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本編
23 血の約束
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──セオドア様と仲直りをした激しいセックスの後、
沢山射精されて愛液と精液で濡れたそぼった秘所には、未だにセオドア様のモノが埋め込まれたまま、私はセオドア様の腕の中にいた。
昨日からずっと抱かれ続けていて、もう、今が朝なのか夜なのかも分からない。カーテンはいつの間にかセオドア様がきっちり隙間なく閉めてしまわれたから、蝋燭と暖炉の炎以外の明かりは、小屋の中に差し込まない。
セオドア様は外の時間を私が知らないようにした方が、セックスに専念できると分かっているようだ。今の私はセオドア様にほぼほぼ軟禁状態に近い形にさせられていた。
ベッドから下りることは、ほとんど許されず。ずっとあそこにセオドア様を受け入れている。
逃げようとする度、シーツに両手を縫い付けられ、中を突き上げられる。セオドア様が激しく腰を動かし、獣のように後ろから何度も行為を繰り返されて……。
私の中でずっと脈打っているセオドア様の屹立は、萎えることを知らないようだ。セオドア様はまるで、私がセオドア様のモノであると、分からせようとしているかのように、私を離さなかった。
「あっ……あの、まだするのですか……?」
行為の休憩に入ったとき、私はおそるおそる聞いた。しかしいつもなら必ず明瞭な答えを返してくれるセオドア様からの返事はなく。
一緒にベッドで横になりながら、眠るようにして私を後ろから抱き締めているセオドア様を、私は顔だけ動かして振り返る。セオドア様は目を瞑っているかいないかのギリギリのところで、私の背中や首筋に、時おり甘噛みするようなキスをしながら、ウトウトしていた。
起き抜けのセオドア様は男の人なのに可愛い。見ているだけで、幸せな気持ちになる。心なしか、日中遊びすぎて眠りに落ちる寸前の、寝落ち間近の子供のように見えた。
もしかして、甘えてくれている……? と、ちょっぴり嬉しくなる反面、私の中に咥え込まされている屹立が萎える気配はなくて、やっぱり男の人なんだなぁと、くすりと笑う。
愛しさに、胸元に回されているセオドア様の腕をキュッと握る。すると、中のセオドア様が動いた。クチュッと少し突き上げられて、私の口から甘い声が零れると、セオドア様は私の背中から唇を離して、眠たそうに目を開けた。それからやはりトロトロと、少し間を置いてから口を開いた。
「……駄目ですか?」
淡白な表情は変わらず、けれど少し不安そうに首を傾げるセオドア様に、私は小さな子を相手にするときのように微笑んだ。
「ダメじゃないです……」
どうしよう。愛しさが増してしまう……もっと甘えてほしいなと思いながら、セオドア様の髪を指でゆっくり梳かして、その鼻先にチュッと優しくキスをする。
「ふふっでも、眠いのですよね? セオドア様」
セオドア様、少し寝ぼけているみたい……吸血鬼のセオドア様が眠そうにしていると言うことは、今はきっと朝ね。
逆に人間の私は朝だと目が冴える。といっても、体はとても怠くて重い。なのに目が覚めてしまうのは、朝早く起きてしまう習慣のせいだ。
──続きはまた後でしましょう? セオドア様の頬を優しく撫でながら微笑んで、眠るよう促す。しかし掛けた言葉とは逆に、唇を合わせられて、そのままシーツに沈められてしまった。
少し休憩してはまた開始される抽送。セオドア様を受け入れるよう、また足を開かせられる。
