乙女ゲーム世界で少女は大人になります

薄影メガネ

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第一章~子供扱編~

002 乙女ゲーム世界

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 何処どこへ行っても知っている人がいない場所――それは同時に自分のことを知っている人が一人もいない場所でもある。
 そんな世界に突然放り出されるような場面を、16年という短い人生の中で想定することなどあっただろうか? 

 ――私はまさに今、その想定外の世界にいた。
 
 頼るものが何一つない世界で私は余りの心細さに、不安を引きかすれた声で誰に話し掛けるでもなくポツリとつぶやいていた。

「……ここはいったい何処どこなのでしょうか……?」

 神社の古井戸に落ちて、それから――

 気が付いて目を開けると、目の前には中世ヨーロッパ風の街並みが広がっていた。レンガ造りの家や煙突えんとつの煙が立ち昇るのが普通の、それこそ交通手段を馬に頼るような世界。日本で馴染なじみのある電信柱や車、コンクリートの地面は何処どこにもない。そんな見知らぬ町中で私はいつの間にかポツンと一人で立っていたのだ。

「この風景――それに男の人しかいないこの場所って……まさかっ、本当に!?」

 私は自分の体を自身でいだきながら、おそるおそる辺りを探るように不安気な視線を彷徨さまよわせた。何処どこかの町と思われる場所。しかし周りをいくら見渡しても、いるのは男ばかりで女は一人も見当たらない。まるで女が存在していない・・・・・・・・・かのようなこの異様な光景。

「うそ、でしょ……」

 絶句して私は茫然ぼうぜんと立ち尽くす。確かにこの街並みには覚えがある。現実世界ではなく二次元・・・の世界として。

 『女の子を産まないと帰れない!?~乙女ゲームの世界に転移しちゃいました~』略してプレイヤーの間では「のをない」(女の子を産まないと帰れないの略)と呼ばれている乙女ゲーム。

 まさにそれに出てくる街並みと此処ここはそっくりそのまま同じなのだ。
 どうやら私はとんでもない世界にいるらしい。神様から転送すると宣言されていたとはいえ、とても信じられなかった。

「どうしよう……一人って想像以上に心細い――これってやっぱりお姉ちゃんの部屋で見つけた18禁乙女ゲームを、まだ16歳なのにいない間に隠れてこっそりやっていた罰、とか? 」

 そういう行為が満載だと分かっていても、まだ駄目だとは分かっていても、大人の世界をちょっとのぞいてみたくなることってありますよね?
 ――そして少しくらい規則違反してみたくなったりとか、そう思うことってあったりしますよね? つまりはそう言うことなんです。はい。ごめんなさい。と、誰に対して発しているのか分からない言い訳と謝罪を私は混乱する頭で考えていた。
 
「うそ、……じゃ、ない? ここって本当にそうなの? 神様が言った通り本当に乙女ゲーム世界の中なの!?」 

 この乙女ゲームは18禁のエロゲーで、出てくる攻略対象キャラには女性顔負けの美貌びぼうを持つ美男子びなんしやら、半端ない色気を持つ美形キャラやら、年齢を裏切る容姿の可愛すぎる童顔キャラ等々、その他にも多様な個性的キャラが登場する。

 ほとんどの攻略対象キャラは主人公に寛容かんようで始めから好意的な感じか、もしくは素っ気なくてもそこそこ早い段階で仲良くなるほのぼの展開がお約束というのがこの乙女ゲームの原則げんそくとなっている。

 そしてもちろん、どの攻略対象キャラを選んでも深く交流を進めていけばもれなく” 激しく愛され過ぎるエロ展開”が待ち構えている。

「ってことは、この世界って本当に嘘じゃなく正真正銘しょうしんしょうめいの男しかいない世界ってことで……転移するにしてもすごい逆ハーレム世界に来ちゃったな……」

 はぁっと溜息交じりに息を付いて私はボンヤリと空を眺めた。

 確かに乙女ゲームの主人公に感化されて同じような行動を取ったけれど――それはまでも気分にひたりたかっただけで。まさかそれが現実になるとは思ってもいなかった。
 
「神様はどうして私を選んだのかな? この乙女ゲーム世界に神様が女を転移させている目的って別世界の遺伝子を持った女達に子種を宿してもらい、新種族を誕生させて世界の繁栄をうながすことっていうのは、プレイする前の冒頭解説部分を見ているから知ってるけど――」

 それを目的としているこの世界の神様がいろんな世界から女を選んで呼び寄せているのだとか。といっても転移させるのは一人だけで人口じんこうに合わせた人数を呼んでいる訳ではない。
 乙女ゲーム世界の住人は男達だけで繁殖が可能となっている。つまり男だけが誕生するそういう種族なのだ。だから外見がいくら似ていてもその遺伝構造自体は全くの別物ということ。

 この乙女ゲーム世界では女がいなくても不都合がない分、女達を選定している神様ものんびりしているようで数十年から数百年選ばないこともある。むしろ女が現れない期間の方が多いくらいだ。だから女というだけでこの世界では伝説的な存在になってしまうようなのだが……それよりも私は男同士でどうやって繁殖するのかそちらの方が物凄く興味がある――が、ゲームを始めたばかりの私には残念ながら詳しい事は分からない。

 ちなみに神様が女達を転送させることをこの世界の人々はこう呼んでいる――”ガード”と。

「……女達を神様が転移させて世界の繁栄を促すこと。これを人々は世界を構成するかなめとなる転送システム――”ガード”と呼称こしょうし、認識している――んだったよね? たしか。そして実際に女達がどの様にして選別されているのか一切の詳細は不明。まさかその転送システムに私も組み込まれることになるなんて……」

 私は頬に手を当てて再びはぁっと大きな溜息を付いた。
 女達が神様によって転移させられていることは、この世界の誰もが認知している事実でありこの世界の常識だ。この乙女ゲーム世界では別の世界から転移してきた女を異邦人ラヴァーズと呼び、進んだルートによっては周りの男達による壮絶そうぜつな奪い合いの騒動に巻き込まれることになる。異邦人ラヴァーズの奪い合いによって戦争が起こることだってあるのだが、それは男しかいない逆ハーレム世界では当然の展開ともいえる。

「私には特殊な要素なんて何一つないし、あるのはモブキャラ要素だけだからそこまでの事態になることはないと思うけど。というか――今はそれよりももっと大きな問題があるんですよね……」

 そう、騒動に巻き込まれる事よりも何よりも、もっと大きな問題。それはこの世界から元の世界に帰還する為の条件がゲームのタイトル通りで過酷すぎるということだった。
 
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