乙女ゲーム世界で少女は大人になります

薄影メガネ

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第三章~新妻扱編~

♂065 走り去った後の部屋

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 フェルディナンとおそろいのピアスを探すことを決意したものの、何処どこで見つければ良いのか正直なところ皆目見当かいもくけんとうも付かない。私はベッドの上に座りながら一人うーんと眉間みけんしわを作り考えていた。

「ピアスかぁ……それにしてもおそろいのピアスってどんなのがいいんだろう? 同じような金のループピアス? それとも何か宝石とか付いてる方がいいのかな? フェルディナンの瞳の色に合わせるなら青とか紫とかかな? でもそうするとわたしにはちょっと派手な気がするし……」

 私は悩んだ末にベッドの上にポスッと横になった。ふんわりとした毛布の心地よさに何となく触れて手触りを楽しみながら考え込んでいるだけだとどうしても眠くなってしまう。そうしてボーッとベッドの天井を眺めながらウトウトしだしたところで、これは不味いと私は少しだけ上体じょうたいを起こした。悩むにしてもこのままベッドの上で部屋の天井を眺めているだけではらちが明かない。
 そうして身体を起こしたときに感じた胸の重みに目をやってなんとなく自らの胸の膨らみに私は手を伸ばしてしてみた。普段からそんなふうに自分で触るようなことはしたことがないのだけれど。フェルディナンと寝ている時によく胸を触られるからどんな感触なのか知りたくなった。

 それにしても本当に胸大きくなったな……

「誰もいないしちょっと触って見たりなんかして……」

 自分の胸をつかんで寄せてみたりとか形を見てみたりとかって、そう言えばちゃんとは今までしたことがなかった。よく寄せて上げてブラに入れるとかって女の子同士ではたまに出る話だけど。こちらの世界には男性しかいない。そういったことに触れる機会が少ない環境だった。だからあまり自分の胸に興味を持っていなかったのだが……
 ためしにモミモミしてみる。

「うーん。やっぱりフェルディナンに触られてる時と全然違う。気持ちいいとかじゃなくて事務的な感じっていうのかな……? こう言うのってやっぱり自分じゃなくてフェルディナンに触ってもらわないとあまり感じにくいみたい」

 と、言いつつも寄せて上げてみたりして谷間を作ってちょっと自分の胸で遊んでしまった。そして私は何時いつの間にか部屋に人が入って来ていることにも気付かず。自分の胸に熱中するというとんでもなく恥ずかしい状況を一番みられたくない人に見られてしまっていた。

まれ足りないようならするが……」
「……へ?」
「俺のやり方では足りなかったか?」
「ふぇ、フェルディナン――っ!? えっなんで!? ど、どうしてっ!? いたのっ!? いつからいたのっ!?」 
「君が俺に触れられている時とは違うといった辺りだが」

 ……それって最初っからですよね?

「全部見てた?」
「すまない」
「始めから?」
「……悪かった」
 
 悪かったと言う言葉通りフェルディナンは少しだけ目を私かららして気まずそうに口元に手を当てている。まるで見てはいけないものを見てしまったようなフェルディナンの反応に、私の方がよっぽど気まずい気持ちになっていることなど露知つゆしらず。フェルディナンがそうやって目をらし続けるから、その素直な様子が段々と可愛くて思えてきてしまった。だからちょっとだけフェルディナンに意地悪がしたくなったのは許して欲しい。

「じゃあ責任とってんでくれる?」
「……今度は何を言い出したんだ?」
んでくれるんでしょ?」
「確かにそうは言ったが……」
「やって」
「…………」

 驚いた様子で紫混じった青い瞳をしばたたかせながら、フェルディナンは大人しく私の傍に来てギシッとベッドをきしませながら座ると、私を膝上に引き寄せてそのまま背中から抱き締めた。ポスッと私の頭の上にフェルディナンの形の良い顎を乗せられて、そのくすぐったさに思わずくすっと笑ってしまう。

「本気で言っているのか?」
「うん、本気だよ?」
「君が俺のことをからかって遊んでいるように見えるのだが……」
「……そうだったらどうするの? 止める?」
「いや……」

 少しだけ困っているようなフェルディナンの言動が楽しくて意地悪を通しているのに、それでもフェルディナンは許して受け入れてくれる。本当に私には甘い人なんだなとしみじみ思いながらフェルディナンの手を取って自分の胸に導くと、フェルディナンは服の合間をぬってその大きくて武骨ぶこつな手を差し入れてきた。



