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第三章~新妻扱編~

♀064 悪巧みの続き

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 悪巧わるだくみがバレてしまった。それもまだ自分のものだという印を付けることにこだわっていたことまで全部フェルディナンにバレた。そして悪巧わるだくみを実行されて背中に爪痕を付けられた当の本人はというと。私の上でとっても不機嫌な怖い顔で私を見下ろしている。
 事の最中にどうしてこんなに緊迫した雰囲気を味わわなければならないのか……勿論もちろんまごうことなく自分のせいなのだけれど、私はフェルディナンのあまりの不機嫌な様子に思わずうにゅっと涙目になった。
 このままフェルディナンの下からい出て逃亡したい。絶対に無理だけど。

「君をどうしたものかな……」
「ふぇっ?」

 えっ? あのっど、どうする気ですか……? わたしどうされちゃうの?

 ダラダラと全身から汗が噴き出してくる。キャーと心の中で悲鳴を上げながら泣きそうになる。というかもう泣いていいですか? 逃げていい?  

 フェルディナンと未だに結合している部分が酷く熱い。ベッドの上に押し倒されてエッチしている最中に逃げるなんてこと出来る訳がないのに、私はひたすら逃げることばかりを考えていた。
 そうして涙を浮かべてうるうるし出したらフェルディナンがはぁっと深い溜息をついた。そして不機嫌で怖い顔のまま、また私の胸元にその綺麗な顔をうずめてしまう。背中に手を回されてギュッと強く抱き締められる。そのガッチリとした大柄で完璧な肉体からは、温かい素肌の感触と共に男の人の良い匂いがふわっとかおってきて、柔らかい手触りの金髪が胸元にふわっと乗ってすごく気持ちいい。が、いまはそんな感想を抱いている場合じゃない。

「……フェ、フェルディナン?」

 うう~と泣きそうになりながら、怖いけどとりあえず声をかけてみる。すると返ってきた返事はとっても優しかった。

「君がそんなにそれに……印を俺に付けることにこだわるなら、そんなにやりたいのならすればいい。俺の背中に傷跡を付けたいのならいくらでも付ければいい」

 そう言って、フェルディナンは少しだけ私の胸元から顔を上げた。困ったように眉をひそめながら。でもいとおしそうに私をジーッと見つめてくる。どうやら私は長い攻防の末、ついにフェルディナンを降参させてしまったようだ。そうして穏やかな声色こわいろで返されて緊張の糸がほつれたのに、今度は突然のお許しに戸惑いの反応を私は返してしまった。

「……えっ? ……で、でもフェルディナンの背中傷だらけになっちゃうよ?」
「君がそれで安心するなら構わない」
「そうだけど……」
 
 こ、この人どこまで許容範囲が広いのかしら……

 自分でやっておいてなんだが、失礼にもそんなことを思って感心してしまう。

「傷跡を付けたければいくらでも付ければいい」

 余裕のある表情でそうまでフェルディナンに言われてから、私はあることが気になりだしてしまった。

「フェルディナンあの……」
「どうした?」
「あの、ちょっとの間だけでいいので、その……身体を離してくれますか?」

 私を抱き締めているフェルディナンの両腕を外側からキュッとつかんで離してくれるようにお願いする。けれど案の定、フェルディナンはあからさまに嫌な顔をした。

「……今度は何を始める気だ?」

 何となくちょっと慌ててしまう。悪いことをするつもりはないのに、どうしてこうもやることなすこと全部を疑われてしまうのか。フェルディナンからすると多分、私は絶対に信用してはいけない人のワースト3に入るくらいの危険人物なのだろう。それも私の日頃の行いによって生じた数々の事例(事件)による経験から、疑うのを当然と思っているくらいに私はフェルディナンから信用されていない。

「ち、違うよ? 変なことなんてしないからっ! ただ……」
「ただ?」
「フェルディナンの背中、どうなってるのか気になって……」
「このくらい平気だ。子猫に軽く引っかれたようなものだ何ともない」
「でもわたしその、思っていたよりもけっこう思いっきり引っいちゃったからやっぱりちょっと心配だし気になるし……おねがい見せてほしいの」 