私に覆い被さるセオドア様と互い合わせに身体を重ねて、夢現にしながらも、中にいるセオドア様が緩やかにそこを突いてくる。セオドア様を見上げると──目が合った途端にまた深く唇を重ねられた。舌を絡ませ互いの唾液を飲み込むように口を塞がれながら、セオドア様に愛されることに慣れた体からは、愛撫に応えて直ぐに甘い蜜が流れ出してしまう。
昨晩の激しさが嘘のように、今のセオドア様は穏やかで可愛い。昨晩はあんなに沢山……私の中に子種を植え付けて、まるで全身をセオドア様に食べられているみたいな行為だった。足を開いてセオドア様を受け入れ続けるよう、太股を押さえ付けられて、ただひたすらセオドア様のモノを受け入れさせられていたのに。
「私……セオドア様と、一緒に……ぁっイキたい、です……」
「……分かりました」
そういうと、セオドア様がゆっくりと抽送を始め、程なくして言葉通り一緒にイッてくれた。
……優しいし、何だかスゴく素直で……やっぱり朝のセオドア様は動きがトロトロしていて……可愛い。何だか子供みたい……
やっぱりセオドア様は……寝ぼけていらっしゃるんだわ。うん。困った。可愛い。すごく可愛い。
夢現なセオドア様が満足するまで腰を打ち付け、私の中に射精を繰り返すのを受け入れる。私がセオドア様を欲しがっているのと同じで、セオドア様も私を欲しがっているのをじんわりと感じてしまう心地よさに、この時間がいつまでも続けばいいのにと思ってしまった。
*
緩やかなセックスが終わった後で、私は言うべきことを口にするのを躊躇っていた。
セオドア様の迫力に負けて、セオドア様の記憶が戻るかどうかで傍にいると承諾してしまったけれど、よくない。全然よくない。だって私はまだ、セオドア様に自分が聖女だってこと話してないのに、将来の約束なんて……どうすれば……
ベッドの上で葛藤に苛まれながら、私は隣で一緒に横になっているセオドア様の髪を、指に巻いてクルクルする。
セオドア様の記憶が戻ったら、元の冷えきった義兄妹に戻るはずだったのに……
記憶が戻らず、逆に離さないとまで言われてしまい……
幸せすぎて、とても自分は聖女です。だなんて、今更言えなくなってしまっている。でもそろそろ胸元の聖痕を隠すための包帯を付け続けるのは難しくなってきた。
お掃除の時に負傷した、という言い訳をずっと続けるのは無理があるし……今のところセオドア様が包帯について何も聞いてこないのが、せめてもの救いだ。
終わらないセックスの合間にも、胸元の包帯が緩みそうになると、セオドア様が少し休憩を入れてくれる。ときには行為中に何度か巻き直して、セオドア様も手伝ってくれたりしたから、聖女だとはバレないで済んでいるけれど……
胸の聖痕は、意識するだけでチリチリと熱を発する。多分、あのときと同じように強く願えば使えるはず。日に日に力が体に馴染んでいく。意識しなくても、いずれは使い方を自然と覚えてしまう。そんな気がしていた。
でもこんな危険な力を自然と使えるなんて……不味いわよね。それも一回切りだし……何より私、使ったら死んじゃう……
そうして悩みながらセオドア様の髪を指に絡めていたら、隣でもうすっかり目を覚ましているセオドア様に見つめられていたようだ。気恥ずかしさに目を逸らし、誤魔化すために、考えていたこととは別の疑問を口にする。
「どうしてずっと、離してくれないのですか……?」
今もそう。必要最低限の用以外のときはずっと、セオドア様の腕の中にいるか、腰に手を回されている。向かい合い、けれど目を見ようとしない私に、セオドア様が耳元で囁きかけた。
「離したら君は消えてしまいそうですからね」
「っ!」
考えを読まれているような気がして、今度は別の意味で目を逸らす。
でも、聖女と吸血鬼の恋人なんて、どう考えてもあり得ない。叶わない恋物語のような関係なのに……それも……子供を望まれてしまうなんて……本当に、どうすればいいの……?