*******



「あっ……ふぁっ……」
 
 フェルディナンに胸をまれること十数分。私はフェルディナンの膝上に座らされていかに胸をまれ続けていた。余りの気持ち良さに身体がとろけそうになる。
 私はフェルディナンとおそろいのピアスを探すためにお忍び用の目立たないシンプルな格好をしていて、だから結構簡単に脱がせることが出来る服装をしていた。そのせいもあってか。フェルディナンの大きな男の人の手が衣服の隙間をぬって入り込んでいたのは始めのうちだけで、今は服の前を全部開けられて露出した私の胸をフェルディナンがつかんでいる状態だった。

 それにしても想定外だったのがフェルディナンのテクニックというか技というか、何にしても胸を触られているだけで心も身体も持っていかれそうになる。

「あっ……きもちいぃっ……もっと、ぁ……して」

 そうして胸だけでイキそうになるすんでのところでフェルディナンは他の何かに気をとられたらしい。手が胸から離れそうになるのを私は両手で引き留めた。

「やぁっやめちゃやだっもっとさわって……」

 離れそうになる手をつかんで胸元に抱き寄せると、フェルディナンは続きを再開してまた胸をみ始めた。大きな二つの手のひらで鷲づかみにされて。全体をまんべんなく包み込みこまれる。その太く長い指先を柔らかい胸の肉に食い込ませながら胸の先端をままれて刺激されて、どんどん快感が増していく。そうして私が最終的に満足してイッたところでフェルディナンがまた手の動きを止めた。

「……最近はよく髪を結んでいるな」

 胸から手を片方だけ離して緩く結ばれた長い黒髪をつかんで口元に寄せている。口づけながら私の髪の感触を楽しんでいるフェルディナンは気持ちよさそうな穏やかな様子で柔らかく微笑んだ。その綺麗な顔にドキッとして思わず見取れてしまう。そうして少しボーッとフェルディナンを見つめていたら今度は顎に手を掛けられて、現実にハッと意識が戻される。

「……えっ? あっそう言えばそうかも」

 そうしないとすぐにエッチされちゃうからですなんて言えない……

 フェルディナンはよく私を抱く前に私の髪をいてくる。だからその前に髪を解く作業を一段階入れておけば少しは心の準備が出来るから何て事、とても本人には言えなかった。いてもゆるゆるのパーマをかけたみたいにふわふわになるから可愛い感じが残って好きで結わいているのもあるけれど、やはり一番の理由は抱かれる前の心の準備用ということだった。
 けれどそう考えている間もくすっと笑って穏やかな顔で私を見下ろしているフェルディナンの様子からして、何かしら気が付いているというか見透かされている感はある。

 ――と、こうして穏やかなフェルディナンの雰囲気に流されていたらまたフェルディナンに抱かれる展開に突入してしまう! ということに私はここまできてようやく気が付いた。
 そうなったら今日の外出は当然中止だろうし。なにより腰が立たなくなるような展開に持っていかれそうな気がした。何故ならフェルディナンは私の外出を普段からあまり快く思っていないからだ。私は外出する度にフェルディナンから危険だし人目につけたくないとよくお小言こごとを言われている。私の外出を阻止するためならば、きっとフェルディナンはそれを(抱き潰しを)実行するに違いない。だから私は渾身こんしんの力を込めてフェルディナンを拒まなければならなかった。

「ちょっ、ちょっと待って! わたしこれから外出しなくちゃいけないの! だからやっぱり今日はここまでにして!」
「月瑠……?」

 突然中止を宣言されてフェルディナンはキョトンとした顔で私を見返してくるけれど。それに構わず大急ぎで胸元を整え直してベッドを降りようとしたらフェルディナンに待ちなさいと腕をつかまれてしまった。

「今から出るのか?」
「うん! ちゃんと準備もしてあるし、この格好なら目立たないでしょ? それにシャノンさんもバートランドさんも付いててくれるから大丈夫だよ?」

 心配しないでと笑顔を向けてもフェルディナンは不満な表情を隠そうともしない。こうして私が何時いつも外出すると言うと、いってらっしゃいと見送る言葉ではなくむしろもっと構って欲しそうに私を見てくるから何時いつも困るのだ。