 本当に今更だった。自分で傷付けておいて本当に厚かましいお願いだとは思うけれど、気になってしまったのだから仕方がない。私はう~とうなりながら小声でごめんなさいと謝った。

たいしたことはないだから気にするな」
「でもね、そういうわけにはやっぱりいかないというか、やっぱりその、……ごめんなさい……」

 大切な人の身体を故意こいに傷付けてしまうなんて、やっぱりどうかしていた。悪巧わるだくみというかもうここまでくると、自分でも自分の行動に歯止めがつけられなくなっていることがちょっと怖い。

 ……好きな人が出来るってこう言うことなのかな?

 そうして段々と気落ちしてションボリしていたら、フェルディナンがやれやれとまた困った顔をした。

「フェルディナン?」
「分かった。だが……君を離すのは少しの間だけだぞ? それでいいか?」
「うんっ」
「ただし俺が満足いくまで君を抱き終わってからだが」
「えっ? ……あっ」

 そう言うと私が返事を返す前に、フェルディナンは私の太股の間に埋め込んだ巨大な雄の印をズルズルと動かして出し入れを再び始めてしまった。会話中も少しだけビクッと反応していたのは気が付いていたけれど、やっぱりまだ足りていなかったようで。その巨大な一物をフェルディナンはゆっくりと腰を使って優しく動かし続けている。
 身体を気遣うようにヌプッと優しく突き上げられる静かな動きと、その動きに合わせて浮き上がる肉体の筋、そして全身ににじみ出た汗の光具合が男の人の身体なのに見ていてとても色っぽい。

 一定のリズムで埋め込まれる秘所から絶えず聞こえてくるクチュッという液体音。深く奥まで接合されて射精を繰り返される度に身体の奥がビクッついて何度も反射的にギュッと目をつぶってしまう。性交中の興奮で互いの身体に流れる汗と上昇する体温が元で部屋の湿度がどんどん増していっているような気がする。大きく足を開かされて無防備に放り出された足の先端がシーツを乱して皺を作りながら、時折突き上げられる衝撃にビクビクと痙攣けいれんするように動いてしまう。

「……んっ……んっ……ぁっ……ふぁっ……」

 乱れた息づかいであえぐように口を半ば開きながら、涙ぐんだ瞳でフェルディナンを見上げるといとおしそうな熱っぽい視線を上から注がれて、私は何となく恥ずかしくて頬を赤らめながらキュッとシーツを握って視線を外してしまった。するとフェルディナンからくすっと笑ったような気配がした。やっぱり気になってフェルディナンの方を落ち着かない様子で見返すとフェルディナンは相変わらず熱っぽい視線を私に向けながら、時折切ない表情を浮かべて射精を繰り返し私の中に子種を注ぎ込んでいる。何時いつになく大人しくフェルディナンを身体に受け入れている私にフェルディナンがふっと甘く優しく笑った。

「可愛いな……」
「……ふぁっ……あっ……」

 そのまま腰をゆっくりと動かし抱き続けているフェルディナンの穏やかで優しい表情に安心して身を任せていたら、互いの両手の指をからませて緩く手をつながれた。嬉しくてキュッと握り返すと、フェルディナンが覆い被さるように私の身体に体重を少しかけて熱い肌をピッタリと重ねながら股間に埋め込んだ巨大なモノを大きく力動りきどうさせてズッズッと強く突き上げた。

「んっふぁっあっフェル、ディナンあっ……んっんっやぁっ」
「月瑠……」
「んっ……ひぁっぁっ……あっぁっ」
「今日は随分ずいぶんと良い子なんだな。大人しく俺を受け入れている」
「だっ、て……フェルディナン……あっやさし、からっ……っぁ……す、き」