沢山迷って、でも最終的にはセオドア様の記憶が戻ったときのことを考えた。
私の事をきっとセオドア様は忘れてしまわれる。だから問題ない。異種族間での子供はそもそも出来にくいと言うし、そうよ、きっと大丈夫……そう結論づけて、今度は自分を誤魔化した。
「最も僕は、君から逃げられるようなヘマをする前に、君が逃げられないようにしますが……」
「……え?」
「──例えば」
顎を指でクイッと上向かせられる。
「君の両手足を拘束して、屋敷に君専用の地下牢を特設した中に軟禁するとか。君の生まれ育った孤児院の財政を圧迫するよう仕向けて、その援助を申し出る代わりに、君を差し出すよう要求するとか。他にも君を手に入れる方法ならいくらでもあります」
セオドア様が甘く美しい、極上の笑みを浮かべて、獲物を狙う獣のような目でこちらを見ている。ゾクリとして、思わず自分を自分で抱き締めた。
「それって脅しじゃ……」
言葉のない私に、セオドア様がクスクス笑っている。どうやらからかわれたようだ。
「冗談、ですか……? もうっ酷いです」
良かった本気じゃなかったのねと、緊張が少しほぐれる。
「すみません、寝起きの吸血鬼は気が立っているのですが、エリカの前だと少し緩みやすいようです……酷い冗談を言いました」
そういえばさっき寝ぼけていたとき……背中にキスする以外に、私の肩や首筋を甘噛みされていたわね……。朝と言えばご飯。ご飯と言えば……あ、そうか。もしかして、セオドア様はお腹が空いているのかしら……?
「セオドア様、必要なら私の血を飲んでください」
好きな人がお腹を空かせている。そう思ったときには、スルスルと言葉が出ていた。
こんな私でも、血を差し上げることならできる。
それに、吸血鬼へと転化するには自らの血を吸われた上で、吸血した相手の吸血鬼から血をもらう必要がある。互いの血を交換して、初めて吸血鬼に転化する条件が整うと、一般的には言われている。だから血を吸われるだけならおそらく大丈夫だ。うん、多分。人間のままでいられる。
「君こそ、酷い冗談を言う……」
「……え?」
「吸血鬼相手に餌になると自ら志願する愚か者だと言ったのですよ」
セオドア様がそっぽを向いてしまった。どうやら少し怒っているらしい。ちょっとずつだけれど、セオドア様が感情を素直に出してくれるようになってきた。嬉しくて、思わず微笑んでしまう。それに怒られても、もうセオドア様なら怖くない。
「セオドア様、私は大丈夫です」
とは言ったものの。聖女の血は最高の美酒だと確かスピアリング卿が言っていた。普通の血とは違うということは……もしかしたら、聖女の血の影響で、セオドア様の記憶が戻ってしまわれるかもしれない。一瞬、その考えが頭を過った。
私の血が、ただの美味しいご飯であってくれればいいのだけれど……
まだ、甘噛みすらされていないのに、緊張に今から体が震えてしまう。私はやはり小心者だ。情けない。
「エリカ……無理はおやめなさいと僕は言っているのですが……」
そう言うセオドア様は、怒っているのに何故だか心配そうな顔をして、震える私の体を胸元に抱き寄せた。背中を優しく擦ってくれる。制止をかけるのも、怒っているのも私のため。私はセオドア様にとても大事にされているんだわ……。
私はセオドア様の胸元からゆっくりと出た。上半身を起こして、セオドア様が吸いやすいように、首筋にかかっていた髪を背中に流し、さらけ出す。
「私だったら多少、多めに血を吸われても平気です。体力には自信があるん……」
「──お断りします」
「断るの、早いですね……」
話途中なのに、即座にきっぱりと、断られてしまった。
「これは……私の我が儘です。こうして一緒にいる間は、私以外の人の……特に女の人の血は飲まないで欲しいのです。それが例え、スピアリング卿から渡されたモノだったとしても……」
「知っていたのですか……」
