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本編

22.ジュードの恐れ

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 前にもエルフリーデにそれと同じ質問をされたことをジュードは思い出していた。

『ジュードもそうおもう? エルフリーデはいらない?』

 幼い頃出会ったときにエルフリーデに言われた言葉。それがどんなにジュードにとって衝撃だったのかをエルフリーデは知らない。そしてまたも同じことを言われて、エルフリーデにそれを言わせてしまったことをジュードは激しく後悔した。ゾッとするほどの寒気に背筋が凍り付く。確かに今、ジュードはエルフリーデを失いかけたのだから。

 くそっ! 僕はいったい何をやっているんだ! 傷付けたうえに無理矢理押し倒して泣かせて不安にさせるなんて最低じゃないかっ! そう心の中で葛藤かっとうしてジュードは強く拳を握り締めた。

「ごめん! リーごめんね」
「ジュード……?」
「リーをいらないなんて僕は思ったことないよ」
「本当に?」
「うん、本当だよ」
「じゃあどうしてジュードがわたしに謝るの?」
「僕がリーを不安にさせたからだよ。ごめんねリーごめん」

 そう言って真っ青な顔色でジュードがキツくエルフリーデを抱き締めると、エルフリーデがジュードの背中を優しくでた。逆に気遣わしげに大丈夫かとエルフリーデはジュードの様子をうかがって、心配そうに首をかしげている。

「ジュード? どうしてそんなに悲しい顔してるの? もしかしてどこか具合悪いの? ジュード?」
「……リーは本当に僕のこと好きなんだね」
「好きよ? そんなこと何でいまさら聞くの?」

 ジュードに抱く感情が好き以外になりようがないとでも言うように。当然と返してくるエルフリーデがいとしすぎてジュードは困惑しきりだ。何でそんなにジュードをしたうのかエルフリーデの心が分からない。優しいから好きだと言われてだからずっと優しくしてきた。優しさだけで接し続けてきた。エルフリーデを失いたくなくて。エルフリーデに愛されている自分を失いたくなかったから。
 でもそれも男という自分の身体がエルフリーデにいる行為を考えたら、優しく出来なくなる。今更だがどうすればいいのか分からなくなってしまったのはジュードの方だった。
 愛する人を愛する行為をエルフリーデは受け入れてくれるのだろうかと、拒絶されることをジュードは恐れてしまった。

「ジュード?」
「……リーはどうしてそんなに僕がいいの? 昔からそうだったよね? 僕がいいって言って近寄ってきて……優しいからって言ってたけど、優しくない僕は……リーは嫌?」
「ジュードが優しくないって? えっと、もうわたしに優しくしてくれないってこと? やっぱりわたしのこと嫌になったの? きらいになったからジュードはそんなことわたしに聞くの?」
「違うよリー、そうじゃなくて、その……」

 珍しく歯切れを悪くして話をするジュードがエルフリーデは本格的に心配になってしまったらしい。先程まではジュードに乱暴に押し倒されて泣いていた癖に、エルフリーデはそんなことを忘れてしまったかのように今はジュードを本気で心配していた。ジュードの頬に手を当てて熱でもはかるように優しく額に額をくっつけてジュードの瞳をのぞき込んでいる。

「ジュードどうしたの? 不安なの? それとも……何か悩みごと? 話してくれればちゃんと聞くから教えて? 大丈夫? ……わたしジュードが苦しんだり辛い思いをするのは嫌よ?」

 自分の状態よりもジュードを心配してその可愛い顔を曇らせて、しきりに何とかなぐさめようとしてエルフリーデは必死にジュードの気持ちを知りたがった。

 ジュードは今まで何一つ恐れや不満を強く感じたことなどなかった。それというのもジュードは何をするにも器用にこなすことが出来たし、他の人間にとっては難しいこともジュードにとってはどれも簡単で単純で。つまらない世界だと頭の何処どこかで世界をそして周りの人間を小馬鹿にしていた。
 もちろん、そんなことを表立って言うほど馬鹿じゃない。けれど愛想笑あいそわらいの一つでも浮かべていれば周りが良いように動いて思い通りになってしまう。そんな簡単過ぎてつまらない世界に、ジュードは内心いつもあきあきしていた。

 そして、その変化のないつまらない世界にやってきた唯一無二の変化がエルフリーデだった。
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