 フェルディナンが好き過ぎてからませた指をもう一度強くキュッと握り返す。股間に力が入るように足の指先でギュッとシーツをつかんで、それからくわえ込んだ雄をもっと欲しいと強く締め付けるとフェルディナンが一瞬だけビクッと身体をらした。
 ちょうだいと素直に身体で表現しておねだりを始めると、途端にフェルディナンの動きが激しくなった。私は自分の足の内側をフェルディナンの足に少しだけすりすりと擦り寄らせた。そして自ら足をフェルディナンの足にからめてもっとちょうだいと腰を振って更に甘えてみる。私のおねだりと甘える仕草しぐさあおられてフェルディナンが射精を繰り返す姿が嬉しくてもっと強く足をからめて引き寄せると、フェルディナンが切ない表情を浮かべて私を見た。

「本当に君は困った人だな……」
「……あっ……ダ、メ?」

 おねだりと甘えが過ぎただろうか? と思わず聞き返すとフェルディナンは小さく笑って首を横に振った。

「違う。君があんまり可愛く誘ってくるから困っているだけだ」
「こま、るの?」 
「ああ、あんまり可愛くされると優しく出来なくなる……」
「ぇっ? ……んっ! んっ……んっふぁぁっあっやっフェルディナンやぁっ」

 次第に動きを激しくさせて力強く突き上げられる男のモノをミッチリと花弁の中へ一杯一杯にくわえ込んで、激し過ぎる性感に涙を流しながら必死に受け入れていたら大きく開かれた太股の付け根辺りから接合する水音が室内に大きく響き始めた。フェルディナンが動く度にギシギシときしむベッドの音と合わさって卑猥ひわいな空間の雰囲気に拍車が掛かる。そこに性交の匂いと互いの荒い息づかいが興奮材料として更に加わって、余計に激しさが増してしまう。
 熱い愛液と精液にまみれてれたそこに糸を引きながら容赦無く突き入れられて、出し入れを繰り返すその熱く固い肉棒がえる様子は一向いっこうにない。

 フェルディナンが満足するのっていつなの……?

 突き上げを開始してから数刻の時が過ぎるまでフェルディナンの欲情は尽きることはなく。激しさを増していく。そしてそれを私は結局いつも通り泣きれながら赤く熟した花弁で必死に受け入れ続けることになった。
 


*******



 数時間が経過してフェルディナンが満足した後、やっと私は身体のつながりをいてもらう事が出来た。それからすぐにフェルディナンの背中へと私は回り込んだ。
 フェルディナンの背中にはやっぱり大きな引っき傷が出来ていた。なめらかな肌に浮かぶ複数の爪痕。それが左右対称につけられていて、赤く腫れている。少し血がにじんでいるところもあるようだ。

 うわぁ~けっこう派手にやっちゃってる。しっかり爪痕ついちゃってる……

「……やっぱりけっこう痛そう……というか、痛いよね? ごめんなさい」

  私はフェルディナンの背中に自ら付けた傷跡の赤みがある部分にそっと触って。優しくでた。

「大して痛みは感じない平気だと言っているだろう? 君がそんなに気にする必要は無いんだ」
「でも、これ……血とか出てるよ?」
「俺は軍人だからな傷を作るのは当たり前だ。だから君の華奢な細腕で付けられた傷程度で痛がったりはしない。と言うよりも傷の内にも入らないんだが……」

 確かにフェルディナンの身体にはいたる所に傷がある。それも大小合わせてゆうに10は軽く越える。沢山の傷痕。行為の最中にもその沢山の古傷を目にして聞きたくなったことは何回もある。フェルディナンはそんなに危ない仕事を何時いつもしているの? と不安に思うこともある。けれどその筋肉におおわれた強靱きょうじんな身体に抱かれていると何時いつの間にか不安はかき消えていて、深い安らぎの中にどっぷりと浸かってしまうから何時いつも聞く機会を失っていた。

「……フェルディナンはかすり傷程度だって思ってるかもしれないけど、やっぱり痛そうなのは痛そうだもの。それにね、わたしフェルディナンの身体がこれ以上傷付くのやっぱりやだ」