 ……こう言う時ってまるで大きな子供みたいだよね。

 そう思っても好きなものは好きなのだからしょうがない。それに私がフェルディナンを平気でからかうことが出来るようになったように、フェルディナンも私にそうやって素直に甘えるようになったのはとても嬉しいことで。だからどうしてもその手を振り切るのが難しくなる。
 捨てられた子犬のような目を向けられると「うっ……」と息がつまって罪悪感に似た感情がき上がってくる。けれど今日はどうしても外出しないわけにはいかなかった。

「あのね? 今日はどうしても行かないといけないの。ちょっとやりたいことがあって……」
「やりたいこと?」

 何をたくらんでいるんだ? と言わんばかりのフェルディナンの視線に私は白状してしまわないように必死だった。

「違うよ? わたしそんな悪いこと考えてないからね?」
「では素直に言えるだろう? いったい何をたくらんでいる?」
「あの、フェルディナンいまたくらでいるっていった?」
「違うのか?」
「…………」

 確かに悪いことではないけど、これはそれの一種に入るのかもしれない。だから答えられないでいたら突然外野からの横やりが入った。

「月瑠は可愛いんだからさ。いくら服装地味にして目立たなくしてても危ないって事、少しは自覚しないと駄目なんじゃないの? そういうところが心配だってフェルディナンももう少し分かりやすく教えてあげれば良いの」

 私とフェルディナンがベッドの上で押し問答している間に無断で部屋の中に入ってきたイリヤが当然と言わんばかりにソファーでくつろいでいる。それも手にはリンゴなんか持っていたりして、丸かじりしながらこちらを見ているものだからもう何とも言いようがない。それに私にはイリヤの言っている事がいまいち理解出来ていない部分もあって反応が少し遅れてしまった。

「えーっと……」
「何なのその反応は?」
「だって……」
「どうしたの?」
「今迄わたし、お姉ちゃん以外の人に可愛いから気をつけなさい、何てあまり言われた事なかったから」
「……それ本気で言ってるの? フェルディナンには言われた事ないの?」
「えーっと、沢山言われてるけどそれってひいき目が入っていると思うの」
「君達ってどうしてそうなのさ……」

 肝心の所をまるで分かっていないとイリヤが首を振ってリンゴをかじっている姿を見ながら私はうーんと首をかしげた。

「地味な格好しているから大丈夫でしょ?」
「そういうことじゃないんだよ」
「どういうこと?」
「目立たない格好してるから大丈夫とかじゃなくてフェルディナンは月瑠が外出すること自体を心配してるって話だよ」
「……どうして? だってシャノンさんもバートランドさんもいるし……」
「そこが分かっていないからフェルディナンが毎回月瑠が外出しようとする度に止めに入るんでしょ?」
「…………」

 分からないものは分からない。困ってフェルディナンの方をチラッと見ると気にするなというように優しく微笑み掛けてくれた。

「あーもう! そうやってフェルディナンが月瑠に甘くするから月瑠だって分からないままなんじゃないか」
「イリヤそう言うな。月瑠も少しは分かってきている」
「カメみたいに遅い速度でね。だからちょっとは言った方がいいってば」
「だが……」
「月瑠は今迄あまり可愛いって言われた事ないから自分が可愛い事自覚してないみたいだよ? 地味な格好してれば襲われる心配はないと思ってるみたいだし……それでバートランドを頑張って毎回まいちゃうみたいだよ?」
「イリヤっ!」

 イリヤの突然の告げ口に私は慌てた。それは決して言ってはいけないことだったのに。まさか兄のように慕っているイリヤがあっさりと口にしてしまうとは。そして案の定、フェルディナンは先程までの穏やかな様子から一変いっぺんして顔に影を落としながらちょっと待てと私の腕をつかんでいる手に力を込めた。そんな話は聞いていないと明らかにフェルディナンは怒っている。 

「……月瑠、君に話がある」
「っ!? で、でも! わたしモブキャラだから大丈夫だとお……」
「その君がよく言うモブキャラとやらだが」
「は、はい!」
「余りにも自覚していないようだから言っておく」
「な、なんでしょうか……?」
「君は相当に可愛い」
「……はっ?」

 まさか面と向かってフェルディナンからそう言われるとは思っていなかった。それも怒られている最中に。

「えっと、あの?」
「だから君は目立つんだ」
「フェルディナン?」
「地味な格好でいくら誤魔化しても君は目立って仕方がないんだ。だから少しは自覚してくれ」
「……はい」

