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ボムズ編
第54話 認める辛さ【シズカの視点】
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【第51話のシズカの視点】
その日は私は朝から落ち着かなかった。
今日、アキに会える。
きっと蒼炎の魔法について確認できるはずだ。
アキをBランク冒険者にした魔法。間違いなく凄いに違いない。
念入りにパーティに参加する用意をする。我ながら可愛く仕上がったと思う。
この姿でニコリと私が笑えば、大抵の事は上手く運ぶはずだ。
私は意気揚々と馬車でファイアール公爵家の屋敷に向かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
パーティ会場のファイアール公爵家の大ホールで、アキが来るのを今か今かと待っていた。
現れたのは最悪の人物。カイ・ファイアージだ。
今日も私の身体を性的な目で舐めまわしてくる。気色悪くて総毛立ってしまう。
「これはこれはシズカ嬢! あまりの美しさに言葉が出ない。可愛い子猫ちゃんだと思っていたが、素敵な立派なレディーになっていますね」
ファイアージ家とは今後の付き合いもある。それなりの対応は必要か……。
「ありがとう。お世辞でも嬉しいわ」
「お世辞のわけがないじゃないですか。今日のパーティの1番の華はシズカ嬢で決まりです。それより今度素晴らしい魔法杖を手に入れてね。今度、その杖で魔法を見せてあげましょう」
その後もカイの話は止まる事なく続く。
私は適当に相槌を打っていた。心はアキの到着を待ち望みながら……。
その時、大ホールの入り口の方から軽いどよめきが聞こえてくる。
視線を向けると黒いタキシードを着たアキが、水色のドレスを着た奴隷を引き連れて入場してきた。
私はその2人の姿を見て呆気に取られる。
美男美女。まさに2人は注目の的になっていた。
2人の空気感が、また親密度が上がっているように感じる。
その事を思うと胸が疼く。
その為、アキに向かって足が踏み出せない自分がいた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
アキに話しかける事を躊躇していると、パーティの主催者であるシンギ・ファイアール様の挨拶が始まる。
シンギ様の挨拶はアキ一色だった。
私は幼い頃からシンギ様とアキの関係は見てきている。
それだけに衝撃的過ぎる挨拶だ。
シンギ様をここまで変えてしまうBランク冒険者。そしてその原動力の蒼炎の魔法。
ますます蒼炎の魔法に対しての興味が湧いてくる。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
パーティが開始されたが、なかなかアキに声をかける勇気が出ない。
そんな時、1人の少年がアキに向かっていく。
アキの弟で私の婚約者のガンギ・ファイアールだ。
ガンギは真紅の髪を揺らしながらアキに何かを言っている。
ガンギはアキに怒鳴るだけ怒鳴って荒々しい歩調で離れていった。
今しかない! 私は勇気を振り絞ってアキに近寄っていく。
アキは私に気がつくと強めの口調で私に注意する。
「君は約束を何だと思っているんだ。君と僕は今後一切関わらないって約束したはずだが?」
やっぱりあの約束はまだ生きているんだ。有耶無耶にはならなかったか。それでも憧れた水色の髪色の魔法について知りたい。私は意を決してアキの目を見つめた。
「約束は覚えているわ。それはごめんなさい。でも気になるの。魔法が使えなかった貴方が瞬く間にBランク冒険者になるなんて。普通じゃない。蒼炎の魔法って何なの? そんなに凄い魔法なの? どうやって使えるようになったの?」
私の言葉にアキは深い溜め息を吐いた。
「君はいつだってそうだ。世界が自分中心で回っていると勘違いしている。そう思っていて良いのはせいぜい5歳までだよ。君は自分の考えが正しいと思っていて、自分の都合しか考えない。だから約束も簡単に反故にできるんだよ」
アキの攻撃的な言葉に反射的に反論してしまう。
「そんな事ないわ! 私だって他の人の事も考えている!」
「まず君は自分の好奇心を満たすためだけに僕の前に顔を出した。約束を破ってまでね。そんな君に蒼炎について話すことはないよ。また他の人の事も考えていると言ったね。後ろを見てごらん。先程から僕は麗しい弟から凄い形相で睨まれているんだよ。こんな役立たずなんてほっといて婚約者にでも時間を使うほうが建設的だと思うけどね」
アキから婚約者のガンギの事を言われると心が締め付けられるように痛む。
そんな私の痛みを知らないアキは、さらに私の心を痛めつける。
「これ以上君と話す時間が僕にはもったいないんだよね。僕には素敵な女性が相手をしてくれているんだ。少しは気を使ったらどうなんだ」
自業自得だ。もう認めよう。アキの隣りには既に綺麗な女性がいる。そこに私の場所は無いんだ。
私は今までアキにどんな言葉をかけてきたんだ。取り返しのつかないことをしてきた。
今更、アキが仲良くしてくれるわけがないじゃないか。ましてや愛し合う関係なんかになれるわけじゃない。
それでも私が憧れた水色の髪色についてはハッキリさせたい。このままでは幼い頃の私の心に報いる事ができない。
私は気力を振り絞って声を張り上げる。
「分かったわ。今日は諦める。ガンギについては私は全く興味がないの。早く婚約破棄して欲しいくらいなんだから。お邪魔しました」
私はアキ達から離れた。
