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アクロ編

第33話 傷を舐め合う関係、すれ違う想い

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 冒険者ギルドの受付でギルド長との面会を頼んだ。実家に行ってくるので20~30日間アクロからいなくなると報告する。また現状の説明をして冒険者ギルドボムズ支部への手紙を書いてもらった。

 その後は西門の駅馬車の事務所に行き、4人乗りの中で一番高級な馬車と馭者を日割りで借りる。取り敢えず30日分のお金を先払いした。

 必要な荷物は全部マジックバッグに入れて準備完了。当然ながらボムズへはミカも連れて行く。

 そろそろ寝ようかと思っていたらミカが僕の部屋に入ってきた。
 ベッドに座っていた僕の横に座る。

「どうしたミカ? 何か忘れ物でもあった」

「昼間に来た子とアキくんの会話を聞いてて思ったんだけど、アキくん実家では本当に1人だったんだなって」

「なんだよ急に。それは前に説明してるだろ」

「言葉で説明されていても、実際見てしまうと全然感じ方が変わるわ」

「まぁ実家での事はもう良いんだ。今が楽しいからね。冒険者になって本当に良かったよ」

「私も実家では疎外感を感じていたから、アキくんに感情移入しちゃってね。少し感傷的になっちゃった。辛い時は私に頼ってね」

「ありがとう。もう随分頼ってるけどね。明日も早いしもう寝よう」

「そうね。おやすみなさい」

 部屋を出かかったミカが急に振り返り近寄ってきた。

「忘れ物あったよ」

 そう言ってミカは僕の唇に唇を合わせた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 荷物は一個だけ、やっぱりマジックバッグって素敵。ナギさんに挨拶をして西門の駅馬車の事務所に行く。ファイアール公爵家の馭者と僕が雇った馭者が打ち合わせしている。道中も全て馭者同士の話し合いで進んでいく。シズカとは顔を合わせるつもりもない。

 一番高い馬車だったため、ソファの座り心地も抜群。4人乗りに2人で乗っているからゆったりとしていた。進行方向に合わせて座るためミカは隣に座っている。

 アクロに来るまでは混雑している駅馬車を利用したからなぁ。一応形は違うけど錦を飾るって感じかな?

 今日は朝からミカがニコニコしている。ここだけ見れば2人だけの旅行だよね。途中の宿場町に温泉があったなぁ。高級宿なら部屋に専用の温泉が完備されてるはず。ミカと2人で温泉に入りたいなぁ。恥を忍んで頼んでみるか。普通なら頼めないことも旅行だと開放的な気分で頼めそう。

 ミカが話しかけてきた。

「ボムズってどういうところなの? わたし行った事がないから」

「ここより南に位置するから暑いよね。今は夏だから。主食はご飯とパンが半分ずつくらいかな。フルーツなんかも美味しいよ」

「暑いのは嫌だけど食べ物は美味しそうね」

「ミカは北のカンダス帝国出身だから口に合えば良いけど。香辛料を結構使った料理が多いかな」

「へぇ、楽しみね」

「ボムズの街を僕が案内するからね。それも楽しみにしていてね」

「完全な観光旅行みたいね」

「これからもいろんな場所を一緒に巡ろうね」

 ミカが僕の手を握ってきた。僕はその手を握り返しミカの唇をふさいだ。

 最近、ミカと2人きりになると頻繁にキスする様になってきた。これは愛情なんだろうか? 馬車の窓から見える雲を眺めながら僕の心はゆらゆら揺れていた。

 今日泊まる宿場町に着いた。馭者に一番高級な宿を取るように頼んだ。僕とミカは同じ部屋にしてもらった。馭者の分も払ってあげた。成金みたいだね。

 さすが高級な宿。部屋に普通にお風呂がついている。先にお風呂に入っているとミカも入ってきた。特別じゃない自然な感じで。僕もそれを自然に受け入れてしまった。2人で身体を洗いっこした。とてもくすぐったく気持ちが良かった。
 お風呂を出ると2人共もう止まらない状態だった。
 僕もミカも初めてだったので難儀した。30分ほど苦闘したが上手くいった。無我夢中でむさぼった。

 行為が終わった後にミカは僕を見て笑みを浮かべながら涙を流していた。とても綺麗だった。
 この関係は傷を舐め合う関係なのか自問自答している自分がいた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 やっぱり実家に行くのが不安なんだろうか? 移動中の馬車では唇を求め、胸の柔らかさを求めた。僕はぬくもりが欲しいのか? ぬくもりから安心を得たいのか? ミカは僕の不安と欲望を大きな心で受け止めてくれている。

 宿では毎日欲望に塗れていた。行為に及べば及ぶほどミカへの愛おしさが増していく。自分の頭の中がぐちゃぐちゃになっていく。それもまた破滅的で気持ちが良かった。

 そのような旅程を7日ほど続けた日、行為の後にミカが口を開いた。

「アキくん、本当にありがとう。私生きてるよ。アキくんのおかげで生きてるのを感じることができるよ」

 僕は急に恥ずかしくなった。自分のやってる行為は性的な衝動に駆られている。ミカの事を愛おしく感じるが性的な衝動を基にした感情ではないか? 明確にそれを否定できない自分。自分の感情を言葉にできないもどかしさ。

 ミカと出会った時、ミカの精神は死にかけていた。誰からも必要とされない自分に絶望していた。今はどのような形であれ僕はミカを強烈に必要としている。求めている。

 このすれ違いは今後決定的に破滅するのか? それとも大丈夫なのか? そんな事を考えながら僕はミカの胸に包まれながら眠りについた。
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