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第二章~恋人扱編~
♂034 女体化と生殖時期
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女体化とは生殖時期を迎えると自然と体が一時的に男の体から女の体へと変異すること。
この乙女ゲーム世界『女の子を産まないと帰れない!?~乙女ゲームの世界に転移しちゃいました~』略してプレイヤーの間では「のをない」(女の子を産まないと帰れないの略)と呼ばれている乙女ゲーム。の住人達にとってはごく普通の自然現象であり、女体化する生殖時期にしか子供を作れないというものだった。
以前私はフェルディナンにそう教えてもらった。ちなみに生殖時期は年に一度の人もいれば三年に一度の人もいる。そこら辺は個体差があるようなのだ。
「俺の女体化は一年に一度の周期でやってくる。もうすぐと言ったがこの感覚からすると明日にもその周期に差し掛かかりそうだな」
「明日っ!?」
驚愕に声を上擦らせながらフェルディナンを見ると、彼はよしよしと落ち着かせるように私の頭を撫でた。
――いや、よしよしじゃないんだってば!
「何でそんなにフェルディナンは落ち着いてるの! ってことは私はその時どうすればいいのっ!? フェルディナンはどうなっちゃうの? ……――えっ?」
そう息巻いている最中にも彼の手が何時の間にか服の隙間から差し入れられていくのを、自室のソファーの上でフェルディナンの膝に大人しく座らせられていた私は避けることが出来なかった。
不味いっ! フェルディナン思っていたよりも全く落ち着いていなかったっ!
フェルディナンの顔付きは何時もと同じように冷静な表情を保っているけれど、その紫混じった青い瞳だけは肉食獣のように強い雄の目をして私を見ている。
素肌に直接触れられる感覚の気持ち良さにぞくぞくと全身に震えと鳥肌が立つ。幸いまだ軽く触れられているだけで済んでいる。私は必死に平静を装って話を続けることにした。下手に反応したらもっと不味い状況になりかねない。事態を助長させるような刺激をこれ以上フェルディナンに与えないように私は何とか何時も通りに振る舞った。
「フェルディナンは他の人に比べたらだいぶ周期は短い方になるんですよね?」
「ああ、俺のは一年に一度の周期でやってくる。周期が長い者達に比べたら大分事後が楽な方だな」
「あの、……事後ってなんですか?」
「女体化して生殖時期に入るということはその間に押さえられていた性欲から解放されるということだ。だから抑えていた周期が長ければ長い程、それに比例して生殖時期を迎えた個体は性欲に対する抑えが利かなくなる」
「抑えが利かなくなる……」
思わずごくりと喉を鳴らしてしまった。
「性欲が強くなる、……つまりは誰にでも欲情するようになるということだ。見境がなくなる。だから周期が長ければ長い程生殖時期を終えた後は大変なことになるそういう意味だ」
「それっていろんな人と関係を持ってしまうから後が大変っていう意味ですよね?」
「そうだな」
フェルディナンはまるで他人事のように返答して小さく笑っている。
この乙女ゲーム世界では生殖時期に起こる女体化は普通のことだから、フェルディナンは生理現象のように自然に受け入れているっていうことなのかな?
そう思うとどうしても確かめたくなって私はフェルディナンに尋ねてしまった。
「フェルディナンは大丈夫だよね?」
「俺は周期が短い分まだ抑えが利く方だが……」
そう言いながらもフェルディナンの手が私の胸元と下半身の更に奥へと伸ばされていく。自分の言った言葉が引き金になってしまったことに私はハタと気が付いた。
「フェ、フェルディナン? ……あっ、ちょっ、まってフェルディナン! やめっ――きゃぁっ!」
いきなりフェルディナンの武骨な指先が下半身の下着の内側に侵入して、その先にある花弁を押し開いて容赦なく割入った。フェルディナンの太くゴツゴツした男の指先がズッと指の根元まで深く秘所に埋め込まれた衝撃に、体が震えて悲鳴のような声を漏らしてしまう。
「……あっ、あっ、……ひっ……」
「好きな女を前にしているとそれもなかなか難しいな……」
「……フェルディナン、やだぁっ」
嫌々を繰り返しながら涙目でフェルディナンを見上げると、フェルディナンはあまりの衝撃に体が震えて動けないでいる私の秘所から今度は一気に指を引き抜いた。
「ひぁっ!」
ズルッと引き抜かれた指はその根元までねっとりと私の中から出てきたもので濡れていた。フェルディナンはそれを見て満足そうな顔をすると、放心している私を軽々と抱き上げてソファーから立ち上がった。
「あ、の?」
何処へ連れて行こうとしているのか目だけでフェルディナンに尋ねると、彼はふっと笑ってそのままゆっくりと歩き出した。向かっている方向からして何処に連れて行かれるのかは容易に検討がついてしまう。フェルディナンは私を抱きかかえてベッドの傍まで運ぶとそっとベッドの上におろした。
「フェル、ディナン……?」
おそるおそる声をかけた私をフェルディナンは子供をあやすような仕草で優しく抱きしめて背中を摩った。フェルディナンが怖がる私の不安を取り除こうとして甘えさせようとしているのが分かって、私もそんなフェルディナンに甘えて彼の胸元に頭を預けてそっと身を寄せた。すると少しずつ体の震えが収まってきて私はようやく落ち着きを取り戻した。顔を上げてフェルディナンの方を見ると私を心配そうな表情で見下ろしていた。
……やっぱり何だかんだ言っても、フェルディナンは優しいんだよね。