 地味にしていても目立つの意味がよく分からないけれど、とりあえず返事をしておかなければ収拾が付きそうになかったので、私は分からないままコクリと頭を下げることにした。

「それと、バートランドをまくのはやめてくれ」
「……はい」

 それは弁解が出来ないくらいにごもっともなお話だった。

「フェルディナン、多分だけどさ。月瑠は返事しててもその様子だとあまり理解してないと思うよ?」
「だろうな……」

 イリヤの鋭い突っ込みにそれまでの硬い表情を崩して苦笑しているフェルディナンが私の手を離した。その隙を突いて私はそそくさとベッドから逃げるようにして離れた。それも全力疾走で。

「――っ! 月瑠!」
「ごめんなさいフェルディナン! わたし本当にもう行かなくちゃいけないの~」

 唖然あぜんと私の背中を見送っているフェルディナンを振り返らずに、全速力でダッシュして私は自室を後にした。そして背中からイリヤのほらやっぱりね。と言う声が聞こえたような気がしていた。



*******



 そして私が走り去った後の部屋の中では、置いてきぼりを食らったバートランドが申し訳なさそうに肩を落としてフェルディナンと向き合っていた。

「クロス将軍……姫様がまた……」
「ああ、分かっている」
「すみません、姫様はそのとても足が速い方でして……」
「分かっている。シャノンが付いているから平気だろう」
「はい……」
「それにしてもイリヤが言うとおり毎回なのか?」

 先程までリンゴを丸かじりしていたイリヤはもう部屋の中にはいない。何故なら走り去った私の後を追うと言って部屋を出て行ったからだった。

「はい残念ながら。報告すべき事項なのは分かっています。ですが……」
「月瑠に口止めされていたんだろう? それも言ったら戻ってこないとか家出するとか何かしら断れない条件を突きつけられたのではないか? ユーリーが亡くなってから彼女の動向がおかしかったのは知っている。だからそれをお前のせきにするつもりはない」

 フェルディナンの問いかけにバートランドは無念そうにうなずいてギュッと手を握り込む。

「そうか……。彼女はいくら言っても聞かないからな。無理矢理曲げようとすれば何かしら無茶をしようとする。結局のところ自由にさせておくのが一番いいのだろう彼女の場合は……」

 分かりきった様子でつぶやくフェルディナンにバートランドは少し声を抑えて伏せがちに別の話を切り出した。

「……ユーリー様を失ってからの姫様の無断外出は酷くなる一方でしたからね。姫様の無謀むぼうさは前々から知っていましたけど、ユーリー様が亡くなってからのここ一年はとにかく酷かったですね」

 バートランドの悔しそうな顔をフェルディナンが一瞥いちべつしながら窓の外を眺め見て。それからフェルディナンはどうにも出来ない苛立いらだちをやわらげるように目を細めた。

「……月瑠もきっとどうしていいのか分からなかったんだろう」
「でもクロス将軍からも無謀むぼうなことは止めるようになんとか言われた方がやはりよろしいのではないですか?」
「普段から無茶なことは止めるように言ってはいる。だがきっと彼女は聞かない。「はい」と返事だけして勝手に動き回るのを止めないだろうな」
「しかし……」
「彼女は誰の言うことも聞かない。だからこうして静かに見守るしかないんだ」
「クロス将軍……」
「ああ、それと」
「?」
「一応、彼女を止める努力はしていたんだぞ?」
「……それはどのような努力でしょうか?」

 バートランドが微妙な顔をしてフェルディナンに質問を返した。バートランドは何となくフェルディナンの回答が予測出来ているような、それでいてあきれているような顔をしている。

「彼女が疲れ切って動けなくなるまで連日連夜抱きつぶしてはみたんだが。効果があったのは数日だけだったな」
「…………」

 無言でバートランドは頭を押さえてしまう。

「それに私に抱かれて疲労した身体で町中に出られてはそれこそ危険が増すというものだ。本末転倒ほんまつてんとうにもなりかねない。仕方なく程々なところで手を打っている状況だ」
「クロス将軍その発想はいかがなものかと……」
「そうか? 一番手っ取り早いと思うが」
「……そうですか」

 これ以上はもう何も言うまいと、バートランドは心の中で大きな溜息を付いた。
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