 そうフェルディナンの背中からポツリと消え入りそうな声でつぶやいて、私は思わず背中からフェルディナンをギュッと抱き締めた。フェルディナンの大柄な身体は胴体の筋肉量も並じゃ無い。あまりにも全身がガッチリし過ぎていて私の腕ではどうしても回りきらない。
 中途半端な位置で止まった私の手をフェルディナンはポンポンと叩いてそれから軽く握ってくれた。

 ……なぐさめてくれてる? 傷を付けたのはわたしのほうなのに……

「でもどうして? フェルディナンには癒しの魔力があるのに治さなかったの?」

 光属性の使い手で癒しの魔力を使えるフェルディナンに、私はこれまで何回も傷を治してもらっていた。フェルディナンの身体に傷が残っているということはそれをフェルディナンは使わなかったということになる。

体面たいめんというものがある。部下ばかりが手傷を負って上官だけが無傷では格好がつかないだろう? それに軍人の俺が無傷でいたら君はどう思う?」
「たしかにそれはちょっと不思議には思うけど……」

 フェルディナンが戦いを放棄したり逃げたりした何て思うことはまずない。けれどフェルディナン以外の軍人と初対面で顔を合わせた時に余りにも無傷で綺麗な身体をしていたらそう思ってしまうかもしれなかった。新人ならともかく、そこそこ古参の軍人だったらそれなりに身体に傷を負っているものだ。そう言えば切り傷擦り傷のない軍人など今まで会った人の中にもただの一人もいなかった。つまりハッキリ言うと戦ったことないのかな? とか思っちゃうかもしれない。

「つまりはそういうことだ」

 そんな傷だらけの身体にわざと傷を作った私の行動が酷く間抜けでかっこ悪く思えてくる。何だかとても申し訳なくなってちょっとだけ涙ぐみながら、私は自ら付けてしまったフェルディナンの背中の傷痕にそっと舌をわせた。

「月瑠……?」

 なるべく痛くないように刺激しないようにしたのに。そうしてちょっとずつ舌で傷を舐めていたらフェルディナンから制止の声が聞こえて、一瞬どうしようか迷ったものの私はそのままフェルディナンの背中を舐めた。こうしてペロペロと舐めていると、治るような気がして少しは気持ちが楽になる。

「月瑠、もういい」
「お願い動かないで」
「月瑠……」
「だめっまだ全部終わってないもの。それとね、わたしいま良いこと思いついちゃった」
「……何を思いついたんだ?」
「これからはエッチするときフェルディナンの身体の傷なめさせて?」
「……何、だと?」

 今度からフェルディナンとエッチするときは身体の傷を舐めてみよう。何となくそれがとてもいいアイデアのように感じて、私はとてもいいことを思いついたと一人ホクホクしていた。フェルディナンから注がれている戸惑いの視線にも気付かずに。

「えっとぉだから、これからフェルディナンとエッチするときは傷をなめるようにするの」
「どうしてそうしょうも無いことばかりを思いつくんだ君……」

 フェルディナンは額に手を当てながら疲れたように目をつぶってしまった。それも何故だかちょっと呆れ口調で言われてしまって私は思わずムッとしてしまった。先程までのしおらしい様子は何処どこへいったのやら。次の瞬間、思いっきり言い返していた。

「しょうも無いことじゃないもの!」 
「男の身体を毎回舐めるなんて言うことのどこがしょうも無いことじゃないんだ?」

 むしろどこが間違っているのか教えてくれと言わんばかりにフェルディナンがまたもはぁっと深い溜息を付いている。怒りを通り越してひたすら呆れているようだ。と言うよりも私が何かを思いつくことに諦めを感じているような雰囲気だった。

「だってフェルディナンの身体だよ? 大切な人の身体を大切にしたいと思っちゃいけないの?」
「それは時と場合によるな」
「時と場合ってフェルディナンの場合は必要ないってことなの?」
「ああ、そうだな」
「ふーん」
「……何だその返事は」