抑えが利かなくなるような状況でも示された優しさに嬉しくなる。そのフェルディナンの気遣うような優しさに思わず少し背伸びをして、私は彼の形の良い唇に自身の唇を重ねた。唇を重ねるだけの子供がするような細やかな口づけにフェルディナンはくすっと笑って穏やかな眼差しを私に向けると、私の長い黒髪を梳くってそれに口づけた。
「いいのか? そんなことをされてしまうと余計に止まらなくなるぞ?」
「……好き、だから。私フェルディナンのこと好き――んっ」
フェルディナンの唇が下りて来て深く口づけられる。とろける程の熱い彼の舌がきちゅきちゅと音を立てながら私の舌に絡みついて、繋がっている唇の境目の角度を変えながら、私の中でもっと深く繋がろうとして更に深く舌を差し入れられてしまう。
「……あっ、まって……まっ……あっんんっ」
フェルディナンはグイッと私の後頭部を掴んで、互いの唇の境目が分からなくなるくらい強く私を引き寄せて完全に口を隙間なく塞ぎきってしまった。
そうして深く口づけられている合間にフェルディナンの空いた片方の手が再び私に秘所に差し入れられた。
「……っ!」
ぐちゅっと大きな音を立てて花弁を割って再び侵入した太く長いフェルディナンの指先が、膣内を容赦なく擦り上げながら激しく出し入れされていく。その動きに反応して秘所が次第に熱さを増していくのを感じて、私は彼の胸元へ必死にしがみついた。びくびくと背中が痙攣するように自然と動いてしまう。私の中で激しく動いているフェルディナンの動きに追いつけなくて唇の端から甘い声が漏れるのを止められない。
「ひぁっ……や……ぁ……」
自由に声を出すことを許されず。あまりにも深い濃厚な口づけと下半身に差し込まれた指先の動きに、私は涙に頬を濡らしながら思わずフェルディナンから逃げようとして身体を捩らせた。しかしフェルディナンはそれを想定していたようで深い口づけを続けたまま、私の腰を掴んでベッドに押し倒した。そうして私から完全に逃げ場を奪ってしまう。
「……っん……っんん!」
ギシッとベッドが軋む音が室内に響く。一頻り私の唇を味わってからフェルディナンはやっと私の唇を解放した。
「……月瑠愛してる」
そう優しく囁きながらもフェルディナンの武骨な指先は私の秘所に埋め込まれたまま激しく動き続けている。その後も、小さく悲鳴を上げながら何度も達してしまう私の上にフェルディナンは覆い被さったままその行為を繰り返し続けた。
「もう……やっ……フェル、ディ……ナ……あんっ……やぁ」
私は私に重なるフェルディナンの重みと彼の熱い体から発せられる雄の匂いを強く感じながら、ひたすら彼の欲情が費えるまで彼の下に組み敷かれ喘ぎ続けることを余儀無くされてしまった。
*******
それから数刻が経過して一連の行為がやっと終わった頃には辺りは大分暗くなっていて、私は数刻に及んだ行為の疲れからフェルディナンの胸元にぐったりと身を委ねていた。ベッドの上で二人切りの甘い雰囲気が流れている中、私は本能を剥き出しにしたフェルディナンを前に、かなり直接的にそれも唐突に話を切り出した。
「そういえば、フェルディナンは今迄どうやって生殖時期を過ごしてたの? 今迄にも恋人は沢山いたんでしょ? その人達ともこういう風に過ごしてた?」
「月瑠……? どうしたんだ急に?」
フェルディナンの過去の相手が気になるのは前からだった。フェルディナンに開けられた身体には気怠い甘さと快感が、行為が終わった後もまだ続いている。フェルディナンがこういう行為に手慣れていて経験が豊富なことも、そして過去の相手が沢山いたことも嫌でも分かってしまう。
「だってフェルディナンがもてるの分かってるし、やっぱりそう言う相手にはあまり不自由してなさそうだなって思って……」
「気になるのか?」
「……うん」
正直に頷いてから私はフェルディナンの胸元にポスッと顔を埋めた。そうして自分から話を切り出しておきながら、私は少しだけフェルディナンに意地悪がしたくなってしまった。
……私は一度もそう言う人と付き合ったことも経験もないのに。
フェルディナンにばかり経験があって過去の相手がいることに嫉妬してしまうのが何だか悔しい。だから何も言わずに私の頭を撫でているフェルディナンに私は意地の悪い質問をした。
「もしかして、フェルディナンは私にそう言う経験がないからって、私には過去に恋人が一人もいないと思ってる?」
「……月瑠?」
撫でている手をピタリと止めて、何を言い出すんだと言う顔をしてフェルディナンが私の方を見た。
「いたらどうするの?」
その反応が面白くて、フェルディナンの見た目よりも柔らかい金の髪をくるくると指に絡めながらフェルディナンの胸元でくすくす笑っていると、フェルディナンは不機嫌そうに眉を顰めて、私と一緒にベッドの上で横になっていた状態から軽く上半身を起こした。枕を背にベッドに片肘を付くと、フェルディナンは改めて私と向き合うように私を胸元に抱え直した。
「フェルディナン……?」
無言で私を見つめてくるフェルディナンの体からは妙な色気と艶っぽさが漂っている。ギシッと軋むベッドの音と合わさって余計にそれが増しているように見える。フェルディナンは肉食獣のように光る眼光を私に向けるとスッと私の方へと手を伸ばしてきた。私の唇に触れて唇の形をなぞっているフェルディナンが酷く怒っているような気がして、私は思わずビクッと体を反応させてしまった。
「……その男を探し出して殺そうにも住む世界が違うからな」
フェルディナンは不機嫌そうな表情をそのままに、どうしたものかと首を傾げた。
――えっと、あの、これって、怒ってる何てレベルじゃないっ!?