スピアリング卿から渡されているという血の入った小瓶。中身は全てセオドア様の信奉者のモノらしい。男女問わず信奉者の多いセオドア様だが、特に女性が多いのは否定できない。そうスピアリング卿から渡された書簡に書かれていた。
何故そんなことをスピアリング卿が教えてくれたのかと言うと、決まっている。きっと私に嫉妬させて、セオドア様との仲を深めさせるためだ。
元プレイボーイのスピアリング卿は色恋沙汰に関しても、やることなすこと全部が一枚も二枚も上手だ。スピアリング卿の思惑を知りながらも、私は見事に嵌められてしまっていた。
血の約束をしてしまえば、もう、記憶が戻るまでの間はセオドア様から逃れられない。知っていて尚も、こうしてセオドア様に約束を迫ってしまったのだから。
沢山射精されて愛液と精液で濡れたそぼった秘所には、未だにセオドア様のモノが埋め込まれたまま、私はセオドア様の腕の中にいた。
昨日からずっと抱かれ続けていて、もう、今が朝なのか夜なのかも分からない。カーテンはいつの間にかセオドア様がきっちり隙間なく閉めてしまわれたから、蝋燭と暖炉の炎以外の明かりは、小屋の中に差し込まない。
セオドア様は外の時間を私が知らないようにした方が、セックスに専念できると分かっているようだ。今の私はセオドア様にほぼほぼ軟禁状態に近い形にさせられていた。
ベッドから下りることは、ほとんど許されず。ずっとあそこにセオドア様を受け入れている。
逃げようとする度、シーツに両手を縫い付けられ、中を突き上げられる。セオドア様が激しく腰を動かし、獣のように後ろから何度も行為を繰り返されて……。
私の中でずっと脈打っているセオドア様の屹立は、萎えることを知らないようだ。セオドア様はまるで、私がセオドア様のモノであると、分からせようとしているかのように、私を離さなかった。
「あっ……あの、まだするのですか……?」
行為の休憩に入ったとき、私はおそるおそる聞いた。しかしいつもなら必ず明瞭な答えを返してくれるセオドア様からの返事はなく。
一緒にベッドで横になりながら、眠るようにして私を後ろから抱き締めているセオドア様を、私は顔だけ動かして振り返る。セオドア様は目を瞑っているかいないかのギリギリのところで、私の背中や首筋に、時おり甘噛みするようなキスをしながら、ウトウトしていた。
起き抜けのセオドア様は男の人なのに可愛い。見ているだけで、幸せな気持ちになる。心なしか、日中遊びすぎて眠りに落ちる寸前の、寝落ち間近の子供のように見えた。
もしかして、甘えてくれている……? と、ちょっぴり嬉しくなる反面、私の中に咥え込まされている屹立が萎える気配はなくて、やっぱり男の人なんだなぁと、くすりと笑う。
愛しさに、胸元に回されているセオドア様の腕をキュッと握る。すると、中のセオドア様が動いた。クチュッと少し突き上げられて、私の口から甘い声が零れると、セオドア様は私の背中から唇を離して、眠たそうに目を開けた。それからやはりトロトロと、少し間を置いてから口を開いた。
「……駄目ですか?」
淡白な表情は変わらず、けれど少し不安そうに首を傾げるセオドア様に、私は小さな子を相手にするときのように微笑んだ。
「ダメじゃないです……」
どうしよう。愛しさが増してしまう……もっと甘えてほしいなと思いながら、セオドア様の髪を指でゆっくり梳かして、その鼻先にチュッと優しくキスをする。
「ふふっでも、眠いのですよね? セオドア様」
セオドア様、少し寝ぼけているみたい……吸血鬼のセオドア様が眠そうにしていると言うことは、今はきっと朝ね。
逆に人間の私は朝だと目が冴える。といっても、体はとても怠くて重い。なのに目が覚めてしまうのは、朝早く起きてしまう習慣のせいだ。
──続きはまた後でしましょう? セオドア様の頬を優しく撫でながら微笑んで、眠るよう促す。しかし掛けた言葉とは逆に、唇を合わせられて、そのままシーツに沈められてしまった。
少し休憩してはまた開始される抽送。セオドア様を受け入れるよう、また足を開かせられる。
