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アクロ編

第26話 ウォータール公爵家

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 朝食を食べてゆっくりしているとウォータール公爵家の迎えの馬車がきた。予定より早いお迎えだ。慌てて用意をし、ミカと共に馬車に乗る。

 ウォータール公爵家の屋敷はアクロの街には無く東門を抜けて3キロルほど行ったところの海沿いに立っている。屋敷の隣りにはAランクダンジョンである東の封印ダンジョンがある。

 門で出迎えてくれた執事に案内され屋敷に入る。さすが公爵家だけあり立派な屋敷だった。

 連れていかれたのは豪華な応接室であった。さりげなく高そうな絵画や銅像が並んでいる。
 ソファに座って待っていると2人の男性が入ってきた。

 40代くらいの細身の男性。濃い青の髪はオールバックに整えている。目は鋭く威圧感を感じる。
 もう一人の後ろについている男性はサルファ・ウォータールだ。苦虫を噛み潰したような顔をしている。

 リンカイ王国の東の封印守護者であるウォータール公爵家。東の封印は水を司る。この髪色は間違いなくウォータール公爵家の人だろう。

「よく来ていただいた【蒼炎の魔術師】殿。この度はBランク冒険者昇格おめでとう。私はウォータール公爵家宗主のセフェム・ウォータールだ」

 そう言って右手を出してきた。僕もその手を握り返し挨拶する。

「アキ・ファイアールです。現在家出中の放蕩者です。この度はお招きいただきありがとうございます」

 セフェムは僕の言葉に軽く目を見開きソファを勧めた。

「まずはアキさんに謝らないといけない。ウチの愚息がご迷惑をかけた。今後一切君には関わらせないから許して欲しい」

「私は良いのですがウチのミカが嫌がっていますのでミカにも関わらせないようにお願いします」

 そう言うと突然セフェムの隣りに座っていたサルファがおもむろに立ち上がり激昂して叫んだ。

「お前は何を言っているんだ! ウォータール公爵家の俺の物になって喜ばない奴隷がいるわけないだろ! ガキが調子にのってイキがっているんじゃない!」

 その瞬間セフェムがサルファの頬を強烈に殴った。殴られたサルファは転倒し、驚愕の顔でセフェムを見る。

「お前は何を言っているんだ!お前の我儘でアキさんに迷惑をかけたのに暴言を吐くなんて!今日だってわざわざウォータール公爵家との関係を考慮して、こうして出向いてくれたんだぞ!」

「だけど……」

「反論は許さん。誰かいるか!」

 宗主のセフェムがそう言うと部屋の外で待機していた男性が3名入室してきた。

「サルファには罰を与える!髪を脱色させてしばらく外出禁止だ!サルファの奴隷も全部売り払ってこい!」

「父上! そんな馬鹿な!」

「反論は許さんと言ったろ! 早く連れてけ!」

 サルファはがっくり肩を落とし入室してきた男性達に引き連れられて行った。

「愚息が失礼な事を言った。罰を与えてしっかり教育するから、これで許して欲しい」

 そう言ってセフェムは頭を下げた。
 魔力は髪色に現れる。その反対も真である。髪色が魔力でもあるのだ。髪を脱色する行為は魔力を制限する行為でもある。脱色された後はある程度髪が伸びるまで魔力が弱いままだ。髪を脱色された貴族は恥さらしになる。

「いや特に気にしてませんから大丈夫です」

 そう言葉を返す。
 安心したような顔をしてセフェムが話を始める。

「やっと本題に入れるな。その前に失礼だかアキさんの事を調べさせていただいた。それの確認をしてよろしいかな」

「どうぞ」

「ウチが調べた内容だが、本名がアキ・ファイアール。南の守護者であるファイアール公爵家の長男。嫡男ではないみたいだな」

「こんな髪色ですから」

「まぁそうだろうな。現在15歳。2ヶ月前くらいに冒険者ギルドアクロ支部に登録。1ヶ月ほどでDランク冒険者になってカンダス帝国のエンジバーグ公爵家の長女のミカ・エンジバーグを戦争奴隷として購入。先日、Bランク冒険者に昇格。強力な魔法である蒼い炎、蒼炎を使う」

「間違いないです」

「サルファの奴隷から聞いたが蒼炎の魔法とはそんなに凄い威力なのか?」

「通常のファイアーボールなんかとは比べるのが馬鹿らしくなるほどですね」

「そんなにか…。確かに火属性の魔法で沼の主人ダンジョンを攻略しているからな。あそこは水魔法と火魔法は相性が悪いところだからな」

 セフェムは一度言葉を切って小考している。悩んでいるようだ。
 数秒後、おもむろに口を開いた

「アキさん、頼みがあるんだ。時間がかかっても問題無い、Aランク冒険者になって封印ダンジョンを制覇してくれないか」

「封印ダンジョンの制覇ですか。Aランク冒険者になるのも大変ですからね」

「理由《わけ》はAランク冒険者になったら話す。それまでは契約で話せないんだ。ただ言っておきたい。封印ダンジョンの制覇は我々封印守護者の悲願であるんだ!」

「私で無くても良くないですか?」

「君はアクロのB級ダンジョンとC級ダンジョンについてどう思う?」

「どうって言われてもなんとも」

「ダンジョンはD級以下のダンジョンは特に問題ないがC級以上だとそこの土地の力が作用している」

「土地の力ですか?」

「左様、ここは水を司る土地だ。C級以上のダンジョンではそれが色濃くでる」

確かに普通のゴーレムじゃなく泥のゴーレムだったな。水の力か。

「魔法には相性がある。水に対して火の魔法は通常効かないもんなんだよ。君は火属性の魔法で水の力を持っている沼の主人ダンジョンを制覇している。これは通常の制覇よりも凄いことなんだよ」

「そういえば泥のゴーレムの異名が【火の魔術師殺し】でしたね」

「Aランク冒険者になるためには各封印の地のB級ダンジョンを制覇しないといけない。バランス良くパーティを組む必要がある。しかし系統が違う魔術師たちはいがみ合っているからそれも難しい。君のような1人で苦手系のダンジョンを制覇できる強い人間を待っていたんだ! 君ならAランク冒険者になるだけの素質がある!」

 途中からセフェムが凄く興奮してしまって唖然としてしまった。

「お話はわかりました。できる範囲で頑張ってみます」

「分かってくれたか。嬉しいよ。ウォータール家としても全力でサポートはさせてもらうよ」

「まだこれから何をしていくか決めてないんです。王都の魔法学校にも行ってみたいし、実家にも一度は顔を出そうかと思いまして」

「王都の魔法学校に行く気があるのならウォータール公爵家として君のことを推薦しておくよ」

「ありがとうございます。その時はよろしくお願いします」

「それと君は既に自活しているようだが15歳はまだ子供だ。一応ファイアール公爵家にはウチから連絡は入れて置いた。そろそろ20日経つから関係者がアクロまでくるかもな」

うわっ!やっぱり!しょうがないね。

その後はいろいろ雑談をしてウォータール公爵家をあとにした。
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