「そんな話を君から持ち出されるとは思ってもいなかったな」
「フェルディナンあの、ちょっとまっ……」
「まだまだ愛し足りないってことか?」
「へっ?」
「同じベッドにいて他の男の話を出されるのは正直あまり面白くないな」
「他の、男って……」
何だか思っていた以上にフェルディナンの反応が怖い……
フェルディナンはゆっくりとした動作で私の両手を掴んでそのまま優しく指を絡めた。繋ぎ合わせた私の手に唇を押し当てながら、フェルディナンは問い詰めるような目を向けてくる。
目の前に迫る大柄な体格。無駄な肉が一切付いていない彫刻のような肉体美。金の髪に縁取られた綺麗な輪郭と端正な顔立ち。完璧な容姿のフェルディナンにこうも怒ったような顔で近寄られるとその迫力にどうしても気圧されてしまう。
「……いえ、もう十分です。ごめんなさい」
私は煽り過ぎた自分の言動を少し反省した。
「もういいのか? 君が他の男の話など持ち出すから、てっきり俺に嫉妬に任せて襲ってほしいのかと思っていたが」
誘うような仕草で耳元にそっと唇を寄せられる。心地の良い低音で囁かれて、私は思わず互いに繋ぎ合わせている手にキュッと力を込めた。
「……フェルディナンは独占欲が強い方ですよね」
「そうか? この位は当たり前だと思うが」
いえ、当たり前じゃないと思いますけど――とはいえない。
「でもそんなに怒らなくても……」
そう言った瞬間、繋ぎ合わせた手のフェルディナンの指先から伝わる力が強くなる。
「――一応言っておくが、先程言ったことは全部本気だ。君に俺以外の男が出来たら俺は躊躇なくそいつを殺しにいく」
「!」
フェルディナンの瞳が余りにも真剣で怖くなって私は思わずフェルディナンから視線を外してしまった。するとフェルディナンはあっさりと謝罪の言葉を口にした。
「すまない少し嫉妬した」
フェルディナンと繋ぎ合わせた指先が少しだけ震えてしまって、私が怖がっていることが直に彼へと伝わってしまったらしい。フェルディナンはこれ以上私を怖がらせないようにと思ったのか私の額にそっと口づけてから優しく目を細めた。
「本当に、君には俺に早く慣れてもらわないと困るな」
そういって苦笑しているフェルディナンの紫混じった綺麗な青い瞳は何時もより少し色濃く影を落としている。言葉自体は私の反応を見て緩くしたけれど、どうやら私にフェルディナン以外の男が出来たら殺すと言った言葉は本気のようだ。
「……慣れないですよこんなこと」
私は彼の胸元で思わずウーと唸ってプイッと横を向いた。ムウッと怒っている私の様子にフェルディナンは仕方ないなと少し困ったような顔をして私の頬に頬を寄せてくる。触れ合う頬のくすぐったさに思わずフェルディナンを見るとその顔にはまだ物足りないとそう書いてあった。今まで以上のことを実行したい欲求を強靭な理性で抑えつけているように見えて、私はゾクッと背筋が凍り付きそうになってしまう。
「――まあいい、いずれは君を完全に俺のものにする」
そう言ってフェルディナンは私の唇に唇を寄せてきた。もう少しで互いの唇が触れ合いそうなくらい近づいたところで、フェルディナンと私以外にはいない筈の室内から呆れた様な声が聞こえてきた。
「あのさぁ……何だか全く話が進んでいないようだから仕方なく口を挟ませてもらうけど」
「!?」
「どうしてそう長時間一緒にいるのに、少しも今後どうするのか話が決まらないのかな」
反射的に振り返ると室内の入り口近くの壁に、背中を預けたまま足と手を組んでこちらの様子を眺めているイリヤが静かに立っていた。
「イリヤっ!? あの、何時からそこに……」
「室内に入ったのは今だけど、まあ付近にはずっといたかな」
「ずっと!?」
急いで乱れた身なりを整えようとして、フェルディナンと繋ぎ合わせた手を解こうとしても、フェルディナンの手はビクともしない。フェルディナンはイリヤに抱き合っている格好を見られていても、一向に動こうとせず手を放してくれない。それにフェルディナンはイリヤが突然現れたことをあまり驚いていないように見えた。
「もしかして、フェルディナンはイリヤが近くにいるの気が付いてた?」
フェルディナンは悪びれた様子もなく静かにコクリと頷いた。
「フェルディナンは俺達が近くにいるのは気配である程度は察知出来るからね。ちなみにバートランドは聞いていられないって言って途中で自室に退避しちゃうし、シャノンはこういうの苦手みたいだからずっとそっぽ向いて知らんぷりしてるしで、仕方なく俺が来たんだよ」
「そう、ですか……」
これは、気遣ってくれてありがとうとイリヤにお礼でも言うべきなんでしょうか……?