私に覆い被さるセオドア様と互い合わせに身体を重ねて、夢現にしながらも、中にいるセオドア様が緩やかにそこを突いてくる。セオドア様を見上げると──目が合った途端にまた深く唇を重ねられた。舌を絡ませ互いの唾液を飲み込むように口を塞がれながら、セオドア様に愛されることに慣れた体からは、愛撫に応えて直ぐに甘い蜜が流れ出してしまう。
昨晩の激しさが嘘のように、今のセオドア様は穏やかで可愛い。昨晩はあんなに沢山……私の中に子種を植え付けて、まるで全身をセオドア様に食べられているみたいな行為だった。足を開いてセオドア様を受け入れ続けるよう、太股を押さえ付けられて、ただひたすらセオドア様のモノを受け入れさせられていたのに。
「私……セオドア様と、一緒に……ぁっイキたい、です……」
「……分かりました」
そういうと、セオドア様がゆっくりと抽送を始め、程なくして言葉通り一緒にイッてくれた。
……優しいし、何だかスゴく素直で……やっぱり朝のセオドア様は動きがトロトロしていて……可愛い。何だか子供みたい……
やっぱりセオドア様は……寝ぼけていらっしゃるんだわ。うん。困った。可愛い。すごく可愛い。
夢現なセオドア様が満足するまで腰を打ち付け、私の中に射精を繰り返すのを受け入れる。私がセオドア様を欲しがっているのと同じで、セオドア様も私を欲しがっているのをじんわりと感じてしまう心地よさに、この時間がいつまでも続けばいいのにと思ってしまった。
*
緩やかなセックスが終わった後で、私は言うべきことを口にするのを躊躇っていた。
セオドア様の迫力に負けて、セオドア様の記憶が戻るかどうかで傍にいると承諾してしまったけれど、よくない。全然よくない。だって私はまだ、セオドア様に自分が聖女だってこと話してないのに、将来の約束なんて……どうすれば……
ベッドの上で葛藤に苛まれながら、私は隣で一緒に横になっているセオドア様の髪を、指に巻いてクルクルする。
セオドア様の記憶が戻ったら、元の冷えきった義兄妹に戻るはずだったのに……
記憶が戻らず、逆に離さないとまで言われてしまい……
幸せすぎて、とても自分は聖女です。だなんて、今更言えなくなってしまっている。でもそろそろ胸元の聖痕を隠すための包帯を付け続けるのは難しくなってきた。
お掃除の時に負傷した、という言い訳をずっと続けるのは無理があるし……今のところセオドア様が包帯について何も聞いてこないのが、せめてもの救いだ。
終わらないセックスの合間にも、胸元の包帯が緩みそうになると、セオドア様が少し休憩を入れてくれる。ときには行為中に何度か巻き直して、セオドア様も手伝ってくれたりしたから、聖女だとはバレないで済んでいるけれど……
胸の聖痕は、意識するだけでチリチリと熱を発する。多分、あのときと同じように強く願えば使えるはず。日に日に力が体に馴染んでいく。意識しなくても、いずれは使い方を自然と覚えてしまう。そんな気がしていた。
でもこんな危険な力を自然と使えるなんて……不味いわよね。それも一回切りだし……何より私、使ったら死んじゃう……
そうして悩みながらセオドア様の髪を指に絡めていたら、隣でもうすっかり目を覚ましているセオドア様に見つめられていたようだ。気恥ずかしさに目を逸らし、誤魔化すために、考えていたこととは別の疑問を口にする。
「どうしてずっと、離してくれないのですか……?」
今もそう。必要最低限の用以外のときはずっと、セオドア様の腕の中にいるか、腰に手を回されている。向かい合い、けれど目を見ようとしない私に、セオドア様が耳元で囁きかけた。
「離したら君は消えてしまいそうですからね」
「っ!」
考えを読まれているような気がして、今度は別の意味で目を逸らす。
でも、聖女と吸血鬼の恋人なんて、どう考えてもあり得ない。叶わない恋物語のような関係なのに……それも……子供を望まれてしまうなんて……本当に、どうすればいいの……?