 私が全くフェルディナンの言うことを聞く気が無いことをフェルディナンは分かりきっていた。そしてその私をどう説得しようか考えているようにも見える。だから私はあえて返事をハッキリと返さなかった。ハッキリと返さないまま、またチロチロと舌を出してフェルディナンの傷を舐める作業を再開すると、今度こそフェルディナンが私の身体を無理矢理引き剥がしてしまった。

「ふぇっ?」

 いきなりクルッと反転した視界にビックリしてキョトンとしてしまう。一瞬の出来事でよくは分からなかったけれど、どうやらフェルディナンは振り向きざまに私をベッドに押し倒したようだった。私の視界には顔を真っ赤にしたフェルディナンが怒ったように私を見下ろしていて、背中は柔らかい毛布の感触。そして両手をフェルディナンに強く押さえつけられていた。

「フェルディナン?」
「……くすぐったい」
「へっ?」

 あまりにもフェルディナンらしからぬ発言を聞いて思わず間の抜けた声を出してしまった。

「だからっ! 君にそんなことをされると気持ちよすぎておかしくなりそうになるんだ。だから止めてくれ」
「……えっ? あ、の……は、い?」

 顔を赤らめているフェルディナンの吐き出すような声。照れ隠しにねたような口調で怒られた。

「フェルディナン……もしかして背中弱い?」
「うるさい」
「……背中」
「黙りなさい」
「もう一回やらせ……」
「断る」
「フェルディナン可愛い」
「……っ!」

 あの何時いつも大人なフェルディナンがこうも子供っぽくなるなんてと、私は楽しくて仕方が無かった。それも照れ隠しにねたような姿が見れるとは思ってもいなかった。

「フェルディナン……」
「……何だ?」
「可愛い」
「そろそろ黙らないと泣いて許しをうくらい激しく抱くぞ?」
「うん、いいよ? フェルディナンにならされてもいい」
「…………」
「フェルディナンが可愛いの好き。それにフェルディナンが子供っぽいのも好き。大人なフェルディナンも好き。全部フェルディナンだから好き」
「……君にはかなわないな」
「抱いてくれる?」
「どうして今の流れでそこに行き着くんだ?」
「だってフェルディナンがあんまり可愛いから欲しくなったの」
「信じられないな君は……」
 
 チッと舌打ちしてフェルディナンが私の両手をつかんでいた手を外してくれた。フェルディナンは私を抱くどころか身体を起こそうとしている。だから私は私から離れていこうとしているフェルディナンの首筋に手を回して逆に自分の方へ引き寄せた。ピッタリと互いの身体がくっついてフェルディナンの体重が身体に重くのしかかる。あえて互いの局部が触れ合うようにすりすりと身体をこすらせて逃がさない。
 
「月瑠……?」

 近すぎる顔の距離感に少し戸惑っているようなフェルディナンの声。私は挑発的な目線をフェルディナンに向けた。

「逃げるの?」
「逃げてない……」
「じゃあどうして離れようとするの?」
「君が可笑しな事ばかり言うからだ」
「逃げてるじゃない」
「逃げてない……」
「じゃあ抱いてくれるの? もしかして気分じゃないとかって言うつもり?」
「…………」

 すっかり何時いつもと立場が逆転していた。今までこんなこと一度もなかった。逃げる私をフェルディナンが捕獲することはあっても、逃げるフェルディナンを私が捕獲することなんて。そもそもあり得ない現象だ。

 いつもフェルディナンに捕まってばかりだったけど、捕獲する側の気分ってこんな感じなんだ……

 ちょっとワクワクする。それに何だか楽しい。ちょっとスリリングだしこのまま逃げられたら寂しくなるからそれは嫌だけど。でもフェルディナンを追い込む感じがして何だか楽しい。

「フェルディナン……?」

 すっかりおかんむりでフェルディナンは口をぱったりと閉ざしてしまった。私がしっかりと首筋に手を回しているから身体を離すことが出来ないでいる。それも私を力尽くで無理矢理突き放すようなことが出来ないイライラとやり込められた怒り、そして多分私には見せたくなかった表情をさらしてしまったことの自身へのいきどおり。フェルディナンは多分かつて味わった事がないほどの羞恥という感情の中にいるようだった。

 うーん、どうやって口を割らせればいいんだろう?