「まあ、そんなことよりもさ。フェルディナンが多分明日辺りにでも女体化しちゃうんでしょ? どうするか決めないと駄目でしょ。いい加減に。警護役の俺達も身の振り方考えないといけないから早く決めてもらわないとさ」
「……それは」
確かにそうなんですけどね。覗き見のようなことをされて……それって私にとってはとても恥ずかしいことなのにっ! そんなことよりもと何でもない事のように片付けられてしまうなんてそれってどうなんですかっ!?
私はどうにもすっきりしないもやもやとした気持を抱え込んでしまう。
「ああ、そうそう。ちなみに一度フェルディナンが女体化した時、俺とフェルディナンは……」
「イリヤ……」
言葉の途中で発せられた有無を言わせない重く威圧感のあるフェルディナンの制止の声に、イリヤは大人しく引き下がった。
「はいはい、大丈夫いいませんって」
「……えっと、あの、そこまでいっておいて教えてくれないんですか……」
この二人の間に何かあったのかと疑いたくなるような会話を途中で止めないでほしい。というか私の目の前で繰り広げておいて勝手に終了させないでほしいのですが。とは思ったものの、怖すぎてその先を聞く勇気は私にはなかった。何もなかったにしても何をしたのか知りたくなってしまう。
「まあとにかく、フェルディナンは女体化したら外に出られないからずっと部屋に籠りっきりになるわけだけど。一応確認しておくけどさ、その間の相手はもちろん月瑠がするんだよね?」
「えっと、お話し相手なら喜んでしますけど」
「御飯事じゃないんだから、そういうことじゃないのは月瑠もよく分かってるよね?」
冗談でいったつもりはさらさらないのだけれど、イリヤの突っ込みはけっこう厳しかった。
「うん……あの、その間私は……その、大丈夫なのでしょうか……?」
「フェルディナンが欲情し過ぎて不味い事にならないかってこと? まあなんなら俺が……」
イリヤが皆まで言う前に、私は思いっ切り叫んでいた。
「ダメ――ッ!」
冗談じゃない! 大事な恋人を他の人のいいようにされるなんて、考えただけでも身の毛がよだつ。何だか鳥肌が立ってきた。
「じゃあ他の人に……」
「それも絶対にだめ――っ!」
私は思わずフェルディナンと繋ぎ合わせていた手を振り払って、フェルディナンの頭をひしっと胸元に抱え込んでしまった。
「そんなの絶対に許せるわけがないじゃない!」
半泣きになりながらフェルディナンに抱きついていると、フェルディナンがポンポンっと優しく背中を撫でてきた。その優しい仕草に余計に涙が出てきて私はキュッとフェルディナンの頭を抱えている手に力を込めて彼をピッタリと胸元に引き寄せた。
絶対に女体化して女性になったフェルディナンを誰かに託すなんてことは出来ないしそんな事は許せない。
「じゃあ月瑠が相手するしかないじゃないか」
「……は?」
まさかの百合展開ですかっ!?
いや、元々フェルディナンは男性なんだからそれとはちょっと違うけど、そういう問題ではなくて……って、ちょっと待ってください。確かに私とフェルディナンは恋人だけど、まさか同性でという事は全く考えてなかったというか――全くの想定外なんですけど!?
「それにフェルディナンも月瑠がいいって顔してるし」
「何を言って……」
イリヤに言われて私は抱きかかえているフェルディナンの顔をそろそろと見た。彼は穏やかな顔に何故だか嬉しそうな微笑みを浮かべている。紫が混じった青い瞳に金の髪。眉尻に古傷を抱えているその整った容貌は45歳にはとても見えない。16歳の私とは29歳差の恋人は、綺麗過ぎて何時も私を魅了する。
「フェルディナン……そんな顔してもだめだからね?」
「何故だ?」
「……何故ってだってフェルディナンが女体化しちゃったら一応女同士ってことでしょ? 見た目は」
「別に構わない」
「…………」
お願いです。少しは構って下さい……
見た目はどう見てもGL。男性が女体化しただけだから本来のGLとは根本的に意味が違うけど、見た目はどうみても百合展開。嫌とかそういうことじゃない。心の準備が出来て無さ過ぎて困っている。そう言う状況だった。
だって! 男しかいない逆ハーレム世界でBLはあっても、まさかGLまであるなんて予測できないじゃないっ!
