て、それから返事の代わりにエルフリーデは自らジュードに近付いてきた。おそるおそると言うよりもとにかくジュードが心配で、でもどうしたらいいのか分からない様子で。困惑して、戸惑いながらも何とか落ち込んでいる主人を必死になぐさめようとする子犬のようにエルフリーデはジュードに触れてきた。
 エルフリーデはジュードの首筋に手を回してジュードをそっと引き寄せると、始めは頬にそして目蓋まぶたにと、その柔らかい唇をジュードの顔のいたるところに次々と優しく押し当てて沢山のキスを降り注いでいく。
 怪我をして痛がっている子供にするように、大丈夫だよとエルフリーデはジュードを自身のふところに受け入れて、ジュードの心を守る為に優しいキスと包容で癒していく。

 なぐさめるようにキスの雨を降り注いで最後に少しためらってから、エルフリーデは遠慮がちにジュードの唇に唇を重ねてきた。ジュードが嫌がるんじゃないかとエルフリーデが大人の舌をからめるキスを遠慮しているのが分かって、ジュードはエルフリーデの口を優しく開かせて舌を差し入れた。
 一瞬だけビクついて身体を強張らせたもののエルフリーデは逃げない。いいのかな? とおそるおそるエルフリーデはジュードの舌に応えて舌をからませてきた。まるで臆病な小動物を相手にしているような感覚に苦笑しつつ、エルフリーデがジュードを拒絶しなかったことにホッとしてようやく少し心の平安を取り戻せたことにジュードは胸をで下ろす。

 これ以上怖がらせないように優しく唇を重ねながらジュードはエルフリーデを胸元に引き寄せた。ジュードの舌に応えようとして必死に口を開けるエルフリーデのその健気な様子が、ジュードにはあまりにも愛おし過ぎておかしくなりそうで。けれど危なくエルフリーデにトラウマを植え付けるところだったと、ジュードはその危険性を思い出して自分の行動を恥じながら、心の中でチッと舌打ちして衝動に耐えた。

 くそっ、こんなんじゃ結婚してもこれ以上手なんかとても出せない。出せたもんじゃないぞ。

 どうする? とジュードが悩む頭で口づけを続けていたら、エルフリーデが小さく身じろいだ。エルフリーデの身体から力が抜けていくのを感じでジュードはやっと唇を離した。互いの唾液が糸を引いてアーチ状に唇を繋ぐくらい深いキスを思えばかなり長い時間続けていた気がする。
 
「リーは昔からちょっとおてんばで気が強くて、……でも泣き虫だよね」

 そうジュードに言われてもエルフリーデには答えられないようだった。何故なら先程のジュードの口づけがあまりにも長くて。今までした中でも一番、すごく長いキスのおかげで半ばのぼせるようにボーッと思考が回らない状態だったからだ。ほわんと微睡まどろんだ色気のある表情で唾液に濡れて熱っぽく赤くなった唇を半開きに、頬をピンク色に染めながらとろんと警戒をいた姿で、エルフリーデはただただジュードだけを見ていた。ジュード以外のモノは何も見えていないかのように。
 そして、やがて離れたジュードの唇を物欲しそうな目でエルフリーデが見つめ始めた。

「……それにとっても甘えん坊だ」

 優しくそう言ってジュードはエルフリーデの唇にもう一度唇を重ねた。
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