アキとの接触は客観的に考えれば失敗だったんだと思う。だけど私は、どんな形でさえアキと話せた事が嬉しかった。
その日は私は朝から落ち着かなかった。
今日、アキに会える。
きっと蒼炎の魔法について確認できるはずだ。
アキをBランク冒険者にした魔法。間違いなく凄いに違いない。
念入りにパーティに参加する用意をする。我ながら可愛く仕上がったと思う。
この姿でニコリと私が笑えば、大抵の事は上手く運ぶはずだ。
私は意気揚々と馬車でファイアール公爵家の屋敷に向かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
パーティ会場のファイアール公爵家の大ホールで、アキが来るのを今か今かと待っていた。
現れたのは最悪の人物。カイ・ファイアージだ。
今日も私の身体を性的な目で舐めまわしてくる。気色悪くて総毛立ってしまう。
「これはこれはシズカ嬢! あまりの美しさに言葉が出ない。可愛い子猫ちゃんだと思っていたが、素敵な立派なレディーになっていますね」
ファイアージ家とは今後の付き合いもある。それなりの対応は必要か……。
「ありがとう。お世辞でも嬉しいわ」
「お世辞のわけがないじゃないですか。今日のパーティの1番の華はシズカ嬢で決まりです。それより今度素晴らしい魔法杖を手に入れてね。今度、その杖で魔法を見せてあげましょう」
その後もカイの話は止まる事なく続く。
私は適当に相槌を打っていた。心はアキの到着を待ち望みながら……。
その時、大ホールの入り口の方から軽いどよめきが聞こえてくる。
視線を向けると黒いタキシードを着たアキが、水色のドレスを着た奴隷を引き連れて入場してきた。
私はその2人の姿を見て呆気に取られる。
美男美女。まさに2人は注目の的になっていた。
2人の空気感が、また親密度が上がっているように感じる。
その事を思うと胸が疼く。
その為、アキに向かって足が踏み出せない自分がいた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
アキに話しかける事を躊躇していると、パーティの主催者であるシンギ・ファイアール様の挨拶が始まる。
シンギ様の挨拶はアキ一色だった。
私は幼い頃からシンギ様とアキの関係は見てきている。
それだけに衝撃的過ぎる挨拶だ。
シンギ様をここまで変えてしまうBランク冒険者。そしてその原動力の蒼炎の魔法。
ますます蒼炎の魔法に対しての興味が湧いてくる。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
パーティが開始されたが、なかなかアキに声をかける勇気が出ない。
そんな時、1人の少年がアキに向かっていく。
アキの弟で私の婚約者のガンギ・ファイアールだ。
ガンギは真紅の髪を揺らしながらアキに何かを言っている。
ガンギはアキに怒鳴るだけ怒鳴って荒々しい歩調で離れていった。
今しかない! 私は勇気を振り絞ってアキに近寄っていく。
アキは私に気がつくと強めの口調で私に注意する。
「君は約束を何だと思っているんだ。君と僕は今後一切関わらないって約束したはずだが?」
やっぱりあの約束はまだ生きているんだ。有耶無耶にはならなかったか。それでも憧れた水色の髪色の魔法について知りたい。私は意を決してアキの目を見つめた。
「約束は覚えているわ。それはごめんなさい。でも気になるの。魔法が使えなかった貴方が瞬く間にBランク冒険者になるなんて。普通じゃない。蒼炎の魔法って何なの? そんなに凄い魔法なの? どうやって使えるようになったの?」
私の言葉にアキは深い溜め息を吐いた。
「君はいつだってそうだ。世界が自分中心で回っていると勘違いしている。そう思っていて良いのはせいぜい5歳までだよ。君は自分の考えが正しいと思っていて、自分の都合しか考えない。だから約束も簡単に反故にできるんだよ」
アキの攻撃的な言葉に反射的に反論してしまう。
「そんな事ないわ! 私だって他の人の事も考えている!」
「まず君は自分の好奇心を満たすためだけに僕の前に顔を出した。約束を破ってまでね。そんな君に蒼炎について話すことはないよ。また他の人の事も考えていると言ったね。後ろを見てごらん。先程から僕は麗しい弟から凄い形相で睨まれているんだよ。こんな役立たずなんてほっといて婚約者にでも時間を使うほうが建設的だと思うけどね」
アキから婚約者のガンギの事を言われると心が締め付けられるように痛む。
そんな私の痛みを知らないアキは、さらに私の心を痛めつける。
「これ以上君と話す時間が僕にはもったいないんだよね。僕には素敵な女性が相手をしてくれているんだ。少しは気を使ったらどうなんだ」
自業自得だ。もう認めよう。アキの隣りには既に綺麗な女性がいる。そこに私の場所は無いんだ。
私は今までアキにどんな言葉をかけてきたんだ。取り返しのつかないことをしてきた。
今更、アキが仲良くしてくれるわけがないじゃないか。ましてや愛し合う関係なんかになれるわけじゃない。
それでも私が憧れた水色の髪色についてはハッキリさせたい。このままでは幼い頃の私の心に報いる事ができない。
私は気力を振り絞って声を張り上げる。
「分かったわ。今日は諦める。ガンギについては私は全く興味がないの。早く婚約破棄して欲しいくらいなんだから。お邪魔しました」
私はアキ達から離れた。
アキとの接触は客観的に考えれば失敗だったんだと思う。だけど私は、どんな形でさえアキと話せた事が嬉しかった。
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