そんなこともさらっと受け入れてくれるフェルディナンの懐の深さ、というか許容範囲の広さが今は恨めしい。
これから起こる事を思うと私は本当に何処か遠くへ逃げ出したい気分だった。
この乙女ゲーム世界『女の子を産まないと帰れない!?~乙女ゲームの世界に転移しちゃいました~』略してプレイヤーの間では「のをない」(女の子を産まないと帰れないの略)と呼ばれている乙女ゲーム。の住人達にとってはごく普通の自然現象であり、女体化する生殖時期にしか子供を作れないというものだった。
以前私はフェルディナンにそう教えてもらった。ちなみに生殖時期は年に一度の人もいれば三年に一度の人もいる。そこら辺は個体差があるようなのだ。
「俺の女体化は一年に一度の周期でやってくる。もうすぐと言ったがこの感覚からすると明日にもその周期に差し掛かかりそうだな」
「明日っ!?」
驚愕に声を上擦らせながらフェルディナンを見ると、彼はよしよしと落ち着かせるように私の頭を撫でた。
――いや、よしよしじゃないんだってば!
「何でそんなにフェルディナンは落ち着いてるの! ってことは私はその時どうすればいいのっ!? フェルディナンはどうなっちゃうの? ……――えっ?」
そう息巻いている最中にも彼の手が何時の間にか服の隙間から差し入れられていくのを、自室のソファーの上でフェルディナンの膝に大人しく座らせられていた私は避けることが出来なかった。
不味いっ! フェルディナン思っていたよりも全く落ち着いていなかったっ!
フェルディナンの顔付きは何時もと同じように冷静な表情を保っているけれど、その紫混じった青い瞳だけは肉食獣のように強い雄の目をして私を見ている。
素肌に直接触れられる感覚の気持ち良さにぞくぞくと全身に震えと鳥肌が立つ。幸いまだ軽く触れられているだけで済んでいる。私は必死に平静を装って話を続けることにした。下手に反応したらもっと不味い状況になりかねない。事態を助長させるような刺激をこれ以上フェルディナンに与えないように私は何とか何時も通りに振る舞った。
「フェルディナンは他の人に比べたらだいぶ周期は短い方になるんですよね?」
「ああ、俺のは一年に一度の周期でやってくる。周期が長い者達に比べたら大分事後が楽な方だな」
「あの、……事後ってなんですか?」
「女体化して生殖時期に入るということはその間に押さえられていた性欲から解放されるということだ。だから抑えていた周期が長ければ長い程、それに比例して生殖時期を迎えた個体は性欲に対する抑えが利かなくなる」
「抑えが利かなくなる……」
思わずごくりと喉を鳴らしてしまった。
「性欲が強くなる、……つまりは誰にでも欲情するようになるということだ。見境がなくなる。だから周期が長ければ長い程生殖時期を終えた後は大変なことになるそういう意味だ」
「それっていろんな人と関係を持ってしまうから後が大変っていう意味ですよね?」
「そうだな」
フェルディナンはまるで他人事のように返答して小さく笑っている。
この乙女ゲーム世界では生殖時期に起こる女体化は普通のことだから、フェルディナンは生理現象のように自然に受け入れているっていうことなのかな?
そう思うとどうしても確かめたくなって私はフェルディナンに尋ねてしまった。
「フェルディナンは大丈夫だよね?」
「俺は周期が短い分まだ抑えが利く方だが……」
そう言いながらもフェルディナンの手が私の胸元と下半身の更に奥へと伸ばされていく。自分の言った言葉が引き金になってしまったことに私はハタと気が付いた。
「フェ、フェルディナン? ……あっ、ちょっ、まってフェルディナン! やめっ――きゃぁっ!」
いきなりフェルディナンの武骨な指先が下半身の下着の内側に侵入して、その先にある花弁を押し開いて容赦なく割入った。フェルディナンの太くゴツゴツした男の指先がズッと指の根元まで深く秘所に埋め込まれた衝撃に、体が震えて悲鳴のような声を漏らしてしまう。
「……あっ、あっ、……ひっ……」
「好きな女を前にしているとそれもなかなか難しいな……」
「……フェルディナン、やだぁっ」
嫌々を繰り返しながら涙目でフェルディナンを見上げると、フェルディナンはあまりの衝撃に体が震えて動けないでいる私の秘所から今度は一気に指を引き抜いた。
「ひぁっ!」
ズルッと引き抜かれた指はその根元までねっとりと私の中から出てきたもので濡れていた。フェルディナンはそれを見て満足そうな顔をすると、放心している私を軽々と抱き上げてソファーから立ち上がった。
「あ、の?」
何処へ連れて行こうとしているのか目だけでフェルディナンに尋ねると、彼はふっと笑ってそのままゆっくりと歩き出した。向かっている方向からして何処に連れて行かれるのかは容易に検討がついてしまう。フェルディナンは私を抱きかかえてベッドの傍まで運ぶとそっとベッドの上におろした。
「フェル、ディナン……?」
おそるおそる声をかけた私をフェルディナンは子供をあやすような仕草で優しく抱きしめて背中を摩った。フェルディナンが怖がる私の不安を取り除こうとして甘えさせようとしているのが分かって、私もそんなフェルディナンに甘えて彼の胸元に頭を預けてそっと身を寄せた。すると少しずつ体の震えが収まってきて私はようやく落ち着きを取り戻した。顔を上げてフェルディナンの方を見ると私を心配そうな表情で見下ろしていた。
……やっぱり何だかんだ言っても、フェルディナンは優しいんだよね。