沢山迷って、でも最終的にはセオドア様の記憶が戻ったときのことを考えた。
私の事をきっとセオドア様は忘れてしまわれる。だから問題ない。異種族間での子供はそもそも出来にくいと言うし、そうよ、きっと大丈夫……そう結論づけて、今度は自分を誤魔化した。
「最も僕は、君から逃げられるようなヘマをする前に、君が逃げられないようにしますが……」
「……え?」
「──例えば」
顎を指でクイッと上向かせられる。
「君の両手足を拘束して、屋敷に君専用の地下牢を特設した中に軟禁するとか。君の生まれ育った孤児院の財政を圧迫するよう仕向けて、その援助を申し出る代わりに、君を差し出すよう要求するとか。他にも君を手に入れる方法ならいくらでもあります」
セオドア様が甘く美しい、極上の笑みを浮かべて、獲物を狙う獣のような目でこちらを見ている。ゾクリとして、思わず自分を自分で抱き締めた。
「それって脅しじゃ……」
言葉のない私に、セオドア様がクスクス笑っている。どうやらからかわれたようだ。
「冗談、ですか……? もうっ酷いです」
良かった本気じゃなかったのねと、緊張が少しほぐれる。
「すみません、寝起きの吸血鬼は気が立っているのですが、エリカの前だと少し緩みやすいようです……酷い冗談を言いました」
そういえばさっき寝ぼけていたとき……背中にキスする以外に、私の肩や首筋を甘噛みされていたわね……。朝と言えばご飯。ご飯と言えば……あ、そうか。もしかして、セオドア様はお腹が空いているのかしら……?
「セオドア様、必要なら私の血を飲んでください」
好きな人がお腹を空かせている。そう思ったときには、スルスルと言葉が出ていた。
こんな私でも、血を差し上げることならできる。
それに、吸血鬼へと転化するには自らの血を吸われた上で、吸血した相手の吸血鬼から血をもらう必要がある。互いの血を交換して、初めて吸血鬼に転化する条件が整うと、一般的には言われている。だから血を吸われるだけならおそらく大丈夫だ。うん、多分。人間のままでいられる。
「君こそ、酷い冗談を言う……」
「……え?」
「吸血鬼相手に餌になると自ら志願する愚か者だと言ったのですよ」
セオドア様がそっぽを向いてしまった。どうやら少し怒っているらしい。ちょっとずつだけれど、セオドア様が感情を素直に出してくれるようになってきた。嬉しくて、思わず微笑んでしまう。それに怒られても、もうセオドア様なら怖くない。
「セオドア様、私は大丈夫です」
とは言ったものの。聖女の血は最高の美酒だと確かスピアリング卿が言っていた。普通の血とは違うということは……もしかしたら、聖女の血の影響で、セオドア様の記憶が戻ってしまわれるかもしれない。一瞬、その考えが頭を過った。
私の血が、ただの美味しいご飯であってくれればいいのだけれど……
まだ、甘噛みすらされていないのに、緊張に今から体が震えてしまう。私はやはり小心者だ。情けない。
「エリカ……無理はおやめなさいと僕は言っているのですが……」
そう言うセオドア様は、怒っているのに何故だか心配そうな顔をして、震える私の体を胸元に抱き寄せた。背中を優しく擦ってくれる。制止をかけるのも、怒っているのも私のため。私はセオドア様にとても大事にされているんだわ……。
私はセオドア様の胸元からゆっくりと出た。上半身を起こして、セオドア様が吸いやすいように、首筋にかかっていた髪を背中に流し、さらけ出す。
「私だったら多少、多めに血を吸われても平気です。体力には自信があるん……」
「──お断りします」
「断るの、早いですね……」
話途中なのに、即座にきっぱりと、断られてしまった。
「これは……私の我が儘です。こうして一緒にいる間は、私以外の人の……特に女の人の血は飲まないで欲しいのです。それが例え、スピアリング卿から渡されたモノだったとしても……」
「知っていたのですか……」
スピアリング卿から渡されているという血の入った小瓶。中身は全てセオドア様の信奉者のモノらしい。男女問わず信奉者の多いセオドア様だが、特に女性が多いのは否定できない。そうスピアリング卿から渡された書簡に書かれていた。
何故そんなことをスピアリング卿が教えてくれたのかと言うと、決まっている。きっと私に嫉妬させて、セオドア様との仲を深めさせるためだ。
元プレイボーイのスピアリング卿は色恋沙汰に関しても、やることなすこと全部が一枚も二枚も上手だ。スピアリング卿の思惑を知りながらも、私は見事に嵌められてしまっていた。
血の約束をしてしまえば、もう、記憶が戻るまでの間はセオドア様から逃れられない。知っていて尚も、こうしてセオドア様に約束を迫ってしまったのだから。
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