 そう思っていたらふっと目に付いた。フェルディナンの左耳に空いている穴。金のループピアスを必ず付けていた場所が今は空席となっている。私にそれをくれたから。そして私もその金のループピアスを大切にお守り袋の中に入れて持ち歩いていた。
 それは私の前にいた異邦人ラヴァーズ卯佐美うさみ結良ゆらの形見。彼女はフェルディナンの親友でイリヤの恋人だった人。

 なんの飾り気も無くなったそこがちょっと寂しくてフェルディナンが大人しいのをいいことに、私はそのフェルディナンの左耳をハムッと口に含んで甘噛みした。

「!?」
 
 ビクッと驚いてフェルディナンが身体をらす。どうやら耳もフェルディナンは弱いようだった。けれどそのまま構わず甘噛みしてチュッと吸ってもフェルディナンは何も言ってこないから調子に乗ってそのままチュッチュッと音を立ててハムハムしていたらついにフェルディナンが怒った。

「月瑠! こらっ、やめなさい!」
「ふふっやっとしゃべってくれた」

 しゃぶっていた左耳から肩をつかんで引きがされて、ベッドに強く身体を押し付けられた。怒られているのにその余裕の無い様子が面白くてりずに口元に手を当ててくすくすと笑っていたらフェルディナンが強引に口づけてきて口をふさがれた。差し入れられた舌を抵抗することなくそのまま受け入れたら、口のはしから唾液がれて顎を伝うくらい深くフェルディナンが入り込んできて、息が出来ないくらい激しく唇を奪われてしまう。
 私はフェルディナンの巨大なモノが欲しくてそっとフェルディナンの股間の付け根にあるものへと手を伸ばした。そこに触れてみると既に大きくドクドクと脈打って固くなって熱を帯びている。私はフェルディナンに深くむさぼるように口づけされながら、それをそっと両手でつかんで自身の方へと誘導した。入り口にあてがうとフェルディナンはゆっくりと入って来てくれた。そして半ばまで来るとヌッと粘液をからませながら最深部までズンッと一気に力強く股間に雄の印を埋め込まれてしまった。

「……っ!」

 衝撃に私はビクッと身体をのけらせて苦しげに目を細めてしまう。それでもフェルディナンの方へ手を伸ばしてき抱くようにその綺麗な顔を胸元に押し付けると、そのままフェルディナンに胸の先端を口に含まれて口内で優しくまれてしまった。
 下半身にフェルディナンの巨大な一物を受け入れながら胸元を吸われてその快感に酔いそうになる。  

「……あっあっ……ぁっ……」
「どうしてそうあおるようなことばかりするんだ? 今日の君は本当にどうかしてるぞ?」
「だっ、て……あっぁ……フェルディナン……かわいぃ、から……あっ」
「君は本当にどうしてそうなんだ……?」
「はっ、……あっ、もっとみたかっ……ふぁっ」
「それ以上その口からその単語は聞きたくない」
「かわいぃ……って、ぁっ……いわれたく、ない、っ……の?」
「仕方ないな……」
「えっ? な、にっ? ……んんっ!?  ん──っ!」

 そう言うとフェルディナンはシーツをビリッと引き裂いてそれから私の口をそれでふさいでしまった。猿ぐつわのようなものをされて声が出ないようにされてしまう。両手の指を何時いつものようにからませ合いながら、声が出せない状態で足を開いてフェルディナンを必死に受け入れて。でも私の心の中では、またある思いつきがひらめいていた。

 ――今度はおそろいのピアスを探そう。

 この思いつきは多分フェルディナンでも嫌がらないで受け入れてくれる。私のものだっていう印がやっと出来ることが嬉しくて、私はそのままフェルディナンに抱かれながらピアスを何処どこで探そうか考えていた。
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