抑えが利かなくなるような状況でも示された優しさに嬉しくなる。そのフェルディナンの気遣うような優しさに思わず少し背伸びをして、私は彼の形の良い唇に自身の唇を重ねた。唇を重ねるだけの子供がするような細やかな口づけにフェルディナンはくすっと笑って穏やかな眼差しを私に向けると、私の長い黒髪を梳くってそれに口づけた。
「いいのか? そんなことをされてしまうと余計に止まらなくなるぞ?」
「……好き、だから。私フェルディナンのこと好き――んっ」
フェルディナンの唇が下りて来て深く口づけられる。とろける程の熱い彼の舌がきちゅきちゅと音を立てながら私の舌に絡みついて、繋がっている唇の境目の角度を変えながら、私の中でもっと深く繋がろうとして更に深く舌を差し入れられてしまう。
「……あっ、まって……まっ……あっんんっ」
フェルディナンはグイッと私の後頭部を掴んで、互いの唇の境目が分からなくなるくらい強く私を引き寄せて完全に口を隙間なく塞ぎきってしまった。
そうして深く口づけられている合間にフェルディナンの空いた片方の手が再び私に秘所に差し入れられた。
「……っ!」
ぐちゅっと大きな音を立てて花弁を割って再び侵入した太く長いフェルディナンの指先が、膣内を容赦なく擦り上げながら激しく出し入れされていく。その動きに反応して秘所が次第に熱さを増していくのを感じて、私は彼の胸元へ必死にしがみついた。びくびくと背中が痙攣するように自然と動いてしまう。私の中で激しく動いているフェルディナンの動きに追いつけなくて唇の端から甘い声が漏れるのを止められない。
「ひぁっ……や……ぁ……」
自由に声を出すことを許されず。あまりにも深い濃厚な口づけと下半身に差し込まれた指先の動きに、私は涙に頬を濡らしながら思わずフェルディナンから逃げようとして身体を捩らせた。しかしフェルディナンはそれを想定していたようで深い口づけを続けたまま、私の腰を掴んでベッドに押し倒した。そうして私から完全に逃げ場を奪ってしまう。
「……っん……っんん!」
ギシッとベッドが軋む音が室内に響く。一頻り私の唇を味わってからフェルディナンはやっと私の唇を解放した。
「……月瑠愛してる」
そう優しく囁きながらもフェルディナンの武骨な指先は私の秘所に埋め込まれたまま激しく動き続けている。その後も、小さく悲鳴を上げながら何度も達してしまう私の上にフェルディナンは覆い被さったままその行為を繰り返し続けた。
「もう……やっ……フェル、ディ……ナ……あんっ……やぁ」
私は私に重なるフェルディナンの重みと彼の熱い体から発せられる雄の匂いを強く感じながら、ひたすら彼の欲情が費えるまで彼の下に組み敷かれ喘ぎ続けることを余儀無くされてしまった。
*******
それから数刻が経過して一連の行為がやっと終わった頃には辺りは大分暗くなっていて、私は数刻に及んだ行為の疲れからフェルディナンの胸元にぐったりと身を委ねていた。ベッドの上で二人切りの甘い雰囲気が流れている中、私は本能を剥き出しにしたフェルディナンを前に、かなり直接的にそれも唐突に話を切り出した。
「そういえば、フェルディナンは今迄どうやって生殖時期を過ごしてたの? 今迄にも恋人は沢山いたんでしょ? その人達ともこういう風に過ごしてた?」
「月瑠……? どうしたんだ急に?」
フェルディナンの過去の相手が気になるのは前からだった。フェルディナンに開けられた身体には気怠い甘さと快感が、行為が終わった後もまだ続いている。フェルディナンがこういう行為に手慣れていて経験が豊富なことも、そして過去の相手が沢山いたことも嫌でも分かってしまう。
「だってフェルディナンがもてるの分かってるし、やっぱりそう言う相手にはあまり不自由してなさそうだなって思って……」
「気になるのか?」
「……うん」
正直に頷いてから私はフェルディナンの胸元にポスッと顔を埋めた。そうして自分から話を切り出しておきながら、私は少しだけフェルディナンに意地悪がしたくなってしまった。
……私は一度もそう言う人と付き合ったことも経験もないのに。
フェルディナンにばかり経験があって過去の相手がいることに嫉妬してしまうのが何だか悔しい。だから何も言わずに私の頭を撫でているフェルディナンに私は意地の悪い質問をした。
「もしかして、フェルディナンは私にそう言う経験がないからって、私には過去に恋人が一人もいないと思ってる?」
「……月瑠?」
撫でている手をピタリと止めて、何を言い出すんだと言う顔をしてフェルディナンが私の方を見た。
「いたらどうするの?」
その反応が面白くて、フェルディナンの見た目よりも柔らかい金の髪をくるくると指に絡めながらフェルディナンの胸元でくすくす笑っていると、フェルディナンは不機嫌そうに眉を顰めて、私と一緒にベッドの上で横になっていた状態から軽く上半身を起こした。枕を背にベッドに片肘を付くと、フェルディナンは改めて私と向き合うように私を胸元に抱え直した。
「フェルディナン……?」
無言で私を見つめてくるフェルディナンの体からは妙な色気と艶っぽさが漂っている。ギシッと軋むベッドの音と合わさって余計にそれが増しているように見える。フェルディナンは肉食獣のように光る眼光を私に向けるとスッと私の方へと手を伸ばしてきた。私の唇に触れて唇の形をなぞっているフェルディナンが酷く怒っているような気がして、私は思わずビクッと体を反応させてしまった。
「……その男を探し出して殺そうにも住む世界が違うからな」
フェルディナンは不機嫌そうな表情をそのままに、どうしたものかと首を傾げた。
――えっと、あの、これって、怒ってる何てレベルじゃないっ!?
「そんな話を君から持ち出されるとは思ってもいなかったな」
「フェルディナンあの、ちょっとまっ……」
「まだまだ愛し足りないってことか?」
「へっ?」
「同じベッドにいて他の男の話を出されるのは正直あまり面白くないな」
「他の、男って……」
何だか思っていた以上にフェルディナンの反応が怖い……
フェルディナンはゆっくりとした動作で私の両手を掴んでそのまま優しく指を絡めた。繋ぎ合わせた私の手に唇を押し当てながら、フェルディナンは問い詰めるような目を向けてくる。
目の前に迫る大柄な体格。無駄な肉が一切付いていない彫刻のような肉体美。金の髪に縁取られた綺麗な輪郭と端正な顔立ち。完璧な容姿のフェルディナンにこうも怒ったような顔で近寄られるとその迫力にどうしても気圧されてしまう。
「……いえ、もう十分です。ごめんなさい」
私は煽り過ぎた自分の言動を少し反省した。
「もういいのか? 君が他の男の話など持ち出すから、てっきり俺に嫉妬に任せて襲ってほしいのかと思っていたが」
誘うような仕草で耳元にそっと唇を寄せられる。心地の良い低音で囁かれて、私は思わず互いに繋ぎ合わせている手にキュッと力を込めた。
「……フェルディナンは独占欲が強い方ですよね」
「そうか? この位は当たり前だと思うが」
いえ、当たり前じゃないと思いますけど――とはいえない。
「でもそんなに怒らなくても……」
そう言った瞬間、繋ぎ合わせた手のフェルディナンの指先から伝わる力が強くなる。
「――一応言っておくが、先程言ったことは全部本気だ。君に俺以外の男が出来たら俺は躊躇なくそいつを殺しにいく」
「!」
フェルディナンの瞳が余りにも真剣で怖くなって私は思わずフェルディナンから視線を外してしまった。するとフェルディナンはあっさりと謝罪の言葉を口にした。
「すまない少し嫉妬した」
フェルディナンと繋ぎ合わせた指先が少しだけ震えてしまって、私が怖がっていることが直に彼へと伝わってしまったらしい。フェルディナンはこれ以上私を怖がらせないようにと思ったのか私の額にそっと口づけてから優しく目を細めた。
「本当に、君には俺に早く慣れてもらわないと困るな」
そういって苦笑しているフェルディナンの紫混じった綺麗な青い瞳は何時もより少し色濃く影を落としている。言葉自体は私の反応を見て緩くしたけれど、どうやら私にフェルディナン以外の男が出来たら殺すと言った言葉は本気のようだ。
「……慣れないですよこんなこと」
私は彼の胸元で思わずウーと唸ってプイッと横を向いた。ムウッと怒っている私の様子にフェルディナンは仕方ないなと少し困ったような顔をして私の頬に頬を寄せてくる。触れ合う頬のくすぐったさに思わずフェルディナンを見るとその顔にはまだ物足りないとそう書いてあった。今まで以上のことを実行したい欲求を強靭な理性で抑えつけているように見えて、私はゾクッと背筋が凍り付きそうになってしまう。
「――まあいい、いずれは君を完全に俺のものにする」
そう言ってフェルディナンは私の唇に唇を寄せてきた。もう少しで互いの唇が触れ合いそうなくらい近づいたところで、フェルディナンと私以外にはいない筈の室内から呆れた様な声が聞こえてきた。
「あのさぁ……何だか全く話が進んでいないようだから仕方なく口を挟ませてもらうけど」
「!?」
「どうしてそう長時間一緒にいるのに、少しも今後どうするのか話が決まらないのかな」
反射的に振り返ると室内の入り口近くの壁に、背中を預けたまま足と手を組んでこちらの様子を眺めているイリヤが静かに立っていた。
「イリヤっ!? あの、何時からそこに……」
「室内に入ったのは今だけど、まあ付近にはずっといたかな」
「ずっと!?」
急いで乱れた身なりを整えようとして、フェルディナンと繋ぎ合わせた手を解こうとしても、フェルディナンの手はビクともしない。フェルディナンはイリヤに抱き合っている格好を見られていても、一向に動こうとせず手を放してくれない。それにフェルディナンはイリヤが突然現れたことをあまり驚いていないように見えた。
「もしかして、フェルディナンはイリヤが近くにいるの気が付いてた?」
フェルディナンは悪びれた様子もなく静かにコクリと頷いた。
「フェルディナンは俺達が近くにいるのは気配である程度は察知出来るからね。ちなみにバートランドは聞いていられないって言って途中で自室に退避しちゃうし、シャノンはこういうの苦手みたいだからずっとそっぽ向いて知らんぷりしてるしで、仕方なく俺が来たんだよ」
「そう、ですか……」
これは、気遣ってくれてありがとうとイリヤにお礼でも言うべきなんでしょうか……?
「まあ、そんなことよりもさ。フェルディナンが多分明日辺りにでも女体化しちゃうんでしょ? どうするか決めないと駄目でしょ。いい加減に。警護役の俺達も身の振り方考えないといけないから早く決めてもらわないとさ」
「……それは」
確かにそうなんですけどね。覗き見のようなことをされて……それって私にとってはとても恥ずかしいことなのにっ! そんなことよりもと何でもない事のように片付けられてしまうなんてそれってどうなんですかっ!?
私はどうにもすっきりしないもやもやとした気持を抱え込んでしまう。
「ああ、そうそう。ちなみに一度フェルディナンが女体化した時、俺とフェルディナンは……」
「イリヤ……」
言葉の途中で発せられた有無を言わせない重く威圧感のあるフェルディナンの制止の声に、イリヤは大人しく引き下がった。
「はいはい、大丈夫いいませんって」
「……えっと、あの、そこまでいっておいて教えてくれないんですか……」
この二人の間に何かあったのかと疑いたくなるような会話を途中で止めないでほしい。というか私の目の前で繰り広げておいて勝手に終了させないでほしいのですが。とは思ったものの、怖すぎてその先を聞く勇気は私にはなかった。何もなかったにしても何をしたのか知りたくなってしまう。
「まあとにかく、フェルディナンは女体化したら外に出られないからずっと部屋に籠りっきりになるわけだけど。一応確認しておくけどさ、その間の相手はもちろん月瑠がするんだよね?」
「えっと、お話し相手なら喜んでしますけど」
「御飯事じゃないんだから、そういうことじゃないのは月瑠もよく分かってるよね?」
冗談でいったつもりはさらさらないのだけれど、イリヤの突っ込みはけっこう厳しかった。
「うん……あの、その間私は……その、大丈夫なのでしょうか……?」
「フェルディナンが欲情し過ぎて不味い事にならないかってこと? まあなんなら俺が……」
イリヤが皆まで言う前に、私は思いっ切り叫んでいた。
「ダメ――ッ!」
冗談じゃない! 大事な恋人を他の人のいいようにされるなんて、考えただけでも身の毛がよだつ。何だか鳥肌が立ってきた。
「じゃあ他の人に……」
「それも絶対にだめ――っ!」
私は思わずフェルディナンと繋ぎ合わせていた手を振り払って、フェルディナンの頭をひしっと胸元に抱え込んでしまった。
「そんなの絶対に許せるわけがないじゃない!」
半泣きになりながらフェルディナンに抱きついていると、フェルディナンがポンポンっと優しく背中を撫でてきた。その優しい仕草に余計に涙が出てきて私はキュッとフェルディナンの頭を抱えている手に力を込めて彼をピッタリと胸元に引き寄せた。
絶対に女体化して女性になったフェルディナンを誰かに託すなんてことは出来ないしそんな事は許せない。
「じゃあ月瑠が相手するしかないじゃないか」
「……は?」
まさかの百合展開ですかっ!?
いや、元々フェルディナンは男性なんだからそれとはちょっと違うけど、そういう問題ではなくて……って、ちょっと待ってください。確かに私とフェルディナンは恋人だけど、まさか同性でという事は全く考えてなかったというか――全くの想定外なんですけど!?
「それにフェルディナンも月瑠がいいって顔してるし」
「何を言って……」
イリヤに言われて私は抱きかかえているフェルディナンの顔をそろそろと見た。彼は穏やかな顔に何故だか嬉しそうな微笑みを浮かべている。紫が混じった青い瞳に金の髪。眉尻に古傷を抱えているその整った容貌は45歳にはとても見えない。16歳の私とは29歳差の恋人は、綺麗過ぎて何時も私を魅了する。
「フェルディナン……そんな顔してもだめだからね?」
「何故だ?」
「……何故ってだってフェルディナンが女体化しちゃったら一応女同士ってことでしょ? 見た目は」
「別に構わない」
「…………」
お願いです。少しは構って下さい……
見た目はどう見てもGL。男性が女体化しただけだから本来のGLとは根本的に意味が違うけど、見た目はどうみても百合展開。嫌とかそういうことじゃない。心の準備が出来て無さ過ぎて困っている。そう言う状況だった。
だって! 男しかいない逆ハーレム世界でBLはあっても、まさかGLまであるなんて予測できないじゃないっ!
そんなこともさらっと受け入れてくれるフェルディナンの懐の深さ、というか許容範囲の広さが今は恨めしい。
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